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第8話:真白/異能の集まる怪しい組織

「それで、俺はこれからどうしたらいいんだ?」


 真白はルウの後ろについて、夜の街を歩いていた。彼の決断を聞いた直後、ルウはどこかへと電話を掛けた後、着いてくるように促して校舎を出たのだ。


「会わせたい人がいるの。情報屋。――面倒な相手だけど、こういう時には役に立つ」


「なるほど。……そういえば、あの学校の惨状は放っておいていいのか?」


 扉の破損、ばら撒かれたボール、爆破した用具室など、多くの損害が発生している。あのまま朝を迎えたら、学校はパニックになるだろう。


「修復の手配はさっき済ませたわ。ボールをいちいち片付けたりはしないけど、型スト用具室が直っていれば大ごとにはならないはず。結界内で眠ってる人達は今日の記憶があいまいになるような術を掛けているから、解けたら勝手に家に帰るでしょう」


 そういえば、守衛やら居残りの教師やらも学校にはいたはずだ。出てこないのは変だと思っていたが、ルウが事前に対処していたらしい。


「この先よ。私から離れると迷子になるから、気を付けて」


 ルウの後についていくと、人気のない路地に出た。――どことなく、異国を彷彿とさせる、不思議な感覚のみち。薄暗いのに、なぜか鮮明に見える気がした。進み、曲がり、時に戻り、方向感覚が失われかけた頃。


「――着いたわ」


 まるで、おとぎ話のようだと真白は思う。ビルの隙間にぽっかりと空いた空間に在る、レンガ造りの家。ヨーロッパの街であれば違和感はないが、日本の都市圏には不似合いな様相。ルウはノックもせず、ドアを開けて家に踏み込んでいく。

 

「『からす』。いるんでしょう? 連れてきたわ」


 ルウが家の中に向かって声を張る。からす、というのがその情報屋の名前だろうか。


『あぁ、入ってくれ』


 スピーカーを通して、性別のよくわからない声が響いた。ルウはこちらを振り返ると付いてくるように促す。真白は彼女の後ろについてドアをくぐった。――距離が詰まって、ルウが自分よりもずっと小さく華奢なことに今更ながら気づく。


「……色々酷いことをしてしまった」


 学校でのあれこれ――ボールを打ち返したり、爆破したり――を思い出して、後悔する。ちゃんと謝らないと、などと考えている間に、玄関を越え、薄暗い部屋に辿り着いた。西洋風の家らしく、靴を脱いだりはしないようだ。部屋の中にはびっしりとモニターが設置されていて、中央にはこちらへ背を向けて座る人物がいた。映画の中でよく見るような風景だなと真白は思う。


「――来たか。悪いが客用の椅子なんてないんだ。その辺にある箱に座ってくれ」


 箱、といっても段ボールのようなものではなく、色々な配線が繋がっている電子機器だ。大事なものではないのだろうか。座るのもためらわれたので、真白はその場に立ち、椅子に座る後ろ姿を見つめた。


からす。お茶くらい出せないの?」


「うっせーよ蛇女。てめーの後始末で諸々手配して忙しいんだよ。……よし、終わりだ。請求書、送ったぜ」


 不機嫌そうな声と共に立ち上がり振り向いた人物は、なんというか巨大だった。真白の身長は男子高校生の平均くらいだが、その彼よりもかなり大きい。中性的な声も相まって性別を測りづらそうに思えるが、癖のある黒髪の整った顔立ちと、何よりも女性的な体形が性別を明確にしている。


「相変わらず口が悪いわね。……ねぇ、高くない?」


 取り出したスマートフォンの画面を見てルウが眉を顰める。こうしてみると、同じ種族、同じ性別とは思えない体格差だ。ルウは小柄な上華奢でまっすぐな黒髪をしている。種の多様性のモデルケースを象徴するかのような対比といえる。


「――真白くん。あなた妙な感想を抱かなかった?」


「……至極まっとうな一般論だ」


 質問の内容以上に、真白くん、と呼ばれたことに少し驚いた。別に変な呼びかけではないのだが。


「急ぎだから割り増しだよ。もう手配して動いてるからキャンセル効かねぇからな」


「……仕方ないわね……まぁいいわ。本題よ。彼――化野真白あだしのましろくんを、協会に登録したいのだけど」


「――へぇ。なるほど。()()()を選ぶのか、少年」


 『烏』と呼ばれた情報屋は、真白の方を見てニヤリと笑う。協会、とは何だろうか。後で聞いてみよう。


「真白です。――意外ですか?」


 真白は烏に問う。一般的には、記憶と力を失ってでも、元の生活に戻りたいと願うのだろうか。


「いんや。目を見ればわかる。少年、君は、何かが欠けているな。大方、その欠損は一般人の世界では埋まらんのだろうよ。自らを満たしたいと思うのは当然のことだ。――ま、神器を宿すような人間が、まともな出生とは思えない。当然と言えば当然だな」


