第21話 鍛冶
馬を曳いて帰ったのだが、その道中、奇妙なことが起こる。
何度か集落を通ったのだが、集落の人たちは、馬を見えていたはずなのに驚きもしなかった。
「おい、イサ。さっきの人たち、馬に驚いてなかったな」
「おかしいなぁと思ってた。なんか馬を見てなかったみたいだった。」イサも気づいていた。
それは我が家に帰ってからも起きる。
二人が無事に帰って来た時、丁度男たちも狩りから帰っており、全員で迎えてくれた。
「よく、無事に帰って来れたな」ロクを始め、皆が抱き着かないばかりだ。
「ところで、空荷みたいだが、鉄はなかったのか?」ロクはケンたちが何も背負ってないのを見て言った。
この一言で、ケンはハッと気づく。
(え、ロク達も馬に気付かないんだ)
馬に手を置きながら、(さあ、出てきていいぞ)と念じる。
すると「なんだ、こりゃぁ」「うわぁ、でっけえ」「きゃぁ」と大騒ぎになってしまった。
男達は青ざめ、女たちは悲鳴を上げる。子供の何人かは泣き出してもいる。
馬は誰もが初めて見る獣なのだ。あまりの大きさに多くが後ずさりした。
それでもロクは踏みとどまり、聞いてくる。
「ケン、これは何だ」
「馬だ。これだけ、大きいから荷物をたくさん持てるから、役に立つ。それに大人しい奴なんだ。可愛がれば、よく懐くぞ」
「そ、そうか」まだ腰は引けていた。
ただ、ロクが逃げなかったので、他の者も恐る恐る近づいて来てくれた。
その中で驚いた行動をしたのがミイだ。
ちょこちょこと馬に近づいてくると、手を差し伸べる。小さな手は届かないが、代わりに馬が首を下げて応えたのだ。
「う、ふふ。くすぐったい」馬に顔を舐められるまでに、すっかり慣れてしまった。
これで、皆もようやく安心する。
ケンはこのことで確信する。
(俺には馬を隠す力がある。おそらく、人の感覚を馬から逸らすから見えないように出来るんだ。そしてこれも、神の所為だ。俺をこの世界に送り出すとき、何か能力をくれると言った。だったら、この力がどんなものか、調べておかないとならないな
それに、鉄鉱石を掘っていた奴らも、なんで、鉄の重要性を知っていた?もしかしたら俺のような奴を他にも送り込んでいるんじゃないのか?)
納得できないこともいろいろある。それでも事実と可能性を考えておくことにした。
ようやく騒ぎも一段落して、ケンは鉄鉱石を馬から降ろした。
「これが、鉄鉱石と言う奴か。普通の石と変わらねぇな。」ツムの口調は石ころ程度に何でそんなに騒ぐのかと言っているようだ。
「いや、これを製錬すれば、鉄になるんだ。凄い刃物が出来るぞ。」
「ふーん。そうかなぁ」
翌日から製錬に取り掛かることにする。
製錬する場所は、新たに作った小屋。鍛治をするには道具が全くなく、一から始めないといけない。
何しろ、熱い鉄を掴もうにも、挟むトングがない。鉄材がないのだから、うんざりするほど、何の道具もないのだ。
(神様は俺に製錬の才能も与えてくれればよかったのに)ついぼやきたくなる。
まず、竈を造り、炭と鉄鉱石を高温で焼く。何時間も汗だくになりながらひたすら窯を熱くする。そして燃やすだけ燃やして、竈を赤くした。冷えた灰の中から、鉄の塊を取り出せたときは感動ものだった。
「何とか鉄が出来たぞ!」
後は石で叩いて成型。
「やったぞ。出来た」不格好であったが、火箸(=鉄製の箸)をつくれた。これで、火の中をかき回せ、物を取り出すことができる。
次に、金づち、やっとこ、そして金床を作っていく。
「これで、なんとか鍛冶屋の真似事ができるな」そこからは次第に鍛冶屋らしくなっていった。
そんな様子をロクやツムが見に来るようになった。
彼らは、ケンが鍛冶屋をしている間、獲物を捕って来るほかに、炭など鍛治に必要な物を文句ひとつ言わず持って来てくれている。
「なんか、面白い物が出来ているな」ロクが鉄製品を取り上げて言う。
「これは何だ」
「それは包丁だ。肉でも野菜でも何でも切れるぞ」
「へー。鉄って、いろんな物になるんだな」目にしたことのない形をした鉄製品を物珍しそうに言う。
「あー、大分作れたんで、いつか皆に見せようと思う」
「お、それなら、明日は狩りをしないから、お前の自信作のお披露目をしてもらおうか」
翌日、作業場には集落の全員が顔を揃えている。
「これで、簡単に木を切れるぞ」
斧を取り出し、腕ぐらいの木の棒を切って見せる。
「お・おぅ」皆、目がまん丸だ。これまで黒曜石や石斧しか使ったことがない者にとって、固い木が簡単に削られるのは驚きしかない。
次に包丁を取り出し、肉を切る。
「えー。肉が簡単に切れるんじゃない」「あれ欲しい」女性陣の中から驚きの声が上がる。
そして次に、切っ先が鉄製の槍と矢をロクとツムに渡す。
「試してみろ」というとロクがまず手に持った。
「やー」と気合と共に、切り株を突くと、切っ先は深く刺さった。
「次は俺だ」ツムが同じ切り株目掛けて、矢を射る。
その矢も見事に切り株に突き刺さった。
「はー」誰もがただただ感心するばかり。
「鉄ってすげーんだな」ノブが思わず呟いた。
「みんなにも、これを作ってあげるよ」
それに応じるかのように、「やったー」と誰彼となく声が上がった。




