参拾弐
「まぁそれで春香ちゃんと交流が無くなった後、私はじいちゃんからひいばあちゃんの話を聞かされて、自分もその血を引いているからこんな目に遭うんだって捻くれたわけだ」
春香は自分が他人と違うモノが見えることに萎縮して自分が傷つかないように丸まって生きてきたが、ワコは寧ろ性格の悪さに拍車を掛けたのか、ということが分かる発言である。自分で捻くれたと言っている時点で悪化していると見るべきだ。こんな目に遭ったのは血の所為だと思っている辺りに強気な姿勢が崩れなかったのだろう、と推測出来る。
「で。中学時代は反抗期真っしぐら」
ああ、そんな感じがする。
「ただ中学時代にバレーボール部に入ったから、毎日クタクタで正直、幽霊だのお化けだのなんてどうでもいい感じだった。その所為かな。見えなくなっててさ。そんで今度は見えなくなったことが分かったら、嘘つきのかまってちゃん扱いされて。まぁ中学時代はそんなんだったんだけど、無視してさ。こっちが無反応でいるとエスカレートしてきてイジメに発展したもんで、先生に報告して指導が入ったらようやく無くなったんだけど。今度は先生に報告したことで腫れ物扱いで。卒業までそんな感じ。でも高校は私立の高校を選んでいたから、私にそんな態度取ってたヤツらと縁が切れたんだよね。アイツらみんな公立高校に進学したからさ。そう思っていたんだけど、二年に進級する今年の春休みにさぁ、アイツらのうちの一人と再会しちゃってさ。喉元過ぎれば熱さを忘れるって言うやつだよね。高校の友人と一緒に居たから高校の友人たちにバレちゃって。で、二年生になって直ぐから友人たちから無視され始めて、嫌になってゴールデンウィーク直前から家出してる」
ここまでの経緯は分かった。
春香と違ってイジメにまで発展しているのは、春香とて胸が痛い。ワコは気にして無い口調で話しているが、たくさん嫌な思いをして来たのだろう、と思う。同情心が膨らむ。
「まぁ家出する前にちょっとした嫌がらせをして来たから、家に迷惑かける前に出て来たんだけどさ」
前言撤回。
同情なんて必要無かった。
春香の知るワコらしく、きっちり報復をしているようだ。どんな内容なのかは知る気はないが。
「それで、家出して来たのは分かったけど、なんでウチに来たのよ」
春香が頭痛が酷くなった、と顳顬を抑えながら尋ねればワコがあっさりと口を割る。
「どうせ腹立たしい思いをしているんだから、春香ちゃんをいびってスッキリしようかなって」
ここまではっきり言われると、いっそ清々しいほどである。春香は全く嬉しくないが。
「帰れ」
頭に来たのでつい強気で命令してみる。
「ヤダ。帰ってもつまらないし、なんか面白そうな状況みたいだし。その幽霊、なんなの?」
ワコはあっさり断ると、先程から気になっているのだろう、神功皇后に視線を向ける。挨拶も無しに言及していたし、興味津々といったところか。
「ひいばあちゃんを助けてくれた神様」
ワコがどんな風に話を聞いているのか知らないが、春香も細かく説明する気になれず、簡潔に説明する。
「へぇ。ってことは、神功皇后ってこと? えっ、ほんとに?」
神功皇后の名を出しておいて本当に、とは随分と失礼ではないのか、と春香は思うものの、一方でまぁ信じられないのも無理はないか、と思う。
「神功皇后だよ」
「根拠は? 本人の申告なんて信用出来ないじゃん」
「根拠は無いかもね。申告を信じられると思ったから信じてる。それだけ」
春香の淡々とした言い方に、ワコは胡散臭そうな顔をしながらも、引き下がる。確かに本人と示すことが出来ないのに信じているのはおかしいかもしれない。だが、違うという証拠も無い以上、疑い続けても仕方ないと判断したのかもしれない。或いは、ワコのことだから自分ではなく春香が損をする分には構わない、と考えているかもしれない。その辺りのことは分からないものの、春香もワコが引き下がった以上は、何を言う気もなかった。
「まぁいいや。それで? なんで春香ちゃんと一緒に神功皇后がいるの」
「私も神功皇后に助けてもらったことがあった。それから事情があって一緒にいるの」
詳しい話?
そこまで話す気には無論なれない。
謝ってもらおうが、ワコも大変な状況に陥ってようが、それで過去は過去と割り切れるものでもないし、軽々しく許せるものでもない。
「ふぅん。じゃあ今度は私を助けてくれるの?」
「いや、勝手に家出してきたのになんで助けて欲しいって言えるの」
ワコの図々しさに呆れる。
「ほんと、言うようになったねぇ、春香ちゃん。まぁオドオドした今までより今の方が良いんじゃない?」
ワコは嘲笑うような口調で春香に言う。これで春香より二歳年下なのだから、と春香は溜め息を吐きたくなる。だが、確かに小学生の頃の自分とは大違い。いや、高校卒業した去年まで、でもなく、神功皇后に出会うまでの自分とは、大違いだな、と自分で思う。
それは良いことなのか知らない。
でも今の自分を少しだけ好きになっている。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




