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第20話:真白/天空から降る槍

 降り注ぐ輝きは腕のごとく。まるで宇宙そらから、地球ほしを掴むかのように。五条の光に包まれて、真白はその身を焦がした。


「うあああああああぁ!!!!」


 頭上に掲げたアイギスでも防ぎきれない光。これは神秘の力だけではない。科学により生み出された熱線とのハイブリッド。


「ぐっ…………」


 とはいえ、魔力で包まれた身体は、常人のソレよりはるかに頑丈だ。仮に銃弾を受けても弾く程度の強度は持つ。真白は全身を焼かれながらもその場に踏みとどまった。


「さすがに、頑丈だな。二割程度の出力とはいえ、常人ならば消し炭になるはずだが」


「……これは、どういうことだ」


 真白はスオウではなく、星の輝く空を見上げて呻く。その中でもひときわ輝く人工の星から、今の攻撃は放たれていた。


「言った通りだよ。攻撃衛星ブリューナク。私の家系が開発していた衛星型魔術兵器に、神の槍を接続することで超高度、超遠距離からの狙撃を可能とした。――これがあれば、『人類最強』であっても敵ではない。……何せ、反撃が不可能なのだからな」


 確かに、どれだけ強力な攻撃であれ、通常、衛星軌道上には届かない。あくまで神秘はこの星の中で生まれたものであり、それを超えることは容易ではないのだ。


「だが、ルウはここにいる。彼女を止めれば、あの衛星も止まるんじゃないのか?」


 そう。あの神器の使用者は彼女であるはずだ。ならば彼女を止めれば衛星は止まるのではないか?


「彼女の『神器の使用者』たる部品は私の方で複製し機械化している。もちろん彼女を接続することで神器としての威力は増大するが、必須のパーツではないよ」


「なるほど。……とはいえ、お前を倒せば止まるだろう?」


「目標を設定すれば自動攻撃も可能だ。少々融通は利かなくなるが……まぁいずれにせよ君に勝ち目はないし、万が一我々を倒しても何も変わらない。おとなしく投降する気はないか? 協力してくれるなら意識も奪わないし、報酬も用意しよう」


「……ルウはどうなる?」


「私の目的達成後は……開放することを約束しよう」


「奥さんの蘇生か……そんなこと、叶うのか?」


 スオウの気持ちはわかる。真白がもしルウを失ったら、蘇らせたいときっと思うだろう。だが、ギリシャ神話でさえタブーとされているのが死者蘇生だ。それを行った医者は雷に撃たれて殺された。そんな簡単に行えるとは思えない。


「叶うさ。死返玉まかるかえしのたま。この国に伝わる伝説の神宝だ。叶わないはずがない。そうだ、必ず、叶うのだ」


 ぶつぶつと。まるで祈る様に言葉を紡ぐスオウ。確証があるというより、すがっているようだ。となると、手を貸したところでルウが返ってくる可能性は、決して高くはないだろう。死者蘇生の神器を持つ異能者を打倒し。その後神器を使って死者蘇生を成功させる。詳細はわからないが、両方とも難易度は高いように思える。――その不確実な未来に頼るくらいなら、ここで彼を倒すほうがはるかに現実的だ。


「――よくわかった。残念だが交渉は決裂だ。お前を倒し、宇宙にあるアレを止めて、ルウを回収する。困難だが、化物退治に比べたら、容易いだろう」


「……後悔するなよ」


「こっちの台詞……だ!」


 真白は地面を蹴り、スオウに接敵する。その瞬間、ルウが庇うようにスオウの前に立ち塞がった。虚ろな瞳で右腕をこちらへ掲げている。だが、前に出てくるなら好都合だ。無力化して拘束してしまえば、最悪彼女を連れて逃走することもできる。


「無論、他にもいるぞ」


 スオウが指を鳴らすと、建物や周辺からぞろぞろと機械人形たちが現れた。その中には、前回も連れていたマキナという女性型の人形もいる。真白はふとした疑問を投げかけた。


「スオウ。あなたの奥さんの名前を聞いてもいいか?」


「……真希那まきなだ」


 スオウは少しだけ、顔を曇らせたように見える。真白は金属の軋みを上げて進む機械人形を見た。それは決して、人間ではありえない。


「……わかった、ありがとう」


 もしかしたら、この人形達は何かしらの実験の結果生まれたのかもしれない。自分の力でできることをすべて試して。己の才の限界まで研究して。それでも叶わない願いを、神の力に託したのかもしれない。


「でも、そんなのは関係がないことだ。――破壊させてもらう」


 尊い願いなら、誰かを踏みにじってよいわけではない。真白はゆっくり近づいてくる機械人形たちへと向き直る。


「いや、その必要はない。充填完了だ。今度こそ、終わらせよう。死体からでも、神秘は抽出できるだろうよ」


 天空から強力な圧力が襲う。真白の想像よりだいぶ早く、攻撃衛星は二発目の発射準備を整えたらしい。幸い、周囲の機械人形たちは近づいてこない。巻き添えでの破壊を避けるつもりなのだろう。――ならば、こちらも全力で受けるだけだ。


