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第19話:真白/闇夜に輝く人口の星

「――ここか」


 標高およそ七百メートル。山に囲まれたその場所にポツンとその施設はあった。夜間なので当然周囲は暗いが、明かりがいくつも設置された上で整地されており、中央によくわからない建物と塔が建っている。


 真白は左右を飛ぶ二羽のカラスに導かれるように、建物にほど近い広場に《《降りていく》》。幸い、情報屋のカラスは鳥目ではないようだった。


 ペルセウスがメドゥーサ退治の際に持たされた神器の一つ、タラリアという空飛ぶサンダル。その力を使って真白は空中からスオウのアジトへ向かったのだ。昨日の逃走の際もこの神器の力を使っていた。


「罠への対処を考えたらこれが最適だろう」


 実際、徒歩でいったら相当時間がかかったはずだ。姿を消す兜の力も併用しているので、スオウに見つかる心配もない。できるだけ早くルウを奪い返したいところだ。


「……とはいえ、魔力はどんどん減っているから、慎重に。あんまり使うと、()()()()()()って養父とうさんは言ってたな」


 養父曰く、真白の潜在的な魔力量は相当高いらしい。ただ、神器を現代に再現するという無茶をやっているので、それだけで大半を消費しているのだとか。やりすぎると魔力が枯渇し、血管の断裂、肉体の壊死、精神の崩壊に繋がるとまで言われている。


 カラスたちはルウの居場所を示して去っていった。着陸はせず、建物の上部から侵入経路を探す。結界が張られているが、攻撃行動を取らなければ兜の力で姿と気配は消すことができる。だが、例えば音を消すことはできない。侵入時には細心の注意が必要だ。


 窓の一つに近づき、内部の様子を探る。様々な機械がある、工場のような施設。その中に、漆黒の少女が立っていた。


(ルウ……!)


 無事なことをに安堵はしつつも、明らかにルウの表情は尋常ではない。まるで張り付けた仮面のようだった。内心の焦りを沈めながら、真白は侵入経路を探る。どこかに開いた窓でもあれば――そう考えていた瞬間、ルウの首ががくん、と動き、その虚ろな瞳を真白に向けた。


「――侵入者を発見。排除開始」


 呟きが耳に届くと同時、ルウの右手の『蛇』が窓に向かって伸びてきた。真白は慌てて回避するが、兜を使っていた集中が解け、姿が露わになる。


「くっ……! そうか、温度感知……! 馬鹿か俺は……!」


 蛇にはピット機関と呼ばれる熱源感知センサーがついている。そして彼女の『蛇』には実物と同様、その機能があると聞いたことがあった。それを用いて屋根の上にいた真白の体温を察知し、攻撃に移ったのだろう。


 窓から跳び退って地面に降りる。こうなると飛行しているメリットはない。逃走ならともかく、戦闘目的なのだ。魔力の消費を考えても早急に地に降りて体制を立て直す必要がある。


 真白がいつでも『盾』を出せるよう態勢を整えたと同時、施設の扉が開き、虚ろな瞳をしたルウが姿を現した。続いてスオウも笑みを浮かべながら現れる。


「……来たか。このまま忘れるのであれば見逃そうと思っていたが、そうでないなら貴様も捕縛させてもらおう。――その能力は、私の目的達成に役立ちそうだからな」


 スオウの目的。よく考えれば真白はそれを知らない。何のために、少女の人生を奪うような真似をするのか。


「……スオウ。お前の目的は何だ」


「あぁ、そういえば貴様には伝えていなかったか。私の目的は、とある異能者を殺害し、持っている神器を奪うことだ」


「何のために?」


「――妻を、愛する人を、蘇らせる。そのために神器が必要だ」


 その言葉を聞いて、もうこの覚悟は変わらないと真白は悟る。論理で戦うことは不可能だろう。何せ深層にあるのは狂気ともいえる愛だ。その前では薄っぺらい正義の言葉など、何の意味も持たない。


「そうか。……だが、協力は断る。ルウも、その腕も、返してもらう」


 真白はそう宣言すると、虚ろな目をしたルウを見る。その手には、彼女自身の右腕たる槍を持っていない。彼が知っている通りの、機械義手に繋がれた少女の姿だ。


(……右腕を『ブリューナク』にしていないのは、彼女を操る上で不都合があるせいかもしれないが、持ってすらいないのはどういうことだ……?)


 疑問が浮かぶ。本人が言っていた通り、ルウの戦闘能力は高くはない。体育館での戦いでも、神器のこともよくわかっていない真白が返り討ちにできるくらいだった。彼女の能力の大半はその槍に集約されている。なのにそれを、持っていないとは……?


「どうした。槍を出さないのか?」


 油断なく周囲を探りながら、真白はスオウに問う。よく考えてみれば、今の状況は必中かつ遠距離攻撃が可能な槍にとって有効な間合いではない。本来は離れた場所から狙撃するのが本領のはず。つまり……。


「ああ。この場に槍はない。……そもそもアレは槍として考えてはならないものだ。いうなれば追尾機能が付いたビーム砲だよ。こんな接近距離で使うものじゃない」


 スオウの言葉に、真白は周囲を見渡した。――今の口ぶりから、どこかにあの槍を()()しているのだろう。砲台を破壊するまで何度でも遠距離から撃たれ続ける。なるほど合理的だ。


「――カラス。『槍』を積んだ砲台がどこに設置されているか、わかるか」


 耳につけた通信装置で情報屋に呼びかける。


『…………さっきから周囲を探させてるんだけどな。見当たらない。数キロ圏内には少なくとも設置されていないはずだ』


 この闇夜に数キロも離れれば、まともに射線も通らない。……ハッタリか? 考えても仕方がない。盾をいつでも展開できる準備をした上で、ルウを無力化してこの場を離脱する――!


 真白はルウに向けて踏み込む。彼女は表情一つ変えず、右手の蛇を放った。以前の戦闘で見た時よりも、速く、重い。改造を施されているのか、追尾精度も比べ物にならない。


「くっ! だが、これくらいならっ!」


 真白は不可視の『盾』を左手に展開し蛇の牙を受け止める。強力ではあるが、所詮は人の造った武器。神器を破るには至らない。牙を受け止めつつ、懐に入りルウの意識を刈り取ってやろう。――そう、思ったとき。


『…………わかった、上だ!』


 耳に届くカラスの声。理解よりも早く身体が動く。構えた盾を天にかざし、空を見上げる。――そこには。天空から降り注ぐ、五条の光線。


「――さぁ、神話と最新兵器の融合だ。()()()()ブリューナク。避けきれるか、ペルセウスの継承者よ」


 スオウの言葉の直後、眩い光が真白を包み込んだ。


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