拾捌
不吉な予言をした神功皇后。
春香は「え」と口にして暫し思考が止まる。
『まぁそのように思った、ということだけで外れるかもしれぬがの』
春香の様子に思うところがあったのか、神功皇后はそんなフォローを入れる。
フォローはしたものの、十中八九であの女性は春香の前に再び姿を現すだろう、と神功皇后は思った。
それから先は春香も考えても仕方ない、と割り切ったのか、それともフォローのお陰で、あくまでも可能性としてと考えたのか。神功皇后に神社について尋ねてみることにした。
「そういえば、神功皇后神社はどうでしたか」
『うむ、良かった。お陰ですっかりと良くなった。霊魂の身なれど、妾も多少は疲れるからの。妾の名がついた社というのは、そなたらの言うところの実家に帰るようなものじゃからの。妾が生まれ育った場所は別ではあるが妾の名がついている社であるからには、そんなようなものじゃ。そなたも両親の元に帰って来て心が落ち着くであろう。それと似たようなものじゃ』
神功皇后の説明に春香は成る程、と納得する。
とても分かり易い説明だったから、力の補充だけでなく、里帰りも兼ねていると分かれば、それは確かに八幡宮ではなく、神功皇后神社が良いのだろう、と理解した。
「それでしたら、この後はどうなさいますか」
元々春香の急な帰省は、神功皇后を神功皇后神社にお連れする、という役目があったから。それが無事に終わったとなれば、お役御免ということもあり得るだろう。以前の話によれば、神功皇后が行きたいと思った方面に行く人に連れて行ってもらう、ようなことを口にしていたのだから。
『ふむ。そうじゃの。さらに南を目指すのもまた良しじゃの。そちらに向かう者と出会えれば、そうすることになるが。前にも言ったように、行きたいところに向かう者に会う必要があるのでな。暫くはそなたから離れることは無い。まぁ南に行きたい妾の前に、現れるはずじゃから、それまで、ではあるがの』
霊魂の身の神功皇后は、生者と一緒ではないと、身動きが取れないことが不便だと言う。なぜ、そういった仕儀になっているのか、それは神功皇后自身も分かっていない。ただ、そういう形でしか動けない。それだけ。
ということで、神功皇后が行きたい方面に行く人に出会うまでは春香と共に過ごす、とのことだった。
そうなると春香としても何をしよう、という気持ちになる。急な帰省で急いで持ち物を準備したけれど、課題が出ていた講義を二つ覚えていたので、その課題を進めることにしようか、と考えた。
新幹線の切符は東京行きの分も既に購入してある。同じくキャンセル待ちで上手い具合に出た指定席。日にちは明後日なので、明日は一日課題を進めることに決めた。
とはいえ、神功皇后のことを考えれば誰かに会う機会を設けることも必要なのだろうか、と考える。
少し悩んでから午後のお茶の時間帯くらいまで課題を進めて、お茶の時間帯、所謂おやつの時間頃にのんびり散歩をすることに決めた。
少しでも神功皇后のためになれば、と。
序でに両親へその辺りのことを話すと、散歩ではなく三人で出掛けようという話になった。誰かに会う機会がある方がいいなら、人がたくさん居るようなところへ足を向ける方がいいだろうから、と。
そうなると今夜と明日の午前中のうちに、ある程度課題を進める方が良さそうだ、と春香は判断する。明日のおやつの時間くらいまでのんびりと課題をこなす予定だったので、今夜は読めていなかった本を読もうか、と本棚からピックアップしてゴロゴロと怠惰に読もうとしていた計画は、頓挫した。
予定は未定であり決定ではない。
高校の時の先生が何気なく口にしたこの言葉を、今の春香は身を以て知った。いや、そんなご大層な話では無いのだけれども。
さて、明日は何処に行くのだろうか。
父が行き先を決めるのなら、午後からだし松下村塾だろうか。何しろ父は歴史が大好きで、山口県の偉人と言えば、誰しもが思い浮かぶのが幕末長州藩の出身である維新メンバーだろうけれど、もちろん父も同じように彼らを好きなのだから。
その彼らに講義をした人物・吉田松陰。父は松陰が後に明治維新の立役者となる彼らに種を蒔いた、と思っているみたい。その通りなのだろう。
ただ、父には申し訳ないが、春香はそこまで吉田松陰に思い入れは、無い。
でもそれはそれとして。松下村塾へ行くのなら、母も嬉しいかもしれない。何しろ松下村塾は萩市だからだ。母は萩焼が大好きだから、観るだけでも機嫌が良くなるだろうし、何か気に入れば買うだろうから。春香も萩焼は好きだ。
柔らかく優しい色合いなので。同じ焼き物の産地である岡山県の備前焼も好きだ。固くて割れ難くてどっしりとした重厚感のあるところが備前焼の特徴だけれど。どっちが好きかと尋ねられたら、萩焼。
とはいえ、人にたくさん出会う可能性を考えるだけなら、錦帯橋一択という可能性もある。
昔から観光場所として有名で、今もその人気に衰えは無いから。
日帰りで行ける所を考えつつも、取り敢えず今は課題をこなすことに専念する。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




