03.デートがしたかったのだが
同じ高校に通い、なおかつクラスまで同じ幼馴染となると、どうしてもラブストーリー、ラブコメを想像してしまうものだ。そしてヒロトも当然のように、幼馴染に恋をしていた。
問題なのは幼馴染が姉妹であり、双子であるということだった。
いつもゆっくりしゃべり、どこかふわふわした印象のマイペースな姉の花と、いつも強い口調でしゃべり、きつい印象を持つ妹の日向。性格はあまり似ていない二人だが、その容姿は瓜二つであったし、いつも一緒にいた。
そのせいだけではないのだが、ヒロトが恋をしてしまったのは二人のどちらかではなく、二人共にだったのである。
世間的に、一般的に考えればそんなことは許されないことだが、ちょっとズレている(本人に自覚はない)ヒロトはあまり気にしていなかった。
さらに悪いことに、ヒロトは特に自分の気持ちを隠そうともしていない。自分から告白することも視野に入れている。もちろん、花と日向、双子にいっぺんに。
しかしどうも自分の気持ちを口にしづらい雰囲気があった。決して臆しているわけではないのだが、なかなか言い出せないのだ。
それでもヒロトが積極的なことに変わりはなく、突如休校になったこの日も二人をデートに誘うことにした。
「ま、というわけで、今日は休校になったから、これからデートでもしよっか?」
ヒロトは自室のパソコンを立ち上げ、学校からのメールを開きながら二人にそう言った。
メールには昨日裏山に何かが落ち、その衝撃で窓ガラスがいくつか割れたため休校になるという旨が記載されていた。
「デ、デートって……。ま、まぁ、アンタがそこまで言うなら行かなくもないけど」
日向は顔を赤くしてそう言うが、花は全く顔色が変わっていない。
「えーっと、ヒロくんが言ったのは日向にぃ? それとも私にぃ?」
確かに普通に考えればそういう疑問が湧いてくる。
しかしヒロトはそんなことを訊かれるとは思っていなかったし、日向も同じだったようで、驚いた眼で花を見ていた。
「いや、もちろん二人に言ったんだけど」
日向も口では言わないが、「花も当然来るでしょ?」と言いたげである。
花はしばらく何も答えず、ニコニコしたまま首を傾げていた。
ヒロトがいい加減沈黙に耐えかねてきたときに、ようやく花が口を開いた。
「でもぉ、今日はぁ、みんなで勉強会がしたいかなぁ」
「え゛っ、勉強ぅ?」
日向が実に嫌そうな顔で花に訊き返す。
しかし花はすでにそれを決定事項としているらしく、日向の言葉に何も返さずにスマホを取り出してどこかに連絡しだしてしまった。
ヒロトは嫌な予感がしていた。
ヒロトにとって勉強会というのは別に嫌なことでもないのだが、問題は花の言っていた「みんなで」である。
ここにいる三人をみんなと言っているならいいが、どうも違う気がしてならない。さらに言うなら、今花が連絡しているのはヒロトが一緒に勉強をしたくない、というよりは一緒にいたくない相手な気がするのだ。
「あ、鉄穴森くん? うん、加賀美だよぉ」
ヒロトの顔が歪んだ。
やっぱりそうだった。
花の電話している相手は同じクラスの鉄穴森裕典。中学からの知り合いではあるが、事あるごとにヒロトと競り合う、良く言えばライバル、悪く言うなら天敵同士のような相手だ。
「これから一緒に勉強会しようよぉ。天道くんの家で」
一層ヒロトの顔が歪む。
「ヒロト、アンタ顔がヤバいことになってんわよ……」
ヒロトの苗字は鷲目、決して天道ではない。
花の言う天道とは、天道要、やはり同じクラスの男子生徒である。
ヒロトたちの通っている学校は私立の金持ち学校で(ヒロトや双子は金持ちではないが)、要の家はその中でも五本の指には入るほどの大金持ちだった。
そして要という男は、出会ったのは高校に入ってからではあるものの、裕典に並ぶヒロトの苦手な相手なのだ。
「花、勝手に天道君の家に集合しちゃ、天道君に悪いでしょ?」
日向が姉を窘めるが、本人はよくわかっていないらしく、首を傾げている。
「大丈夫だよぉ。天道くん優しいし、お家とっても広いものぉ。どうせならみんなで突然お邪魔して驚かせてあげましょう?」
「いや、迷惑だから」
日向が呆れ顔になり、渋々といった様子で電話をかけ始めた。どうやら要に連絡をしているらしい。
デートが無くなったことにより、ヒロトは不機嫌になり始めていたが、ここでさらに嫌なことに思い至る。
同じくクラスメイトで先ほどヒロトに連絡を寄越してきた柴雷嵩香音だ。
