第20話 静かに隠れろ!
少し心配だったが、イサは上手く馬を曳いていた。
最初こそ、おっかなびっくりだったが、意外と馬が大人しいので安心したようだ。
そのまま二人で山道を進んでいく。
その途上、木が生い茂っている道から外れることにした。
「どうやら、やつらが追い付いてきたようだ。ここに潜んで、あいつらをやり過ごす。」
遠くからではあるが、男たちの話声が風に乗って流れてきたのだ。
イサを連れて、少し下にある藪の中に隠れることにする。
イサも事態を飲み込んでおり、しっかりと頷く。
そして曳いてきた馬も、大人しく付いてきて、地面に生えた草を食んでいる。
間もなく、ガヤガヤと言いながら男たちが10人近くやって来た。
「畜生、何処にいったんだ」
「この山に来たのは間違いねぇだろう」
「探せ、探すんだ」
時々男たちは石や棒切れを周囲に投げつけて、周辺に目を凝らす。何も見逃さないように、じっくりと探している。
馬は非常に臆病な生き物だ。ちょっと近くで物音がしたり、虫が急に鳴きだしただけでも、驚いて、いななき逃げ出してしまう。
やつらは、そんな馬の性質を良く知っていた。投げた小石や棒切れが偶然にも馬に当たるか、当たらなくても近くに投げ込めば、馬が驚いて暴れ出すのを見込んでいた。
なかなか油断の出来ない連中だった。
馬が見つかれば、すぐ、ケンたちが隠れている場所も分かってしまう。万事休す。
今のケンたちでは体格が違いすぎる、喧嘩にもならないだろう。
そうかといって、今度もまた弓を使って、追い払うのは無理だ。
今度の敵はもっと増えている。全員を弓で射る前に、捕まってしまう。
崖の所でも、敵が慌てていたから、上手くいっただけで、下手をしたらこっちがやられていた可能性が高いのだ。
捕まったら、ケンでも負ける。ましてこっちにはイサもいる。とても戦いに挑む状況ではなかった。
今、できることは息を潜めて隠れるだけ。
ケンはイサに落ち着いているように言いつけ、馬たちにも静かにするように念じておいた。
念じた効果がすぐ現れる。
男たちの投げた石の一つが、馬のすぐ目の前、食んでいる草近くに落ちたのだ。
「げ!」ケンは思わず、息を飲む。
(なんだって、石ころが飛んでくるんだ。馬が驚いて、暴れ出す)
あいつらに見つかってしまう。そうなれば、もう終わりだ。最悪を覚悟した。
ただ、馬は少しびっくりしたようだが、相変わらず、うまそうに、むしゃむしゃと草を食み続けている。
驚いて、いななきも、逃げ出しもしないで、ただ草を食み続けていてくれた。
これが、ケンの持つ才能だった。ケンは周囲の者の感情をある程度コントロールできる。それが馬にも効果があって、石が飛んできても大人しくしていた要因だった。
その後、上の方でガヤガヤしていた男たちが離れて行った。
ただ、まだ油断は出来ない。男たちは本拠地に戻るはず、いずれ、また引き返してくるはずだった。
その間、ケンもイサもじっとしているしかない。走って逃げるなんて論外である、すぐに見つかって捕まるだろう。
ただ静かにして男たちが立ち去ってくれるのを待つしかない。
馬たちに、いななきも走り去りもしないで、大人しくしてくれと願うだけだ。
ただ、静かにしていた。
そして、案の定、男たちがまた戻って来た。
相変わらす、小石を放り投げながら、大きな声を出している。
「おっかしいな。そんなに遠くに行けるはずがねぇんだ」
「どっかに、隠れているんだ。見つけ出すんだ」
「馬が、こんな山に隠れられるはずがねえ、どっかにいるはずだ」
「でも、何処にいるんだよ。これだけ探したんだ。馬が見つからないはずはねえだろ」
「馬をどっかに逃したんじゃねえのか。」
「そんなことを、するか。馬は貴重品だぞ。」
「馬は絶対、必要なんだ、馬を手放す奴なんていない。」
「でもよぉ、こんなに探したって、いねぇじゃねぇか。お頭に言うしかねぇぞ」
「だが盗まれたまま、帰って見ろ。俺たちはどうなるか分からねぇぞ」
「ああ、お頭が、どれだけ怒るか、考えただけでも恐ろしい」
男たちの声には焦りがあった。
(お頭?あいつらより上の奴がいるんだ)そう思っていると、またも、馬のすぐ傍に石が投げ込まれた。
ただ、今度もまた馬たちは、大人しく草を食み続けている。
馬に気付くこともなく、男たちの大声が藪まで届てくる。
「本当に、こっちを通ったのかなぁ」
「わかんねぇな。やっぱりこっちの道は通らなかったんじゃねぇのか」
「そうだなぁ、これだけ探して馬も見つらないんじゃ、あっちの山にいったんじゃねぇか。」
「うん、人は隠れていられるが、馬を隠し通すことなんかできねぇ」
「だとしたら、そっちも行って見るか」
「うん、ここまで探して、いなかったようでは、来てないようだな」
やがて、男たちは諦めたのか、去って行った。
男たちの声が聞こえなくなり「さあ、出かけるぞ」イサを励ますように言う。
わずかな期間であったが、いろいろなことがあって、イサもどこか顔つきに甘えが消えているようだ。
馬がこの時代に出現するのは全く予想外だった。なにか変わっている。
(これは、神が作り変えたことだろう。俺を縄文の世界に送り込んだだけじゃなくて、世界も変えたんだ。おそらくまだ、予想もしてないことが起こるぞ)
そんな風に考えながら家路を辿った。
いやぁ、遂に第20話です。それも毎日連続投稿です。私にしてはこんなに続けられたことはなかった。
今少し乗っているようです。
今後も、このペースが続く約束はできませんが、少しでも長く続けたいと思います。
どうぞ、ご愛読、お願いします。




