終章
カーターが東府から姿を消して三日後の早朝。
私は、館近くの川へ足を向けた。
川のそばは涼しいが、風のない日だ。
水面には、釣り糸がまっすぐ垂れていた。
近付いても身動ぎひとつせず水面を見つめる横顔に、私は呆れて声をかけた。
「…これはけっこう、大人気なくない? いつも思うけど」
指差した先には、タキの横にある魚篭に貼られた貼り紙。
そこには、流麗な文字でこう書かれていた。
『死にたくなければ問答無用』。
ゼンの字だ。
字は惚れ惚れするほどうつくしい。絵と違って。
私は、手に持っていた紙をさりげなく後ろにまわした。
「仕方あるまい」
前を向いたまま、タキは厳かに言う。
「思索の邪魔をされると殺したくなる」
と言ったところで、何度も邪魔している私がこうして無事なのだから、ただのポーズに決まっている。
過去タキがいないところで私が笑い飛ばしたとき、ゼンやイエルは青ざめて首を横に振った。
それ以上何も言わなかったが、なんだか不吉な沈黙だった。
「我慢しなさいよ」
「我慢は他でしている。過ぎるほど」
物静かな語調と容姿に大概の人間は騙されるが、タキは妙に駄々っ子な面がある。
ついでに、こうして、ふい、と一人になりたがる不思議な孤独癖があった。
やれやれ、と肩を竦め、私はタキの背後に腰を下し、彼の背中にもたれかかる。
タキが釣りをしているということは。
「一段落着いたのね」
「ああ」
昨日、久々に町に出たときの事を思い出し、私は頬を綻ばせた。
「あの人のこと、世話してくれたのね」
「ゴルベの妾か」
タキの命令の下、ゼンは、ゴルベの下で働いていた者たちの仕事の世話までしてくれていた。
助けると言っても具体的にどうすればいいか分からなかった私は感謝している。
彼女は、元気そうだった。
はかなく見えても、今日まで生き残った女だ。
きっと強かに生き延びてくれる。
ニマついていると、タキがぼそりと呟いた。
「お人好しめ」
「何か言った?」
「…前から言おうと思っていたんだが」
「だから、何よ」
「そうやってくっついてくるのは止せ」
タキの背中にもたれかかっていた私は面食らう。
あまりにもいまさらなことだった。
それに、いやならタキが避ければいい。
許すのは、タキだ。
「なんで? 前からのことじゃない」
「確かにな。だが、いつからか、そうされると」
タキの声は、あくまで泰然。
「たまに壊したくなる」
…カチンときた。
だからあえて、私はタキにぐいぐい背中を押し付ける。
というのか、タキを川の方へ押しやった。
無論、タキはびくともしない。
「なにをしている」
私は舌打ち。
「…チッ、頑丈な…なんにしても、今更ね。タキが私を嫌ってるのなら、今よく分かったわ」
「嫌ってはいない。たぶん」
そこで、『たぶん』がつくのが、いかにもタキだ。
だが実際、彼にはそれが正直なところだろう。
タキは、自分自身のことだけ、理解できない。
(嫌ってないなら、壊したくなるってなんなのよっ)
タキを押しやるのにも精神的にも疲弊した私がおとなしくなるのを見計らって、タキ。
「今なら、町に出るのはいいが、言いつけた仕事は終わったのか」
「終わったから出たのよ。成果はゼンに聞けば?」
「ゼンか。ユカが東府に詰めっぱなしだった間、ユカがばらまいた金貨探しにも借り出されていたぞ。礼を言っておけ」
「…反省しているわ」
謝罪もお礼も迷惑をかけた全員に、誠意を込めて口にした。
その裏側で、彼らの目を盗み、庭にばら撒いた金貨を一枚くすねたことは秘密だ。
それは東の国境付近にある商家、フィール家に送った。
誰がどこから送ったか分からない細工をしたが、エマたちは金貨を見れば分かるに違いない。
ちょっとした、記念だ。
いやがらせではない。
