第27話 新居
1年前ロクが亡くなってすぐあと、フサがこの里を窺う姿勢を見せたことがある。
里長がいなくなり、混乱していると見込んでのことだ。
成人男子10名ほど引き連れ、それぞれが棍棒を持っている。
フサを最初に見つけたノブが怒鳴った。「何をしに来た!」
「お前らのバカ長が死んだと聞いて、お弔いに来てやったのよ。有難く思え!」そう言いながら、棍棒を察すっている。
「何を、弔いだと!棍棒をもってか?」里中にノブの声が響いた。
「どうした、どうした?」サジやツムが集まる。
「あれを見ろ、フサたちがこっちを窺っている。弔いに来たと言っているが、棍棒を持っている。」
「何だって?あいつら、俺たちを冷やかしに来たと言うのか。」
里から少し離れて広がる森。その森と里の境にフサたちはニタニタと笑いながら、こっちを睨みつけている。
当然、ノブ、サジ、ツムなどが睨み返す。そんな状態が数分間続いた。
「どうした?騒がしいな。」ケンも顔を出す。
「里長。フサがロクさんの弔いに来たと言って来たんですが、あの通り、棍棒を持っているんですよ。」ノブが返す。
「おい、フサ!弔いに来たと言うのは本当か?」
「おう、本当だとも、こうしてわざわざ弔いにやって来たんだ。通してもらおう。」
「だったら、棍棒をそこに置いて来い。変な真似をしたら、ゆるさん。」
そう言って、ケンはゆっくりと弓を取り出した。
それを見て、フサは舌打ちをして退却していく。
これは、大した出来事ではなかったが、ケンが里長としての、自立した時であった。
それから一月後、ノブとサジが二人揃ってやって来た。珍しく、真剣な顔つきだ。
「里長。何時までも独り身のつもりなんですか。」
「里長が独り身でいるなんて恰好がつかねえ」
「・・・」二人がこんなことを言ってくるなんて、ケンにとっては意外過ぎた。
「いや、俺はまだ若すぎるよ。」
そう答えるのも、ケンは16にもなっていなかったからだ。これまで大人以上の知恵を見せていて、誰もが里長に推したのだが、ケン自身まだ体が成人になってないと思っている。
生前、ロクにも「そろそろ、サヤと一緒にならねえのか」と言われたこともあったが、自分の年齢を考えて保留していた。
ただ、里長として恰好が付かないと言われると、反論が難しい。
「里長としての貫禄を付けなければならねぇ」口を合わせて言って来る。
「うーん。考えてみる」そう答えざるを得ない。
「サヤ、俺と一緒になってくれるか?」サヤと二人きりになって、確認するように聞いた。
ケンとすれば、若すぎると言われるのを覚悟で問いた。
ところが「あんた、やっと言ってくれたね」そう言って、抱き着いてくる。
この展開は思いもしなかった。
もう、承知するもクソもない。若すぎるなんて言ってられなくなった。
(俺はサヤとこれから一緒に生きる)覚悟が決まった瞬間だった。
その翌日から里の者全員で、小屋づくりが始まる。
ただ、以前は木を伐り出して、穴に差し込み2,3本の柱を立てれば、終わったようなものだ。
しかし「里長の家だから、見栄えを良くしないとならねぇ」ノブなどが張り切ってしまい、しっかりとした小屋づくりとなる。
4隅に柱を立て、周囲を板で囲うなど、明らかに“里長”のものだった。
ケンも周りの状況に押されるようにして、サヤに竈を贈ることにした。
「これを家に造れば、暖かいし、煙たくもない」
これまで、小屋の中で火を使うのは、囲炉裏形式で、煙が立ち籠る欠点があった。
ケンは煙突を伸ばして、小屋の外に煙を出すようにする。
「これで、煮炊きができるのね。」サヤは真新しい家に入って、目を開いて言った。
「旨い飯を食わせてくれよ」
「ふふ、・・」なんとなく顔を見合わせるのも照れ臭く、でも嬉しい。
こうして出来上がった新居で、若い夫婦の新婚生活が始まった。




