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第5話:学校内耐久鬼ごっこ

「――ぶっ殺す」


 頭が痛い。精神的なものではなく、物理的な痛みだ。ルウは倒れこんだまま額に触れる。幸い流血はしておらず、こぶができた程度。魔術で防御はしたものの、完全に予想外の一撃で成すすべもなく倒れてしまった。思わず暴言が漏れ出てしまったくらいだ。


「……バットで魔弾を打ち返すなんて……魔力を纏わせていた? そんなに簡単にできることでもないのだけれど」


 少なくとも魔力を使えるようになっただけの素人ができることではない。武器の使用に特化した才でも持っていれば不可能ではないのだが。


「……考えるのは後。相手の戦力が、多少向上した程度。バットが使えるなら、ボールや竹刀に魔力を込められてもおかしくはない。反撃の脅威がある、ということだけ覚えておけば何ら問題はないわ」


 そう、些細な変化だ。校舎に向かって駆けていく人影を目で追いながら、冷静にルウは呟く。


「――でも、お返しはしないと」


 先ほどあっさり打ち返されたのは、速度と威力の不足だ。どうせ殺す相手に手加減など不要だった。距離はもうじき五十メートル。投球であれば届かせるので精一杯でも、狙撃ならば手元のごとき距離。


 右手を掲げる。銀色のカタチが変わっていく。蛇ではない。生き物からは遠ざかり、より遠くの獲物を殺すことに特化する。腕は砲身と化し、自身は砲台となる。膝をつき、左手を砲身に添えた。


「――穿(うが)て」


 言葉を引き金とし、砲門から青く輝く魔弾が放たれる。先ほどとは比較にならない速度と威力。直撃すれば人体どころか周辺まで粉々に砕けるだろう。バットで打ち返すことなど不可能だ。


 少年は回避行動を取っているようだが、その程度は想定済み。追尾の術式を織り込んである。学校の周囲には既に結界を張っており、校舎に残っている人々は夢の中。校舎が多少欠損するかもしれないが、死体処理と合わせて情報屋に手伝わせればいい。


「……思いのほか手間がかかったわ」


 空を引き裂く悲鳴のような音が響いた直後、狙い(たが)わず魔弾は少年に直撃した。ちょうど彼が校舎内に入り込むところで命中したため、爆発が起こりガラスの扉が砕け散る。きらきらと、雪のように破片が舞った。


 昨晩のような感傷はもうない。少年は明確にルウに敵意を向けてきた。ならば叩き潰すのに遠慮は必要ない。死体を確認するべく校舎へ向けて歩き出す。が――。


「嘘……でしょう?」


 少年は多少よろめきながらも特に致命傷を負った様子もなく、校舎内へ駆けていく。間一髪で回避した? いや、目だけでなく術式の感触的にも命中の感覚はあった。つまり。


「……何らかの防御系の術、あるいは能力を保有している。……昨日死ななかったのもそのせいかしら」


 校舎へと向かいつつ、呟く。単純な威力で言えば、先ほど放った魔弾はルウの出力の中でも最大級だ。アレで倒せないとなると、別の方法を考えなくてはならない。


「……なんで、こんなに面倒なことに……!」


 まるで、ルウの目的が達成されないよう、世界が邪魔をしているようだ。


「女神の加護でも受けてるっていうの?」


 ぼやくと、ルウは少年を追い、校舎内へと侵入した。


◆◇◆◇◆◇


 校舎内は薄暗い。電灯があるとはいえ、夜間に使用することを想定した施設ではないからだろう。リノリウムの床、というのだろうか。言葉は知っているが、廊下に使われる材質の名称なのかはわからない。でもなんとなくその響きをルウは気に入っていた。


「……なんで、こんなことを考えているのかしら」


 戦闘中にも関わらず、緊張感がない。もう通うことがなくなった学校への郷愁だろうか。頭を軽く振ると、目の前の問題に切り替える。


「――魔力の痕跡がある。階段を上ったようね」


 ルウは魔力探知を行いながら階段を駆け上る。仮に先ほどのようなバットでの攻撃があっても、魔力を纏っていれば事前に探知できる。少なくとも二階、三階にはいなさそうだ。ルウはさらに速度を上げて、二段飛ばしで駆け上がる。と。


