Chapter 12 Embrace Sync 02
攻撃スキルを禁止されているとはいえ、俺のパラメータはそのままのはずだ。
俺は歯をしばって刃を受け止めた。
その一撃の重さは、かつて伝説級のモンスターの噛みつきを受け止めた時と同等だった。……そして、何よりもこのプレッシャーは……。
底知れない暗黒。
殺気がほとんど感じられないその一撃は、まるで踏みつぶす虫のことなど意に介していないかのようだった。
凍りつくほど冷徹な紅い瞳。
「チッ……!」
俺は腕を横に振ってその一撃をいなし、間合いを取った。それでも、アイの刃は俺の肩の皮一枚を浅く切り裂いていた。
筋肉が激しく強張る音が聞こえた。たった一太刀交えただけだというのに、腕がほとんど上がらず、手が小刻みに震えている。
「……魔王かよ……」
肌で感じたその威圧感に、俺は思わず呟いていた。
目の前にいるのは双子の兄だというのに、その脅威は魔王に匹敵している。
魔術師のパラメータは物理方面には特化していない。ならば、正面からの攻防であれば、剣士クラスである俺の方が有利なはずだ。
魔法で身体強化でもしているのだろうか……。アイなら、自分と相手との物理的な弱点を埋めるためにそれくらいのことはやりかねない。
アイは魔術師でありながら、接近戦における弱点が存在しない。それは極めて異様なことだった。
そのことについては、異世界で初めてアイに出会った時も疑問に思っていた。彼の接近戦への適性は、魔術師の基準を遥かに超越している。
だが、剣士クラスであり勇者であるこの俺とここまで渡り合えるとは……。この対等な力は、本当に魔法の強化だけで補えるものなのだろうか?
「……」
分からない。
俺は構えもせずに立ち尽くすアイを見つめた。それなのに、微塵の隙も見当たらない。
俺が一歩でも攻撃の間合いに足を踏み入れれば、一瞬で斬り伏せられる予感がした。
ヴェルモーラにこれ以上の時間を与えたくはないが、闇雲に突っ込んでも不利になるだけだ。だから俺は片足を一歩前に踏み出し、深く腰を落とした。左手の指で中央に輪を作り、そこに光の剣を通す。
居合い。
俺が鍛錬してきた剣技の一つだ。
今、俺とアイは互いに一撃では届かない間合いにいる。これ以上リスクを冒す気はなかった。向こうが俺の出方を待っているのなら、俺も同じようにするまでだ。
自分の周囲、刀の届く円の空間。何かがそこに侵入すれば、瞬時に斬ることができる。
人間を超越したパラメータで補正すれば、この居合いは一瞬の刹那よりも早く放たれる。
鞘がないためこの方法をとるしかないが、以前試した時も、鞘の代わりにした自分の指に少し深い切り傷を作る程度で済んでいた。
ぶっちゃけた話、直線的な長剣である光の剣は、居合いには微塵も向いていない。カタナを持っていないことを、かつて師匠に酷く叱られたこともある。
まあいい、もうこの剣の扱いには慣れている。それに、最終的には師匠も教えてくれたのだから、一応は合格ラインに達していたのだろうと勝手に解釈している。
俺がそんな構えをとるのを見ても、アイは生気のない紅い瞳で、見つめるでもなくこちらを見つめていた。
そして――。
「Zai……Gravity Pull」
あんなの、攻撃魔法に分類されないのか!?
アイが魔法を発動した。その効果は、不可解な重力によって俺の身体を引き寄せるものだった。俺の身体は不意を突かれ、アイの方へと前のめりに突っ込んでいく。
左足のバランスが僅かに崩れた。
これだけで、俺とアイは互いの間合いに放り込まれた。
俺はその体勢から剣を引き抜いた。手のひらに走る熱さと、光の剣が俺の肉を抉る感触が伝わる。
黄金の光が正面を切り裂いた。狙いはアイの頭部だ。もちろん峰打ちだが、居合いの抜刀から生じる衝撃なのだから、アイであっても直撃すれば確実に気絶するはずだ。
しかし、この一撃は完全に読まれていた。アイは身体を後ろへと反らし、その滑らかな動きによって、俺の剣はアイの顔の前を虚しく通過していった。
「しまっ……」
少し油断したかもしれない。
こいつが避けるとは思っていなかった。さっきの体勢の崩れで、一挙動遅れたのか?
その瞬間、アイが剣を振り上げた。無造作な動作でありながら、凄まじい威圧感が宿っている。
狙いは、剣を握る俺の右腕。
意識を失っているというのに、一撃では俺を仕留められないと計算したらしい。代わりに、俺の利き腕を叩き斬る選択をしたのだ。……残酷極まりない。
「させるか!」
俺は即座に腕を突き出した。殴られる瞬間に衝撃を和らげる理論と同じだ。斬られる部位をあえて拳の方へと近づけることで、相手が腕を振り切れなくなり、一撃の威力を減衰させることができる。
だが運が悪ければ……この行動がアイに通じず、俺の腕がより早く切断されるだけだ。しかし、今はこうして賭けに出るしかなかった。
正式に死神の刃が俺の前腕へと振り下ろされ……肉に深く食い込んだが、骨で止まった。
その直後――。
「あ……」
俺は声を漏らした。
アイが驚くほど滑らかに身体を回転させた。
第二撃。この間合い、この体勢から、俺が距離を取るよりも早く追撃を繰り出せるのは、左手だけのはずだ。
剣はアイの右手にある。それなのに……この、今まさに斬り裂かれようとしている感覚は一体何なんだ……。
フッ……。
乾いた風の音が鼻先で鳴った。
アイの左手が、滑稽なほど俺の顔の目の前で止まっていた。まるで拳で俺を殴ろうとしたが、距離が足りなかったかのように。
魔法か何かが追撃してくるかと思ったが、アイの動きはそこで完全に停止した。
アイは何が起きたのか分からないといった風に凝固し、それは俺も同じだった。
だが、先に身体が動いたのは俺だ。少なくとも、今まともな意識を保っているのは俺の方なのだから。
「ウオオオッ!!!」
俺は左手でアイの顎へ向けて全力のアッパーカットを叩き込んだ。手加減など一切していない。素手でこいつを気絶させるために、どれほどの力が必要なのか分からなかったからだ。
アイの身体は激しく天井へと撥ね飛ばされ、それから無様に床へと叩きつけられた。
俺は拳を突き上げたまま、その光景を見つめていた。
「はぁ……はぁ……!」
疲れていないはずなのに、なぜか激しい息切れが漏れた。
アイが起き上がってこないのを確認し、俺は歩み寄って見下ろした。
「最愛の弟からのアッパーカットだ。気に入ったかよ、兄貴」
どうにか実の兄の魔の手から生き延びることができた。そして……。
……ユウ1点、アイ0点。
一応、メモに書き残しておくとしよう。




