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『ふむ、それか。ううむ、どう話せば伝わるかの』


 神功皇后は上手い比喩が無いか、と考えるように少し黙る。


『まぁ、現代の言葉をだいぶ覚えたわけだし、大丈夫かの』


 一人納得するように頷いてから、説明を始めた。


『波長が合う、という言葉があるじゃろ? 有り体に申せばそれ、じゃな。生きている者同士でも出会った相手と楽しく過ごせることもあれば、楽しく過ごせない者もおる。初対面なのに、合わない気がするな。深く付き合わない方が良いな。だが、初対面なのに、昔から仲良くしていたような者もおる。そういうのが波長が合う、合わないという意味じゃ。ここまでは分かるか』


 春香は残念ながら人付き合いをほぼしない、出来ないために、そういう相手も何も、という話ではある。ただ言わんとすることは分かった。


「何となく分かりました」


『うむ。それでの、そなたのように多人数には見えないモノが見える人、というのは、その波長が多人数より多くある状態じゃ。以前にもそなたのように見えないモノを見る者にこのように説明したことがあるが、その者が言ったのは、チャンネルが人より多い、だったな』


「チャンネルが多い……」


 神功皇后の説明に春香はイマイチピンと来なかったが、チャンネルが多い、と言われてなんとなく理解する。例えば、多人数の人は地上波放送だけのチャンネルしか見られない。でも春香のように見えるはずのないモノが見えるのは、衛星放送も入っているようなものなのかもしれない。


『うむ。理解出来たかの』


「何となく分かりました。それで視界が少し違う、のですね」


『そうじゃな。見えている範囲が広いとも言うが、まぁそういうことじゃ。他にも色々言い方はあるようじゃがの。別の者は心の眼が開いたのか、とか喜んでおったのぅ』


 心の眼が開く。

 それはあれか。所謂多感期の少年少女が、何となく自分は万能だ、と思い込んでみるような……いや、深くは考えない方がいいか、と春香は聞かなかったことにした。


「それにしても、神功皇后のお話を聞くと私のように多人数には見えないモノを見る人が多いように思いますね」


 春香は話題を変えるように何となく口にしたが、目の前の美女は弓形の目をぱちぱちさせて首を傾げた。


『なにを当たり前のことを言う』


 えっ、当たり前なの? と春香は戸惑う。


「当たり前、ですか」


『そうじゃ。昔からの言い伝えが今も残ることが有るはずじゃ。例えば、この道は怖いぞ、とか、あの場所は行くな、とか』


 春香は確かにそういうことを聞いたことがあって、そうですね、と頷く。


『そういうのはな、そなたや他の者のように多くの人には見えないモノを見る者たちが、牽制しているのじゃよ。幽霊が出る、と言って足を遠退かせることもあるが大体は、暗い道だから回り道をしろ、とかそんな風に言ってな。それが廃れないというのは、そういうモノが見える者が必ず止めるから。言い伝えというのも中々どうして捨て置くことは出来ぬじゃろ』


 春香は言い伝えに意味があるなどと思ったことも無かったので、そんな風に言われて目を瞬かせた。

 どうやら昔からの言い伝えを馬鹿にするものでは無いらしい。

 そうやって見える人が見えない人たちに注意を促していたのだ、と知って、自分だけにそんなモノが見えていて怖いし嫌だし、なぜ自分が、と疎ましく思っていたけれど。

 神功皇后の当たり前、という言葉一つで、春香だけが特別なのではなく、当たり前のことなのだ、となんだか納得してしまった。


「当たり前、なのですね」


 もう一度当たり前、と春香は口に出してみる。


『そうじゃ。当たり前じゃ。今はそのように見える者は減ったがの。昔はもっと多かったよ。ただ見えることを口にしないだけでな。それに、そなたは怖いモノだなぁ、と思うくらいの様だがの、人によっては、妾みたいにはっきりと幽霊が見える者もおった。そなたのなんとなく見えるよりも更に怖い、と口にしていた者もおるよ。逆にはっきり見えることに興奮して喜んでおった者もおるがの。見え方はそれぞれ。感じ方もそれぞれ。だが、そなたは他の見える者に会わなかったのか、会っても知らなかったのか、じゃろ。分からんがの。まぁ他を知らなんだのなら、それは孤独を覚えたかも知れぬな』


 同情ではなく、ただ感想を述べるような神功皇后の声音が、春香には労いに聞こえて、少しだけ己の今までが報われた気持ちになった。


「確かに、他に見える人に会ったことは無いです。だからそういう意味では孤独でした。でも。両親は見えないけれど、私を嘘つきだと思うこともなく、信じようと、寄り添おうと、してくれました」


 その両親なりの理解が示されたことで、春香は生きづらくても頑張れた。頑張ってこられた、と思っている。


『ふむ、よい親御に恵まれたな』


 ごく自然に神功皇后が両親を褒めてくれたことが、春香は嬉しかった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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