Chapter 6 : Move Set 01
「なんで私が、あんたの買い出しに付き合わなきゃいけないのよ……」
私はユウにそう問いかけた。
私の名前はエヴァ。女神……今は、そう名乗ってもいいのかもしれない。
今はショッピングモールにいる。休日の土曜日、午後の日差しは少し暑すぎるけれど、建物の中に入ってしまえば息をつくことができた。
ユウは値段を比べるために牛乳瓶を二つ手に取り、それから答えた。
「普段はクロイチがやってくれるんだけどさ。えーっと……値段、微妙に違うんだな」
「いつも飲んでる銘柄とかないわけ?」
「どれだって同じ牛乳だろ? 少しでも節約した方がいいじゃないか」
ユウは笑顔で言った。
富も名声ก็手に入れたはずの勇者が、こんな風に商品を選んでいる姿を見てどう反応すべきか迷うけれど、私としてもそれを責めるつもりはなかった。
「一人だと寂しくてさ。だから誰かと歩きたかったんだ。迷惑だったかな?」
「……別に、そういうわけじゃないけど」
「そっกะ。よかった」
私も同じように牛乳瓶を手に取ってみる。
「……もう数日経つけど、アイはまだ帰ってこないの?」
その言葉に、商品を選び終えたユウはカートに瓶を置き、小さくため息をついた。
「ああ。あの時デコイルを片付けたら、すぐに戻ってくると思ってたんだけどな……。おかげでクロイチが弱体化しちゃってさ。代わりに俺が買い出しに来る羽目になったんだ」
アイからのエネルギー供給がないと、『Shadow Army』のスキルで生み出された影であるクロイチは弱まってしまうらしい。
「苦労してるわね、あの影も」
「まあ、そこまでじゃないよbox。万が一のために力を温存しておきたいだけさ。休日は俺も暇だしね」
「ふーん」
午前中、ユウから「モールに付き合ってほしい」とチャットが来た。リリィも誘ったはずなのに、彼女はどういうわけか私とユウの二人で行くように仕向けてきたのだ。
そう考えるとリリィが少し不憫になる。この世界に来てから、あの子はずっと私の家を掃除してばかりだ。本人は掃除が好きだから退屈しないと言っているけれど、家主としては申し訳なさを感じてしまう。
「リリィก็連れてくればよかったわね」
私がそう呟くと、ユウは眉を上げた。
「リリィ? ああ……そうだね。家に閉じこもりっきりじゃ退屈だろうし。じゃあ、明日はみんなでどこか遊びに行くか?」
「それって……私とあんたと、リリィの三人で?」
「うん!」
ユウは満面の笑みで答え、その瞳は本気で行き先を考え始めているようだった。これほどの事態を経験しておきながら、遊びに行く余裕があるなんて、ある意味感心してしまう。
私は少しからかうように言ってみた。
「女の子二人を同時に誘うなんて……あんた、結構手が早いのね」
「ははは、大人数の方が楽しいじゃないか」
そう返されると、私は笑うしかなかった。こいつ、本当に天然ね。
……その後、クロイチが書いたメモに従って買い物を続けた。
「今日……なんだか、変な感じがするんだ」
唐突に、ユウがそう漏らした。
私は首を傾げる。
「変?」
ユウは周囲に視線を走らせたが、そこには特に変わった様子はなかった。
「……昔、暗殺者に命を狙われてた時期があってさ」
「ちょっと、急に何を言い出すのよ……?」
「まあ聞いてよ。政治的な理由か何かだったと思うんだけど。ある貴族が、俺のことを気に入らなくて。その……『勇者』だってことでさ」
「勇者だからって、なんで嫌われる必要があるのよ」
「理由は聞いたはずなんだけど、くだらなすぎて忘れちゃったよ。言いたいのはさ、その暗殺者に追われてた時、姿は見えないのに背筋がゾクゾクするような感覚があったんだ」
「ふーん……」
「結局は丸く収まったんだけど、あの時の感覚が、今の感じに似てるんだよ」
