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参拾肆

「ワコちゃん、神功皇后はあなたを助けることは無いみたいだけど、あなたと行動を共にするみたい。いつまで一緒に居るのかは分からないけれど、あなたと一緒にどこかに行き、目的地に到着したらあなたから離れてまた別の人とどこかに向かうって。それが神功皇后が為すべきこと、だそうです」


 春香が静かにそして事実のみを告げていくとワコが確認を取るようなことを言う。


「私を助けることは無い? どうして? でも私と行動するってなぜ?」


 神功皇后をチラリと見る春香。


『この娘と共に行動するのは、妾が南へ向かうに必要な者じゃからとしか言えんの。生まれ育った場所は関係無い。この娘が今は南へ向かう気持ちが無くても構わん。この者が出会う相手の中に、南へ向かう者が居るかもしれぬからの。この者が南へ向かうのならそれは重畳といったところか』


 春香は神功皇后の言葉を曲解する余地も無いようにワコに伝える。ワコは「は? 私、南の方角になんか行かないんだけど」と呟くが、別にワコが直接南へ向かう必要は無いのだ、と繰り返す。ワコが出会う相手が南へ向かう者なら神功皇后はその人と行動を共にするらしいのだ、と。


「それって南へ向かう人なら誰でもいいってことじゃないの? なんで私について来るわけ?」


 ワコの疑問に神功皇后が答える。


『妾と多少の縁がある者で波長が合いやすい者で無くてはならぬ。行きたいところへ妾の気持ち一つで行けるものではない』


 もちろん、春香が過不足無くワコに伝えると、ワコは理解したのかしてないのか、よく分からない顔をして頷く。


「要するに、好き勝手に動けるわけじゃないってことね」


 飾る言葉を取っ払えばそういうことである。


『尚、妾が助けない理由は、そのような仕儀になっておらぬゆえ、としか言えぬ』


 春香が神功皇后の言葉をそのまま伝えると、怪訝そうな顔でワコが「しぎ? ってなに?」と呟く。


「仕儀は成り行き、という意味。そういう結末というか」


「へぇ。私を助ける成り行きになってない、ということか。じゃあひいばあちゃんや春香ちゃんを助けたのは仕儀ということか」


 春香が言葉の説明をすれば、ワコが不服そうな顔を見せる。


「私と春香ちゃんとの差ってなにさ」


 同じ血を引いてるのに、という言葉が聞こえた気がする。


『妾が悪しき存在を助けるのは、それが妾の存在理由だからじゃ。とはいえ、妾に縁有る者しか助けることは出来ぬ。じゃから妾と縁が無い者で見える者は、妾と似たような存在が助けておる。妾だけが追い払う能力を持っているわけじゃない、ということじゃ。ただ妾が力を使わんでも自力でどうにかしてしまう者も居る。この娘はそういう性質じゃの』


 神功皇后の言葉を説明するとワコが顔を引き攣らせる。


「え、なに、私、神様にも自力でどうにか出来る図太い性格だって思われてるってこと?」


 明け透けな物言いだが、自分に対する評価なので春香は何も言わない。神功皇后は『うむ、そういうことじゃな』とワコの自分評価を、全面的に賛成した発言をしている。

 結構容赦無いな、神功皇后。

 春香は内心でそんなことを考えつつ、口を挟む気はないので傍観者に徹する。ちなみに神功皇后の賛成発言もきちんと伝言しておく。


「えっ、神功皇后って神様なのに結構エグい。いいけどさ別に。っていうか、私は声が聞こえないのに、私について来て意思疎通は図れないじゃん。どうするつもりなの?」


『ただ行動を共にするだけじゃからの。妾の声が聞こえんでも構わん。その時が来たら離れるだけだしの』


 春香を介して聞く神功皇后の本音に、ワコは益々顔を引き攣らせていく。


「すごい。自分勝手が強い」


『何を言う。妾は自分の思うようにしか最初から動いておらぬ。悪しきモノを追い払うのは妾の使命。それもまた妾の思うように動いておること。妾がついていくのも自分の思うように動けないから、妾が向かいたい方へ向かう者について行くだけのこと。それもまた妾の思う通りじゃ。少々不便なのは、妾に縁有る者ではないと動けないということくらいじゃ』


 徹頭徹尾、神功皇后の説明にブレがなく、ワコは絶句する。

 そんなワコを見ながら、春香は。

 確かにそうだわ。出会った時から神功皇后は思う通りに動いていた。物理的に動けない状況なのに、全くブレることなく一貫した言動と行動しか取ってなかった。

 などと感心していた。

 神功皇后のこの芯の強さが生前の熊襲討伐や三韓討伐を成し遂げてきたのだろうな、とも思った。


「全くブレない。一貫してる」


 溜め息を吐いたワコを見て驚く春香。ワコに、自分の方が折れるという気遣いがあったのか、という意味で。

 春香も大概失礼な思考をしているが、まぁ小学生の頃とはいえ、散々ワコに嫌な思いをさせられてきたのだから、お互いさまなのかもしれない。


 何はともあれ、神功皇后の南への旅の供として次の相手は決まった。

 ワコの迎えはワコの父だと思う。連絡は母が既に行っているのは聞いているし、だから迎えを待っているようにと聞かされている状態。おそらくワコの家から春香の家までの距離を考えると、時間帯的に、夜遅くに迎えに来るだろう。迎えが来るまでは春香の家で責任持って預かることになる。

 近距離の親戚を中心に、ワコが遊びに行ったら迎えに行くから止め置いて欲しい、と連絡をしていたらしく、その中に春香の家があったわけだが。ワコの気紛れに振り回される家族は見つかったことを喜んでるものの、それを上回る勢いで溜め息をついて現れることになるのは、もうすぐであった。

 春香も明日には東京へ帰るので、ワコに構ってばかりもいられない。

 両親にワコと神功皇后の話をしておくと共に、明日の準備をすることを伝えて、ワコは客間にそのまま止まった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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