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呪歌  作者: 野中
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第一章(3)


私はタキから手を離す。振り向いた。


白金の髪に紫紺の瞳の青年が、ひらひら手を振っている。

彼は、槍を片手に、「精悍でステキ」と女性に騒がれる顔を、ねじを何本か落としたんじゃないかと思うほど太平楽な笑みに緩めていた。その背に隠れて、気弱そうな少年が顔だけ覗かせている。栗色の髪の下で、上目遣いの琥珀の瞳が瞬いた。


私はため息。

「お邪魔どころか、ゼンがいるでしょう。遠慮しなくていいわよ、カサネ」

眉を八の字にして上目遣いだった少年が、遠慮がちに近づいてくる。

年齢は私よりひとつ下なのに、五つは年下のように頼りない。

彼の肩には、梟がとまっていた。

対照的にずかずかやってきた槍を持った男…イエルがゼンを見遣り、明朗に笑う。

「どこにもいないと思ったら、ここだったか」


「…今朝一番に会ったお前は幻だったのかね」

すかさずゼンが、押さえた声で一言。紫紺の目を瞬かせるイエル。


「幻見るくらいオレに会いたかったのか、ゼン」

「本物も見たくないほど会いたくないな」


ゼンの声が吹雪く。

カサネが慌てて身を乗り出した。

「あああ、あのさ、イエルさっき、書類の字が汚いから書き直しを命令されたって言ってなかった?」

あ、と頓狂な声を出し、イエルはゼンを指差した。

「そーそーそー、そうだったっ。思い出した、書き直しだ」


「思い出したのは、今朝わたしに会ったことか、さっきカサネに言ったという言葉か」


「どっちだって変わらないだろ。でもさ、いくらオレの字が汚くっても、ゼンの絵より数段マシだと思うんだけどなー。ね、姫さん」

イエルの戯言を、私は右から左に聞き流す。


刹那、イエルがひらと後方へ跳んだ。

直後、寸前まで彼の足元にあった地面が深く抉れる。

たちまち、土飛沫が散り乱れた。


びし、とゼンの手元で折り畳まれた鞭が鳴る。それが、土を抉った凶器だ。

イエルが、朗らかな笑い声を立てた。

小動物のすばしっこさで遠くに逃げていたカサネは、ゼンとイエルをおろおろ交互に見遣った。

タキは動じない。


いつもの光景だ。


ゼンが蜜色の瞳を無機質に輝かせる。

「わたしに苦手なものなどない」

「いやけっこう多いだろ」

よせばいいのに混ぜ返したイエルがゼンと衝突する寸前。

「聞き苦しいですよ。ご夫妻の前で」

割って入った声が氷柱を放つ。

私は目を丸くした。

「フリーダ」


現れた侍女の姿に、タキと私以外の全員が、酢でものんだ顔つきで立ち竦む。


「もう、出る時間?」

私は焦った。

「いえ、ユカ姫様のお着替えがございますので、そろそろと思いまして」

フリーダは私に向けた美貌を和ませ、丁重に頭を下げた。私は、着物を見下ろす。

略式だが、正装だ。