「ゼンには感謝しているけどね…この手配書はないんじゃないかしら」
私は手元の紙に目を落とした。
似顔絵が描かれている。
ただし、似顔絵と主張するのは描いた本人だけだ。
タキは一言。
「いい出来だ」
似ている、とは言わなかった。
ゼンが描いたのはカーターらしいが、斬新な抽象画としか見えない。
絵はさておき、カーターの手配書が出回った理由はひとつ。世間の目だ。
太守の館が襲撃され、豪商ゴルベが『行方不明』になったことは事実。
東府の執務室では、それら一切の責任をすべて、架空の賊に押し付けることに決めた。
結果、見るなり顔をしかめる奇天烈な手配書の出来上がりと言うわけだ。
描かれているのが誰かも分からない手配書。
対照的に、うつくしい字で記された偽名。
衛兵たちが、手配書の絵描きを呪う声が聞こえそうだ。
歪んだ上司を持つと、結局苦労するのは下っ端である。
「本気で褒めているの、タキ?」
「無論。それ以上の傑作はない。最高にいい出来だ」
言葉を重ねるごとに嘘っぽいが、タキは真剣だった。
「中央府の官吏、もしくは宰相閣下が関わっていると悟るものが出てはならない。人間とは思えないその絵なら、そもそも誰か分からない。素晴らしい才能だ」
似顔絵をタキに褒められ、ご機嫌だったゼンを思い出し、私はそっと目尻の涙を拭う。
大丈夫だ、今日のゼンのリボンは端っこがカールした赤とピンクだった。
奥さんと仲直りできたに違いない。
「クラン宰相もそれを見ただろうな」
タキの言葉に、私は手配書の真意を理解した。
カーターへのイヤガラセだ、間違いない。
手配書は、あの翌日爆発的に流布したから、確かにカーターの目に止まっただろう。
彼はまだ東府にいるのだろうか。
「カサネから聞いたけど、ナツメがカーターを追ったのよね」
「また余計なことをされてはかなわんから、監視をかねてな。昨夜、ナツメから連絡が来た。カーターは東の領土を出たそうだ」
ナツメが請け負っていたタキの仕事と言うのが、カーターの監視だった。
「いなくなってせいせいしたわ。東府がようやく落ち着いてきたって言うのに、引っ掻き回してくれて。…にしても、なんで今、ちょっかいかけてきたのかしら」
不貞腐れた私に、タキは平坦に言った。
「お前が年頃の娘になったからだ」
「…は?」
「あの男は、東の太守夫妻の間に子供が儲けられては手遅れだと判断したのだ」
タキの台詞は他人事のようだ。
が、私は背に感じる体温が居たたまれなくなった。
正統の後継者とタキの血を引く子供が誕生すれば、タキの地位がより確固なものになる。
そういうことか。
思えば、最初に、その手の質問をされている。
それについては、それ以上何も言わず、タキは話題を変えた。
「ユカが屋根を抜いたあの館」
「…いちいち引っかかる言い方ね」
「この機会だ、全部壊す」
あの地下からは、展覧会でも開けそうな数の拷問器具が出てきた。
見ていた誰もが次第に口数を減らし、青い顔になったほどだ。
さすがに気持ち悪いから、反対する者はいまい。
とは言え。
私たちの関係が変わるわけでもない。
そう、思うものの。
今回の騒動で、少し、疑問に思ったことがある。
ちょっとした好奇心で、私は尋ねた。
「なんでタキは、私と結婚しようと思ったの」
確かに、太古の名門の名は、武器になる。
ただし、諸刃の剣なのだ。
ユカの父は名門の血より、行状の悪名が名高い。
取り込むのは、危険と隣り合わせだった。
それはユカとて分かっている。
だが彼女自身も、公的な立場で見れば、自分にその血統にしか意味を見出せなかったため、タキは太古の名門の名を欲しただけと思い込んでいた。だが。
カーターとのやり取りを思い出す。
太古の名門の血、それだけで、タキはユカを選んだわけではないのか?
