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参拾壱

「えっ、なにその古めかしい衣装来た人。なんのコスプレ?」


 ユキと同じく客間に通されていたワコは、挨拶一つせずに神功皇后が存在している宙を見て、はっきりきっぱりそんなことを言った。

 間違いなく、ワコは見える人である。


「取り敢えず、呼んでもないのに押し掛けて来ておいて挨拶も無いとか、礼儀はどこに置いて来たの」


 春香は頭痛がする、と顳顬を抑えながらそんなことを言えば、ワコは目を丸くした。高校二年生のワコ。久しぶりに会ったけれど吊り目でショートカットなのは小学校の時と変わらないらしい。おまけに親戚であることが分かるように、ワコは母に似ている。春香は輪郭が父でパーツが母という顔立ちだが、ワコは母の娘と言っても納得出来そうなくらい、母に似ている。もちろん、嬉しくないが春香にも似ている。

 そのワコに突っ慳貪な言い方をして雑な口の利き方をしている春香。おそらくワコはそれに驚いているのだが、春香自身は無意識にそんな態度を取っているので何が驚くことなのか、全く気づいていない。


「ちょっと見ない間に強気じゃん。七年も経てば変わるってこと? 七年経っても変わるとは思えなかったのに。年上の癖にオドオドしていて何を言っているのか分からないくらい小声だったくせに。えっ、なに、そんな強気に出られるような人じゃなかったよね、春香ちゃんって。怖がりでさ、陰気な顔ばかりしてさ、自分から距離取ってるくせにこっちを羨ましそうに見てるとか、かまってちゃんなの、ホント見ててウザイと思ってたんだけど、なに、どうしたの。なんの心境の変化? いつもみたいに顔色窺って怯えてればいいじゃん。強気なんてムカつく」


 家に押し掛けて来ておいて、コレである。

 ワコは昔から、気に入らないことや気に入らない相手に強気姿勢で鼻を鳴らして嫌味全開である。そんな性格が変わっていなくて、春香は安心したと言えばいいのか、相変わらず性格と言葉選びが最悪だと言えばいいのか。


「性格と言葉選びが最悪なのは七年経っても変わらなくて安心した。何の前触れもなく押し掛けて来ておいて、上から目線ってナニサマなのよ」


 春香に言い返されたことはワコにとって初めてのことだった。お互い小学生の頃に会ったのが最後。それでも春香がこんな風に言い返して来るなんて思いもしなかったのに。

 その衝撃をやり過ごすために言葉に窮するワコ。


「お母さんがおじさんに連絡取って迎えに来るって話だったから、それまでここで大人しくしておいてね」


 話など聞く気もない、と態度で示して客間から出て行こうとした春香にワコは慌てたように引き止める。


「ま、待って、春香ちゃん、話を聞いて!」


「聞いて欲しいという割に態度がデカいよね。聞きたいと思う?」


 ワコに引き止められて渋々足を止める春香は、挑発的にワコの態度を注意する。またも言葉に窮したワコは、本当に嫌々というか渋々というか、そんな雰囲気で「態度がデカくてすみません」と謝りの言葉を口にした。春香としては、そんな口先だけの謝罪に価値は無い、と思う。だが話が進まないのも確か。


 それに。


 ワコに指摘されて自分が変わって来ていることを春香は知ったので、その気づきの分だけ、譲歩することにした。


「それで話ってなに」


 自分で言ってみて春香は内心自分の変化に驚く。

 こんな風に冷たく突き放すような言い方が自分にも出来たのか、と。

 先程までユキと相対していたことも春香を変えた要因なのだろう。


「ほんと、強気じゃん。どうしちゃったの」


 頬を引き攣らせつつ、ワコは観念したように溜め息を吐き出してから、話し始めた。


「春香ちゃんが昔から、幽霊だかお化けだかを見るって騒いでたじゃん。私はそんなのはいないって思って否定していたんだけどさ。じいちゃんが自分には見えないからってそれが全てなわけじゃない。ってよく言っててさ。なんで自分の孫より孫じゃない子の話を信じるんだろうって昔、思ってたんだよね」


 ポツポツと話し始めたのは昔話。春香は相槌すら打たずに黙って耳を傾けた。


「小学校二年生だった。上級生が投げたボールが足元に転がって来て、それに気づかないでボールの上に足を置いてすっ転んだんだけど。頭を打ったのか脳震盪を起こしたらしくて保健室から病院へ運ばれたらしくて。目覚めたとき、見えないはずだったものを見るようになってさ。散々春香ちゃんに存在を否定していたのに、見えるようになっちゃって。それが周りにバレてさ。見事に仲間外れにされたよね。そんで、私が春香ちゃんに言ったように言われたんだ。そんなものがこの世にいるわけがない。夢と現実の区別も付かない頭のおかしな子に思えるから近寄らないで。って。そこからは独りぼっちだよね。そんで悔しくてさ、そのうち春香ちゃんに会ったときに言ってやろって思ってさ。それで春香ちゃんにその言葉を投げつけたんだけどね」


 なるほど。小学校二年生でそんな言葉を投げかけられたのなら悔しい気持ちや悲しい気持ちなどは分かる。だからって八つ当たりされる謂れは全くないのだけど。春香は耳を傾け続けた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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