正装だと、紐を十本以上使用していて、着替えに時間がかかる。

略式ならまだ少ないが、手間がかかることに変わりはない。


「そうね。片付けるから、少し待って」

「お手伝いいたします」

周囲を無視して、フリーダは、にこり。

女性らしく優美だが、短い銀髪のためか、少年めいた涼やかさをまとう美貌は、気構えなく笑むと愛らしい。


卓上を片付け始めた私に、気を取り直したゼンが尋ねた。

「ユカ様。お出かけになられるのですか?」

「そうよ。これから、すぐに出るわ」

ゼンは気難しい顔になる。

「本日は、お控えになられてはいかがですか。昨夜の疲れもまだ残っておいででしょう。残党の不安もございますし」

「大丈夫よ。ちゃんと、護衛役にフリーダとヴァルを連れて行くから。この二人じゃ信用できない?」


「ふりでも実力を疑うことは難しい二人ですが、この世に絶対はありません。『もしも』が起こりやすい時は、ご自重頂けませんか」



もう起こっているから、なりふり構っていられないのだ。



とはいえ、昨夜起こったことを正直に話せば、毒でも撒かれた騒ぎになるのは必須。

ここは煙に巻こう。

私は微笑んだ。

「聞いておられますか、ユカ様」

「そうね、近いうちまた奥さん連れてきてよ。皆でお茶しましょう」


「はい、いいですね。…いえそのユカ様」

素直に頷いたゼンは、緩みかけた顔で渋面を作る。

「約束よ?今日のリボン、白い絹ね。相変わらず仲良し夫婦ねー」

ゼンは毎朝、可愛い奥方に髪を結ってもらっている。

性格的にリボンなど嫌だろうに、生真面目で融通が利かないわりに、愛妻家の彼はなすがままだ。


照れ隠しか、ゼンはひとつ咳払い。


「話を逸らさないでいただけますか」


「何モメてんの」

木の上から声が落ちるなり、眠そうなヴァルが地面に飛び降りてきた。

たちまち、ゼンの不審と不快の双眸が、彼を射抜く。

「貴様、いつからそこにいた」


「あれ、気付いてなかった?太守殿の護衛失格だよ、それ」

無気力な返答は、挑発どころかゼンの敵意などどうでもいいと思っている証拠だ。

ゼンの額に青筋が立った。

絵に描いたように不真面目なヴァルと生真面目なゼンの間で、一方的な敵意が迸る。

一拍置いて顎を引いたゼンは深く息を吐き、ヴァルを無視した。

片づけを続ける私へ身を乗り出す。


「ユカ様、出かけるのはいつでも可能です。殊更に今日、外出なさらずとも」

「うーん、そうなんだけど」

首を傾げる私を庇って、フリーダが前へ出た。

彼女が突きつけた視線の切っ先に、ゼンは怯む。

「くどいですよ、ゼン殿。なぜユカ姫様の邪魔をなさるのですか。悪意が感じられます」

苦々しげに、ゼンは一言。

「言いがかりだ」


「事実を申し上げているまでです。これ以上邪魔立てすると、一週間は眠れなくなる香を嗅がせて差し上げますよ」

フリーダは見るだけで凍りつきそうな目で言った。

私は、青ざめた侍女の項に呆れた視線を向ける。

一見冷淡な彼女だが、実は総毛立っていた。

(ゼンが苦手なら、割って入ることないのに)

