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22【冒険者のお仕事】

 建物の外から小鳥の囀りが聞こえてくるなか、窓の隙間から温かい木漏れ日が差し込んで来る。


 その眩しさに俺は目を覚ました。瞼を擦る。


「ムニュムニュ、もう朝なのか……」


 俺が朝にマキちゃんの寝室で目覚めると、彼女のベッドは既に空だった。俺を残して起床したらしい。


「んんん〜〜ん」


 俺は床から起き上がると背伸びで両腕を高く伸ばした。寝相が悪かったのか首と脊中が少し痛む。


 やっぱり硬い床板の上で寝るのはしんどいらしい。今度からはマキちゃんとイチャイチャしながら同じベッドでよるを共にしたいものである。


「あれ」


 そして、俺は背伸びをしてから気付く。両腕が自由に動くのだ。どうやら上半身を拘束していた鎖の魔法が解除されていたらしい。


 俺的にはマキちゃんの拘束なのだから、甘んじて受け続けていてもよかったと思っていた。しかし、心優しいマキちゃんが解いてくれたのだろう。


 流石は未来の嫁さんである。将来の旦那さんを気遣ってくれているのだろうさ。感謝感謝である。


「さてと……」


 俺は空になったベッドに視線を落とす。そこにはシーツまで綺麗に整えられた布団があった。整えられた寝床から彼女の几帳面さが悟れる。


「どれどれ〜」


 その布団の中に手を伸ばす。しかし既に彼女の温もりは失くなっていた。それでも俺は布団を捲ると顔面をシーツに擦り付ける。


 そして、スーハースーハー……。


「うわぁ〜ん、マキちゃんの匂いがする〜。良い匂いだわぁ〜ん」


 こうして俺は未来の嫁の残り香を堪能し続けた。十分に心が満たされると一階に降りて行く。


「おはよ〜、マキちゃん。それにパパァ〜ン」


 まだお客が居ない早朝の酒場。シマムのオヤジはカウンターの奥で朝食の準備に励み、マキちゃんはホールのモップ掛けに性を出していた。


 二人とも本当に働き者だと思う。これを毎日やっていると思うと感心だった。俺には真似できそうにない。


「やっと起きたのね、サブロー」


「遅いぞ、サブロー。そんな事で酒場の婿養子になれると思っているのか」


「いやいや、俺は酒場なんて継がないぞ。継ぐならマキちゃんが継げばいい」


「また好き勝手言いやがって、このろくでなしの婿様はよ〜」


 どうやらこのハゲ親父は俺に自分の酒場を継がせたいらしい。


 冗談じゃない。俺はマキちゃんと結婚はしたいが酒場を継ぐ気は微塵もないのだ。そもそも俺は酒場の亭主って柄ではないだろう。


「お父さん、安心してよ。サブローが酒場を継がなくっても私がちゃんと継いであげるからさ」


「うおんうおん、本当にマキは良い子に育ったよ。それをこんな全裸の変態に嫁がせないとならないとは……。それだけが最大の心残りだぜ……」


「なんとでも言いやがれ。さてさてっと」


 俺は嘘泣きを演じるシマムのオヤジを無視して掲示板を覗き込む。複数の依頼書を確認した。


 だが、ろくな仕事がない。あるのは旅商人の護衛ばかりだ。


 それと指名手配の張り紙が数枚ほど見られる。どいつもこいつも悪党面の連中ばかりだ。何をしでかして指名手配されたかは知らないけれど、どうせろくでもない連中なのだろう。


「お金になるような仕事が少ないな〜。安い仕事ばかりだぜ」


 掲示板の仕事に悪態を付く俺にマキちゃんが問う。


「サブロー、やっぱり冒険者の仕事をするの?」


「当然だろう。マキちゃんと結婚する約束の中に、冒険者として成功しないとならないってあっただろ」


 これはシマムのオヤジとの約束だ。俺が冒険で命を落としても、その後のマキちゃんが困らないだけのお金を貯めておくと約束したのだ。


 それに俺がマキちゃんに童貞を捧げる事が出来たのならば、可愛い子供を設ける可能性だってあるのだ。その子供が成人するまでの養育費だって必要だろう。そのぐらいはパパである俺が用意しておきたいのだ。


「――に、しても、ろくな仕事が無いな。これならば一人で森に行ってカンニバルベアを狩ってきたほうがボロ儲けなんじゃあないか」


「そんなことよりも早く朝食を食べやがれ。温かいスープが冷めちまうぞ」


 俺が振り向くとカウンター席にパンとスープが用意されていた。昨日と同じ朝食セットである。


「サンキュー、オヤジさん」


「代金は30ゼニルだ」


「おいおい、未来の婿から金を取るのかよ!」


「未来の婿だろうが何だろうが、今はただの客だ。客なら客らしく金を払いな。金が払えないなら、外で泥水を啜りながらぺんぺん草でも食べてやがれ」


「ちっ、セコい店主だな……。そんなにガメついと客が逃げていくぞ。だから頭の髪の毛だって逃げて行ったんだ」


「剥げたのはセコさと関係無い!」


 悪態を付きながらも俺はケツの割れ目から大銅貨三枚を取り出すとカウンターの上に置く。それをシマムのオヤジが奪い取るかのように受け取った。


「とにかくお前はまだ客なんだからな。身内ブルな!」


「朝からガミガミ言ってると禿げるぞ」


「もう剥げてるわい!」


 そんな感じで悪口をほざきながらも俺は朝食セットを頂いた。肉の少ないスープだったが、それなりに腹は満たされる。


「それじゃあマキちゃん、出掛けてくるね〜」


「どこに行くのよ、サブロー?」


「ちょっと町の外に出て、カンニバルベアを狩ってくるわ〜」


 そう言い残すと俺は町の外を目指した。相変わらず全裸で闊歩する。


「よ〜、お二人さん。今日も元気で労働に励んでいるか〜」


 俺は城壁のゲートに到着すると、警護に励んでいた門番の二人に挨拶を掛けた。


 もう二人とは顔見知りのように会話をする。


「なんだ、全裸坊主。朝から全裸でお散歩かい。そろそろ服を買えよな。お前の一物も見飽きたぞ」


 全裸の俺は着衣のことを無視して話を進めた。


「ちょっと森に行ってカンニバルベアでも狩ってこようかと思ってさ〜」


 門番の二人は眉間に困った皺を寄せながら言う。


「そ、それは有り難い。もしもカンニバルベアが少なくなったら森にも気軽に薬草を取りに行ける。だから俺ら的にもお前さんを応援するぞ……」


「なるほどね。カンニバルベアが減ったら世のため人のためになるんだな」


「そう言うことだ。だから頑張れよ!」


「お前が頑張れば、俺らが森に駆り出される仕事が減る。なによりもそれが有り難い!」


 なるほど、それがこいつらの本心なのね。カンニバルベアが減ったらこいつらの危険な仕事が減るって訳なのか。


 まあ、俺的にもカンニバルベアは良い収入源なのだから問題無いのである。森の中から熊と言う熊が居なくなるほどに狩りまくってやるぞ。


 こんな事を言ってると、動物愛護団体からお叱りの言葉をもらってしまいそうだ。気を付けよう。南無三南無三。



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