きっとこのメンツで会うということになれば、彼女も誘っておかないと後々文句を言ってくるだろう。彼女もまた、ヒロトになんだかんだと競り合ってくる相手ではあるが、だからといって放っておくと拗ねるのだ。面倒な話ではあるが。
ヒロトはすぐさまスマホを取り出して彼女にメッセージを送る。
ヒロトが打ち終わって顔を上げると、日向と目が合った。
なぜかジト目である。
「今の誰にメッセージ送ったの?」
「柴雷だけど?」
「ふーん、私たちと一緒にいるのに、何で?」
どうやら嫉妬をしているようだ。
そういうところも可愛らしいと思ってしまうのだが、ちゃんと誤解を解いておかないと後で面倒なことになりそうではある。
「そんなの花に言ってやれよ。俺以外の男子がいる時点でもうデートじゃないだろ。それに、俺も鉄穴森も天道もいるのに、アイツに声かけないと後でなんか言われそうで嫌だ」
日向はすぐさま花を睨むのだが、柳に風、暖簾に腕押し。花はニコニコしたまま首を傾げ、完全に受け流していた。
「そんなに眉間にしわを寄せてたら、せっかくの可愛い顔が台無しだよぉ」
自分も顔は同じだろうに、ヒロトは内心で嘆息しつつも口には出さず、話題を変えることにする。
「んで、天道は良いって?」
「あ、うん。迎えに来てくれるって」
ヒロトは再び顔をしかめた。
きっと要はリムジンで迎えに来るに違いない。そのうえ、ベンツの。
普通に暮らしていれば、訪れることのない貴重な経験ともいえるが、それがあの要のおかげと思うと、素直に喜んだりはしゃいだりはできなかった。
わざわざこんな平凡な住宅街に高級車で来なくたってこっちから行くのにと、ヒロトは深々と溜息を吐き、それでも出掛ける準備を始める。といっても制服のまま出掛けるつもりだ。あの豪邸に行くのに、制服以上にふさわしい恰好が思いつかなかったのである。
それから二十分後、本当に黒くて長い車、リムジンがやってきた。
車の中に要は乗っておらず、運転手だけでのお迎えである。
日向と花は実に目をキラキラさせてリムジンに乗り込んでいくのだが、もちろんヒロトはしかめっ面だった。
双子の後に続き、運転手の手によって開けられた後部座席のドアの中を覗くと、さらに顔が渋くなる。
そこには、先に乗り込んでいた先客がいた。
黒髪で男にしては長く、ちょっと目がどうなっているのかわからない、まるでエロゲの主人公のような外見をした同級生、それが鉄穴森裕典だった。
裕典は胸の前で腕を組んで座っているのだが、なぜか仁王立ちしているように見える。言うなれば、仁王座りだろうか。
「なんて顔してるんだ、ヒロト! まるで休校になったにもかかわらず俺に会えたことを喜んでいないみたいじゃないか!」
その根暗そうな外見からは、想像できないほどの大きな声とハキハキとした声で裕典が吠えてくる。
ヒロトは辟易としつつも仕方なく車に乗り込んだ。
「いや、実際に嫌だけど」
「喝っ! 悲しいぞ! 俺は悲しい! 俺たちは中学の時からの付き合いでこそあれ、確かによくつるむ仲の良い親友とは呼びづらいかもしれない。しかーっしだ! お互いしのぎを削り合ってきた仲ではないか! 体育祭では騎馬戦で勝負し――ま、俺が勝ったが――、体育の授業では柔道で勝負し――これも俺が勝ったが――、ガチの殴り合いだって――もちろん俺が勝ったが――した仲じゃないか! 俺たちは親友ではない! だがライバルであり友なのだ! それを貴様というやつは……」
「徒競走では俺が勝った」
「ぬぅっ!?」
「保健体育の成績は俺が上だし、他の全部の成績も俺が上だ。テストだって総合点は一度もお前に負けてない」
「貴様! そんな細かいことを言い出すとは何事かっ! 俺が言いたいのはだな……」
二人が口論を始めると、日向と花が割って入ってきた。
「はいはい、二人とも喧嘩はストップ。本当にアンタたち仲が良いんだから」
「は? 誰がこんな熱量バカと」
「ふふ、そうでしょうとも。俺とこいつはライバルですからね!」
裕典が日向に対して敬語でそう言った。
裕典は自称フェミニストだった。
だが裕典の自称するフェミニストはフェミニズムとは呼べないような代物だ。常に女性の側に立ち、常に女性を守り、常に女性を敬い、常に女性を優先する。つまりはレディファーストなのである。
それをヒロトが裕典に指摘しても認めようとはせず、ヒロトは苛立たしい思いをした。
もっともレディファーストのくせに実は女性が苦手なため、そこをからかったりすることもあるのだが。
なんだかんだと喧嘩したり雑談したりしつつ、一行を乗せるリムジンは天道の家へと向かったのだった。
明日も五話くらい投稿します