「報酬だ」
答えはあっさり、気のない声で返った。
しかも、意味が分からない。
「結婚が? そもそも報酬って、何のよ? 私、何かしたかしら」
タキは一拍、沈黙。
独り言のように、ぼそり。
「…今のユカになら、話してもいいが…、本当に知りたいのか?」
「というかね、これって今更の質問じゃない? 普通は結婚前に聞くと思うんだけど」
私はタキと自分に呆れたが、あの頃、そんな余裕などなかった。
以後もそうだ。
なにより、私は思い込んでいた。
出会い頭のタキの求婚は、私の身体に流れる太古の名門の血に対してのものだと。
そうでなかったというなら、理由を知りたいと思うのは、当然だろう。
私は、答えようとするタキに、念を押す。
「丈夫で長持ちだからじゃないのね?」
「なんの話だ」
どうやら違ったらしい。
頷き、改めて尋ねた。
「報酬って、何の報酬?」
「命を救われた、報酬だ」
タキは気のせいか、やさしい声で続けた。
「願うのは、家族、そして親しい者たちと笑い合って過ごすこと。贅沢を言えば、もう少し、世間が平和であればいい」
全身を、落雷が貫いたかと思った。
弾かれたように、タキの正面へ回り込む。
肩に手をかけて、タキの顔を覗き込んだ。
一点の濁りもない澄んだ紺碧の双眸。
これだけは六年間ずっと変わらない。
「それって」
唇が、慄くように震えた。
「お前の、願いだ」
タキの言葉が私の胸に、砂漠に落ちた一滴の水みたいに染み渡る。
六年前封印し、以後口にしたことは一度もない願いだ。
タキが知るはずはない言葉。
知る機会があったとすれば、彼が東の太守を襲名する以前。
タキは、戦場育ちの傭兵だ。
今の彼がどれほど強くとも、過去、激しい戦乱の中無傷で過ごせたはずはない。
幼かった分、傷つき、倒れ、死にかけただろう。
そのとき、私たち家族が住む家に、訪れなかったと言い切ることはできないのだ。
だが、いつ。
こんな強烈な男が現れた記憶など、私にはない。
いや、昔の彼が、今とそっくりそのまま、同じのはずはないが。
それにしたって。
混乱の中、私は思い出す。
恩には必ず報いる、と出て行った兵士たちの背中。
―――――命を救われた、報酬。
タキは私を見ようとしない。
川の水面を、じっと見つめている。
「だが、お前は革命を望んだわけではない。六年前の叛乱の責任は、すべて俺にある。お前の願いとは無関係だ。お前は、ただ」
水のかがやきに目を細め、タキはぽつり。
「言葉どおりのことを願い、無邪気に口にしただけだ。お前は革命など、願わなかった」
私は面食らう。
タキが示した、繊細な気遣いに。
きっとタキは、こう思った。
タキの行動がかつての私の願いをきっかけに行われたのだと知れば、私は自分を責める、と。
父をタキが殺した、そのことも、自分のせいにして。
…だから、なのだ。
このことを、タキが私に告げなかったのは。
なのに、
―――――今のユカになら話してもいい。
彼は今になってそう、判断した。
確かに。
以前の私なら、…子供だった頃なら、きっと自分を責めていた。
無知ゆえに、狭い視野で、狭い心で。
だが、今は。
多くのことを、知っている。
タキのこと。
父のこと。
六年前まで続いた、乱れた世。
―――――そこから繋がれ、紡がれてきた現在。
新たに知った事実に何も感じないほど、無神経ではないけれど。
無闇と自分を責めることは、愚かだ。
「だが俺は最初、東の太守を襲名する気などなかった。その立場に立つのに相応しいものなら、別にいる」
この日はじめて、タキは私をまっすぐに見た。
私は言葉もない。
ただ、タキの言葉に耳をすませた。
「俺は次への繋ぎ、もしくは暫定的な立場として太守を襲名した。なにより俺は血塗られすぎている。太古の名門の血を、この手にかけたのだ。共についてきた連中も、…民も、俺を拒絶するだろう、そう思ったから、前太守を殺したことを、むしろ喧伝した。事実、俺は残忍さを本質に持っている」
タキの声は静謐。
余韻するのは、嘘のない真摯な響き。
つまり、タキは前太守をその手にかけた後、…おそらく、姿を消そうと思ったのだ。
引き止めたのは仲間、そして、民。
理想を夢見るにはあまりにも長く戦乱の世を味わった領民たちは、どこまでも現実主義だった。
