第25話 拒絶
すみません。今回も話が短いです。
男女は乳飲み子と幼い子を持つ若夫婦だった。
「あそこの待遇に我慢できなくて逃げて来た。」
ケンと同じように、山を越えてきたのだろう。違うのはケンがフサに嫌な感情を覚えたのに対し、この夫婦は最初からすっかり信用してしまったことだ。
ざっとあらましを聞いて、ロクを来てもらう。
「名前は何という?」
「ヨシと言います。嫁はヨシです。」
「それで、フサの所から逃げて来たのか?」
「あまりに待遇が酷くて・・。」そう言って、嫁の方を見る。言葉にならないが、“本当のことを言ってもいいか”と問いかけるような目つきだ。
それは嫁にとって、つらいことだと察しられた。
「ロク、この人の話を向こうの作業場で聞かないか?」
「ううん?ああ、そうか。分かった」ロクも分かったようだ。「ノブとサジにも一緒に聞いてもらう」
「お母、この人の面倒を見といてくれ」ケンは若い女を指差して言う。
「ああ、分かった。さ、こっちに来なさい。安心していいよ」ラムも話の内容で若夫婦に同情しているらしい、母子を手招きする。
作業場はケンの鍛冶場とロクたちの狩り道具の制作場になっている。前はただ穴を掘って、柱を立てただけだったが、今は壁で四方を囲っており、中を見られないようになっている。
その中で、ぽつりぽつりとヨシは語りだした。
「最初はフサと言う男は親切でした。でも少し経つと横柄になって行って、私らをこき使うようになったんです」
絞り出すような声で言う。
「あいつ、ヨシにまで手を出したんです。もう俺、我慢できなくて・・・・」
そう言ってそして悔し泣きし始めた。
しばらくは誰も口を挟めなくて、互いに顔を見合わせるしかない。
そんな時だった。里の外から、「ヨシ、出てこい!」と怒鳴り声が聞こえてきた。
外に出ると二人の男がいきり立っている。
「うるせいぞ!女子供が寝ているんだ静かにしろ!」ロクが応じる。
「男が来ただろう。さあ、出して貰おう。」
「そんな男は来てねぇ。さっさと帰れ。」
「そんなはずはねえ、ここに逃げ込んだに違いねぇんだ。早く出せ!」
「うるせぇ!そんな奴はいえねぇと言ってるんだ。帰れ!」ロクの凄い迫力のある言葉だった。
「う・」男たちは黙る。
更に、後ろにはケンたちも控えている。
(力づくでは勝てない)と悟ったのか、男たちは互いに顔を見合った後、「覚えていろ」と言って、立ち去った。
「ありがとうございます」ヨシは膝をついて感謝している。
「いいってこと。それよりお前さん、これからどうする?」
「あのう、もっと北の方に行こうかと」こころなしか力なく言う。
「あぶねぇな。フサは諦めの悪い奴だ。しばらく、里の外に出ねぇほうがいい」
昼になってロクの言葉が本当のことになる。フサが10人ほどの男たちを連れてきたのだ。
数を頼りに、負かしてやろうと言う魂胆がありありだ。
こっちも、対抗上、男達全員が前に出る。ケンとツムは弓を用意している。
互いに睨み合った。
「おーいロク。うちの者がここにいるのは分かっているんだ。そいつわなぁ、俺たちに迷惑ばかりかけたあげく、逃げ出したんだ。大人しくこっちに渡して貰おう。」
「おい、フサ。ここはお前の領地じゃねぇ。偉そうに言うな。」
「聞いた風なこと言うじゃねぇか。断るなら力づくだ。おい、お前たちあいつらをやっちまえ!」と言ったその時だ。
ケンが矢を放つ。
その矢はフサの顔すれすれに通り抜け、背後の杉の木にブチ刺さった。
「おい、今のは脅しだ。こいつの弓は何時でもお前の頭に当てるぞ。」
これに、フサは完全にビビる。頬には切り傷が生じ、わずかだが出血もしている。
杉に刺さった矢を見れば、人に、まともに当たれば即死もありうる。
(ち、逃げ出した奴の為に、命をかけるのは馬鹿馬鹿しい)そう考えた。
「おい、帰るぞ」フサはそう言って、引き上げていった。




