第32話 再会と悪巧み
少し遅くなりました。
天井の高さは十数mあるだろうか。吹き抜けとなっており、3階の廊下が1階から見えている。建物自体が豪華な造りで、とても今までに見てきた冒険者組合と、同じ組織の建物だとは思えない。
先程のような五月蠅さはなく、仕事に従事する者達の作業音は、〘騒音抑制〙を通過して聞こえてくる。
防音系の魔法は、使用者の考えが反映される。〘騒音抑制〙や〘騒音遮断〙など音声妨害系魔法では、使用者自身が対象音声と感じるものを抑制、遮断する。この2つの場合の対象は騒音だ。そのため、こういった作業音は僕が、騒音と感じない類のものなのだろう。
昔から、父や周りの人々の仕事をする姿を間近で見て育った僕は、仕事をする大人への敬意や憧れがあった。そういったことから、作業音を騒音と認識せず、寧ろ心地よい音と感じてしまうのかもしれない。
本部には、先程の王都第1支部もそうだったが、冒険者組合支部には併設されている酒場が見当たらない。そもそも、冒険者自体あまりいない。見かける人も、装備はきっちりしているが、先のような厳つい人ではなく、真面目そうな人や、几帳面そうな人ばかりである。
この本部の雰囲気は宛ら、前世の役所のようだ。
そんな場所で7歳の少年がうろちょろしていれば、迷子かと思われ、声を掛けられることは必至であるが、僕は今、成人した大人の外見をしているので、職員は全く気にせず、仕事を続けている。
数分、本部の1階を歩き回っていると、これまた先の支部の倍はありそうな大きさの入り口に、数台の馬車が止まった。冒険者の声だろうか、いろいろと話しているようだが、やがて一人のお爺さんが中へと入ってくる。
見た目とは裏腹に、気迫溢れるその佇まいから、歴戦の勇士といった印象を受ける。前に会った時には感じなかったが、本当は名の通った方なのだろうか。
そんなことを考える僕を目にすると、彼はこちらへと歩み寄ってくる。
「ライル君、良かった。集合場所は王都ということにしておったから、もっと詳細な場所決めをしておくべきじゃった、と後悔していたところだったんじゃよ。」
「僕も同じことを考えていました。取り敢えず本部にいれば、会えるかと思って、ここに来てみて正解でした。」
ボーレドさんと合流でき、一安心した僕達は少し談笑してから、本題へと移った。
「えっと、僕はこの後どうしたら良いんでしょうか。」
「そうじゃった。君には明日、本部で行われる幹部会議に同席してもらいたい。今回の会議には私も参席し、そこで君のことを紹介したいと思っておるのじゃが、どうかね?」
「えぇ、もちろん問題はありませんが、一つ質問してよろしいでしょうか。」
「もちろん構わんよ。」
「では、冒険者はチームを組むとお聞きしましたが、やはりその方が良いのでしょうか。」
「うむ。一概には言えんのじゃが、チーム、まぁパーティというのじゃが、を組む者は非常に多い。それは、仲間がいた方が依頼の成功率も上がるし、危険度も下がるからじゃ。しかし、その分報酬は減ってしまうから、報酬を独占したくて仲間割れ、等ということも珍しくはない。そういったことが起こらない見知った、信頼のおける者と組むのが得策なのじゃが、君の場合は普通に依頼をこなすだけなら、そう簡単に死ぬこともないじゃろうし、そう焦ることはないじゃろう。もし良かったら、儂が探しても良いが、誰か心当たりはあるのか。」
「お気遣いありがとうございます。一応心当たりはありますので、声を掛けてみますね。もし、了承してくれるのであれば、明日連れてきた方が良いですかね?」
「そうじゃな...しかし、君が認める者ならば問題はないと思うが、力量に差があれば、それだけリスクが伴う。それだけは覚えておいておくんじゃぞ。」
「心得ております。私より強いはずですので、どちらかと言えば、こちらが足を引っ張る可能性の方が高いでしょう。」
「......」
懇切丁寧に教えてくれたボーレドさんは、僕の答えを聞き、少し引き攣った顔をしていたようだが、具合でも悪くなったのだろうか。
その後、ボーレドさんはカウンターへと向かい、手続きを済ませてくれた。これで明日ここに来れば、会議室まで案内してくれるそうだ。
ボーレドさんはまだ残って何かするようだが、僕はパーティーメンバーを召喚しなくてはならない。ボーレドさんと別れ、冒険者組合本部を後にする。
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冒険者組合本部から、そのまま王都の城壁の外までやって来た僕は、ある程度進んだところでそれを実行する。
「〘特級召喚〙天蝎、紅葉」
僕が発動した魔法により、地面に2つの巨大な魔法陣が現れ霧がかかり、次いでその姿が露わとなる。
「お久しぶりでございます。主。随分とご成長なされたようで...いえ、擬似成長ですか。」
「ああ、その通りだよ、天蝎。6年ぶりかな、元気にしていたか。」
「はい。それは勿論。主に見合う従魔となれるよう、日々精進しておりました。」
「うん、それは何より。紅葉も元気だった?といってもこの前会ったばかりだけど。」
