子犬?
「……どこから紛れ込んできたのだろう?」
「うーん、入り口は閉じてるわけじゃないからどこかから迷い込んだのかも知れないね」
じっと見ていても子犬はまるで逃げ出すような気配はない。
それどころかつぶらな瞳で僕たちのことをみていた。
「お兄ちゃん、気をつけた方が良いの」
胸ポケットからティナが注意を促してくる。
「えっ、ど、どういうこと?」
「……何か言った?」
「ちょっと注意した方が良いらしいよ」
「……わかった」
僕の言うことを素直に聞く椎さん。
「わふっ?」
首を傾げる子犬。
その破壊力。思わず頬が緩んでしまうほどである。
とてとて、と向かってくる子犬。
椎の前に立ち塞がると、胸ポケットのティナが顔を見せる。
彼女を見た瞬間に子犬はガタガタと体を震わせ出していた。
「きゃうんきゃうん」
「あはははっ、すごくかわいいね」
尻尾を振って甘えてくるので、僕はその頭を撫でていた。
するとその様子を見ていた椎さんが目を輝かせながら言ってくる。
「……わ、私も」
「どうぞ」
子犬を椎さんに渡す。
その瞬間に子犬がホッとしたような表情を浮かべていたが、ティナは相変わらず目を光らせていた。
だからこそ子犬は何もせずにジッと椎さんに撫でられていた。
「……かわいい」
椎の頬が緩んでいた。
「……この子、どうするの?」
「うーん、一応魔物らしいから僕の家で飼わないと行けないかな?」
「わふっ!?!?!?!?!?」
なぜか子犬がとんでもなく驚いていた。
必死に首を振っているようにも見えるが、それが逆に喜んでいるようにも見える。
「……それなら色々と用意しないといけないね」
「えっと、た、例えば……?」
「……首輪とか? ドッグフードもいるよね?」
「それもそっか……」
でも今月は食費にかなり使っている。
これ以上余裕があるのか不安だった。
でも、必要なものは準備するよりほかなかった。
「それもそうだね。じゃあ、どんなものが似合いそうか一緒に見に行かない?」
「……んっ」
「ふるふるふるふる…………」
全力で首を振って喜んでいるようだ。
僕は子犬を抱きかかえるとそのままダンジョンの外へと出て行く。
その際に体がブルブル震えている。
ダンジョンの外へ出るのは恐怖を感じるのかも知れない。
「大丈夫だよ。君以外にもミィちゃんもルシルもゴブ君もいるから安心してくれて良いよ」
「……そういえばこの子の名前、どうするの?」
「犬!」
「……私がかわいい名前を考えてあげるね」
あまりにもそのまま過ぎたのかな?
ポチとかたまとかにすべきだったかな?
「……わたがしはどう?」
「わ、わふっ!?」
「……わたがしも喜んでるよ」
「そ、そうかな?」
名前の付け方が僕と同じレベルな気がしたけど、わたがしが喜んでるならそれでいいかな。
とっても美味しそうな名前だけど、子犬を食べそうな人はいない……。
そこでミィちゃんやトカゲくんが肉を争っている時の姿を思い出す。
さすがに砂糖菓子だから大丈夫だろうけど、肉として食べたりしない……よね?
不安に思いながら一旦財布を取りに家の中へと戻っていく。
◇◇◇
「肉なのだ!!」
家に入ると早々、ミィちゃんが大声を上げる。
それを聞いたわたがしはガタガタと震えて、僕の腕の中で縮こまっていた。
「わたがしは食べ物じゃないよ?」
「綿菓子は食べ物なのだ!」
「確かに綿菓子は食べ物だけどわたがしは食べ物じゃないからね」
「違いがわからないのだ。でも肉が欲しいのだ」
「……八代くん、準備できた?」
椎さんが聞いてくる。
「あっ、もう大丈夫。そろそろ行こうか」
「どこか行くのだ? 私も行くのだ!」
「お肉は買いに行かないけど一緒に行くの?」
「もちろんなのだ!」
「椎さんも良いかな?」
「……んっ」
こうして僕たちはわたがしの道具を買いに町の方へと出向くのだった。
「では私めも――」
いつの間にかルシルも行動に加わっていた。
「わふわふっ!?!?」
「えぇ、貴方の飼い主は至高のお方ですよ。もし手を出そうものなら……、わかっていますよね?」
「わふぅ……」
「こらっ、ルシル! わたがしを脅したらダメだよ!」
「申し訳ありません、新人には相応のしつけが必要になりますので」
「わたがしはペットだからね。わかってるよね?」
「なるほど、この子はペットですか。言い得て妙ですね。ではそのように対応させていただきます」
「うん、よろしくね」
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