新しい指導者を選ぶのに、甘い理想ばかり唱えて何もしない血統だけの役立たずより、口にした言葉を実行し、指揮能力に長け、混乱を手早く収束する能力を兼ね備えた実力者を選んだ。それだけの話だ。
しかも、タキは欲を持たない。
忠誠揺るぎ無い配下の中には、戦ばかりでなく、政の玄人も多い。
戦乱の中、身を守るため否応もなく、領民たちの人を見る目は磨かれ、なにより東の領地に住む彼らの精神はあくまで公平な傾向にある。指導者に求めたのは、実務能力。
その点、タキは最適。
しかも、あくまで領地の繁栄に努めた。
自分たちに満足を与えてくれる領主を、民が逃がすはずはない。
結局、タキは望まれて、未だ太守の地位にある。
それを、彼自身が望まなかった、とは私はこれまでまったく考えなかった。
男と言う生き物は、地位や栄誉を望むものだと思っていたから。
だが確かに望まない方が、タキらしいのだ。
彼を知るものには、そのほうが、よほどしっくり納得できる。
ずっと、疑問に思っていた。
なぜタキは、こんな面倒な役割を引き受けたのだろうか、と。
その疑問が、少しずつとけていく。
「なら。私を妻に、と望んだのはもしかして、…私を、まもるため?」
たとえその他大勢が彼を指導者に望んだとしても、反対する者は確実に存在する。
そういった相手が御輿に担ぎ上げる人物がいるとすれば、それは。
「…それも、ある。同時に、今回、お前を中央府へやるか否か迷ったように、お前に相応しい地位を与えるためもあった」
「相応しい地位って…やめてよ。私、アナタにかなうつもりはないわ。それに私は、タキと結婚してるのよ? 中央府へ、なんて無茶苦茶すぎる」
思わず言った私に、タキは淡々。
「だが、結婚当時、ユカは子供だった。俺とお前に男女の交渉がないのは、はっきりしていた」
「…はい? ちょっと待って。でも今は」
「…俺は、ユカがここまで成長するまで共にいるつもりはなかったのだ」
タキが見せたのは、なぜこうなったのか、自分でもよく分からない、という目。
タキが分からないのなら、私にも分からない。
困惑の空気の中で、タキは物騒なことをぼそり。
「むしろ、共にいる時間が長ければ、殺してしまうと思っていた。だから、早めに離れるべきだと考えていたのだが。守るはずの相手を殺すなど、本末転倒だ」
「…タキらしいわね」
そのとおりだろう。
怯えるより、これにも私は納得した。
タキは短気だ。
それが、よく子供と気長に接することができたものだ。
実のところ、私は強情ながら、タキの前ではよく泣いていたのに。
複雑な気分で嘆息した私に、タキはもう一言、付け加えた。
「まぁ他のなにより、妻問いの一番の理由は、…すべてを失ったお前に、家族を与えるのに手っ取り早いと思ったからだ。うまくは、いかなかったが」
感情の乱れがない語調。なのに。
とたん、私の胸のうちから、こみ上げるものがあった。刹那。
その、祈りに近い感覚が、弾むように私の喉から飛び出した。
「…っぷ、く、ふ、あは、あははははははははははっ」
おなかを抱えて笑いはじめた私を見たタキが、目を見張る。
この六年間ではじめて見る、あからさまな動揺を、じっくり観察する余裕は私になかった。
狂う一歩手前で、心が喜びに踊る。
なんて人だ。
大河の急流に混じった一滴の海水みたいな、ちっぽけな願い事。
それを、タキはずっと覚えて、子供が宝物を大事にするように抱えてくれていた。
どこかズレているのも、たまらないほどいとおしい。
家族。
それならもう、ここにあった。
この館に集った皆。
彼らと、タキと、共に乗り越えてきた日々。
たのしいばかりではない。
どちらかと言えば、血塗られている。けれど。
たいせつな、思い出たち。
そして共にあった皆、私の家族。
「た、タキ、アナタって、もぉ…っ」
息を整え、私は笑いすぎで目尻に浮かんだ涙を指先で拭う。
顔を上げた先で、タキは。
―――――私は目を瞬かせ、絶句した。
タキが、微笑んでいる。やさしい、飾らない笑顔で。
天変地異でも起こるかと思うほど驚いた。
同時に、胸の奥が泣きたいくらい熱くなる。
タキの笑顔が、私の遠い記憶を刺激した。
どこかで見たことがある。
逃げようとするそれの尾を慌てて引っ掴み、私は過去に潜りかけた。
とたん、急速に感情が鎮まっていく。
よく思い出せ。
今までタキは私に、どんな仕打ちをした?