「はい。あの時より更に鍛錬して参りました。」
「うん、まぁ、くれぐれも無茶はしないように。ほどほどにね。」
「はッ。お心遣い感謝いたします。」
そんな前回と同じような挨拶もほどほどに本題へと移る。
「今回君たちを喚んだのはあるお願いがあるからなんだ。」
「お願いと言わず、命令してくだされば如何様な命も遂行いたしますが。」
少々物騒だが、頼もしいことに変わりはない。僕は続ける。
「実は明日、冒険者組合に登録に、冒険者組合の幹部会議に出席することになってね。冒険者はパーティを組んだ方が良い、って言われたから君達にお願いできないかなって思って。」
それを聞き、紅葉は理解したようだ。
「成程、主様は我々にあれをお望みなのですね。」
「ン、鳳凰、お前は主の御意志が理解できたのか。」
「えぇ、私はわかりましたよ。主様は我々がそのパーティーメンバーになることをお望みなのです。ですよね、主様。」
「うん、理解が早くて助かるよ。」
「パーティーメンバー?従魔としてではなく...あぁ、成程。主は我々にあの形態になるのをお望みなのか。」
「天蝎もわかったみたいだね。それでお願いできるかな。」
「主様のご意志とあらば、喜んでお受けいたします。」
「私も同様です。主がお望みとあらば、何事も全力で掛かる次第。」
「良かった。それじゃあ、一度やってみてもらえる?」
「それは構いませんが、どの形態が良いのでしょうか。やはり人族でしょうか。」
「うーん、他には何になれるの?」
「そうですね、私も天蝎も人族の他に、エルフ族、ドワーフ族、小人族、巨人族、妖精族、魔族、それに獣人系の種族の大半は。魔物及び、魔獣、動物の類にはなれませんが、魔法を使用すればそれも可能です。」
今回、僕が天蝎と紅葉を喚んだ理由は、パーティーメンバーになってもらうためであり、従魔としてではない。そのため、人間の形態をとってもらう必要があった。
神獣や瑞獣は、人間型をとれると本で読んだことがあったので、6年前に聞いていたのだ。すると、本当に可能だったようなので、今回こうして頼んでいるわけなのだが...
「まさか、そんな何種族もの姿になれるとは思ってなかったよ。王都だから、それなりに異種族も見かけはしたけど...」
正直に言ってしまえば、エイヴィスティン王国は問題ないが、他国では人族至上主義国や、亜人種差別の激しい国、多種族の侵入を拒む国は珍しくない。そのため、どの種族になるのが最善の選択かはわからないが、消去法で選ぶことにした。
「まず、妖精族は却下。」
妖精族は悪戯好きで有名で、それを嫌う人も多い。第一、妖精族の中でもまちまちだが、小さいものが多い上に、実体自体見える人の方が少ないので、今回の件には相応しくない。
「それと、巨人族、小人族も却下。」
巨人族は、その名の通り巨人だ。と言っても、そこまで大きいわけではない。個人差もあるが3m前後が平均的な身長だ。ある程度目立つが、そこまで騒ぎになることはない。しかし、彼らは自国からあまり出たがらない性格のため、一緒にいると何かと支障が出る可能性がある。
小人族は、成人した者でも身長が50cm程度であり、巨人族同様、自国から出てくることが珍しい。そのため、この2種族も却下。
「勿論、魔族も却下。」
魔族は、人間族で嫌う者が一番多い種族と言っても過言ではない。戦争は人間族同士でも起こるが、魔族との戦争となると別だ。人間族と魔族は種族間で仲が悪く、2種族間での戦争となれば、同種族同士で手を組むこともある。それがたとえ敵対中の相手国でもだ。
およそ800年前に起こった【大陸間大戦争】では、両種族とも多くの犠牲を出し、魔族側の1国の王、魔王が倒されたことにより、魔族側が引き、人間族の勝利で終わった。
それから今までは、種族間での大戦争は起こっていないものの、小規模な紛争は絶えない。そのため、却下だ。
「となれば、人、若しくはエルフかドワーフか獣人かになるけど、獣人はなしかな。嫌う人も多いから、態々自分から火種をまく必要もないし。」
獣人は何かと差別的な扱いを受けることが多い。そのため、余計な火種をまく必要はないだろう。
「あと、ドワーフもなしかな。どちらかというと、戦闘系より生産系のイメージだし。」
ドワーフの大半は、採掘や鍛冶、建築を生業としている。中には戦闘特化のドワーフもいるようだが、一般的な認識では職人といったイメージが多いようだ。
「じゃあ、自ずと人かエルフになるけど...」
そこで、僕は思った。エルフは巨人族や小人族同様、故郷から出てくる者が少ない。先2種族よりは多いが、元々希少種であるため、あまり見かけることもない。そのため、非常に人気が高い。特に女性のエルフは...
「確か紅葉は雌、天蝎は雄だったよね。」
「はい。その通りですが、それが何か。」
僕は、少しこの決め方に罪悪感を覚えたが、利益を鑑みると、決して悪くないように思え、実行した。
〈次回予告〉
幹部会議へと参加することとなったライル一行。
ライルは天蝎と紅葉にどの種族になることを望んだのか...
7月末更新予定




