Chapter 10 Affection Field 02
アイは、リリィと戦った Void の情報をクロイチから受け取っていた。どうやら俺が戦ったアヴァリスと、その Void ……タノロスが使ったムーブセットは同じものだったらしい。
Move Set Eclipse Break (終焉の蝕)
そこまで考えて、あの日リカにも会ったことを思い出した。
彼女はすでに俺が異世界から帰ってきたことを知っている。少し受け入れが早すぎる気もするが……まあ、あの時のリカと同じ立場に立たされたら、俺も信じてしまっただろう。
あるいは、リカも俺たちみたいにアニメが好きなんだろうか?
考えても無駄だ。聞こうにも……残念なことに、今日リカは学校を休んでいた。昨日の事件の直後に休みだなんて、少し心配だ。大したことがなければいいのだが。
アイが不在の間に起きた Void の侵入について、本人はこう断言していた。
「……」
……きっと、対処法はあるんだろう。
現在、例のショッピングモールは修繕のために閉鎖されている。大ニュースになってはいるが、 Void についての言及は一切ない。安堵すべきだろうが、心のどこかで不安も感じていた。
「急なことだが、今日から新しい仲間が加わることになった」
担任の教師から発せられたその言葉を、最初俺はうまく理解できなかった。
普通、転校生がいれば朝に紹介するものではないのか? いや、午前中に用事があったのかもしれない。編入の手続きが単純でないことは想像に難くないが……。
後ろの二列ほど離れた席に座っているエヴァを盗み見ると、彼女もわずかに訝しげな表情を浮かべていた。
一方で、俺と同じ列の最後列、窓際に座っているアイは……。
閉ざされた教室の扉を、寸分も逸らさず凝視していた。
その鮮紅の瞳は細められ、刃のように鋭い。
「入ってきなさい」
次の授業の始まりが少し遅れることになる。そんな中、一人の少女が扉を開けて入ってきた。
その瞬間、クラスメイトたちの喉から吐息が漏れた。
非の打ち所がないほど整ったスタイル。その身には、この学校の制服とは異なる鮮やかな赤色の制服を纏っている。
艶やかな黒髪だが、その毛先は内側から赤い光で焼かれているようだった。
額にある小さな赤い宝石が初見では異質に感じられたが、驚くほど彼女に馴染んでいる。
伏せられていた目は、教壇の前に立つとゆっくりと開かれ、クラスメイトたちを見渡した。だが、その瞳には生気というものが欠落している。
「はじめまして。『ヴェルモーラ』です」
明るい声音だが、どこか奇妙だ。まるで数人が同時に喋っているかのように重なって聞こえる。……だというのに、周囲の誰もその異常さに気づいていないようだった。
……この、重なり合うような、あるいは捻じ曲がったような違和感。昨日味わったものと同じだ。
体がフレームを飛ばして動いているわけではないが、この感覚は……。
彼女が笑顔で自己紹介を終えた直後。
背後で「ガシャン!」と大きな音が響いた。
振り返ると、アイが勢いよく立ち上がった拍子に椅子が後ろに転倒していた。黒い手袋を嵌めたアイの手が、ヴェルモーラへと向けられる。
「Dorn Void Purge」
魔法!? こんな場所でか!?
止める間もなかった。だが、どれほど待っても魔法の効果が発現する気配はない。
標的となったヴェルモーラは、ただ微笑みながらアイを……そして俺を見つめていた。
「どうした、桐崎(兄)。腹でも痛いのか?」
担任がアイに声をかける。アイを座らせるよう手招きした。
アイはしばらく静かに呻いた後、椅子を引き寄せて座り直した。先生に謝罪の一言すら口にしない。
ヴェルモーラが笑った。
「そうじゃないんですよ。ちょうどアイ君とは知り合いなんです。そう呼んでもいいかな~?」
「そうか。ちょうどいい、あそこの隣の席が空いている。そこへ座りなさい」
「はい」
ヴェルモーラは快く応じ、アイの隣にある空席へと歩き出した。クラスメイトたちの視線が、首が折れんばかりに彼女を追う。
まるで……その姿に魅了されているかのようだ。
「よろしくお願いしますね、アイ君」
「……」
「照れ屋さんですね」
俺は自分の疑念を確信に変えるため、ウィンドウを展開することにした。
そして……やはり、思った通りだった。
7 Void of Sin
第2位 Velmora – The Crimson Lust (色欲の紅)
7人の Void の一角……。
「ったく、たった二日だぞ。現れすぎだろ……」
俺は喉の奥で呟いた。
放課後、ヴェルモーラに対して何らかのアクションを起こせる時を待つしかない。それまでは、アイと彼女が教室内でやり合わないよう祈るばかりだった。