ゼンが苦手。

というより、正確には、フリーダの苦手なものは。

髭だ。

生理的に耐えられない。

二度と戻って来られない地底にいるみたいな顔で、フリーダはいつも深刻に呟く。

ゼンの奥方が、髭は彼のセクシーな魅力の一つ、とうっとりしているのを見たことがある私としては、なんともコメントのしようがない。

私自身は、髭はゼンが数多く持つ特徴の一つ、という程度の認識しかもっていないわけだが。


一方、フリーダが苦手なゼンは額に冷や汗を浮かべ、それでも徹底抗戦の構えだ。

「わたしは、ユカ様の命を簡単にまな板の上に乗せるわけにいかんと言っているだけだ」


「はーいはい、そこまで。落ち着こうね、心の友よ」

フリーダが優位なようで、一皮めくれば決死の攻防戦にイエルが水を差した。

朝一番に会ったことも忘れていたゼンの背中に覆い被さる格好で肩を抱き、隠すつもりもない声音で耳打ちする。

「オレ経験あんだよ、フリーダちゃんの不眠香。あれってキツいんだよな」

「だからと言って、ここで退いては」


イエルの逆側からカサネが口を挟んだ。

「眠れなくなるお香なんてあるの」

「おう。ありがたくもフリーダちゃん謹製」

「最近仕事が詰まっているからちょっとほしいかも」

「カサネの銀細工、人気あるからな。オレも昔職人業にハマったけどすぐ飽きちまった」

「イエル飽きっぽいもんね。なんでも器用にできるのに、勿体無い」

「フッ、そんな褒めるなよ。オレは器用貧乏の手本だな」

「手本? 参考にならないのに?」

「お前キツいね、時々」

「最近は何にハマっているの」

「料理。今度食いに来いよ」

「鶏肉はだめだよ」

「分かってるってぇ」


底抜けの能天気さにフリーダとゼンは、あからさまに気が削がれた顔になる。

ヴァルは無関心に、大きな欠伸をした。


ヴァルの大口を尻目に、私が茶器をすべて盆に乗せたところで、タキがぽつりと言う。

「出不精のお前が、疲れているときに外出か」

意表を突かれ、私は目を瞬かせた。


よく分かっているものだ。

確かに、私は人ごみが好きじゃない。

館で静かに本を読んで過ごすのが、一番好きだ。

もしくは、人気がない森の中でのんびり散歩をする、とか最高だと思う。


特に、あんな騒動があった翌日は。


私は内心、舌打ち。

「ゆっくりしたいけど、急用ができたのよ」

また、胸の中央から痛みが走る。正確には、胸と鎖骨の間付近。

これさえなければ、今日は館でゆったり過ごしたのだ。

紺碧の瞳が刹那、鋭利に私を射抜く。たちまち、悪寒が背中を滑った。




「何を隠している」




心の裏側まで射抜く眼光。

とはいえ、タキが本気で知ろうとしたなら、この程度ではすまない。

本気なら、力づくで心を手繰り寄せ、抵抗も捻じ伏せ、押し開かれる。

この男は、いつだって力技で強引に事態を解決する。


今は違う。かわせる。


私は黙って微笑んだ。

うまく平静を装えた自信はないが、タキは追求してこなかった。

口にしたのは、淡々と、ただ一言。

「無茶はするなよ」


「よろしいのですか、タキ様」

ゼンに頷き、タキは私に尋ねる。

「出かけたいのだろう」

「準備万端よ」

「なら、構わん」


「タキ様」

ゼンが咎める声を出した。

「あと数日は、まだ危険です」

「滅多にない、ユカの我侭だ」

タキは、表情一つ変えない。と言うのに。




「…かなえるさ」




鬼気が、ゆら、と陽炎みたいにタキから立ち昇った。

とたん、周りが真空と化したように、音を立てて軋んだ。

身体が声にならない悲鳴を上げる。

息どころか、心臓が止まりかけた。

背に冷や汗が伝う。

岩も大地も新緑に染め抜かれたような庭で、恐怖に固まった全身の皮膚が粟立った。


皆、青ざめ、声もない。


タキが呼吸同様自然に放つ、この手の凄みに、私は未だ慣れなかった。毎回寿命が縮む。

息が止まるかと思った圧迫が薄まるのを見計らい、


「…怒ったの?」


なるだけ平然と、私は訊いた。タキは淡、と応じる。

「ユカが思うなら、そうだろう」

タキ以外が言ったなら、とぼけるなと締め上げるところだ。

涼しいほど沈着なタキを前に、私は全身を絞り上げるように嘆息した。


老成した鉄壁の理性を持つ彼は、そのくせ、赤子のような感情の持ち主だ。

呆れるほど未成熟であり、興味がないと言わんばかりに己の感情に疎い。


他人の心はたなごころを指すように見透かすくせに、己の心はさっぱりなのだ。

やたら矛盾した男だった。


本人にも分からない心理が、私に分かるはずがない。

とはいえ六年、共に過ごしたのだ。

自分の精神や命を守るためにも、タキの地雷を知る必要が私にはあった。

この男は心臓に悪い。

