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毒竜に花束を  作者: 剛毛戦士
【4章】
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再会の約束

 

 大架橋の上では既に帝国軍と王国軍が剣を交えていた。

 競り合いの中を、魔王を乗せたゲオルギウスが駆け進む。

 剣戟、歓声、絶叫。

 弓矢の斉射に倒れたどちらの所属か不明な死体の上に堕落したワイバーンの骸が覆い被さる。火球が飛び交い、打ち上げられ、橋から押し出された悲鳴が落ちていく。両軍ともに魔王たちには目もくれず、ただ生き残ることのみに追われていた。

「嫌な予感がする」

 毒竜は立ち塞がる攻城兵器を薙ぎ払いながら、魔王に告ぐ。

「雨の匂いに混ざって、そぐわぬ匂いがある」

 不意に、地響き。

 大架橋が微かに振動し、砂埃が僅かに滑り落ちる。


「何だ――」


 気付いたのはゲオルギウスと魔王だけだったのだろうか。脚を止め、両端の巨大基部へ意識を向ける。振動が再度。今度は大きい。皆が異変に気づき、剣を止める。


 静寂。

 そして、振動。


 大架橋が、動き出す。中央に間隙。そして分断。

 橋桁が大きく持ち上がる。 王都へと続いていた唯一の道が、ゆっくりと断崖へ姿を変えていく。

「少し急く!振り落とされるなよ!」

 ゲオルギウスが告げて、全速力で大架橋の向こうを目指す。兵士たちが強大な振動に耐えきれず身を伏せた。故に彼らは出遅れた。震えに耐えきれなかった者たちから谷底へと転落していく。

 悲鳴。絶叫。怨嗟。

 兵士たちが思い思いの方向へ駆け出した。腰砕け、脚すくみ、逃げ遅れる。だが、橋は止まらない。橋は確かに角度を広げていく。

 阿鼻叫喚を駆け抜ける毒竜。


「あれは――」

 毒竜が嗅ぎ取った。

 花の香り。

 微かに、だが、確かに。

 視線の先、対岸に、いる。

 竜と人。妖と美。光と白。

 美しい羽毛に覆われた白銀の翼竜。

 四枚の翼は花咲くが如くたおやかに、柔らかく揺蕩う竜体を包む。

 鼻先より一角が斜光に反射して瑪瑙の如く煌めく。

「この匂い――"ヴィラ・ヴェラ"か!」

 毒竜が悍ましく叫ぶ。

 荘厳なる四翼の庇護の下、見目麗しい外見は女性と見紛う程の美青年が立っていた。金の長髪は緩く波打ち、蒼の瞳が輝く。

 魔王は赤き双眸に敵意を注ぎ、青年を睨んだ。

 旧知。

 同族と弟。

 どちらも自らを裏切った存在。

 魔王が雄叫びを挙げた。

「グリゼルダ――!」

 声に、青年は微笑んだ。

 

 キンッ――。

 瞬時、圧。

 耳痛むほどの高音。

 不可視の光が線となって、世界を削り取る。

 毒竜は間一髪、避ける。

 

 大架橋が大きく崩れる。

 音の一撃が、一直線上に、あらゆる生命を真っ二つに仕分けた。彼らは何が起こったのか分からないまま悲鳴を上げ、遅れた血潮を撒き散らして絶えた。

 混沌混乱極めた帷の向こうでヴィラ・ヴェラの喉元が膨らむ。


 キンッ――キンッ――。

 さらに、二撃。

 それらはゲオルギウスと魔王の位置から遠い。橋や飛爬虫の群れを攻撃しているのか。強烈な音撃が堅固なる大架橋を破壊していく。

 端は眼前。跳躍の構え。だが、向こう岸でも羽毛がきらりと光った。

 再射撃の構え。

「ええい!ままよッ!」

 ゲオルギウスが吼えた。大地を蹴りつけて、跳ぶ。大きく。前方へ。

 傍らを横切る音の刃。

 頭一つの差で避けた。

 風を捕らえて更なる跳躍。

 向こうの端が近い。腕を伸ばす。

 いける。

 達する――。


 魔王には、グリゼルダの唇が動くのが、見えた。


 またね――。


 突如。

 毒竜の横っ腹に鏃が連続して突き刺さる。

 爆裂。爆裂。爆裂。


 衝撃が、飛翔を妨げる。

 伸ばした腕は、空を掴む。

 視界の端に捉えた。

 宙空にてユニコーンに乗りボウガンを構えたクルーセルの姿。

 魔王と毒竜は谷底へと落下していった。


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