第26話 豊作
しばらく投稿を休みました。第2部の始まりです。
話は少し飛んで、3年後のことから始まります。
フサを追い払って、約3年、里は大きく変貌していた。
人が流入してきたのだ。旅の途中で立ち寄り居ついた者、フサの所から逃げて来た者、家族連れ、独り者が次々に来て、人口は3倍近く膨れ上がっていた。
当然、住居となる小屋の数は10棟を越える。
そして、これらの人々の腹を満たすべく、手も打っている。
まず、その一つは里の近くの沢から流れ出た先の沼沢地、ここに石を運び、あぜ道を作り、田圃を作った。
里から見下ろすと、春に稲代に籾を撒き、田に植え付けると、芝生が広がっているように見える。夏は稲が風にそよぎ、波が広がる。
そして秋には黄金の絨毯が広がっているようだった。
「ケンさん、この刈り取った稲穂を吊るすんですね。」新参者のイツが確認するように聞いてくる。
「そうだ。稲を乾かしておかないと、保存できないし、米にもならない。」ケンは自信を持って答えた。
里に近い沼沢地を切り開いた田圃。
新春に田を均し整然と稲を植え付け、そして秋に田は一面に黄金の穂を実らせている。
里の皆が、男も女もそして子供までが力を合わせてくれた成果だった。
皆で、植え付け、水の管理、害獣の侵入を防ぎ、そして今、実りの秋を迎えたのだ。
「誰もかもが協力してくれたおかげだ。これで旨いお米が腹いっぱい食えるぞ。」
「ケンさん、俺にここに来て良かったです。」イツの言葉には実感がこもっている。
フサの所にいた時は、何時も腹を空かせていた。森に入れば、獲物は捕れる。しかし、フサなどが食料を一人占めにし、イツなどの末端者には行き渡らない。成長期の彼は木の実や野草を食べて飢えを凌ぐしかなかった。それも人の目を盗んでしなければ、食べているのを見つかれば、お仕置きが待っていた。
だから、必死の思いで、ケンの里に逃げて来たのだ。
その一月後、広場では新米が焚かれると、食欲をそそる香りに、里の者全員の鼻はくすぐられ、口からはよだれが洩れている。
「皆に、ご飯が行き渡ったな。では食べよう。いただきます。」ケンが発する。
「「「いただきまーす!」」」一斉に唱和だ。
皆が、だれもが、同じようにむしゃぶりつく。
そして、「うめぇ!」の言葉があちこちから上がる。
その後に「あはは」と笑い声が起きる。
(もう食料に不安を感じない。森に行かなくても、いつでも旨いご飯が食べられる)誰もが思っている。
狩りに失敗しても、餌の心配はなくなった。
川で魚を取れなくても、腹は空かない。
こんな幸せがあるだろうか、米粒を噛みしめながら、里人は実感していた。
高倉には籾が詰まった俵がうず高く積もっている。
「やっとここまで来れた。」それがケンの実感だった。
1年前に、ロクが風邪をひいて、床に就いたかと思ったら、すぐ息を絶えた。あっという間のことで、混乱が生じたものだ。
誰を里長にするかと、皆が集まり、話し合った。
この時ケンが推されたのだ。
「ノブさんや、サジさんの方が僕より年上だし、ここに古くからいます。二人の方が里長になったほうが良いと思いますが」と辞退をした。
「そんなことはねえよ。ケンはいろいろ良く知っている。鍛治を知っているから、鉄器が使えるようになった。おかげで、木も楽に切れるようになって、丈夫な小屋も作れる。それに、おれたちじゃあ、米の作り方が分からねぇ。なあ、そうだろぅ、サジ。」
「ノブの言う通りだ。ケン、おめぇが一番コメ作りを知っている。おめぇが持って来て食わしてくれた米の旨さを忘れられねぇ。あの米を今後も食えるように、ケン、俺たちに教えてくれ。ヨシ、お前もそう思うよな。」
「ええ、お二方の言う通りです。まだ、私は此処に来て日が浅いのですが、ケンさんは本当に何でも知っていると思います。ツムさんもそうでしょう。」
「ああ、俺もケンがいいと思うぜ。俺よりも弓が上手いしな。」
「それじゃあ、女性陣はケンが長になるのをどう思う?」ノブは集まって来ていた、女性たちに聞く。
「私たちも、ケンさんが長になってくれればいいわ。」
「そうよ、ケンさんなら、包丁を研いでくれるから助かる。」
ノブとサジの女将が揃って、ケンを推した。
そんな事情で、若いながら、ケンが1年前から里長になっている。




