椎さんとダンジョン
「……あの人、あのままでよかったの?」
しばらく歩いたあと、椎さんが後ろを向いて言ってくる。
「この前も僕を探索者にって人たちが来たんだよ。ダンジョン配信してるから勘違いされるのかな?」
「……勘違い?」
「うん、ミィちゃんたちが強いからね。ダンジョンで鍛えてるんじゃないかって思われてるんじゃないかな?」
「……でも柚月を勧誘してた」
「僕がミィちゃんたちの親代わりだもんね。ほらっ、将を射んとするならまず雑魚から撃つってやつだよ」
「……なんか違う」
「あれっ? 少し勘違いしてたかな? でも意味はわかるよね」
「……意味はわかるけど違う」
「とにかくあぁいう人たちも増えるかもしれないね。注意深く見ておかないと」
実際にどこかのダンジョンは入ってみて、いかに僕が戦えないかの配信をしてみてもいいかも。
ううん、やっぱり怖いね。
怪我したりとかするもんね。
でも、また前みたいなことになったら大変なことになる。
「……前の配信から八代ちゃんの名前が定着してるもんね」
「ちょっと待って!? それは初耳だよ!?」
「……私も呼んでいい?」
「ダメダメ! 絶対にダメだからね!」
「……八代ちゃん」
「うぐっ」
結局家に着くまで僕は椎さんにからかわれることになるのだった。
◇◇◇
「……ここが八代ちゃんの家」
「そろそろその『ちゃん』呼びは辞めてくれないかな??」
「……それなら八代くん?」
「それならいいよ……」
「……わかった」
「でも、僕の家に来てどうするの? デートなら出かけるものじゃないの?」
「……んっ、出かける」
「だよね。それならやっぱり家には――」
「……八代くんのダンジョンに」
「えっ!?」
思わず椎さんのほうを振り向いてしまう。
「……そのための準備もしてきた」
椎はスカートの中から短剣を取りだしていた。
もぞもぞと取り出すために動いている姿をみて僕は思わず顔を赤く染めて後ろを向く。
「……八代くん?」
「な、なんでもないよ!? それよりも僕のダンジョンならそんな危険なものは必要ないよ」
「……念のため」
「まぁ、そうだね。ダンジョンに行くならみんな呼んでくるよ」
「……二人でいい」
「でも、安全って言っても一応たまに危険は――」
「……お姉ちゃんが入ってるダンジョンがどんな感じなのか見てみたいだけ」
そういうことか。
僕は思わず微笑ましく思えてくる。
「……なんで笑うの?」
「なんでもないよ。それよりも早速行く?」
「……んっ」
◇◇◇
椎さんを連れてダンジョンへやってくる。
「……ここから入るんだ」
地下への入り口を椎さんは興味深そうに見ていた。
「あれっ、お兄ちゃん? お帰りなの」
「ただいま、ティナ」
「ダンジョンに入るの? ティナもついて行くの」
「そうだね。一応僕のポケットに入っててくれる?」
「わかったの」
椎さんに隠れるようにティナをポケットにしまい込む。
「……八代くん、入ろ」
「そ、そうだね」
一瞬バレたかと思いビクッとしてしまう。
しかし椎さんは特に気づいた様子は無かった。
二人でダンジョンに入ると、すぐにトカゲくんが近づいてくる。
すでにその体長は僕すら超えているので、近づいてくるとなかなかの迫力がある。
僕はトカゲくんの頭を撫でていたが、椎さんはピクッと肩を振るわせて怯えていた。
「がうがう?」
「あっ、ご飯はまだだよ。後から持ってくるね」
「がうぅ…」
悲しそうな表情を浮かべてトカゲくんは離れていく。
「……今のは?」
「このダンジョンに住んでるトカゲくんだよ。最初は小さかったんだけど、もう結構大きいよね」
「……私より大きかった」
「僕より大きいしよく食べるんだよね」
「……ダンジョンだとあんな魔物がウヨウヨいるの?」
「そうみたいだね。僕も他のダンジョンへは行ったことが無いけど、多分いるんじゃないかな?」
「……恐ろしいところだね」
「でもみんな大人しくてかわいいよ。お肉あげると喜んでくれるんだ」
「……それなら今度はお肉持ってくるね」
「みんな喜んでくれるよ。ただ、とんでもない量を要求されるから無理にしなくていいからね」
「……んっ」
頷く椎さんと更にダンジョンの奥へと進んでいく。
ただ、僕はふと思う。
――これってデートなのかな?
◇◇◇
精霊の住んでいるところでは特に何事もなかった。
みんな呼ばないとただの葉っぱだしね。
椎さんもそのまま素通りして更に先へと進む。
奥に伸びた細い道。
すると、途中で椎は足を止めていた。
「……子犬?」
「犬?」
そんな魔物はいなかったはずなのに、確かに通路の先には白く小さな毛玉のような犬が僕たちのほうを見ていた。