だから、どうにかある程度のことは把握していたが、今回は何が気に障ったのかよく分からない。

大まかの予測はつくが、それは絶対的な正解ではない気がする。


なんにしろ、タキ相手に口に出してはいけない最たることは、ひとつ。

身分について、だ。

タキは一傭兵から今の地位に成り上がった。革命によって。

傭兵となったのは、親の顔も知らない孤児が、戦場をさ迷ううちに、自然とその職業を選んだだけの話だそうだ。

似た境遇の者は多いだろう。

なにせ、戦争がある以上、彼らは食いっぱぐれない。

その境遇を隠してもいないのに、タキはこのことに、やたら劣等感を持っている。

身分などなくとも、いやみなほど完璧な、この男が。

いや。


タキは、完璧であろうと努力しているのだ。

たとえ、そうは見えなくとも。

おそらく、努力するまでもなく彼は完璧に近い。

そんな男が、さらに努力しているのだから、結果は推して知るべし、だ。


なのに、彼には劣等感がある。

その理由は、未だに私には分からない。

孤児で、生まれが卑しく、名すら自分でつけた、というところに感じるようだが、彼らしくない。

タキならば、それがどうした、と鼻で笑いそうだ。

身分など必要ない、自分は自分だ、と平然としている。

無闇と身を竦めて小さくなったりしない。


それが似合う。いや、普段から、そうしているではないか。


ところが、自ら生まれのことを公にしながら、今なおそれを口にされると憮然とする。

形だけとは言え、私を妻に迎えたのなら、その点は解消されたとしてもいいはずだ。

ところが、そういう問題でもないらしい。

タキが何に対して劣等感を覚えるのか、私にはその対象が分からなかった。


世間体だろうか? …そんなの今更だ。

前太守を殺していながら。

ならば、他の高貴な相手に対して思うところがあるのか。

…そんなわけもない。血統を誇る相手にタキが卑屈になったところなど見たことがなかった。

むしろ、それのみの相手には存在価値すら認めていないところがある。


いつだって、この辺りまで考えて、私は思考を投げ出す。


結論。

やはり、よく分からない男だ。


とはいえ、タキの内心は理解不能だとしても、私が彼に親近感を持つとしたら、そこだ。

劣等感を持つところ。

それがなければ、この完璧な男は夜空に浮かぶ月めいて、遠い。

手の届かない場所で、ただ冷たくかがやいている。

ところが、そうではないのだ。そこに、ホッとする。

根暗といわれようがなんだろうが、そう思うのだから仕方がない。


私の劣等感も生中のものではない。なにせ、血筋が血筋だ。

表でも裏でも、微に入り細を穿ち罵られれば、自分に嫌気もさしてくる。

この血のせいで、どれほど誹謗中傷を受けたことか。

反面、妙に尊重されることもあるが、それは私が受け継いだ血に対する尊敬だ。

そんなもの、私はいらない。第一、その血を私は嫌っている。


なにより、私自身がしたことならともかく、身に覚えもないことに対する感情を向けられるのは、はっきり言って気持ち悪い。


それに問題は、血統でも性格でもない。

内面がどんなだろうと、タキはやるときはやる。そこが重要だ。

独断は毎回、本当に勘弁してほしいが、タキが導き出す結果はまったく望ましいもので、だから私も協力は惜しまない。

タキと何かを、共に為すこと、そのことに、誇りさえ感じる。

タキのことを好きにはなれないが、それとこれとは別問題だ。なのに。


私は額を押さえた。

「アナタって、心が狭いわよね。いえ、小心者なのかしら。私を外に出すのが怖い? 今更逃げないわよ」

(危険だって心配するより、きっとこっちを疑ってるわよね…それで不機嫌なんだわ)

タキはあくまで、泰然。

つけ込む隙一つない。

今私が言った言葉など、謂われない非難そのものと言わんばかり。

何も感じてないってふうに。だが。

「そうか」

否定もせず、頷くタキ。


…そこはまず、否定してほしかった。


次いで、座ったまま私をじっと見上げ、脈絡ない言葉を、ぽつり。

「…笑わんな」

「私? なに、いま何か面白いことあった?」

私は面食らう。ゆったり首を横にふるタキ。

「外出を許可したろう。…喜ぶかと思ったが」

私は内心、ぎくり。


そうか。

ゴネたのは私なんだから、ここは喜ぶべきところだった。


私としては、外出したいと言っても、それは楽しいことではなかったから、喜ぶどころじゃなかったのだ。

けど、タキにも、そこまでの考えはなかったらしい。

単純に、私が笑わなかったことが分からない、というだけのようだ。

タキは一見、どうでもよさそうに、一言。


「お前はよく分からん」

(気が合うわね)

