壊される?平穏
ここ最近働き詰めの僕。
すっかり疲れ切って目にクマを作っていた。
なぜかわからないけど、日に日に僕の予定は埋まっていた。
昨日は姫乃さんのお家建築。
今日は椎さんとのデート。
明日はユキさんから家に誘われてる。
その次はティナとのお出かけ。
その次は姫乃さんの引越しだ。
さらに時間が空いたら天瀬さんも顔を見せて欲しいと言っていた。
空き時間にはみんなとの配信もしないといけないし、ミィちゃんたちと遊ぶ時間も作らないといけない。
前までの一人だった僕とは打って変わって多忙な日々に満足しつつも体の方が着いていかなかった。
「おいおい、顔が死んでるぞ。大丈夫か?」
教室で突っ伏していると瀬戸くんが心配そうにしてくれた。
「うん、大丈夫……。人間、一ヶ月までは徹夜しても大丈夫っていうもんね」
「どこの言葉だよ!? 絶対に言わねーよ!?」
「ルシルが言ってたよ?」
「悪魔じゃねーかよ!?」
「大丈夫だよ。来週はまだ予定が空いてるからゆっくり休めるし……」
「来週って今週は休めないことが確定してるのかよ!?」
「うん、ずっと予定があるね。夜はなるべく休むつもりだけど……」
「一体なんでそんなに予定が――」
僕の予定表を見た瀬戸くんが笑顔のまま表情が固まっていた。
「そっか……、人気配信者様だったもんな」
「瀬戸君、どうしたの?」
「リア充は爆発しろー!」
なぜか瀬戸くんは涙を流しながら走り去っていった。
「まぁ、あんな奴放っておきなさい。モテないやっかみだろうしね」
「そんなことないと思うけど……? 瀬戸君、みんなから人気あるし……」
「人気がある、とモテるは違うのよ」
「……柚月は人気者」
「えっと、僕じゃなくてミィちゃんたちなんだけどね……。それに僕の予定もみんな最近知り合った人たちばかりだし……」
「見事に全員女だね」
「……ギルティ?」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!? 予定の一つは椎さんだよ? しかもティナは精霊だし」
「……家」
「それってユキさんだよね!? 椎さんの家ってことでもあるんでしょ?」
「……聞いてない。きっと活動拠点の方」
「えっ!?」
椎さんもいるなら、と承諾したつもりだったのだがさすがにそれは予想外だった。
「わわっ、ど、どうしよう……。ユキさんと二人っきりだなんて……」
「……むう」
「いたっ」
なぜか椎さんが頬を膨らませて僕の腕を抓んでくる。
「どうしたの、椎さん」
「……私も二人きり」
「デートだもんね? 人を呼ぶの? ……いたっ」
「今のは柚月がわるいね」
「ど、どうして!?」
「椎も大変ね。まぁ応援してるから頑張ってね」
「……んっ」
椎さんが握りこぶしを作ってみせる。
「えっと、何を応援するの?」
「すごく大変そうだね」
「……その分ライバルが堕とす心配もない」
「それはそっか」
「あの……、僕を置いて一体何の話しをしてるの……?」
「……放課後」
「あっ、うん。わかってるよ。一緒に行こうね」
「……んっ」
◇◇◇
なんとか放課後まで生き延びることができた。
むしろ授業中に寝ていた分、体は朝よりも調子がよかった。
「……大丈夫?」
「うん、もうすっかり平気だよ」
「……なら行こう」
そういうと椎さんは迷うことなく僕の手を握ってくる。
「えっ?」
「……まだ本調子じゃない。支える」
「いやいや、倒れるほどじゃないよ!?」
「……?」
「いやいや、首を傾げても一緒だよ!?」
「……それよりも早く行く」
結局全く離れる様子もないまま僕たちは学校を出て行く。
道中で瀬戸くんから「このリア充め!!」と再び言われたことと三島さんから「頑張って!」となぜか応援されたことを除けば、誰も僕たちを気に掛ける人はいなかった。
そのまままっすぐに家へと向かっていると道中で何かを探している外国人の女性を見かける。
長い金髪にサングラスを掛け、背は高く、とてもスタイルが良かった。
ジーパンと薄手のシャツをきており、どこかのモデルだと言われても納得しそうである。
でも、さすがに外国語は何も話せないのでそのまま素通りしようと思ったのだが、その女性と目があってしまう。
「(わおっ、リトルテイマー!! こんなところで会えるなんて奇遇ね。よければお茶でもしない?)」
流暢な英語で話されたのだが、僕が理解できたのは「わおっ」の部分だけだった。
だからこそ隣にいる椎さんに小さな声で言う。
「ど、どうしよう。なんて言ったのかわかった?」
「……んっ」
椎さんも首を横に振っていた。
確かに実際に教科書とかで英語は習っている。
しかし、それで即座に外国人と会話できるようになるかと言われたら全くの別問題であった。
「あ、あの、その、あい、きゃんと、すぴーく、いんぐりっしゅ?」
緊張しながらたどたどしく答えると金髪の女性が何か理解したようで頷いていた。
「ごめんさないね。ここはジャパンですものね」
どうやら女性は日本語も話せるようで僕は少しホッとする。
ただ、なぜか椎さんの掴む手は強くなっていた。
「お願いがあるの、リトルテイマー。良いかしら?」
「リトルテイマー? えっと、僕のことですか?」
「そうよ。私たちの国ではあなたのことはそう呼ばれているのよ」
いつの間にか海外でも話題になっているらしい。
リトルテイマーってミィちゃんやティナたちと一緒にいるからかな?
「それでえっとあなたは誰なのですか?」
「わ、私の事を知らないの? くっ……、まだまだジャパンでの人気がイマイチみたいね」
「……この人、探索者のミーシャ」
「そっちのガールフレンドはよく知ってるわね。私はアメリカで探索者をしているミーシャ・マルティネスよ」
「はぁ……。それでミーシャさん? が僕に一体何のようですか? お願いしたいことがあるって」
「私が言いたいことは一つよ。私たちの探索者チームに入って欲しいの」
「ごめんなさい」
「もちろん、報酬は……ってえっ?」
「僕には戦う力がありませんので。話しがそれだけなら失礼します」
僕は軽く頭を下げたあと、すぐさまその場から去って行く。
後に残されたミーシャさんは呆然とその後ろ姿を眺めていたのだった。
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