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 山陽新幹線に乗車している春香は、なんだか胃の腑が宙に浮いたような落ち着かない気持ちになりながらも、現在までを振り返る。

 神功皇后を名乗る女性の幽霊に会って、急な帰省を決めたわけだけれど、寮母さんに帰省することを伝えたときは、もっと早く教えてね、と忠告を受けたものの叱られることはなかった。

 また新幹線の自由席を確保するべく自由席対応の新幹線をスマホでチェックしていたら、指定席のキャンセルが出ていたのを確認して直ぐに指定席を確保。そうして新幹線の車内に春香は居た。


 まだまだ見慣れない、異国に来てしまったような東京駅の人混みや飲食店やお土産店など多くの店が連なるのを後目にして、新幹線のホームに入ってきた故郷へ向かう新幹線を見た時には、半分夢心地のようなものだった。東京駅の発車ベルを聞き流してぼんやりと車窓を眺める。何処を通過してる、という新幹線の車内の電光掲示板を時折眺めながら静岡や愛知を通り過ぎて関西へ。大阪や神戸の文字を見たと思ったら、岡山に入った。

 岡山県の名前を見ると、もう故郷に帰ってきたような感慨深い思いを募らせる。


 生まれてから十八年、友人は出来なかったが、両親から愛情は注がれていた自覚はある春香。


 母の祖母。春香の曾祖母が岡山県出身で、二年か三年に一度くらいの割合で、曾祖母の墓参りと観光を兼ねて岡山県へ旅行していた。岡山城や岡山後楽園も行ったし、倉敷美観地区へ足を延ばして行った。子どもの頃はおもちゃ王国にも行った記憶があった。

 東京から見れば、地方など田舎に思えるのかもしれないけれど、中々どうして駅の規模を見ると、発展都市である。


『ああ、もうこの辺りかの』


 車窓から見える景色は見渡す限りの田園風景。

 と、言いたいところだが、発展都市と言えるように家の街並みも見えていて、都会の人が持つ田舎のイメージとはやや違っている。とはいえ、橋が架かった川が流れているところは、やはり田舎なのかもしれないな、などと思う春香の耳に神功皇后の懐かしさを込めたような声音が聞こえてきた。


 春香が大学の寮から出て現在まで、当然と言えば当然なのか、誰も神功皇后の存在には気づいてない。だから下手に声を掛けると独り言をブツブツ呟く人認定されてしまうので、さり気無く口元を隠しつつ小声で神功皇后に声を掛ける、という方法を取る。


「景色はだいぶ現代ですが、お分かりに?」


『無論じゃ。地形は妾が生きておった頃と変わらぬし、前にも言うたがの、妾は死んでこのような霊魂となってもこの国をあちこち行っておるでの。現代の風景も分かるとも。まぁ休んでいる間に変わることもあるから、目覚めると驚くこともあるがの』


 休んでいる間? 目覚める?

 春香は意味が分からず、瞬きをすれば、春香の座席上部で浮いている神功皇后は、ああ、と声を出してから。


『あとで説明するよ。下手に説明してそなたが周りから奇異の目を向けられては悪いでの』


 春香を気遣う言葉に、そっと、ありがとうございます。と呟く。そんな会話を交わす間には、曾祖母縁の地である岡山を通り過ぎていた。広島は関東地方の修学旅行先というのはよく聞いている。原爆ドームを観るとか戦争について学ぶのに。長崎や沖縄に行って学ぶのと同じこと。

 春香も実際家族旅行で見学したし、広島名物のお好み焼きを楽しんだ記憶もある。厳島神社を観に行った記憶も。もみじ饅頭は定番中の定番だけど、あんこが好きな母のために父が「こんなにはさすがに要らないわよ」と、母が苦笑するくらい買ったのも思い出。

 父は抹茶もみじが気に入りで春香はチーズもみじが好きなのは余談か。


 そんなことを思い出しながら、車輌は故郷・山口県に突入した。


 新幹線の駅から春香の家までは距離があるので、父が車で新幹線が停まるこの駅まで送迎してくれたのが、なんだか随分と前のように思える。

 停車して荷物を持ってホームに降り立った春香は、およそ一ヶ月前のことだというのに、感慨深くなっていた。


『うむうむ、到着したの』


 春香の顔が懐かしさで笑顔になっていることに気づいているように神功皇后の声がする。

 少し視線を上げれば、幼子が帰宅したときの喜びや安心した顔を見ている親のような顔で、春香を見ていたので、なんだか居た堪れない気持ちになってしまった。気恥ずかしいとも言うかもしれない。


 我に返ったように春香は足早に改札へと足を進めた。帰省を決めた時に実家へ連絡をしていたものの、迎えに来られないようならタクシーで帰る、と言っておいたので、父が迎えに来ているとは思わず、父の顔を見つけたときは、喜びと戸惑いと安堵が入り混じったような気持ちになった。

 もちろん、直ぐに喜びの気持ちがいっぱいで書き換えられたが。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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