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拾玖

 翌朝の午前中昼に差し掛かる前に課題二つ分がある程度進ませられた。どちらも急な帰省だったので、足りない資料があって終わらせるまでは行かなかった。

 春香は本格的な課題をこなしてみて初めて、大学の図書館に行かないと分からないな、と知る。いや、その気になればスマホで調べられるのは確かだけれど、相当忙しい最中でこなすなら兎も角、文学部に在籍している身なので大学の図書館で資料を探すのがいいのではないか、考えた。ちょっとした自分なりの拘り。

 ということで、後ほど資料を探して課題を終わらせることにして。


「春香、お昼ごはんは瓦そば作るけれど」


 ちょうど良いところにドア越しに母の声が聞こえて来たので、「お願いします。やること終わったから手伝う」と返事をしながらキッチンへ母と共に向かう。その背後で神功皇后が泰然とした様子で、宙に浮かんで春香の背中を見ている。

 その表情は物憂げである。


『おそらく、またあの女性には関わることになる』


 その呟きは春香には届かない。仮に届いていたとしても、明日には都内へ戻るのに、と春香は困惑したように曖昧な笑みを浮かべることだろう。

 だが、神功皇后は元は人の身であれど、神格化されている身。真の神々ほどの力は使えなくても、自分の魂を光らせることで悪しきモノを退けられるような力はある。今回の勘はその力の一環みたいなもの。だから外れることは無いだろう、と神功皇后は思う。

 それを見届けねばならない、とも思っている。神功皇后が春香の側を離れることになる前に、というよりおそらくあの女性と再び関わってある程度、どのようにか決着を付けてからではないと、春香の側を離れることにはならないだろう、という予測がついていた。


 その決着はおそらくそう遠くない。

 この地で、なのか、別の地で、なのか。それも分からないが。そんなことを思いつつ春香の背を追う神功皇后。軈て春香の楽しそうな昼食を摂る声や音が聞こえてくる。出来れば、この和やかで穏やかな時間のままでご両親の元を出られれば良い、とは思うが。などと物憂げに考える神功皇后は、併し、その願いが叶わなかったことを知る。

 何しろ、追い払ったはずの悪しきモノの気配が近くなってきたから。


『あの女性、なぜこの家を知っているのだ』


 神功皇后は春香が外に出ているわけではないのに、春香の居場所を当ててきた気配を感じて眉間に皺を刻み込む。

 悪しきモノが神功皇后を狙って……ということは有り得ない。神功皇后に追い払われるのが分かっていて近づいて来る可能性は殆ど無い。元はと言えば霊魂。つまり死者の魂。それがさまざまな事情が重なって悪しきモノとして存在することになってしまった。


 そのような変化が不本意であるのか、それとも悪しき存在に変化することを嬉々としていたのか、それは知る由も無いが、神功皇后に追い払われるのに近づいてくることは無い、と断言出来る。

 となると女性の意思で、春香かその両親を訪ねて来たと考えてよい。神功皇后が女性の背後についていた悪しきモノたちを退けたことを理解していたとして。神功皇后が春香と共に行動していることを知っていたとは思えないのに。考えられるとしたら、あの女性は春香の知り合いということ。併し春香は女性のことを知っている素振りは無かった。見た目の年齢的に春香に近いような女性だったが、春香が知らないのであれば、両親のどちらかと知り合いということか。


 なんにせよ、昼食を終えた春香がその後のんびりと過ごす時間が取れないだろうことは予想出来た。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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