第42話 武術試験と劣勢
少し遅くなり申し訳ございません。
そしてその後も武術試験は進み、流石に先程の少女ほどの実力を持つ者は現れなかったものの、ある程度骨のありそうな、決して最後まで諦めない受験生も中にはいた。そして遂に...
「受験番号022、準備しろ。」
ライルの番が回ってきた。ハーニス担当官の指示に従い、試合スペースへと足を踏み入れる。
対峙して改めて感じるゼンバールの威圧感。今までの受験生全員がこれを受けてあれだけ戦えていたことには素直に驚きだ。未だ剣を構えていないにもかかわらず、この獲物を狩ろうとする猛獣と遭遇した時のような緊迫感。
圧倒的実力差があると知りながら戦うのは、まだまだ子供である受験生にはかなりの苦行であっただろう。他の受験生より実践経験の多いライルですらも緊張する相手を前に、よく自身の力を示すことができていたものだ。
受験番号021の受験生が試合をしている間に【アイテムボックス】から出しておいた、試験用にスモーツから貰った剣を構える。この前のキリーナスさん達を助けた時に使った、最高級品の魔剣ではなく、どこにでも売っているような素朴な見た目だが、頑丈な鉄製の剣だ。
あの剣を使えば多少というか、かなり有利になるだろうが、流石にヒヒイロカネ製の5つも魔法の付与された魔剣を10歳にも満たない子供が持っているのは不自然だし、かなり目立ってしまうだろう。
そういうこともあり、スモーツは決して安くはないが、普通に市場に出回っている一般的な鉄剣をライルに持たせたのだ。
試験に使う得物はこれと、家庭教師がライルにつけられた時にスモーツから受け取ったもので、試験対策の訓練や手合わせでは、いつもこれを使っていた。そのため、例の剣よりも使い慣れてはいる。
ライルが剣を構えたことで、ゼンバールもようやく自分の剣を構えるが、先程までの試験と違う点があった。剣の構え方だ。
今までの試合では、足を広げどっしりと身体を安定させて、肩に担ぐようにして相手の出方を窺っているような構え方だったが、今回は先程までより腰を落とし、腕を下におろした何時でも攻撃に移れるような体勢だ。
「準備は良いな。それでは始め。」
ハーニス担当官が両者の戦闘態勢が整ったことを確認し、試合の開始を宣言する。
構え方は違うものの、前までの試合と変わらず自分からは動こうとしないゼンバール。対してライルも動こうとしない。というか動けない。
ライルもそうだが、大抵の場合、相手の隙をつくのが一番簡単に決着がつきやすく、攻撃が通りやすい。戦闘とは言い換えれば謂わば隙のつき合いなのである。
初めから隙をつけば、それだけその後も優位に立ち回れる上に、相手を動揺させることも可能である。しかし、それはあくまで相手に隙があればの話である。
素人とは違い、一定の戦闘経験がある者なら初めから隙をつくことは不可能だ。戦闘開始直後から隙を見せているような者は戦闘経験の少ない者だけだ。
そして経験を積めば、自ずと隙を見せることは少なくなっていく。王宮騎士団に所属するような人物が隙を見せるわけがない。
しかもその中でもトップクラスの実力の持ち主だ。先程までの受験生との試合でもほとんど隙を見つけることはできなかった。
今もそうである。構えは至って普通なものの、そこに一切の隙はない。どう斬り込んでも弾き返されるか、受け流され反撃されるか、受け止められる未来しか見えない。
そんな状態で突っ込んでいくのは愚の骨頂。しかし、これはあくまで試験である。動かなければ採点されない上に、減点対象にもなりかねない。
これが命の奪い合いなどであれば、このままただ時が流れて行くだけで、何の進展もしなかったかもしれない。
しかし、試験である以上、試験官から攻撃してくることのない以上、こちらから仕掛けるしかないのだ。
ライルは覚悟を決め、遂に動きだす。
「ようやく動いたか。さてどう来る。」
ゼンバールはにやりと不敵な笑みを浮かべながら、ライルの動きを目だけで追う。
ライルは先の少女と同じように相手の周りを回りながら、詠唱を始める。本来は詠唱は必要ないのだが、周りの目がある以上、詠唱しておいた方が後々面倒なことにならないで済む。
「闇よ、我が身を覆いて、暗翳と化し、姿を隠せ 六段魔法〘暗翳融和〙」