まるで何かがずっと監視しているような、とユウは付け加えた。
私は尋ねる。
「それで、その暗殺者と貴族は今どうなってるの?」
「貴族は王国に捕まって、暗殺者とは友達になったよ」
どういう経緯でそうなるのよ……。
でも、変な感覚ね。確かに、デコイルがモンスターを引き連れて学校を襲撃した時、私は事前に違和感を察知したけれど、今は何も感じない。
ただの暑い日常があるだけだ。
支払いを済ませて話していると、横から声をかけられた。
「あれ? ユウ君と、エヴァさん」
振り返ると、見覚えのある少女が立っていた。
「リカ?」
私とユウのクラスメイトであるリカだった。両手に抱えた袋を見る限り、相当な量の買い出しに来たらしい。
リカの私服姿を見るのは初めてだったけれど、この子は相変わらず胸が大きいのね……。
ユウが手を振る。
「おお! リカじゃないか。買い物?」
「あ、はい……ユウ君たちは?」
「同じだよ」
「そうなんですね」
リカがキョロキョロと周囲を見渡すと、ユウが言ったเอง
「アイは一緒じゃないぞ。安心しろ」
「あ、あう……それは……」
リカは顔を真っ赤にした。振られた後でも、まだ好きなのね。
「そ、それで、お二人はデート中なんですか!?」
「デ、デート!?」
私は思わず声を裏返して聞き返した。
ユウは手を振って否定する。
「違う違う。エヴァに買い物のお手伝いを頼んだだけだよ。ちょうど帰るところさ」
「ふーん……」
リカは顎に手を当て、私とユウを交互に見比べた後、私の耳元で囁いてきた。
「ユウ君って鈍感ですもんね……。本当のところ、どうなんですか?」
「鈍感なのは否定しないけど、デートじゃないのも本当よ」
「そうなんですか?」
「ええ。……あんたは一人?」
私が辺りを見回しながら聞くと、リカは頷いた。
「はい。毎週のことですから」
「だったら、次は私を誘いなさいよ」
「えっ? いいんですか?」
「ええ」
リカはそれを聞いて、ぱっと表情を明るくした。
「もちろんです! 今度は絶対誘いますね、エヴァさん」
私は微笑んで頷いた。リカとは友達だし、学校で話す機会も増えたけれど、休日に友達と出かけるという経験もしてみたいと思っていたのだ。
でも、ユウとのこれは、そういうのとはちょっと違う気がするけれど…… host
「お二人とも帰るんですよね? よかったら、この後一緒にご飯食べに行きませんか?」
「そう言われるとお腹空いてきたわね。ねえユウ、聞いた? あんたも行きなさいよ」
私がユウを振り返ると、彼は硬直していた。
「ちょっとユウ、何をぼーっとしてるのよ」
だが、ユウは答えなかった。ただ一点を凝視している。その表情は、今見ているものが信じられないといった風に困惑に満ちていた。
手から袋が滑り落ち、野菜や肉が床に散ราばる。
「……ユウ君?」
リカも彼の異変に気づき、不安げな声を漏らす。
そして……その疑問を打ち破るように、システムのホログラムウィンドウが警告を告げた。
『攻撃を検知。タイプを特定できません』
『Unknown Data』
……攻撃を検知?
じゃあ、ユウが見ているのは……!?
「エヴァ! リカを頼む!」
「え、ええ!」
私は即座に応じ、リカを引き寄せてユウから遠ざけた。
「えっ!? エヴァさん!? ユウ君!?」
リカが困惑の声を上げる中、それが現れた。
ユウが顔を上げる。
「上か!?」
ショッピングモールの天井が弾け飛んだ。それを破壊して降りてきたのは、何と形容していいか分からない、人形のような生物の群れ。
数えきれないほどの数が、そこにはいた。
「ユウ!」
「ああ! 『Shining Sword』!」
ユウの手のひらに光の粒子が集まり、眩いばかりの黄金の剣が形作られる。
それだけでは飽き足らず、ユウはさらにスキルを唱えた。
「『Sunrise Paladin』!」




