第29話 帰宅と来訪
第3章第2話です。
メレテナール公爵家王都別邸を後にして、馬車に揺られること数分、アドルクス公爵家王都別邸の前で馬車は停止した。
窓から様子を窺うと、家の門衛と、この馬車の御者が何やら話をしているようで、やがて馬車の扉が開いた。
「お帰りなさいませ、ライル様。」
屋敷から急いで出てきた、執事がそう言いながら、僕の手を引く。
「ああ、サーベス、ありがとう。」
「いえ、滅相もございません。それよりも、ライル様。予定より随分とお早いご到着で、何かございましたか。それに、メレテナール公爵家の馬車でご帰宅とは。令夫人とお会いになられたのですか?」
「うん。王都に向かう途中に、キリーナスさんとマリッタさんが乗っていた馬車が、魔物に襲われていたから少し手伝ったんだよ。そうしたら、キリーナスさんが馬車に乗せてくれて、今までメレテナール邸でお茶していたんだよ。」
「それはそれは、ご無事で何よりです。マリッタ様というと、モルチーダ伯爵令夫人のことでしょうか。」
「そう。初めて会ったけど、とても良い人だったよ。」
「左様でございますか。御二方もご無事だったようで何よりです。モルチーダ伯爵令夫人は、凄腕の経営者とお聞きします。繋がりを持っていて損はないかと。」
「そうだね。マリッタさんからキリーナスさんと同じようなオーラを感じたよ...少し苦手なタイプかも...((ボソッ」
そんな話をしながら、屋敷の扉へと向かう。ライルの最後の一言は、他の誰にも聞こえない程に小さな呟きだったが、唯一、アドルクス公爵家王都別邸執事長という仕事柄、耳が良く、尚且つ隣にいたサーベスには、大人びてはいるが、まだまだ幼さの残る少年の小さな愚痴が耳に届いていた。
しかし、有能な執事はそれに関して特に追及することもなく、未来の主人のその一言は聞かなかったことにしたのであった。
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自室で過ごすこと小一時間。扉が叩かれ、メイドの声がする。
「ライル様。お食事の用意が整いました。」
「わかった。すぐ行く。」
僕は返事を返し、部屋を出る。キーナに付いて行くと、ダイニングルームにはかなり大きなテーブルに、かなりの量の食事が並べられている。
とても一人で食べきるのは不可能な量だ。ダイニングルームは、普段の家族での食事の際に使われる部屋で、食事会等で使用されるダイニングホールよりかなり小さめに設計されている。
しかし、小さめといってもかなりの広さがある。その為、テーブルも大きなものが設けられており、一人で食事するのは、かなり寂しい。
一人でといっても、周りには数人の使用人がいるので、独りぼっちというわけではないのだが。使用人に見られながら食事をとるのは、どうも落ち着かない。
そこで、僕は本邸でもしていたように、使用人に声を掛けた。
「皆さんも、一緒に食事にしましょう。」
しかし、使用人達は断ってばかりで、一向に動こうとしない。それは当然のことで、使用人が主人(正確にはその息子だが)と共に食事をとる、同じ席に座るなど、本来あってはならないことなのだ。
1対1の主人と従者であれば、そういうことも普通にできるのかもしれないが、通常、貴族は使用人と共に食事をとることなどありえない。
幼い令息や令嬢がいる場合は、食事を手伝うことはあるが、使用人が食べることはない。あったとすればそれは、毒味などに限られる。
そういったことから、僕の言は、かなり不味いのだろうが、まだ幼いということで許してもらおう。精神的にはそれなりの年齢なのだが。
僕は、なかなか席に着こうとしない使用人達に必殺技を繰り出す。
「一緒に食べてくれないんですか?僕、寂しいです...」
上目遣いで、少し目に涙を浮かべながらそう言う。
すると、使用人達は観念したのか座ってくれた。
「良かったです。これからもお願いしますね。」
僕は、先程の顔から一変、笑顔を浮かべながら、そう言った。すると、使用人達は嵌められた、とでも言わんばかりに項垂れていた。
本邸でした時のように上手くいって良かった、そう思いながら食事を始めた。両親がいないときは、必ず使用人達と卓を囲んでいたので、こちらでもできて良かった。
普段から、〘身体偽造〙を発動していたいほど、幼い姿は苦手なのだが、こういう時には、未だ幼い顔が便利で、役に立つと思うライルであった。
前世では、中学生までという、それなりの年月を過ごし成長しているはずの彼も、未だ心は案外幼いようだ。それは、彼の過去の経験ゆえかもしれない。
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翌朝、自室で目を覚ました僕は、いつも通りのトレーニングをし、風呂の用意をキーナに頼んでおいたので、トレーニングで掻いた汗をきれいに流すことができた。
昨夜も勿論、風呂には入ったが、この国では風呂に入ることは贅沢である。風呂がある家や宿自体少ない。しかし、貴族の家では屋敷に風呂があるのが当たり前であるため、前世を日本人として過ごした僕からすると、かなりありがたいことだった。
朝食をみんなで食べ終え、部屋で試験の勉強をしていると、扉を叩く音がする。
「どうぞ。」
「ライル様、そろそろご休憩されてはどうですか。」
そう言いながら入って来たのは、2人分のティーセットと、様々な御茶菓子やフルーツが芸術作品ように、美しく並べられたケーキスタンドを、ワゴンに乗せ運んできたキーナだった。自分も休憩する気満々じゃないか...
