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第12話:真白/とある英雄の話

 ――とある神話の物語だ。


 全知全能の神とある国の王女との間に生まれた子。島に流され、とある怪物の首を取ってくるよう命じられた少年。彼は神々や精霊の助けにより、怪物を退治するに足る様々な神器を手に入れる。


 少年は多数の神器を使いこなし、蛇の髪を持つ哀れな怪物の首を切断し、袋に詰めてその力を封じた。怪物を退治し、彼は英雄となったのだ。


 幾多の冒険を超え、星座にまでなったその英雄の名は――。


◆◇◆◇◆◇


「ここね」


 ルウの言葉で、真白は思考を目の前に戻す。訓練は終わり、今は彼女の右腕を奪った相手のアジトへ向かう途中である。思い出していたのは先ほど彼女から聞いた自身に宿る英雄の正体。推測だと言うことだったが、それが事実であることは、何よりも真白自身が理解していた。


 色々と荷物もあったため、移動は情報屋――カラスに手配してもらった車を使った。運転手はカラス本人ではないが、異能の世界を知る人間らしい。二時間ほどのドライブの末、郊外にあるペンションらしき建物の近くへ到達した。周囲は森林が広がっており、近隣に人家はない。二人を下ろした後、車は走り去っていった。


「結界が張られているわ。触れれば警告が走るはず。――カラス、準備は良い?」


 ルウは耳につけたイヤホンマイクに向けて話しかける。真白も同じものを身に着けており、三人で情報を共有することが可能だ。カラスはここには来ておらず、アジトからこちらの様子を監視しバックアップをしてくれる。


『あぁ。合図と同時、結界を無効化できるよう準備済みだ』


 ルウが真白の方を見る。理解できたか、という意図だろう。先ほどの訓練の間に、魔術の基本や今日の作戦は説明されている。要は、侵入者を知らせるアラームが設置されているが、それを無効化する、ということだ。真白は頷き、必要な道具を準備する。


 彼が手にしているのはいわゆる特殊警棒だ。理屈はくわからないが、魔術で強化を施されているらしく、魔力を込めればさらに強度を上げることも可能だとか。


「おさらいよ。結界を解除後、扉は私が破壊する。室内に突入したら、標的の捕獲、もしくは無力化を行う。ほぼ間違いなく門番や護衛役がいるはずだから……真白くん、あなたはそいつらの対処をお願い。後は状況に合わせて指示を出すわ」


「わかった。しかし……本当にここなのか? 正直、ただのペンションに見える」


 真白は改めてペンションらしき白い建物を見つめる。やや古びた、しかし頑丈そうな造り。一見すると普通の宿泊用施設に見えるのだが。


「結界がある時点で普通ではないのだけれど……よく見て。ペンションの近くに捨てられた人形があるでしょう?」


 ルウが示した先、入り口から少し離れたところに、ボロボロの金属製の何かが転がっていた。よく見ると、人の形に近い。


「アレ、隠蔽されているけど、魔力を秘めているわ。おそらくは門番よ。真白くんは私が扉を破壊している間にあのガラクタを無力化して」


 なるほど。一旦最初にやることが明確になったのは心強い。


「わかった、任せておけ」


 真白の言葉を受け、ルウは大きく深呼吸をした。


「――あなたに会った夜。私は一人で、雑居ビルに挑んだ。同じようなやり方でね」


 ルウはこちらに背を向け、目的地に向けて一歩踏み出す。


「本音を言うとね。あの時は、不安でいっぱいだった。命を失う覚悟もしていた。――正直、怖かったわ。でも……今日は、あなたがいる」


 そこでルウは振り向き、真白の目を見る。


「――真白くん。私の背中を、守ってね」


「あぁ、任せろ」


 まだ命を懸ける明確な理由はわからない。金のためにしては危険すぎる。割に合わない。――本当に? 