「――顕現」


 呟くと同時、真白の世界が変貌した。時間の流れが緩やかになったような感覚。現在の時間ではなく、神々の暮らした時代へと回帰し、本来の力を引きずり出す。


 体内が荒れ狂う。血液はあり得ないほどの神秘を纏い、皮膚を割いて体内から噴出しようとする。一歩間違えれば爆発四散。神の力を人の身で引き出すということは、奇跡のような綱渡りに他ならない。丁寧に、慎重に、だが尊大に。力に溺れることなく、さりとて(へりくだ)ることもなく。神器の使い手として、あるべき姿をこの世界へと描き出す。


最強の盾(アイギス)!」


 今までのような曖昧な形ではない。大きな円が、真白の正面に描かれる。彼の前後で世界が分断されたかのような、明確な拒絶の形。あらゆるものをからの干渉を防ぐ、神話最強の盾がここに顕現した。


「――顕現、貫くもの(ブリューナク)


 真白の叫びとは対照的に、呟くようなルウの一言が空を駆け、人口の星へと昇っていく。届いたのは音ではなく意志。光のごとき高速な命令は数秒の間隔を経て、星の力を発現させた。


 光が降り注ぐ。五条の輝きはそれぞれが独自の軌跡を描きながら、真白が生み出した盾に突き刺さっていく。


 だが、その境界を超えることはない。断絶された空間は、必中の槍も通さない。――いや、厳密には。必中の槍と、最強の防御が相殺し合っている。


 神秘のぶつかり合いは時に矛盾を招く。双方の持つ奇跡が打ち消し合ったとき、残るのは純粋な威力の勝負だ。


「ぐうううううううううう……!」


 神器としての格は同等といって良い。ゆえに焦点になるのは真白とルウ、それぞれの魔力量であるはずだったのだが……天空にそびえる擬星まがいぼし。人の造りし天体は、魔力の貯蔵庫でもあり、同時に強力な兵器としての側面も持っていた。要するに、本来のブリューナクの威力に加えて、衛星に蓄積された魔力とそこから放たれる兵器の威力が上乗せされている状態だ。――やすやすと耐えられるものではない。


「っつ…………く、ぜんぜん足らない…………!」


 魔力を全力で注ぎこむが、盾の表面を食い破らんとする五条の穂先が止まらない。既に出力は限界に近く、盾を発動している左手は、魔力を注ぎすぎた代償に欠陥が破れ、血液が流れ出している。体内が焼けるように熱い。視界が赤く染まる。おそらくあらゆる毛細血管は出血している。英雄とは程遠い無様な姿。それでも、倒れるわけにはいかないのだ。

 

「――出し惜しみしてる場合じゃないな……」


 ペルセウスの持つ神器は全部で五つ。首を狩るための剣ハルパー。隠匿の力を持つハデスの兜、翼をもち、飛行を可能とするサンダルのタラリア、封印の袋キビシス。そして最強の盾、アイギスだ。それぞれを発動させる準備として、真白はある程度の魔力を注ぎ込んでいた。スタンバイ状態である。――だが、もはやそれどころではない。全魔力を盾に注ぎ込まなければ、槍に貫かれお陀仏だ。


「仕方ない、少し早いが、奥の手だ。換装、()()()()!」


 イージスとは、アイギスの英語読みであり――現代においてはとあるシステムの名称である。某国の軍艦に搭載されているソレは、飛来する攻撃を()()()()する。


「システム、起動」

 

 真白の言葉に反応するように盾の表面が輝き、円形だった盾が、八角に変化する。その各辺から光り輝く無数の小型迎撃用ユニットが生み出された。それらが突き立つ五条の穂先に襲いかかり、干渉、消滅させる。


「何!? 馬鹿な、アイギスにそんな逸話は……」


 スオウが驚愕の声を上げる。


「これは、本物の神話時代の盾じゃない。ソレをこの世に再現し、生み出したものだ。そして、アイギス――イージスの名前は、現代において別の意味が付与されている。ならば、その逸話を取り入れることも不可能じゃない。神器を再現する原典が、現代のシステムではいけないなんてことはないんだ」


 この考えは、養父によって教えられた。特殊な眼を持つ彼は、神器に含まれる力を解析し、ただ顕現させるのではなく、新たに創り出すことを提案した。そもそも、神話というのは様々な書物、作者によって語り継がれ、その内容も多様に変化、更新される。逆に言えば、正解などないのだ。まして魔力によって再現された仮初かりそめの存在なのだから、やり方次第で新たな能力を付与することも可能だということ。――もちろん、養父の持つ『眼』の力を借りたからこそ実現できることだったが。


「――ブリューナク、放て」


 ルウは特に驚いた様子も見せず、再びブリューナクを衛星軌道上から発動させた。五条の輝きが地上に降り注ぐ。だが――。


「システム、起動」


 槍の切っ先に向け、盾の迎撃システムが殺到し、相殺していく。能動的な防御。もはや遠距離攻撃で、この盾を突破することは不可能だ。


「くっ……だが、魔力量はこちらが上だ。君が力尽きるまで、攻撃を続ければ――」


 スオウの言葉は正しい。彼らと真白の間には多数の機械人形が配置されている。アイギスを手放せない現状では二人を無力化することは困難だ。迎撃システムとはいえ、本体を撃ち落とすほどの力はないし、そもそも攻撃手段ではない。――だから、もう一つ。


「――もう一つの神秘を、見せてやる」


 真白は盾を下ろし、天空に光る人口の星を見上げた。――そう。あの星は、()()()()()()のだ。だったら、できることはある。


 真白は目を閉じ、大きく息を吸った。

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