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13.種をまき、雑草を摘む

 バケーション直前のある日、私は第二王妃と共にお茶会を開催していた。

 主催は第二王妃だけど、開催は私が依頼したもので、王妃殿下とアーサー殿下派の家柄の令嬢らを集めてもらった。


 第二王妃自慢の庭には東屋がいくつも設けられ、白いクロスのかかったテーブルと椅子が並べられていて、令嬢たちが自由に散策できるようになっていた。


「お久しぶりです、ジェニファー様」


「お久しぶりです。本日はお会いできて嬉しいですわ」


「ジェニファー様とこのような場でお目にかかるのは初めてですわね」


「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありません。わたくし、このような場が得意ではなくて……粗相がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」


 今回いらしてくれた令嬢たちは、アーサー殿下派の中でも比較的穏健な家柄の者がほとんどだ。

 第二王妃主催の場に足を運んでくれた時点で、その姿勢は十分にうかがえた。


 もっとも、物見遊山半分だったり、こちらの様子を探りに来た方もいらっしゃるのだけれど。


「まあ、ヴォーティガン嬢はわたくしどものような下級貴族と関わることなんて、なかなかありませんものね」


「とんでもない」


 私は相手の男爵令嬢の顔を静かに見つめた。


「ヴォーティガン家はお恥ずかしながら、お茶会を催す機会もあまりありませんの……領地が広いぶん、周囲に他の貴族家がございませんから。それに今日は第二王妃様のご厚意で参加させていただいておりますけれど、普段はなかなかそうもいかなくて」


 嘘にならない範囲で、相手を否定しないよう慎重に言葉を選んだ。

 男爵令嬢は気まずそうに視線を下にやった。

 囚われの令嬢という立場は、ここでは遠慮なく利用させていただこう。


「よろしければ、他のお茶会のお話を聞かせてくださいます? 女性同士のおしゃべりというものを、わたくしもしてみたいの」


「で、ですが、あなた様はモルドレッド殿下と婚約していらっしゃるのよね? であれば」


 敵だと言いたげだったけれど、令嬢は私の顔を見ると口をつぐんだ。

 いつの間にか周囲の令嬢たちも静まり返り、私たちへ視線を向けていた。


「婚約はしておりません。国王陛下の許しが得られませんもの」


 気丈に見えるよう、静かに微笑んでみせた。


「モルドレッド殿下とアーサー殿下は、とても仲の良いご兄弟でいらっしゃいますわ。モルドレッド殿下ったら、わたくしよりアーサー殿下とお食事をご一緒されることのほうが多いくらいですもの」


「そ、そうなんですの?」


 これは本当だ。

 もっとも、それもここ半年ほどの話だけれど。アーサー殿下と国王陛下の様子をうかがうため、モルドレッド殿下は王宮で食事をとるようになったのだ。


 男爵令嬢の瞳から、警戒の色が薄れた。


「アーサー殿下は落ち着いていらっしゃいますし、政務にもとても熱心に取り組んでいらっしゃいますわ。ぜひ今後とも、モルドレッド殿下ともども協力してまいりたいですの」


「ええ、ええ、そうですわよね」


 穏健派の中でも有力な伯爵家の令嬢が、穏やかな声を上げた。


「ご兄弟仲良く我が国を治めていただきたいですわね。ところで、ジェニファー様はモルドレッド殿下と地方への視察に参られたのでしょう?」


「我が家にもお越しくださいましたわよね」


 張りつめていた空気が、ふっとやわらいだ。

 令嬢たちの集まりらしい、のどかなお茶会の雰囲気へと変わっていく。


「こちら、我が領から取り寄せた香辛料を使っておりますの。みなさま、ぜひ召し上がって?」


「まあ、良い香り」


「お味も甘いだけではなくて……いけませんわ、手が止まらなくなってしまいます」


 そうして、和やかな雰囲気のままお茶会を終えた。


***


 お茶会を終えて離宮へ戻ると、私はモルドレッド殿下の執務室へ顔を出した。


「お疲れ様、ジニー。どうだった?」


「万事、滞りなく」


「そう。さすが」


 夕暮れどきの執務室は、やけに静まり返っていた。

 先ほどまで令嬢たちと賑やかに話していたぶん、なおさらそう感じるのかもしれない。

 殿下はペン先を走らせ、書類へ何かを書き込んでいた。

 私は殿下の机の前にある応接セットのソファに腰を下ろした。


「あと半時もかからずに終わるよ」


「今日はどちらでお夕飯をお召し上がりですの?」


「兄のところへ顔を出してくる。戻ったら君の稽古に合流させて」


 殿下は顔を上げることなく言った。

 その背後から夕日が差し込み、逆光になった殿下の表情はほとんど見えなかった。

 やがて殿下がペンを置くころには室内はだいぶ薄暗くなっていた。

 それでも明かりを灯さないのは、殿下がそろそろ王宮へ向かわれるからだろう。


 なのに殿下は私の隣に腰を下ろした。


「今日お誘いした令嬢らは、兄上のことを褒めていたかい?」


「はい、とても。周りをよく見ていらっしゃるし、落ち着いていて慎重な方だとおっしゃっていました」


「俺もそう思う。ねえジニー」


 モルドレッド殿下は背中を丸めて、私を下から覗き込んだ。


「もし兄上が、君を自由にして軟禁を終わらせると決めたら、それに従うかい?」


 一瞬、殿下の言葉の意味がわからなかった。

 けれど、考えてみればありえない話ではなかった。

 私を返すことで、ヴォーティガン家からは感謝され、モルドレッド殿下と引き離すこともできる。

 そう、アーサー殿下が判断したのなら、私は。


 私はモルドレッド殿下の顔をじっと見つめた。

 薄暗い部屋の中でもわかるほど、殿下の眉は情けないくらいに下がっていた。


「いきなり帰ったりいたしません。こちらでもお勤めがありますし、そんな情けないお顔の殿下を放ってはおけませんもの」


「……そっか。じゃあ、もう少し情けない顔をしていようかな」


「いやですわ。そうなったら逆に殿下を見限って出ていきますわよ」


「それは嫌だ。塩梅が難しいな」


 殿下はゆっくりと体を起こし、そのまま私へもたれかかってきた。

 重ねた手の上で、互いの指が静かに絡み合う。


「殿下、そろそろ参りませんと」


「そうだね。すぐに戻るよ」


「はい、お待ちしております」


 重ねていた手を持ち上げられ、手の甲にあたたかな感触が落ちた。

 そのまま手を引かれ、私は殿下とともに立ち上がる。

 侍女とともに離宮の出口までついて行って、モルドレッド殿下の背中を見送った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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