第45話 他会場と武術試験後
遅ればせながら明けましておめでとうございます。
2020年初の更新です。
本年もよろしくお願いいたします。
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ライルとアレーナが話に花を咲かせていたのと時同じくして、第一会場ではアルファードの武術試験が行われていた。
ダメだ。全然攻撃が通らない。これが王宮騎士団の団長の力か。
第一会場でも第二会場と同じく試験官は王宮騎士団所属の者が務めていた。アルファードが現在剣を交えている相手は、王宮騎士団第二団体団長。王宮騎士団の数ある団体の中でも2番目に強いとされる団体のトップだ。
アルファードの剣を動かす手が遅くなり始め、一旦休もうと距離をとったところで、「そこまで」という担当官の声が掛かる。それによりアルファードも試験官も剣を収める。
試験開始時と一切場所が変わらずに立っている試験官の元へ、アルファードは近寄り一礼する。礼儀というものはとても重要だ。それを勝った負けたに関わらず、相手に敬意を示し行うことは人間として必要な行為だ。試験中なら尚の事。
アルファードは負けたことに悔しさがないと言えば嘘になる。今もこれからの鍛錬のことで頭がいっぱいになっている。攻撃が通らず、自身最大の技も難なく防がれた。そのことが、彼の負けず嫌いな性格をより一層激化させていた。次戦える機会があった時には一撃でも喰らわしてやる、という気持ちと共に。
「ありがとうございました。」
アルファードは悔しさを顔に滲ませながら対戦相手の女性に頭を下げた。しかしその表情には尊敬の色もあった。自分の最高の一撃も、一歩も動くことなく受け止められ、圧倒的実力差を見せつけられた。
勿論悔しい。人前でなければ泣きたい程に悔しい。だけど泣くわけにはいかない。父さんとの約束があるから。もっと強くなりたい。いや、ならないといけないんだ。
そんな思いが彼にあると知ってか知らずか、彼の目の前の人物は口を開き、一言だけすぐ近くにいた彼だけに聞こえるような小さな声でその言葉を発した。
「お前ならば...」
「今何と?」
アルファードが頭を上げ、聞き返しても彼女が言葉を発したのは、この試験中、後にも先にもこの一言だけだった。
その言葉は彼に向けたものだったのか、それともただの独り言だったのかは口にした彼女自身にもわからなかった。
アルファードは答えが返ってくることがないと感じると、もう一礼してから観覧席へと戻った。
この第一会場でも、ライルたちのいる第二会場と同じく、担当官の声を待たずして途中で諦める者が多くいた。しかし、アルファードは決して諦めることなく戦い抜いた。
そして「沈黙の美団長」と世間で囁かれる彼女に口を開かせる程の実力が彼にはあったのだ。そのことを彼が知るのはまだ先の話だ。だが彼の努力が無駄になることは決してないだろう。
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3つの会場すべての一日目の武術試験が終了し、受験生たちが帰宅し始めた頃、王立フィオレンツ学園から遠くない距離に位置する王城の比較的小さい会議室の一つに、3つの人影があった。今日の入学試験にて、試験官を務めた者達だ。
「どうだった?そっちは。めぼしい奴はいたか?」
ぶっきらぼうにそう尋ねるのは、第二会場の試験官を務めていたゼンバールだ。それに答えたのは一般人より少し大柄なゼンバールに対し、一般人よりも少し小柄というか、痩せている細身の男だ。
「こちらの会場にはいませんでしたね。殆ど途中で諦めたり、諦めなくてもこちらの意図が分かった上で、降参しなかったというだけの受験生ばかりでした。ゼンバール殿の方は?」
この細身の男の名はハゼスト・ベーダン、王宮騎士団第二団体副団長で第三会場の試験官をしていた。彼はあまり表情を変えることがなく、無表情なことが多い。
普段の生活中から、今もそうだが、怖い表情ではないにしろ表情が変わらないのは気味が悪く、その上、戦闘中もその顔を崩すことがなく、戦った相手からは必ずと言っていい程恐れられている。
王宮騎士団の団体番号は、戦力順になっており、第一団体が一番強く、第二団体、第三団体と続く。しかし、第一団体の団員と他の団体団長では、団長クラスの方が強い。
王宮騎士団では強さが絶対であり、その強さの絶対的基準はないが、ゼンバールとハゼストではゼンバールの方に分がある。そのため、幾ら上の団体の副団長でも、下の団体の団長には通常逆らえない。