修行僧より過酷な日々が、走馬灯のように脳裏を巡る。
一発で冷静になった。
「もう笑わんのか。…はじめて会った時は、よく笑う子どもだと思ったものだが」
確かに、あの森での生活の中、私は笑顔を忘れなかった。
そうすれば、暗くなりがちだった家の中も、人も、すこし明るくなったから。
タキはいつもの顔で言う。
微笑は、拭ったように消えていた。
多分、私も今のタキと同じ顔をしているのだろう。
そして、私が笑えばタキも笑うのだ。
感情が未発達な男だと知っていたのに、こんな簡単なことに、どうして気付かなかったのか。
思ってもいない場所から、思ってもいない贈り物をもらった気分だ。
なんとなく、私は咳払い。
無言でタキから離れ、背中合わせに座りなおす。
しばらく、黙って。
慎重に、言葉を紡いだ。
「…ねぇ、あとひとつだけ、聞きたいんだけど」
「なんだ」
躊躇いつつ言った私に、律儀に返された言葉を聞きながら、緩く目を閉じた。
しずかに尋ねる。
「―――――父は、アナタに殺されるとき、…微笑んだんじゃ、ない? ―――――やすらかに」
この、六年。
父を理解していくにつれ、確信したことが、ある。
自分ではどうにもならない狂気に怯え、…彼もまた、死を望んでいただろう、と。
ならば。
タキが与えてくれた死は。
―――――彼にとって、待ち望んだ救い。
…だと、すれば。
タキは仇、どころか。
これは、私の願望だろうか?
―――――一瞬、言葉に詰まったような沈黙が周囲に落ちた。
やがて、返されたのは、私以上に静謐な声。
「…なぜ、知っている」
(―――――あぁ)
私は早朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
ついさっきより、ずっと楽に呼吸ができる。
気分がよかった。
血の業に、ずっと塞いでいた気持ちが、今は雲の上を歩いている。
間違いだらけの男だが、本当に誠実なのだ。
―――――狂ったなら、殺してくれるという約束を思い出す。
(でも)
できるなら。
…その約束は、永遠に果たされないよう。
自分をあきらめていた私はこの日はじめて、そんなことを心から祈る。
(だって、)
背中に感じる、タキの体温。
じわり、私の身体に移っていく。
「…報酬なら、もう十分以上にもらったわ。でもね、まだアナタに自由はあげられない」
広い、おおきい、タキの背中。
安心する。
いとおしい。
タキの体温を背中に感じながら、私は自然と呟いていた。
「私は、これからもタキと一緒にいたい」
できるだけ、長く。
タキが返したのは、無言。だが。
その朝の釣果は、過去の記録を塗り替えた。
読んで下さった方、ありがとうございました!
あと少し、タキ視点のオマケ話がありますので、お時間ありましたらもう少しお付き合いくださいませ。




