第11話:瑠羽/神秘を伝える講習会
「受け止めないと死ぬわよ」
呟き、ルウは銀色に光る腕に魔力を溜める。機械の義手は今や腕のカタチではなく、銃身として魔力を高速で打ち出す機能に特化した形状となっていた。ここから放たれた魔弾は生身でそのまま放つより数段威力が上がる。
「――穿て」
高速で射出される光弾。回転しながら打ち出された青球は、真剣な顔で口を真一文字に結んだ真白の腹に直撃した。
「ぐっ……!」
苦悶の声と共に真白は後方へ吹き飛び、壁に激突する。ここはルウの家の敷地内に在る訓練場で、壊れても良い様に壁はコンクリートの打ちっぱなしだ。ぶつかるとかなり痛いだろう。下手をしたらむち打ちになってもおかしくはない。だが。
「いたた。……でも、うん。怪我はなさそうだ。我ながら頑丈だな。盾くらいにはなれそうだ」
強力な魔弾でコンクリートに叩きつけられておいて無傷。完全に異常だ。
「でも、盾になったとて、その勢いで私に衝突したらぺちゃんこよ。私が。吹き飛ばされないようにする、または逸らせるようになってほしいところね」
真白は平均的な男子高校生といった体格だが、それが飛んで来ようものなら、小柄なルウは怪我を免れられない。吹っ飛ぶなら自分だけにしてもらいたいところだ。
「確かに。だが、身体で受け止めている現状だと難しいな。もう少し何とかならないものか」
思案する真白。ルウはその様子を横目で見ながら、あらかじめ三脚に設置しておいた自身のスマートフォンに近寄る。真白の能力を分析するため動画を撮影しておいたのだ。
「真白くん。ちょっと来て。――これ。魔力の流れを可視化できるよう特殊なアプリを入れてあるんだけど、見る限り、あなたの身体そのものが硬くなっているわけではなくて、攻撃を受けた瞬間に魔力の『盾』が体表に現れているみたい。……ちょっと、ちゃんと見なさい」
真白はなぜか遠目でスマートフォンの画面を見ている。
「いや、近くないか?」
どうやら真白はルウとの距離感を気にしているらしい。
「仕方がないでしょう……気になるなら自分で見て。このボタンで再生できるわ」
ルウは真白にスマートフォンを渡し、少し距離を取る。別に気にしていなかったのに、あんな態度を取られたら気になってしまう。匂いとか。
「……朝、シャワーを浴びておけばよかったかしら」
ぼそり、と呟く。当の本人は、おお、なんて言いながら手にしたスマートフォンで動画を凝視していた。
「ありがとう。なんとなく理解した。……だが、つまりどういうことなんだ?」
「あなたの能力は、身体を固くする、ではないってことよ。命の危機に合わせて反射的に『盾』を生み出している。まずはそれを自分の意志で行えるように訓練が必要ね。身を挺して庇われるだけじゃ、戦力としては物足りないわ。自分の意志で攻撃を弾くくらいはできるようになって頂戴」
言葉を聞いた真白は眉を顰める。それも当然。何せ少し前までは何の力も持たなかった素人である。どうやっていいかもわからないだろう。
「安心して。私が教えるわ。まったく同じではないけれど、感覚的には近いはずだから」
少しためらいつつも、努めて冷静に、冷淡に。ルウは真白に近寄り、その胸部に左手を当てた。Tシャツ越しではあるが、思ったよりも硬い、鍛えられた肉体に触れる。
「『盾』を発現するための道筋は既にできている。ただ、やり方がわからないだけ。だから、その感覚を今から教えるわ」
魔力を真白の肉体に通し、奥底にある『何か』に触れる。その感覚は、釣りを連想させた。重みで魔力が途絶えそうになるが、必死に手繰る。
「とりあえず左手の平に経路を通すわ。あとは自分でアレンジして」
引っ張り上げたソレを、慎重に運ぶ。最後真白の手のひらに触れ、一旦工事は完了した。思ったよりも重労働で、額に少し汗が滲んでいるのがわかる。想像通り、彼の中に在る『神秘』は大物だ。
「わかる? あなたの手に一つ機能が追加されたのが」
「……不思議な感覚だ。四肢を動かすよりはずいぶん遠いけど、確かに自分で操作できる『何か』がある」
「その感覚を研ぎ澄まして、まずは自力で左手に『盾』を生み出せるようにして頂戴。視覚的にわかりづらければ動画を取って確認しながらやるといいわ。他、何か用事があったら、そこにあるベルを鳴らして」
言いながら、ルウは部屋の出口に向かって歩き出す。入り口横にある台の上に、金属製のベルが一つ置かれていた。これは魔導具で、鳴らせばどこにいてもルウに聞こえるようになっている。
「どこへ行くんだ?」
真白の問いかけに、ルウは少しだけ静止すると、振り返る。
「シャワーを浴びるのよ。汗をかいたから」
そう言って足早に部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇
「とりあえず、できるようになったぞ」
シャワーを浴びたルウが再び訓練所を訪れると、真白が得意げに告げてきた。実際、彼の左手にはうっすらと輝く『盾』のようなものが見える。
「思ったよりも速かったわね。お昼も近いし、休憩にしましょう」
リビングに戻り、あらかじめ用意していたサンドイッチを提供する。卵、ハム、ベーコン、ツナ等、日本的なものも含めて多様なものを準備した。
「ありがとう。美味いな。これは君が作ったのか?」
「ええ。大したものではないけど、口にあったなら良かったわ」
ルウは努めて平静に言葉を紡ぐ。人に料理を振舞う機会などないので、緊張していたことはおくびにも出さない。
「それで……一旦盾は出せるようにはなったけど、この後はどうするんだ?」
「ほうね……」
サンドイッチを咀嚼しながらルウは思考する。今日の夜、敵のアジトを襲撃予定だ。一度戻って休んでもらうか、それとも――。
「……真白くん。家から取ってきたいものとか、準備とかあるかしら? 特になければ、もう少し訓練を続けたいのだけれど」
防御を担ってくれるのはかなり助かる反面、攻撃がルウのみというのは心許ない。魔導具など準備をするつもりはあるが、打てる手が多いに越したことはないのだ。
「いや。着替えも言われた通り持ってきたし、特に用事はないよ」
「そう、ならあと数時間、しっかり訓練をして夜に備えましょう。――命が掛かっているのだから、やれるだけの準備はしておいたほうが良いわ」
ルウは魔術師としての顔になり、真白を正面から睨むように見る。こちらの世界において、人の命は驚くほどに安い。
「わかった。よろしく頼むよ。せっかく助かった命だ、できるだけ長続きしてほしいからな」
真白も真剣な顔で頷く。
「ええ、よろしくね。さて、さらにやれることを増やすなら、あなたの『伝承』の正体を、はっきりさせておいた方が良いわね。これは、私の想像にはなるけれど――」
ルウはとある英雄にまつわる伝承を、歌うように語りだした。