 いや。あの夜。死を受け入れたあの瞬間。真白は確かに、彼女を美しいと思った。だから。


「守りたいと思うのは、当たり前のことだ」


 聞こえないように、呟く。己の決意を反芻し、真白はルウに頷く。


 ――さぁ、戦いの始まりだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇


『三、二、一、解除!』


 カラスの音声の直後、走りだす。魔力で強化をしているのか、ルウは飛ぶように扉へと向かう。真白が後ろから追いかけているとき――視界の端に、動くものが見えた。


「真白くん、お願い!」


 ルウの声を聴くまでもなく、真白は動き出したガラクタに向かっていた。人を模しているかと思ったが、各パーツが人を模しているというだけで、多脚――いや、多腕の蜘蛛を彷彿とさせるフォルムをしている。人の顔がついているのがおぞましい。


 金属がこすれるような音を立てる蜘蛛型の化け物。真白は深呼吸をして、接敵すると、その腕の一つに警棒を思い切り振り下ろす。


 金属同士がぶつかり合う高音が響き、ぐしゃり、と腕の一本がひしゃげて半ばから折れた。警棒の長さは六十センチほどあり、間合いを取りながらの攻撃が可能だ。


「いける、戦える……おっと」


 ガラクタは、残り七本の腕を使い、高速で移動しながら真白に腕を伸ばしてくる。機構こそ違うが、ルウの持つ右腕と似たような動作だ。それをぎりぎりで躱して、伸ばされた腕に警棒を叩きつけた。――これで、二本。


 真白の頭の中は自分でも驚くほどに冷静だった。敵の動き、速度、ダメージ。様々な要素を当然のように確認しながら次の手を考える。


 ――だが、それも当然。真白が神話の英雄の力を継いでいるのであれば、この程度のガラクタ、相手になどなりはしない。


「……む?」


 ガシャリ、と今までとは一風変わった駆動音。ガラクタの方をよく見ると、その顔に当たる部分がぱかっと左右に開き、中から銃口が顔を覗かせていた。ますますもっておぞましい。人体を模しているくせに冒涜的だ。


「――あの美しさとは、比べるべくもない」


 ルウの右腕の変貌は、どことなく芸術性すら感じるモノだった。他が生身だからだろうか、狙撃銃や蛇に変形した際も、全体としての調和は失われておらず、元々そういうものだったかのようにしっくりと来る。対してこのガラクタは、子供が作ったつぎはぎのおもちゃのようだ。


 ガラクタは銃口から弾丸を放つ。――猟銃を彷彿とさせる散弾だ。かすっただけで肉が削げる。人体に耐えられるものではない。だが。


「――――盾」


 呟き、左手を掲げると真白の目の前に輝く『盾』が展開された。実体を伴うものではないが、そこに在ることは視覚的にもわかる。撃ちだされた弾丸はすべてその『盾』によって弾かれ、無力化された。

 

「よかった、うまくいったな。……出なかったらどうしようかと思った」


 胸を撫でおろす。実際、命のかかった場面ではあった。追加の訓練をしたおかげで、盾を生み出すまでの速度も、そのサイズや強度も高められたので、家に戻るのではなく訓練に時間を費やして本当に良かったと改めて思う。


「おっと。ゆっくりしてる暇はないんだった」


 盾を構えたままで走る。撃ち込まれる銃弾はすべて無効化し、ひとまず手にした警棒でガラクタの頭を叩き潰した。


 「頭を潰しても動くのか。生命としての在り方じゃないな」


 だがもはや消化試合だ。腕を一つ一つ破壊し、地面でもがくだけの文字通りのガラクタを捨て置いて、真白はルウの元へ走る。扉の周りにも伏兵たる機械人形がいたらしいが、彼女は既にそれを破壊し、扉に向けて右手を構えていた。


「真白くん、上出来よ。――じゃあ、突入しましょう。既に相手に私たちのことはバレているから、最初から全力で警戒して頂戴。盾を構えておいて」


 緊張感が伝わる。さて、ここからが本番だ。ルウの右腕を奪ったやつは、果たしてどんな相手なのか。真白は深呼吸をすると、左手を掲げ、扉の前に立った。


 


 


 

 

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