 烏の言葉は曖昧でありながら、真白の状況を正しく表しているようだ。彼自身、自分がなぜ『こちら』を選んだのかはよくわかっていない。だが――理屈でなく、そうすべきだと思ったのだ。本能? いや、もっと根本的な、自身の構成要素、あるいは存在理由そのものが、こちらにあると感じたのである。


「――わかったような口を利くのね。情報屋としてはそのくらいのハッタリが必要なのかしら?」


 ルウはいつも通り――いや、やや刺々《とげとげ》しさも感じる声音だ。気を許しているのか、逆なのか。真白にとってこの二人の関係は測りかねる。


「なんか突っかかるな、お前。『烏』の分析結果からの推察だよ。――よし。とりあえず登録手続きは終わったぜ。確認者はお前ってことにしてある」


「そう。感謝するわ。これでひとまず、協会の連中からいきなり襲われたり記憶処理される心配はないでしょう」


 二人の会話は進んでいるが、真白にはついていけない。なので、質問をしてみることにした。


「――協会って、なんのことだ?」


 当たり前のように所属させられることになったが、健全な組織なのか、非常に疑わしいところである。


「……そういえばきちんとは説明していなかったかしら。いいわ、少しだけ」


 ルウは口に軽く手を当てた後、軽く目を閉じ、話し始めた。――世界の裏側の、決めごとを。


◆◇◆◇◆◇


 異能管理協会。通称『協会』と略されるその組織は、神秘の秘匿を目的として設立された。


 神を恐れる気持ちは皆が持ち合わせていようが、能力者は基本的に異端、異常者の集まりであり尋常な精神など期待できない。事実、大きな事件を引き起こし神の逆鱗に触れ『粛清』されることもしばしばあった。


 当時の魔術師たちは考える。――このままでは、魔術を含む神秘全てが、神々に奪われてしまうのではないか?


 神にしてみれば、借り物の力で世界を脅かし、場合によっては自身を傷つけかねない危険分子。気にならなければ放置されようが、目障りならば排除される。――言ってみれば、人間界における神秘使いは、害虫のようなものだった。


 さすがにその状況を危険視した有力な魔術師たちは、連携を取り、一つの組織を創り上げた。それが『異能管理協会』。魔術師や特殊能力者など、神を脅かしうる力を持った外れものを『異能』と括り、管理するための組織だ。


 所属したものに関しては能力と危険度、そして所在が管理下に置かれる。その代わり、何か困ったことがあれば頼ることができる。基本的に何かを強制されることはないが、現代の常識を逸脱した行動をとれば『粛清』の対象となる。


 『はぐれ』と呼ばれる未所属者も少なくはないが、現代においてはリスクも多く、協会のツテを使わないと能力研鑽や研究のための資源調達にも苦労する。思うところはあれど、所属することが一般的だ。


 ――余談だが、協会の敵対組織として『神』の信徒である『教会』が存在する。人が神秘を持つことを良く思わない連中のため、何かあれば殺し合うような間柄だ。


◆◇◆◇◆◇


「――どう? わかったかしら?」


 ルウの説明は歌うようだった。細かな言葉はわかりづらいところもあったものの、組織の経緯や必要性は十分伝わっている。


「あぁ。大体わかった。ありがとう」


「あなたも今日からその組織の一員なわけだけれど……」


 そういえば。ルウの言葉を遮るように真白は一つ質問をする。


「一つだけ確認なんだが、俺は異能者としては、何にカテゴリされるんだ?」


 魔術師ではない。魔力使い、というのだろうか?


「――特殊能力を持つことは間違いないけれど、それが何を起源にしているかで分類けされているわ。魔力を持たない特殊能力者もいるけど、あなたの場合違う。そして、その起源は、見る人が見ればすぐにわかる」 


 強力な防御、気配を消し、鎌を持つ、蛇退治のエキスパート。


「あなたは『伝承者』。世界に伝わる神秘の物語。そこに描かれた奇跡をその身に宿した、過去の遺物よ」


 褒めているんだか貶しているんだか、よくわからない表現で、ルウは言った。


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