「……上から、音?」


 足は止めずに頭上を見る。何か、ゴロゴロと転がるような――。


「――嘘、ボール!?」


 野球で使うような硬めのボールが大量に階段を流れてきた。足を止めたので転倒こそしないが、速度は殺される。階段に残っているものもあるから、駆け上がるのも危険だ。


「……こんな子供の悪戯みたいなもので足止めを喰らうなんて……」


 少年の気配――魔力の痕跡はさらに上だ。遠距離攻撃が通じない以上、接近して拘束し、毒などを用いて殺すしかない。


 慎重に階段を上り、魔力の痕跡を追って廊下を進む。この先にあるのは――。


「体育館。この学校は三階にあるのね」


 廊下に貼られた案内に従うように歩みを進める。魔力の痕跡もそちらへと向かっていた。


「殺し合いには、ちょうどいい場所かしら」


 警戒をしつつ、歩みを進める。体育館の扉は開け放たれていた。


「――いない?」


 魔力の残滓はある。だが肝心の少年の姿がない。気配を探るが、見つからない。


「路地裏の時と同じ……」


 昨晩、少年を見失ったときも魔力反応が消えていた。この隠蔽も、彼の持つ能力だろうか。


「……強力な防御に加えて気配の隠蔽。しかも相当に高レベル。いくら何でも、その辺にいる学生が保有していいスキルじゃないわ」


 これまでも本気ではあったが、ルウはもう一段階ギアを上げる。昨日まではただの凡人であったが、防御面において彼は一流の使い手だ。周囲を油断なく監視しながら、ルウは体育館の中央へ向けて歩を進める。少年が優れているのは防御能力。ならば。


「初撃を受けて、カウンターを」


 呟き、周辺を警戒しながら歩みを進める。その時、体育館の隅、用具室から機械の駆動音がルウの元へ届いた。直後、撃ちだされたのは白い球。


「……バレーボール?」


 ルウは狭い用具室の中を凝視しつつ、飛来する排球を回避した。駆動しているのはサーブマシン。よく見ると、機械の後ろにはターゲットの少年が隠れており、ルウに向けて連続で白球を打ち込んできている。躱すことは大した労力ではない。所詮はスポーツ用途。命を奪うための銃弾とは比べるまでもない速度。だが、狙われ続けるのは不快極まりない。


「……ごっこ遊びはもう終わりよ。早々に――」


 言葉と同時、ルウは頭部を狙い発射されたバレーボールを金属製の右手で受け止めた。そのまま指を刃状へと変貌させ、咀嚼するように引き裂く。完全な蛇の形状ではなく、牙の部分のみを再現した形だ。


「――観念しなさい」


 ルウは少年に向けて歩を進めながら、飛来するバレーボールをすべて右手の刃で切り裂いた。用具室内から逃げるかと思ったが、少年は焦ったような表情を浮かべ、立て続けにボールを飛ばしてくる。


「……もう少し、賢いと思っていたのだけれど。所詮は素人ね」


 力には覚醒したが、その使い方を心得ているわけではないということだろう。とはいえ、向けられるボールは不愉快だ。苛立ちをぶつける様に飛来するバレーボールを引き裂きながら足を速め、少年のいる用具室に飛び込んだ。


「そろそろ諦めたら……――っ!?」


 ルウが部屋に入った瞬間に射出されたバレーボールは、少々いびつで速度が遅かった。空気でも抜けているのだろうと、特に考えずに切断したのだが――瞬間、煙が溢れ、視界が漂白される。どうやら、中に白い粉末が詰め込まれていたらしい。


「何……!? 目くらましのつもり?」


 とはいえ、石灰等であれば吸い込むと危険だ。ただでさえ狭い用具室内である。呼吸を止め少し待つが、視界が晴れない。どうやらさらに追加で粉をばら撒かれたらしい。

 

(……この機に乗じて逃走? それとも接近攻撃? どちらにせよ、対応は可能だけれど……)


 校舎に入る際、結界を張り出入り口を塞いだため、簡単には逃走できない。近接戦闘において、ルウの右手の蛇は熱源を元に相手を自動追尾を行う仕組みがある。いずれにせよ、彼女の有利は動かない。


 そう考え、右手に魔力を込め、完全な蛇の形への変形を試みる。その瞬間――最悪の想像が、ルウの脳裏によぎる。ルウの右手は金属製。魔力で覆われているとはいえ、複雑な機構だ。変形の際に一定の摩擦は生じる。それにより、普段は気にならない程度の火花が散ることもあるだろう。そして、この粉末、どうやら石灰ではない。もっと軽い、白い粉。――おそらく、小麦粉。


「しまっ…………!」


 気づいたときには遅い。込められた魔力と擦れた金属が変形の際、青白い火花を生じさせる。――瞬間、白い粉が、発火する。


 粉塵爆発。小麦粉のような微粒子が空気中に舞い上がった際、火花によって連鎖的に爆発を引き起こす現象。部屋からの脱出を試みるが、間に合わない。ルウの周囲を舞う粉が、一気に燃え盛り爆発を起こす。――その瞬間、彼女の目に飛び込んだのは、大きな跳び箱の影に身を隠し、冷静そのものの様子で彼女を見つめる少年の姿だった。


挿絵(By みてみん)


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