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弐拾参

 謝ってスッキリした、という表情を浮かべられたら、速攻で帰って、と言っただろうけれど。スッキリではなく、謝ってもまだ、俯き反省しているような表情のユキに、春香は少しまた空気を緩めた。


「お茶を、どうぞ。お話を聞きます」


 許したわけじゃない。

 それでも、話を聞くだけの余裕は持てた。


 春香に勧められ姉妹は互いの顔を見合わせてから、それぞれ口を付けた。


 春香は先程母がお茶を持って来てくれたときに置いて行ってくれた急須から、自分の茶碗に注ぐ。正直なところ春香は美味しければお茶はなんでもいい人なので、飲んでもどこの産地の茶葉なのか当てられるような肥えた舌は持っていない。ちょっと濃い目かな、渋めかな、甘さがあるかな、くらいなものだから、きっと利き茶などされても悉く外すだろう。


 それでも母が買うお茶は瀬戸内で作られる産地の茶葉であることは知っている。

 基本的には故郷である此処、山口県で作られている小野茶を母は購入している。慣れ親しんだ味というやつだ。当然、春香も慣れ親しんだ味。

 けれど、両親の親戚が岡山県や香川県で暮らしていることもあって、岡山県の海田茶(かいたちゃ)や、香川県の高瀬茶も購入している。


 今、出されている茶葉がどこの産地の茶葉なのか、春香は分からないけれど、母の説明によれば、小野茶は甘みと渋みと苦みが上手く合わさった濃い味なのだとか。よく知っているね、と前に言ったら「お茶の販売店での受け売りよ」とドヤ顔で言っていたのを思い出す。

 同様に、親戚経由での受け売りによる母の説明では、海田茶は美作番茶の名前でも広く知られて長らく愛されているらしい。海田茶は番茶ではなく、新茶で水出し緑茶にして飲むのも美味しいらしいが、親戚経由で届くのは美作番茶と呼ばれる番茶の方で、天日干しにして煮汁をかけて茶葉が飴色になるよう仕上げたもの、なのだとか。カフェインが少なくすっきりした優しい味わいで、春香も子どもの頃から時折飲んでいたお茶。

 今、出されているのがコレならさすがに春香も分かるけれど、緑茶なので違うな、と思いながら、家にあるだろう茶葉は、あとは何があるか、と思い巡らす。

 やっぱり親戚経由で届く香川県の高瀬茶があるだろうか。煎茶の名産地の高瀬茶。渋みはあまり強くなく、甘みと品の良い香りが漂うお茶、なのだとか。母の説明が、というより親戚の説明が強く出ているのは、多分、香川県の親戚にしても岡山県の親戚にしても、地元のお茶が一番美味しい、という熱量の結果なのだと思う。


 春香は慣れ親しんだ小野茶が好きだけれど、でもどこの産地のお茶も美味しいと思うし、子どもの頃とは違って渋みさえも美味しいと感じられるので、結局のところ、どこのお茶でもいいか、という結論に至る。そんなことをツラツラと思い出しながら、自分は二杯目のお茶を飲み終えると、既に目の前の二人は飲み切っていた。

 ちょっと思い出を振り返る時間が長過ぎたかもしれないが、まぁいいか、と切り替えた。


「それで。ユキさんは、私に何を話したくていらっしゃったのでしょうか」


 ようやく話が進む、と思ったのは、春香以外には見えない存在の神功皇后である。話が遅々として進まないことに若干焦れていたところだ。


「小学校の頃、桂木さんが人には見えない何かを見ると聞いて、あなたを避けていました。あなたを存在しない人として扱っていた。それはトモの話を聞いて、怖いと思ったこともあるし、その、嘘つきだとも思っていたからです。幽霊とか、お化けとか、そんなのは作り話で、実際には存在するはずが無い。そう思っていて。だから、そんな嘘を吐くほどに、周りから注目されたいのかなって思って、笑ってました。馬鹿にもしていた。ずっと、そういう態度を取っていたことを、自分は正しいことをしている、とさえ思ってました」


 過去の話だから過去形で伝えるのは間違いじゃない。

 でも春香は思う。

 きっと、嘘を吐いているのだと思っていた、決め付けていた出来事が、自分の身に起こったのだろうな、と。そうでなければ、自分の考えを覆すような言葉が出て来るわけがない。

 小学校の頃という過去の話だけでなく、そう思い込んでいた過去の自分に対する間違った認識をしていた自分という過去の話。その二つに対する過去形。

 春香のその考えが当たっているかのように、ユキはその先の話を紡いだ。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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