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プロローグ

真っ赤に燃える空、山肌は橙色に染まっている。

烏は仔が待つ巣へと帰り、人の子もまた遊び疲れながらも親の待つ家へと向かって走って帰って行く。

 村は活気溢れる声が聞こえ、食欲をそそる煮物や焼き物の匂いが家々から漂っている、しかし、村から少し離れれば寂しい虫の声や蛙の鳴き声が響き人の姿など一切ない。

 村の外れには人が畏れ、好んで近寄る事のない小さな社があった。

 その社には、夢見様といわれる生き神様が居た。

 朱色の鳥居と石畳の道、手入れの行き届いた境内があり、奥中央には本殿が鎮座している。

 本殿に続く階段には新鮮な供物が置かれ、その横には黒い頭巾を深く被った黒い着流しの青年が腰掛けて景色を眺めている。


「お前にあの子を頼みたい」


 開け放たれた観音開きの扉の奥、真っ暗な闇の先からは鎖の擦れる音と機織の音、そして夢心地のような柔らかな青年の声が聞こえた、しかし頭巾の青年は返事を返さずに空を見上げ続けている。


「ちょっとー聞いてる?って言うか聞けよ、なんなの?生きてる?寝てるの?」


 機織の音が止み、声の主が入口まで近付き白い足が夕日に当たり橙色に染まっているが、顔は建物の影に隠れて見えない。


「きっとあの子は全てを絶望すると思うんだ、だから助けて欲しい。頼めるよね?」


 なおも返事をしない青年の態度に苛立ちを覚えた青年は、手に持っていた紡ぎ糸を力の限り勢いよく後頭部に向かって投げる。

 青年はその気配に瞬時に察し頭を避け、難なく糸を右手で受け止めると、背後から恨めしそうな視線が突き刺り嘆息した。


「チッ……外したか」

「大人気のないことを」

 口数少なく感情も何処か欠落している声で悪態を付くと、頭巾の青年が後ろを振り向いた。すると本殿の中から青年は満足そうに微笑んだ。


「お前が返事しないから悪いんだろ、なぁ頼むよ。俺とお前の仲だろ?」

「どんな仲」

「深い深~い、人には話せない仲」

「やめろ」

「と言ってもそういう感じに仕向けるから宜しく」

「自分勝手」

「今に始まったことじゃないだろ?俺はこういう性格なんだ、まぁその結果がこれなんだけどな」

 青年は乾いた笑い声を上げ拘束具の付いた足を見せる、頭巾の青年は痛ましい鎖を一瞥して正面を向く。


「あれは、貴方は悪くない」

「そう言ってくれるのはお前くらいだ」

「みんな分かってる事、貴方に落ち度はない、一つも」

「でも過ちは過ちだ……大切な人を失うと辛い」

 頭巾の青年はそれ以上何も言わず、膝に抱えている風呂敷包みを解く、中には無数の色鮮やかな紡ぎ糸があり、数個選び供物の横に置いた。


「新作の紡ぎ糸か!待っていたんだ、渋い色で俺好みだ!」

 紡ぎ糸を見た青年はキラキラと明るい声を上げて喜び、頭巾の青年は苦笑じみた笑みを口元に湛える。


「用事は済んだ、帰る……」

 ゆっくりとした動作で立ち上がり、階段を下りていく行く。

 その後姿に青年は消え入るような声で「頼むな」と呟く、その微かな声に足を止め後ろを気にする素振りを見せるが、腕に違和感を覚え両腕を前に出す。

 腕には白く輝く糸が巻きついており、その糸は薄れ肌に沁みこんで消え青年は苦笑した。

「お人が悪い」

 頭巾の青年は正面に手を翳す、空間に紋様が浮かび上がり、迷うことなく足を踏み入れ文様の中に飲み込まれた。

 紋様も次第に消え、肌寒い風が舞い、空に浮かぶ白い月が色付き始めている。

 頭巾の青年が帰ってしばらくの間、青年は戸口に腕を組み体を預けて境内を眺めていると小さな足音が遠くから聞え、優しく口の端を上げ闇の先を見た。

 闇の中から黒い異型の獣が現れた、紫色の瞳が光る。


「おかえり―――俺の大切な子」





約10年前に書いた小説を載せています。

未完のため、ハッピーエンド目指す為にアップしました。

頑張ってどんな話だったか思い出します、応援してください。

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