第14話 住人の話
「私の名前はケンです。ここにいるのは皆私の家族です」
「そうか、俺の名前はロクだ。お前たちを受け入れる。空き地に小屋を作っていいぞ。」
ロクの口ぶりは、まるで勝手にお前たちだけで小屋を建てろ、と言っているように聞こえた。だが驚いたことに、ケンたちが空き地を片付け始めると、手を貸し始めたのだ。
しかも他の者たちまで手伝いだす。男も、女も子供までがこぞって、小屋づくりに手伝いだしたのだ。
丸太を切り出してきて、掘っ立て柱を立て、梁を渡す。それを起点に斜めに棒を斜めに置いて行く。女や子供はススキや葦など丈の長い草を集めてくれて、屋根に敷き詰める。
簡単な作りの小屋はみるまに完成した。
でもこれを、ケンの家族だけでやれば、丸1日はかかるだろう。
「これで、今夜は野宿しなくて済むね。」ラムやレンなどは大喜びだ。野宿に慣れているとはいえ、屋根の下で眠れる安心感は相当なのだろう。
最初、冷たい態度に見えたのだが、住人達の豹変ぶりに驚くしかない。
「お手伝いしていただいて、本当にありがとうございます。」深々と頭を下げる。
「あのう、そのお礼と言いますか、魚をいっぱい持ってきました。皆さんと一緒に食べませんか?」
ケンとしては、小屋づくりしてもらったお礼と引っ越ししての近所づきあいを兼ねての言葉だ。
「おお、そりゃいい。今夜は魚を食って、皆で宴会だ」
ロクの一声で、すぐに焚火が焚かれ、夕食会となる。
「僕はイサです」「私はレンよ」食事をしながら、それぞれ名乗り合う。対して集落の住人は、大人の男3名、女2名、子供は9名だ。
ロクが一番の年上で、ここでの長をしている。そのロクと上席で食事を摂ることになった。
「こりゃぁ、うめぇな」焼けた魚を一口食って、ロクが思わず口にだした。
持ってきた魚は、日干ししただけの、簡単なもの。干したことで旨味が凝縮し、ちょっとあぶっだけで、口に肉汁が広がるのだ。
「こんな、うめぇもん。食ったことねぇぞ」すぐに打ち解けていく。
「あのう、失礼ですが、おいくつ何ですか?」ロクは皺くちゃ顔で年寄りのように見えたのだが、意外と足腰はしっかりしていた。ずっと気になっていて思い切って聞く。
「俺の年は38だ。」
「え、お若いのですね。」
「おめぇ。俺のこと大分年寄りと見てたな。」
「いえ、そんなこ、有りませんよ」慌てて否定、
「嘘言え、顔に書いてあらぁ」などと軽口まで言い合えるようになっていた。
「ところで、お前ら、どうやって来たんだ?女、子供ばかりでどうしたんだ?」
そう聞かれて簡単にここに来た経緯を言った。
「ケン、お前はその年で、皆を引き連れてここまで来たのか!」ロクは大きな驚きを上げる。
他の者達も。二人の会話に耳を傾けていたので、一様に驚いていた。
「大変だっただろう、良くここまで来られたもんだ」
感心するばかりか、女性陣の中には少し涙ぐんでもいる。
「いえ、夢中だったから、そんなに大層なものでもありませんよ。」
ケンからすれば、その時その時を、ただ夢中になって頑張って来ただけだ。さして大変なことだと思ってなかった。
「そうは言ってもよう、親父さんを失くして。辛かったろうに、偉かったな」ロクはすっかり感心している。
「大人だって難しいことだなぁ」ノブという男が相槌を打った。すると。
「そうだよ。ノブには無理だ」サジという男が隣で混ぜっ返す。
「な、何を言う。俺だってな。」
「ほおぅ。ノブなら出来ると言うのか」
「いや、・・・。ま、ちょっと、難しいかな」あっさりと認める。
「あ、はは・・・」一斉に笑い声が起きる。楽しい食事会だった。
「ところで、山の向こうで会った人は、何か問題があるのでしょうか」気になっていたことを聞く。
座は急に鎮まった。
何か、聞いてはならないことを言ったかなと思っていると、ロクが口を開く。
「あいつは油断ならねぇ奴だ。あの村で子供を見たか?」
「いえ、男の人、4人だけでした」思い返すように言う。
「そうだろう。小屋の中で、女や子供は出られないからな。他の男は子供らを見張っている」
「閉じ込められているということですか?」
「まあ、それに近いな。ほら、そこの嬢ちゃんのような子を取り上げられたら、お前さん勝手に動けるか?」
ロクはミイを指差して聞く。
「え、ミイを人質にされたというのですか?」
「まあ、そんな、あからさまな物じゃないが、それに近い。小さい子を育てると言って、別の場所に預けさせられるんだ。そうすると、他の家族は言いなりになるしかない。キノコや木の実、貝などを採って来いと言われりゃ従うしかねぇ。採ってきた物は全部取り上げられ、おこぼれだけを貰うことになる。」
(それじゃぁ。奴隷みたいだ)ちょっとびっくりする話で言葉が出ない。
「あいつは、あのフサと言う奴は小さい子がいる家族を自分たちの仲間に引き込もうとしているんだ。それで態のいい、下僕のようにする。よくお前はあそこを素通りできたな。」
そんなことがあるなんて、全く思ってなかった。
火打石を黙ってくれた男。センやその仲間たち。そして今一緒に食事をしている人たち。みんないい人ばかりだった。
だから、まさかそんな人が世の中にいるなんて、思いもしなかった。
ただ、なんとなく、いやな感じがして、あそこを敬遠しただけだ。
あの時、ミイの様子はいつもと違っていた。
(ミイがあの男に近寄ろうとしなかったから、俺は・・・)今日も膝の上にいるミイの頭にそっと手を置いた。




