第36話 魔族メイドと王妃陛下
今回はシルビア視点中心です。
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久しぶりに愛する我が息子に会えたというのに、一緒に過ごす時間は余りとれなかった。まぁ、仕方ないわよね、王城からのそれも王妃陛下からのお呼び出しだもの。ライルとは帰ってから色んなお話をしたらいいわ。
屋敷から王城まで数分の道のりを馬車に揺られながら、そんなことを考えているのはアドルクス公爵家夫人、シルビア・べリアン・アドルクス、ライルの母である。
彼女は王城からの召集で、普段住んでいるウェストーナからおよそ20日かけて王都へとやって来た。到着次第王城へということだったが、着いたのが昨日遅くだったため、翌日の今日朝一番で王城へと向かっていた。
王妃陛下の言う重要案件とは一体何なんでしょう。他の公爵家夫人も呼ばれているみたいだから、かなり大変な事なのかも知れないわね。
でも、戦争とかそういうことならスモーツが呼ばれているはずだし。そもそも王妃陛下からの呼び出しなんて初めてだし。献上品として国王陛下お気に入りのアドルクス公爵領の地酒ウェルッサ、それと領内のダンジョンから出た魔法が付与されたエメラルドの指輪、こっちは王妃陛下にね。
エイヴィスティン王国は一夫多妻、一妻多夫の重婚は認められているのに、現国王陛下は側室はもっていらっしゃるけど、王妃陛下はお一人だから、献上品を考えるのにそこまで困らなくて助かるわ。
私やキリーナスと同じで王妃陛下も一夫多妻をあまり好まない御方なのが良かったわ。貴族や大商人に中には、何十人も妻を持つ人もいるみたいだけど、どうしているのかしら。跡取りができないとかなら仕方ないかもしれないけど。一人一人といる時間が短くなって、私なら嫉妬しちゃいそうだけど。
彼女は人一倍嫉妬深い性格で、重婚を認める自国の法律にあまり良い印象を抱いていないようだ。学園在学当時から公爵家の跡取りであり、容姿端麗、文武両道、品行方正、マセット程の実力はないものの、フィオレンツ学園ではマセットと並び、かなりの人気があったスモーツが、シルビア以外の妻を娶っていないのはそのためである。
幾ら重婚が認められていようとも、それを好まない者は多くいる。そのため、配偶者同士で諍いや争いが起こることも珍しくない。そもそも幾ら人気があってモテていても経済的余裕がなければ、妻を何人も娶ることはできない。
女性の場合は、夫が多くいれば経済的には問題はないだろうが、そういう営みで問題が発生することが多く、夫同士で抗争が起きたり、夫が浮気をしたりする確率が高い。
このようなことから、一夫多妻の家庭はお金持ちのところが多く、一妻多夫の家庭はそもそもあまり存在しない。
自分の夫が自分以外の女と仲良くしているところを少し考えてしまい、イラつき始めたのを察知したのか、馬車内の端の方で待機していたメイドの一人がシルビアに声を掛ける。
「奥様、間もなく到着いたします。」
それを聞いて、シルビアは自分が黒いオーラを放っていたことに気が付き、これから向かう場所でそんな粗相があっては不敬だと思い至り、普段の調子より更に公爵家夫人に相応しい態度を心掛ける。
声を掛けたメイドはアドルクス公爵家に仕えるメイドの中でも優秀な者で、主人たちの異変にすぐに気づき適切な対応をとるアドルクス公爵家に欠かせない人材であった。
シルビアだけでなくライルやスモーツ、エリスも彼女に助けられることがよくあった。仕えているメイドの中でも年長で、何度もメイド長の役をスモーツやシルビアから誘われているが、その都度断っている。
現メイド長のパーシャ自身も自分より彼女の方が適任だと考えているようだが、それでも彼女は一般メイドであることを望んでいる。それは彼女が魔族であることが絡んでいるのだろう。
彼女は先々代のアドルクス公爵、エワッダ・ベリル・アドルクス、ライルの曽祖父に拾われ長年アドルクス公爵家に仕えてきた。人族よりも長命で、未だ見た目の若い彼女だが、実年齢は60を超えている。
魔族は人間族の多くに嫌われてはいるが、何も全員に嫌われているわけではない。実際、アドルクス公爵家で彼女を嫌う者はいない。しかし、他家では魔族を嫌う者もいるため、普段は既に隠居した恩人の先々代に仕えているが、王都に用があったため、今はシルビアに同伴している。
先々代の屋敷で給仕している時は、魔族の特徴の一つである角を見せたままの状態でいるが、外出する際は魔法で見た目を完全に人族と同じにしている。今も見た目は完全にまだまだ若い人族のメイドである。