キーナは王都別邸の僕専属メイドで、昔からこちらの屋敷に来ると、面倒を見てもらっていた。本邸のパーシャやユーリよりも、一緒に過ごしている時間は少ないが、一番気兼ねなく接することができるのは、彼女かもしれない。
こんなこと本人たちに言うと、どうなるかわからないので言わないが、パーシャやユーリより、キーナの方が年齢が近いので、それもあるのかもしれない。
そんなキーナと休憩がてらお茶をしていると、またも扉がノックされた。
「どうぞ。」
先程と同じく、僕は入出の許可を出す。すると、入って来たのは意外な人物であった。
てっきり、メイドか執事等の使用人だと思っていたのだが、扉を開けてやって来たのは金髪のイケメンだった。
短く切り揃えられた金髪は、白地に金の刺繍がふんだんに施された、一目で高価だとわかる貴族服と相まって、できる漢感を醸し出している。
そう、昨日会った執事を伴いやって来たのは、マセット・マミラ・メレテナール、現メレテナール公爵家当主であった。
「やあ、ライル君、久しぶりだね。」
開口一番、そう気力溢れるはきはきとした声でそう言ってきた、メレテナール公爵はいつもと同じように、にこやかな笑みを浮かべている。
「お久しぶりです。マセットさん。」
僕も、適当に返しながら、部屋に備え付けられているソファへと案内する。
メレテナール公爵が座ったのを確認してから、僕も腰を掛ける。こういう小さなことも大切なのだ。
僕の部屋には、一人掛けのソファが2台と、三人掛けソファが1台、四人掛けソファが1台、テーブルを囲み、向かい合って置かれている。
先程までキーナが座っていたソファに僕が座り、向かいの一人掛けソファにマセットさんが腰を下ろして、向かい合っている状況だ。
キーナは、お茶を淹れに行ってしまったので、今は僕とマセットさん、その執事さんの3人しかいない。そんな中、次に口を開いたのはマセットさんだった。
「ライル君。昨日は妻を救ってくれてありがとう。モルチーダ伯爵も是非お礼をしたいと言っていたよ。」
「いえ、偶然通りかかっただけですので。」
「いや、それでもだ。君がいなければ、妻もモルチーダ伯爵夫人も危なかっただろう。護衛としては十分な人員を割いていたと思っていたのだが、認識不足だったらしい。私もまだまだだな...」
「いえ、通常街道にあのような高Lvの魔物が出ることはありません。何らかの原因があると思われます。」
明らかに気を落としている公爵を目の前にして、少しでも気の利いた言葉を掛けられればと思うが、そういう経験が乏しいためか、なかなか良い言葉が思いつかない。
しかし、マセットさんは僕の言葉を聞いて、顔を上げた。
だがその顔は、ここへ来た時のようないつもの笑顔でも、落ち込んだ表情でもなく、真剣そのものだった。普段は見ることのないマセットさんの公爵としての顔。
そしてメレテナール公爵は改めて口を開く。
ある程度、前回の更新時に書いていたので、すぐに書き終えることができました。
メレテナール公爵の来訪、そして真剣な会談。
次回、急展開を迎えるかも...
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