先の少女と違って、僕は風魔法が使えない。ことになっている。使用可能な魔法は火属性、闇属性、時空魔法のみ。時空魔法は難易度が高いので使わない方が良さそうだが、闇属性なら問題ないだろう。
魔法を使用したことで、僕の身体が闇に覆われ、消える。
と言っても、本当に消えたわけでも、透明になったわけでもない。影と融和したのだ。この魔法は影の一切ない明るい場所では使えないが、この部屋のように屋根のある窓の少ない部屋だと影が多い。
影と自身の身体を融和することで、相手に居場所を認識させづらくする。
闇属性魔法は使い手が少なく、魔法の数も他の属性と比べて少ない。更に、攻撃魔法よりもこういった、相手に気づかれにくくするような工作活動に向いた魔法の方が多い、と言われている。
六段魔法ではあるが、闇属性使いの工作員などが初めに習得すると言われている程、初歩的で基本的なこの魔法は、初級魔法の中では使う者が多い。簡単に習得できる割に、意外と相手に気づかれにくいのだ。
ゼンバールのような超一流の相手ともなると、目くらまし程度にもならないだろうが、自分の力を試験官に見せるだけなら問題ない。
「この場所の暗さを利用したか。面白い。」
ゼンバールは勿論この魔法を知っているようで、姿が見えなくなった代わりに、気配で相手の動きを捉えているようだ。
自分的には殆ど人に探知できない程にまで、気配を消せるようになったと思っていたのだが、まだまだだったようだ。
試験が開始してから結構な時間が経ってしまっている。10分という区切りがある以上、そろそろ動かなくては不味い。
僕はゼンバールに場所を悟らせないよう、試合スペース内を移動しているが、それでも居場所がバレている以上、これ以上動いても無駄だ。僕はゼンバールの正面1m手前で立ち止まり、瞬時に背後へと回り、剣を振るった。
自分でも、かなり早く動けた。そう思った。剣を振るうまで100分の1秒もかからなかっただろう。しかし、目の前では火花が飛び散り、耳には金属同士がぶつかり合う甲高い音が届いた。
そして、手には硬い岩を剣で殴ったような鈍い痛みが伝わってくる。ゼンバールは僕の剣を受け止めた。
流石に余裕という顔ではなかったがまだ余力はある顔だった。支援魔法や強化魔法をかけていない状態ではこれ以上速く動くのは無理だ。
幾ら僕の気配が見えていたとしても、この反射速度は到底今の僕では敵わない。
先程僕が魔法を使った時も「消えた」などと騒いでいた受験生たちだったが、ゼンバールがいきなり剣を後ろへ構え、そこに火花と、音が響いたことで一気に騒々しくなる。担当官の声でまた静かになったが、それでも興奮は収まっていないようだ。
僕は一旦距離をとり、体勢を立て直す。今の状態では、これ以上攻撃を繰り返してもすべて受け止められるだろう。受け止められることはある程度予想していたが、それでもあの体勢で完全に受け止められるとは思わなかった。
少しでも体勢を崩してくれれば、そこから一気に攻撃できたが、まさか振り返りもせず、今の僕の最高の一撃を逆手で受けきるとは...どのようなことをすればこんなことが可能となるのか。
兎に角今は、自分にできる限りの攻撃をして、敵わないとわかっていても、諦めたりはしない。何としても合格を勝ち取るんだ。
「今の一撃はなかなか重かった。だが経験の差が違う。このくらい予想できる上に、まだ重さが足りない。」
ゼンバールはまだまだ余裕といった感じで、こちらに話しかけてくる。まだ魔法の効果は切れていないのに、完全にどこにいるかわかっているようだ。こちらをしっかりと見据えて話している。
僕は次の攻撃に移るべく行動を開始する。先程の攻撃でまだ腕は痺れているが、全然動けるレベルだ。剣を構え、目を閉じ、息を整える。
そして、カッと目を見開き、瞬間移動を思わせるような速さでゼンバールへと移動し、剣を振るう。
「振速流剣術奥伝・疾風」
ゼンバール強くし過ぎましたかね。
でも、【制御腕輪】レベル1の状態のライルに負けるような奴は、
王宮騎士団に入団すらできないでしょうから、このくらいでいいのかも。
次回にはこの試合終われるかな?といったところです。
今後ともよろしくお願いいたします。




