第31話 王都冒険者組合と転移
成人した未来の自分の姿へ、服装も子供用の貴族服から動きやすい大人用の戦闘服へと変わった。
王都に3か所あるという冒険者組合の内、一つが本部ということらしいが、そもそも冒険者組合がどこにあるのか一つもわからないので、取り敢えず、一般街の方へと向かう。
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「すみません。冒険者組合って、どこにあるかご存じですか?」
今日も大勢の人で賑わっている一般街。その露店が立ち並ぶ、城門から程近い露店街で聞き込み調査を行う。声を掛けたのは、青果店の店番をしていた優しそうなおばさんだ。
何も買わずに、質問だけするのも躊躇われたので、幾つかの果物を買いながらそう質問する。
「冒険者組合?そうねぇ、ここから一番近いのは、この道をまっすぐ行って、この露店街が途切れた少し先の、最初の分かれ道の右角だね。あんた、王都に来るのは初めてかい?」
「いえ、何度か訪れたことはあるのですが、冒険者組合には寄ったことがなくて。先日、ワーライドで冒険者の登録をしようと思っていたのですが、王都に来てくれと言われまして...」
「ワーライドから来たのかい。まぁ、冒険者組合に登録しようとしているなら、知っているだろうけど、盾にエイヴィスティン王国の紋章と、その後ろに2本の剣が描かれた看板が目印さ。」
「はい。ありがとうございました。また来ますね。」
「ああ、よろしくね。」
良い人に声を掛けたようだ。かなり親切に教えてもらえた。それに、買ったものも〖鑑定〗してみたが、品質も高品質だし、登録出来たら報告も兼ねてまた行ってみよう。
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露店街を抜け、十字路が見えてきた。ここまで来ると、人の数も先程より減り、所々に冒険者らしき人は見えるものの、五月蠅いと思うことはなく、普通の人より少し声が大きいと思う程度だ。
えっと、この右角だったよな...あった、盾と剣の看板。
一先ず、冒険者組合に到着し、安心したのも束の間。開きっぱなしのかなり大きめな入り口から、足を一歩踏み入れると、魔力の流れを感じる。
一瞬、攻撃か、とも思ったが、それがこの建物に作用する魔法だと認識する。その建物内の騒がしさによって。
先程まで、建物内から一切このような人の声は聞こえず、道行く人も気にした様子はなく、寧ろ穏やかな雰囲気が流れていたはずだ。しかし、この建物に入るとこの騒々しさ。
そこで僕は思い至る。建物に足を踏み入れた時の魔力の流れ、外と中の違い。恐らく、防音系の魔法がこの建物に付与されているのだろうと。
このような騒音にも近い話し声の合唱は、今まで聞いたことがなかったので、頭が痛くなって来た。筋骨隆々の冒険者2人の罵り合い。それを周りから歓声を上げながら賑わう冒険者達。建物奥にある酒場で大声で駄弁る酔っ払い等々。見ていて気持ち良いものではない。
普段は耳にすることのない大音量が、ここに入るなり途切れることなく、容赦なく攻撃してくる。仕方なく、魔法を発動する。
「〘騒音抑制〙」
魔法を発動したことで、周りの音が大分静かになった。この魔法の上位互換〘騒音遮断〙では、無音になってしまい、一切聞こえなくなってしまうので、今回は〘騒音抑制〙を使った。
取り敢えず、騒がしさも気にならない程度には収まったので、空いている受付窓口へと向かう。
「当冒険者組合のご利用は初めてですか?」
受付窓口にも種類があり、高ランク冒険者用、中ランク冒険者用、低ランク冒険者用、依頼者用、総合案内用、と5種類があった。僕が向かったカウンターは、総合案内用のカウンターだ。
主に、登録時や不明な点があった場合に、案内や相談を請け負うカウンターとなっている。冒険者以外も利用可能で、道案内などもしているようだ。
そんなカウンターで、顔立ちの整った女性がそう尋ねてくる。冒険者組合や他の組合でも、こういった受付嬢や窓口嬢は比較的美人が多い。
それは、組合の雰囲気作りのためでもあるが、組合員の士気を高めるためでもある。寧ろそちらが本命ともいえるだろう。
「ええ、初めてですが、実は先日ワーライド支部の方で登録をしようとした際に、王都にある本部に来てくれと言われまして。王都にはあまり来たことがなく、本部の場所が分からなかったのですが、ここではなさそうですよね。」
