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黒の章 最終話

 次に見つかったのはすでに冷たくなった騎士だった。

 焦げた遺体や爆発で千切れた遺体、黒服に身を包んだ身元の分からない遺体。

 どれも目を背けたくなるものばかりだったが時折生存者も見つかった。

 そしてまた声が上がった。


「生きてる!」


 それは少し離れたところで瓦礫の隙間にいた相馬だった。

 けれど相馬もまた無傷ではなかった。

 両目と耳から出血していた。

 

 そんな相馬の姿を目で追って、もう一度瓦礫に目を落とした国明の目に何かが入った。

 瓦礫ではなく、黒く光る金属。

 そこへたどり着くまでの瓦礫を取り去って、拾い上げると、それは暗黒騎士の兜だった。

 上から降ってきた瓦礫に押しつぶされたのか、爆風でへしゃげたのか、もうもとの形を失った兜。


 その持ち主を皆知っていた。

 その兜の下にある水銀の目を知っていた。


「暗守もここにいたのですね。美珠を守っていたのね」


 教皇はその兜に額をつけた。

 隙間から見えるその兜の内側には血がこびりついていた。


「暗守、頑張って」

 

 日が暮れて、夜が来ると魔法騎士達が闇夜を照らした。

 誰一人、声をあげず黙々と瓦礫の撤去が続けられてゆく。

 片腕しかない王が大きな瓦礫を持ち上げるのをみて国明もすぐに駆けつけてともに持ち上げる。

 それでもピクリとも動かなかった。

 けれどだからといって諦められなかった。

 その下に美珠がいるのかもしれないのだから。


「手伝います!」


 魔希が魔法で持ち上げようとするが、彼もまた限界だった。

 すぐに騎士が数人駆けつけて押しのける。

 その下に暗黒騎士の鎧があった。

 暗黒騎士団長がその場に横たわっていたのだ。


「暗守! 暗守!」


 国明が駆け寄ると周りは血で溢れていた。

 体から流れ出す血の海。

 けれどその大半は、もう瓦礫に吸い込まれ乾き始めていた。


「生きてるか」


 聖斗がすぐに駆け寄り首筋に触れ脈を診る。

 今にもとまりそうな程、ごくごく微弱に打つ鼓動。

 それでもまだ彼の体は動いているのだ。


「生存してる! 何とかもってくれればいいが」


 聖斗の無意識の言葉の隣で、国明はその暗守の下にあったものに気づいた。


 何か一瞬白いものが見えた。


 よくよく目を凝らすとそれは指先。


 細い、長い指先。


 顔が見えたわけではないが国明にもう迷いはなかった。


「美珠様?」


 瓦礫の隙間に手を突っ込むと国明の指先がその指に触れた。


「まだ、奥に! 頼む、手伝ってくれ!」


 その言葉に聖斗が慌てて手を貸し、その他の騎士達も力をあわせ、一気に瓦礫が押しのけられてゆく。

 次第に、見たことのある色の服が姿を見せる。

 誰もがその体の主を理解していた。


「美珠様、今助けます!」


 国明がそう叫んで最後の瓦礫を押しのけると、

 そこに美珠がいた。

 眠っているようだった。

 ただいつも生気に満ち、溌剌としていた顔は血の気を失い真っ白になった顔は土埃で汚れていた。


 国明は美珠の頬に久しぶりに触れた。

 驚くほど冷たい頬だった。

 苦痛も何も顔には感じさせないのに、真っ白な顔をしていた。


「こんなこと……ありえない」


 そんな彼女の顔を自分が見る日がくるとは思ってもいなかった。

 自分が死んでからしか彼女に死が訪れることはないと思っていた。


「どうして貴方が、俺より先に死ぬんです? どうして」


 愛する人の胸に刺さる折れた白刃を素手で抜くと、何度も何度も額を撫でた。


 いつもそうしていたように。


「俺にイジワルをするのなら、貴方を苦しめた復讐をするのなら、俺を殺してくれればいいのに。俺がどんな罰をうけることになっても、貴方が生きてる、笑ってる。それだけで俺は救われたのに」


 例え傍にいられなくても、人にどれだけ憎まれても、騎士を辞めさせられても、

 彼女が生きている。笑っている、それだけが国明のは生きる糧だった。

 どれだけ美珠に酷いことをしたのか自分が嫌というほど、知っている。

 そしてどれだけ心に傷を負わせたかも知っている。

 それでも彼女は健気に笑おうとしていた。

 そんな彼女に先に死がやってきたというのか。

 運命は自分から彼女の隣を奪ったわけではなく、彼女の命まで奪ったというのか。

 そして全ての原因は自分だと思うと、もうやりきれなかった。


「俺のせいで。俺が……美珠様を殺した」


 久しぶりに抱きしめた、恋人だった少女の体はとても軽くて冷たいものだった。

 いつも抱きしめると感じた温かさはもうどこにもない。

 体の柔らかさも、彼女の匂いももう感じられない。

 もう彼女の魂もここにはないのだ。


 絶望に打ちひしがれる国明から王が娘の体を奪いとった。

 王は冷たくなった娘の顔を撫でると抱きしめて声も出せずただ泣いた。

 騎士達も皆、手を止めてただ姫を悼んだ。




       *



 そんな悲しみに包まれた様子を蕗伎と、もう一人隣に立った黒衣の魔法使いは眺めていた。

 二人とも酷く冷たい目をして。


「きっと、祥伽は怒るんだろうな。もしかしたら、もう口きいてくれないかも」


「どれほどの人を傷つけて、涙を流させても、なさなければいけないこともある」


 男の瞳は娘の体を抱きしめてただ泣き崩れる教皇へとむいていた。

 やっと娘と心を通わせることができた喜びも本当に彼女にとっては束の間。

 あっけなく、そして一瞬に奪われてしまったのだ。


「う~ん。しかし、怒涛の攻撃だったね。息つく暇なく、バンバンガンガン爆発おこしてさあ、すごいねえ。俺も巻き込まれるところだったよ」


「姫を襲った黒服は基本的に消さなければな。一人、伝令に生かしておけばそれで充分だ」


「まあ、そうだね。余計なこと言われちゃこまるしね」


 蕗伎の瞳は親の腕の中にある美珠の遺体へとむいていた。


「最小の犠牲で、最大の幸福をつかむ。そのための姫の死だ」


 蕗伎は息を一つ吐いた。

 そして最高の笑みを浮かべた。


「悪く思わないでね、美珠。さてと、行こうか、新しい世界へ」



こんな形でリターンズ、終了いたしました。

まさか、まさかの終り方です。

今まで、長い作品にお付き合いいただいたからの怒りの言葉が聞こえてきそうですね(汗)

次の作品(姫君シリーズ)で、紅の章、黒の章にかけての話に片をつけるつもりです。ただ、また長くなりそうなこと、主人公が変わることから、新しいものとして連載することになりました。

次回作については5/9 日曜日には連載を開始するつもりですので、ご覧いただければ幸いです。

最後になりましたが、よろしければ感想などいただければ天に舞い上がって踊りくるいます!

自己満足的なものになっているのは重々承知なのですが、良い点、悪い点、どんなことでも感想をいただければ、励みになります。

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