第十三話
夜明けとともに双葉は目を覚ました。
いつもどうり夏風に飼葉と水と蜜柑を一つ与えて体を拭き毛並みを揃える。
また一回り大きくなったかな。どこまででかくなるのだろう?
名馬と言うよりも化物じみてきたと感じざるを得ません!
部屋に戻ると龍馬は既に起きていたが、例によってなにやら様子がおかしい?
見れば東雲姉妹が惰眠をむさぼる中、例によって半裸状態。
ははん、さてはまた朝っぱらからおかずにして一発ぶっこくつもりだな⁉
ここは武士の情け、見て見ぬふりでこの場を離れてやるか。
庭に出て朝の鍛錬の場所に行くと、既に二人の若者が待っていた。
双葉による東風流指南を受けるために以前に何度か来たことがある。
「お早うございます、今日もよろしくお願いします」と頭を下げる二人。
「おお、今日はいつもより早く来たな、良い心がけですぞ」
まずは体をほぐして筋を伸ばす。柔軟は念入りにするのが東風流だ。
腕立て伏せ、腹筋と全身をバランス良く鍛えていく。
まだ習い始めの二人には、まず受け身を徹底して覚えさせた。
組み手のときに怪我をしないようにとの配慮である。
今日もいつもどうり二人は地面に転がされる。
立ち上げれなくなるまで繰り返すのだ。
「きょうはここまでにしましょう」と双葉。
二人は座り直し正座をすると今日の訓示をお願いしますと頭を下げる。
少し考えてから「そうさな。 考えるな、感じなされ」どこかで聞いたような?
この二人は兄弟で兄が佐倉小角、弟が大角という。
兄の小角は小柄で素早く、弟の大角は大柄で力自慢だ。
兄弟は初めて双葉を見たときこんな小男が武芸を指南するだと?
ちゃんちゃらおかしくて笑っていいとも!と言いたげな顔。
双葉はこういう輩は最初が肝心だと思っている。
「遠慮はいりませぬ、二人同時にかかってきなされ」穏やかに言う。
二人は顔を見合わせて、頷くと「いざ参る」と構えた。
なかなか様になっているな。全くのド素人じゃないようだが。
あっと言う間に地面に転がされた二人は訳が分からず
狸に化かされたうえで狐につままれた感じで呆然としている。
「立てますか?」と手を差し出す双葉に二人は正座をして
「弟子にしてください!」と頭を下げた。
「これからの様子を見たうえで弟子にするかを決めます」と双葉。
この日から二人は一生懸命に鍛錬を続けている。
そろそろ弟子入りを認めても良いかな。
二、三日は遠出をして戻れないから自分で日課をこなすように伝えて今日の鍛錬が終わった。
部屋に戻ると龍馬の姿はすでにない。
抜き終わって?朝飯を食べにいったのだろう。
東雲姉妹はまだ惰眠をむさぼっている。
昨日はよく働いたので寝かせておいてやりたい気もするが、ここは心を鬼にしてたたき起こす。
大胸の胸と小胸のケツ(胸を蹴とばすのは双葉でも至難の業)を蹴り飛ばし「いい加減起きなされ!この惰眠姉妹‼」
「うーん、あと5分、むにゃむにゃ...
「朝飯抜きで良いなら...言い終わる前に姉妹は飛び起きた!
「飯抜きだけは勘弁してケロ!」涙目で哀願する二人。
「じゃあさっさと起きて顔を洗ってきなされ」
「ヘーイ」返事がやはりハモッてる。
朝飯を済ませ弁当のお握りを受け取った一行四人は美濃に向かう。
十三は今日はお留守番で新型鉄砲を使いこなせるように特訓をしたいと言う。
アーマライトM16...じゃなくて、あーまてらす絵馬十六と名付けられた新型鉄砲は今までのものとは段違いの性能らしい。
なんでも今までの鉄砲ならせいぜい80メートルぐらいまでが射程距離だったが、あーまてらすは150メートルまで狙えるという。
十三は鬼に金棒化したと感じざるを得ません。
一行は美濃の町に着いて座に入った。
交易目的ではなく隠し蔵元の情報を得るためだ。
美濃は広い、ただ闇雲に探しても見つかるまい。
蛇の道は蛇、ここは座の親父に聞くのが一番良いとの判断。
だが座の親父もやはり知らないという。
ただあくまで噂だが木曾川付近で、いくつかの酒壺を持った若い衆を見かけたことがあるとか...
他に何も情報がない以上、木曾川から探すのが良いかと四人は向かう。
龍馬と紫忍、双葉と黒忍の二組のツーマンセルで木曾川の両岸を下流から探索していく。
わき道らしい道があれば二手に別れて進んではまた合流する。
そろそろ木曾川の中流から上流に入る頃には道も険しくなった来た。
馬で進むのも限界が近い。
まあ行けるところまで行ってから考えれば良いか。
そのとき何やら黒忍がクンクンと匂いを嗅ぎだした。
風上の方から木が焼ける匂いがすると言う。
もしかしたら炭焼き小屋があるのかもしれないと。
野良犬のように匂いを嗅ぎながら、けもの道を進む黒忍。
やがて少し森が開けた先に小さな山小屋を見つけた。
煙が上がっているのなら、だれぞいるに違いない。
小屋に近づいて行くと小屋の裏に人の気配。
小屋の裏手に回ると体格の良い若者が一人、薪を割っている。
斧を振るうとスカッとほとんど音を出さずに薪が真っ二つなる。
極めているな、見事なもんだと双葉は感心した。
鍛え上げられた肉体は長年の鍛錬の賜物なのだろう。
かなりできると見た。
「スミマセーン、チョットイイデスカ?」またやってしまった龍馬。
「はい? ああ、道にでも迷われましたか。それなら...
「いや、そうではない。我らは隠し蔵元の酒を買い求めに参りました。
だが場所を知らないので探している途中です」
「そうでしたか。蔵元には定期的に炭薪を届けてますので道案内しましょう」
「それは助かります、まさに渡りに船!」と双葉。
「その前に、あなたは今までここでずっと鍛錬をしながら炭焼きを?」双葉が問う。
「生まれてから17年間ずっと父親と一緒に。その父親も3年前に亡くなりましたが...」
「ではこれからもずっとここで炭焼きを続けるおつもりですか?」
「他にできることも無ければ、如何とも...」
「それはあまりも惜しい! どうでしょう、我らとともに世界征服...もとい、戦国の世を終わらすために働いてみませんか、同志として!」
「突拍子もない話ですが、ここで一生暮らすよりは面白そうだ。
わかりました、ともに同じ道を歩みましょう。
この薬袋勘三願わくは最後まで」
これが双葉の生涯の忠犬...もとい忠臣との出会いだった。
―以下に続く