本部にしては建物が小さいと感じていたので、そう聞くと窓口嬢は笑顔で丁寧に答えてくれた。
「そうでしたか。確かにここは本部ではありません。エイヴィスティン王国冒険者組合王都第1支部です。貴方と同じように本部が分からないと言われる方、結構いるんですよ。そういった時や、従業員や組合員の移動面等を考慮して、移動手段が用意されています。こちらへどうぞ。」
そう言われて付いて行くと、前世でいうエレベーターのような、直方体の形で建物の壁が一部刳り貫かれている場所へと案内された。
その穴には地面に魔法陣が描かれており、よく観察すると、その魔法陣が時空魔法の転移系の魔法であるとわかった。
「これは、転移の魔法陣ですか。なかなか興味深いですね。」
僕が魔法陣を見てそう口にすると、窓口嬢は少し驚いたような顔をした。
「よくこれが、転移の魔法陣だとわかりましたね。初見で見破られる方は、少ないのですが。」
「いや、僕も時空魔法の適性がありましてね。それで知っていただけですよ。この魔法陣は位置固定型短距離専用転移の時空魔法〘短距離転移〙ですか。〘短距離瞬間移動〙ではないところを見ると、やはり経済面ですか。」
「え、えぇ。〘短距離転移〙は転送に少し時間を要しますが、〘短距離瞬間移動〙とは数秒ほどしか変わりません。緊急時には、〘短距離瞬間移動〙の魔法陣に置き換えられますが、普段からそちらを使用すると、魔石の消耗が激しすぎまして。普段の移動では〘短距離転移〙の魔法陣でも何の問題もありませんから。」
〘短距離転移〙は、短距離の場所移動に使われる魔法で、時空魔法の初歩的な魔法でもある。そのため、発動する際も、それ程までにMPは消費されない。
しかし、〘短距離瞬間移動〙の場合は別で、〘瞬間移動〙系の魔法となると、短距離移動の場合は、難易度的にはそこまで高くないが、一気に消費MPが増える。魔石で発動MPを代用する場合、数度使っただけでも、ウルフレベルの魔石であれば、使い切ってしまうだろう。
魔石は、魔物の種族やLvによって、大きさや保有魔力量等の質が変わってくる。倒した際に、魔物の体内から取り出すが、ゴブリンなどの低位の魔物であれば、取り出さずに死体ごと焼き払う人も多い。
主に、倒した際の魔物の残りMPが魔石に内蔵されているため、魔法を使用する魔物の場合は、魔法を使用する前に倒した方が、質の良い魔石を確保できる。
魔石の取引価格は、質によって決まるため、そういったことを知っている者は、素早く魔物を討伐する。
また、魔石の使用方法としては、今回のような魔法具の起動媒体、宝石などと同様の装飾品、従魔等の成長促進や進化素材等がある。
今回の〘短距離転移〙であれば、本部までの距離がどの程度なのかは知らないが、王都内での移動ならば、それ程使用MPは多くないだろう。と言っても、魔石もそこまで良いものを使っているとは思えないので、消耗は激しいだろうが、冒険者組合は経済的に大丈夫なのだろうか。
そう思って、聞いてみると、「組合も慈善事業ではないので...」と、含みのある笑みを浮かべながら返してきた。
その笑顔を見て不安になり、「代金お支払いしましょうか。」と一応聞いてみると、「初回は無料ですので。」とまたも笑みを浮かべながら返してきた。
いったい、2回目からはどれ程の額をとるのだろうか。恐ろしくて聞けなかったが、場所さえ知ってしまえば、自分でも使える魔法だったので、問題ないと判断した。そして同時に、魔石は冒険者組合では売らないことを決めた。
少し組合の闇的なものが見えてしまったが、魔法陣の上に立つ。転送装置のようなものだが、こういった類の魔法具を使用するのは初めてなので、少し興奮している。
「それでは、本部にお送り致しますね。」
「はい。お願いします。」
普段自分が使っているのは、〘瞬間移動〙系なので、転移に時間が掛かるのは変な気分だが、準備が整ったのか、魔法陣が煌めき、数秒真っ暗な世界へと移動する。
時空魔法の訓練初期を思い出し、感慨に浸りながら虚空を彷徨うこと数秒、やがて転移前と同じ光に包まれる。
しかし、そこに先の窓口嬢の姿はなく、先程より明らかに人が多く、建物も数倍はあるであろう場所へと変わっていた。
〈次回予告〉
ようやくエイヴィスティン王国冒険者組合本部に辿り着いたライル。
そこで彼を待っていたものとは...
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