お互い、似たことを考えている。

頭を一度振って、私は無難な言葉を口にする。

「もし何かあっても、タキに迷惑はかけないわ」


「そうか。…俺も出かける」

タキは物静かに立ち上がる。ゼンが恭しく頭を下げた。

「はい、道具は用意しております。執務室の方へ」

一息沈黙し、タキはゼンを一瞥。


「俺はどこへ行くか言ったか、ゼン」

「いいえ。ですが昨日なんとなく思いついて、準備しておりました。釣りでしょう?」

『怪物』と呼ばれる東の太守のごくささやかな趣味。



館近くでの川釣り。



「…俺が釣りへ行こうと思ったのは今朝だが」

まあいい、とタキは流したが、イエルは遠巻きに呟く。


「ゼンの奴、大将のこととなると毎度ながら異常な勘」

「すごいや、尊敬しちゃうな」

「よせ」

目を輝かせるカサネに、イエルが必死で首を横に振った。

梟は胸毛に嘴を突っ込んで、我関せずと居眠りしている。


「ユカはどこへ行く」

「オリガの店よ」

タキの大きな手が、私の肩を軽く叩いた。

「気をつけろ」

「タキもね」

タキは素っ気無く踵を返す。

フリーダとヴァル以外の全員が、タキの後ろに続いた。


見送り、私は厨房へ足を向ける。

とたん、胸の真ん中から手足の末端まで、痺れめいた痛みが突き抜けた。

思わず息を詰める。

「ユカ姫様っ?大丈夫ですか、お持ちいたします」

持っていたお盆を、心配性のフリーダが横から攫った。

ふと、ヴァルの顔が険しいほど真摯になる。



「毒のにおいがする」



「昨夜の、…手荒な挑戦状よ」


吐き捨て、私は胸元を掻き開いた。

丁度胸と鎖骨の間の中央付近に、豆粒程の大きさの白い破片が埋まっている。

血は出ていないが、そこから薄気味悪いほど冷たい毒が広がり、体内で脈打っていた。

見えない力が肉体の均衡を、混沌に溶かそうと蠢いている。


目を逸らし、ヴァルは呟いた。

「ユカの命は、保って七日ってトコだね」




そう、七日だ。妙な符号である。

あの役人も、七日と口にした。偶然だろうが。




「よく分かったわね。私は昔、本で読んでこの毒の種のこと知ってるけど、ヴァルのは勘?」

「んー…、感覚、かな。なんとなくそんな気配がするってだけ」

私は小さく息を吐いた。ヴァルは鋭い。

なにより、彼の場合。

「まぁ、こんなだから、しばらくヴァルとは一緒に行動できないのよ」

「…そう、だね。仕方ない、か。おれの体質考えると、一緒にいたらその症状、必要以上に進行早くなるだろうし」

ヴァルは肩を落とす。



そう、彼は少し、特殊な体質の持ち主だ。



私はその背を、ぽんぽん。

「昨夜植えつけられたばっかりだから、今日は大丈夫と思うし、護衛、お願いね」

「うん」

素直に頷くヴァル。

私は硬直しているフリーダを見遣り、苦笑。


「この破片、今でこそ白いけど、七日後には真っ黒になるでしょうね。そのときには、毒は致死量に至るって寸法。時限式の毒殺法なんて、えげつないわよね」

「…なんですって?解毒剤はあるんですか?」

「普通の解毒剤じゃ、意味ないよ。一種の呪いみたいなものでしょ、それ」

ヴァルの言葉に、そんな、と呻くフリーダ。


「でも目星ならつく。ね、ユカ」

ヴァルが同意を求めてくるのに、私は頷く。

「ここのところ広まり始めた、前太守の隠し財産の噂と、あの番人はつなげて考えていいと思うのよ。その財産の噂が広まり始めたから、番人も動き始めたんじゃないかしら。…あくまで勘だけど、正解だと思うわ」

「だよねぇ?それがだめなら、完全に打つ手なし。でも大丈夫だよ。きっとこれで正解。なんだか最初から、ユカを誘ってるみたいな噂だったじゃない?」


「待ってください、あの噂とあの番人とがつながるとして、それでどうやって解毒がかなうんですか?」

フリーダの必死な声に、私は自分の思考もまとめるように、口を開いた。


「番人たちは、何かを守るために存在している。何かを隠しておくための存在。つまり、この場合、隠し財産のありかを誰かに知られたら、番人の存在意義は消える。同時に、この毒も消えるって寸法よ」

私としては、理路整然とまとめたつもりだ。が、

「そんな…雲を掴むような話…すべて推測の域を出ない、んですよね?」

愕然としたフリーダは、泣きそうな顔。

私は襟をきちんと直して言った。

「私はまだ生きているわよ、暗い顔しないで。死にたくないから、今から町に出て噂を探ろうと思ってるわけだし」

「しかしユカ姫様、わたくしのせいで」

(ああ、やっぱり、そこか)

昨夜、私が庇ったことを、フリーダは気に病んでいるのだ。

「最初から、私が狙いよ。フリーダじゃない」

気休めではない。おそらく、この推測は正解だ。

思いつめた彼女に、からりと笑ってみせる。





「それが間違いだったと犯人取っ捕まえて後悔させてやるわ」











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