ハゼスト本人には逆らう等のような考えは一切なく、自身よりゼンバールの方が上だと理解し、尊敬しているので問題は起きていない。だが、他の者達の間では問題が起こることも少なからずあるようだ。
「こっちには2人見込みのある奴がいてな。誘ってみたんだが、一人にはやんわりと断られた上に、もう一人には完全に断られた。」
ゼンバールは少し落ち込みながら、今日のアレーナやライルとの対戦や試合後のやり取りの一部始終を話した。それを聞いたハゼストは少し驚いた様子を見せたが、先程までと同様にその顔が変わることはない。仮面をつけていると疑わせる程だ。
「それ程の実力を持っていて、ゼンバール殿の勧誘を断るとなると、十中八九貴族の子息、息女でしょうね。団長の方はどうでしたか?」
ハゼストは未だに一言も言葉を発していない人物に向かって尋ねる。
必要最低限の灯りしかないこの部屋で、僅かな光からペリドットのような煌めく輝きを放っているオリーブグリーンの長髪は、毛先にかけてライムグリーンになるとても美しいグラデーションカラーで、彼女の端整な顔立ちをより一層引き立たせている。
彼女は本日、第一会場の試験官を引き受けていた王宮騎士団第二団体団長、「沈黙の美団長」ことリアーナ・ゼッセルだ。
「沈黙」とは言われているが、必要なこと以外話すことが無駄というだけで、普通に話すことには話すのだが、言葉遣いが刺々しいため、自身からあまり人と関わりを持とうとしない。
部下への指示の時や、上の者と関わる時はその限りではないが、基本無口である。
「まだ入学前ということもあるからだろうが、軟弱な者が多過ぎる。期待できるのは精々2人だった。」
その言葉遣いに見合わない聞き取りやすく、透き通るような声音でリアーナは報告を終える。この場にいる二人はリアーナもまだ気心の知れた仲であり、一番立場的には上なので、遠慮なくこの口調で話している。ゼンバールも同じで普段仲間と話すときはこのような砕けた口調になっている。
彼女はそれだけ言うともう自分は話すことはないというオーラを出しながら、他の二人で話を進めることを望んでいるようだ。
「そうですね。まだ10歳にも満たない子供ですし、最後まで自身の意思で諦めなかった受験生を優先的に合格させるという方向で行きましょうか。」
「そうだな。それが良いだろう。明日からの試験官役にも伝えといてくれるか?」
「了解しました。私の方から伝えておきます。団長もそれでよろしいですか?」
リアーナはハゼストに無言で頷くと、それを了解の意と受け取ったハゼストは話す相手を変え、ゼンバールに尋ねる。
「今回の試験官の任務ですが、陛下からの御命令だったんですよね?」
「ああ。メレテナール公の報告から、帝国の方に動きがある可能性がでてきた。それで、新たな戦力の育成のために、既にある程度の力を持った者を入学させるということだったが、こんな幼い者達まで戦いに巻き込むのは気が引ける。」
「そうですね。ですが仕方のないことです。帝国と違い我が国は職業戦士が少ない。国家総動員令が発令されれば、学園高等部以上の者は強制的に戦場送りです。近い将来戦争が起こるのは間違いないでしょう。その時に自分の身は守れるようにしておくことは最低限必要です。」
「我々がもっと強ければな。」
そう遠くない未来に起こるであろう帝国との戦争で、多くの命が失われることに国民を守り切ることができない自分たちの無力さを感じる。会議室には重い空気が流れる。
現状を打開する方法がないことに、ゼンバールもリアーナも苦虫を嚙み潰したような表情をし、拳を握りしめる。ハゼストも変わらぬ表情の奥に、二人と同じ感情が見える。
その後も空気が明るくなることはなかったが、外が完全に暗くなった頃に全ての話が終わった。
彼らはそれぞれこれからに向けて、今まで以上の努力をすることを心に誓いながら部屋を離れた。
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今話では久々にアルファードが登場しました。
彼の戦闘シーンも書こうかと思っていたのですが、同じようなことになりそうなので省略させていただきました。
今話で新たに登場した第二団体団長と副団長、彼らもこれから大いに活躍することでしょう。
諸事情により次話更新は1か月以上先の予定です。
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