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23【病む】

 サブローがシマムの酒場を出て行ってからホールのテーブルを拭いていた娘のマキに父親は考えていた疑問について訊いてみた。


「なあ、マキ。何故にあんな変態小僧のプロポーズを受け入れたんだ。お前だったらもっと良い男を捕まえられただろう」


 それが父であるシマムの大きな疑問だった。剥げ頭をタオルで拭きながら悩んでいる。


 そもそもがだ。親のシマムから見ても娘のマキは出来た娘だと思う。何せ店主が自慢するほどの看板娘だからだ。町の若い男子からもそこそこ人気は高いと思っていた。


 気立てが良く、働き者で、誰にでも優しく、友達思いで、親思いな孝行者だ。更には亡くなった母親に似て美人でもある。それなりに乳も大きい。腰つきなんて安産型でキュートなお尻をしている。町娘としてもモテ度レベルは高いだろう。


 しかも魔術をレベル3まで使える賢い子だ。どの角度から見ても素晴らしい娘であった。


 だが、それが、何故かぽっと出の変態全裸少年の唐突なプロポーズをOKしてしまったのだ。それがどうしても理解できなかった。納得が行かない。


 せめてもっと普通の男と恋に落ちてもらいたかった。なのによりによって全裸の変態少年を選ぶなんて想像打にもしていなかった。何度も言うがとにかくどうしても何が何でもやっぱり納得が行かない。納得が行かないのだ。


 そんな悩みとも取れる疑問に対して娘は天井を眺めながら父の質問に答える。


「なんでって、決まってるじゃない――」


「決まってる?」


 反芻する父に娘は頬を赤くさせながら俯いた。照れながらも回答する。


「格好いいからよ……」


「か、格好いい、だと……」


 信じられなかった。娘が返して来た答えにシマムは自分の耳を疑う。理解ができなかった。自分の耳に性悪な魔物でも住み着いてしまったのかと小指で丹念にほじくる。


「あれの何処が格好いいんだ。どこから見てもただの変態だろう……」


 そう、サブローは馬鹿でスケベェで頭の悪い変態だ。誰が見ても変態だ。間違いなく変態だ。それを格好いいと言い放つ娘の神経を疑った。


「外見じゃあないよ、お父さん」


「それじゃあどこが?」


 蕩けた眼差しでマキが言う。それは恋する乙女の瞳。世間の汚れを知らないままに育った無垢な聖女のようだった。


「あの目かな」


「目?」


 あの死んだ魚のような目が格好いいと言う娘のセンスをシマムは強く疑う。どう見てもあれは変態の眼差しだ。誰が見ても汚いドブ水なような色をしているはずだ。


 絶対に娘は男を見る目が狂っていると思う。普通ならば全裸の男を見ても、そのようには取らないだろう。キャーキャー叫びながら逃げて行くのが正しい乙女の反応だ。


 明らかに娘マキは、男を見る目が無いのだろう。無いどころか絶望的に狂っていると思われた。それは娘の思考が心配になるほどに異常である。


 娘の頭を心配するシマムを余所にマキは淡々と語り出した。


「サブローは全裸で変態かも知れないけど、心の奥は綺麗で澄んでいるの。純粋なのよ」


「あれが、純粋……?」


「サブローは、無垢なのよ」


 分からない。娘の言いたい事に意図が汲めない。なにをどう取ったらサブローを純水とか無垢だと思えるのか意味不明だった。


「だから私が側に居て支えてあげないと駄目だと思うのよ」


「さ、支えるの……」


「だってあいつは家事は何も出来ないはずよ」


「はず?」


 筈とは、マキの勝手な予想である。


「きっと料理も出来ないし、掃除だって出来ないはずよ」


 また、筈だ。


「だから私が支えてあげるの。それが出来るのが理想的な嫁の務めだもん」


 何かが可笑しい。娘の顔は今まで見たことがない表情をしていた。


 それは恋に焦がれる乙女の表情とも少し違う。何か狂気を薄っすらと感じる。


 シマムは自分の娘に初めて恐怖のような感情を抱く。冷や汗が剥げた頭部から流れ落ちてきた。


 マキは満面の笑みで可愛らしく言う。その表情にはサイコパスの色が伺えた。


「お父さん、大丈夫だよ。サブローが酒場を継がなくっても私が継ぐから心配しないでね」


 微笑みながら述べる娘の笑顔が少し怖かった。病んでいる。


 そう、娘は病んでいるのだ。そうでなければ変態の告白を受け入れるはずがない。娘は悪い病気に掛かっているのだ。もしかしたら悪魔に取り憑かれているのかも知れない。


 シマムは、それが自分の勘違いだと祈りたかった。娘がヤンデレでないことを、ただただ祈った。祈り続けながら仕事に励む。


 シマムは俯きながらテーブルを拭く。


「聖法魔法で治療とか出来ないかな……。今度、司祭様に相談してみよう……」



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