会うたびに助けられている彼女に、シルビアはばつが悪そうに返答する。
「いつも悪いわね、ロセーナ。」
「いえ、奥様のお役に立てたならば何よりです。」
シルビアは一応使用人ではあるが、自分よりかなり年上で、先々代の公爵が娘のように思っているロセーナのことを、本当はさん付けで呼びたいと思っているが、それは本人が断固拒否し、今の状態になっている。
昔から使用人は敬称略で呼ぶのが当たり前だと思っていたシルビアだが、彼女だけは呼び捨てでは悪いと思っている。いつも助けられている恩人であるためか、それとも先々代の影響かは自分でも分かっていない。
そうこうしている内に、馬車は王城の城壁を潜り停車した。
シルビアが馬車を降りると、城仕えの執事が既に待機していた。
「アドルクス公爵家夫人、シルビア・べリアン・アドルクス様ですね。王妃陛下がお待ちです。」
「ッ、それは...即刻お目通り願います。」
「畏まりました。ご案内いたします。」
シルビアはすぐに会えるとは思っていなかった。しかし、王妃陛下が待っていると執事が言ったのだ。国のトップの妃を待たせたとなれば、不敬に当たる。遅くても昨日来れば良かったとも考えた彼女だが、遅くても迷惑である。こういう御偉方への拝謁は骨が折れると自分も結構な立場だということも忘れ、そう考える彼女だった。
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舞踏会や晩餐会等である程度来ることのある場所ではあるが、その豪奢な城の造りには毎度驚かされるものである。他国の使者や、王本人等に侮られないようにするためにも、こういうことは必要だとわかっている彼女だが、この贅の限りを尽くしたような造りには落ち着かないものがある。
そんな城内を歩くこと数分、目的の場所へと着いたようだ。
「失礼いたします。アドルクス夫人がお越しになりました。」
「どうぞ。」
執事がノックし、声を掛けると、中から王妃陛下のものと思われる声が聞こえてきた。許可を得てから中に入る。
「失礼いたします。」
入室すると、そこは一目見るだけで値が張ることのわかる豪華な調度品が品よく並べられている応接間だった。煌びやかな小物類一つ一つ精巧な細工が施されている。
天井に吊るされたシャンデリアは部屋全体を華々しく飾り立て、応接室を幻想的な空間に仕立て上げている。本棚やテーブルなどの大きいサイズのインテリアにも精巧な細工が施されており、この部屋の調度品だけでも屋敷が建つのではないかと思わせる。まさに豪華絢爛という言葉が相応しい場所である。
そんな場所に一人、白を基調とし薄っすらとした水色で鮮やかさを醸し出したドレスを、身に纏った銀髪の絶世の美女がいた。精巧なクリスタルパーツがふんだんにあしらわれているが、決して華美ではなく、輝く銀の髪と相まって清楚さすら感じられる。
「銀雪の美妃」とまで称されるその美貌は国内だけでなく、国外にまで広く伝わるエイヴィスティン王国王妃、マティーナ・メリー・サエイヌス・エイヴィスティン陛下その人であった。
そんな彼女が口を開く。
「よく来てくれました、シルビア夫人。態々遠方から召集に答えてくれたこと感謝します。」
「滅相もございません。王妃陛下のお呼びとあらば即座に参る所存でございます。ところで、何故私共をお呼びになられたのでしょうか。」
「あなたもご存じの通り、5年に一度行われるヴァミニアン王国との国家間社交界。次の開催は来年の文月、その企画と準備をあなた方公爵家夫人にしていただきたいのです。」
微笑んだその表情は女神のようで、相手の心を穏やかにさせる。そしてその美貌に合った優しく相手を包み込むような美声で彼女はそう告げた。
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今話では、また新たに数人の人物が登場しましたが、王妃陛下はまた登場するかもしれませんが、その他はまだ当分登場予定はないです。
ですが、タイトルになっていることから想像がつくと思いますが、魔族メイドのロセーナに関しては、だいぶ先にはなると思いますが、今後重要な役割をもって再登場することとなるでしょう。(今のところはそう考えています。)
〈次回予告〉
王妃陛下より国家間社交界の企画と準備を頼まれたシルビア達公爵夫人達。
メレテナール公爵家夫人キリーナス他、公爵家夫人が勢揃い。
次回第37話が第3章最終話予定(のはずです。)
近日更新予定




