第13話 移住先を求めて
ケンは家族を連れて、丹沢の山の麓を廻るようにして、北に向かうことにした。
また幾つもの山を越え、川を渡った。そして獣が多く居そうな、深い森に行き着いた。
その近くには8軒の小屋が集まる割と大きな集落があった。
そこの長は穏やかそうな顔をした、一見すると、中肉中背の穏やかな優しそうな男だ。
「この辺りに、小屋を建てて、一緒に暮らしても構いませんか」挨拶を交わした後、ケンは丁寧な口ぶりで聞く。
「おう、いいてことよ。ここの森は深いし、獲物も多い。家族が一つや二つ、増えたって構わない」優しい声で言う。
「そんなに、獲物がいますか?」
「いるともさ。ウサギから鹿までわんさといるぞ」
「そんなにいるんですね。」
「お前さんの腕にもよるが、狩りにはもってこいだぜ。ここで、暮らしたいなら、小屋を一緒に造ってもやる。」大歓迎の言葉だ。
親切にも小屋づくりを手伝ってくれるという。
ただ、それを聞いてなんとなくだが、ケンの頭に影が差す。
(随分と、勧めてくれるが、なんか裏があるんじゃないか)長の言葉に引っかかりを感じた。
「そうですか、皆で相談して決めようと思います。」
「なんだ、お前一人で決められないのか」長は、無下にされたと感じたらしく、むっとした口ぶり。
「ええ、僕はまだ若いから一人では決められないです」
男の言葉に気にしないことにして、家族みんなを集める。
「ここに住むかどうか、どう思う?」男に聞こえないよう小声で言う。
「ここに、住んでもいいぞ」ツムは森が大きくて、獣が多そうなのが気に入っている。
「私は水場が有っていいと思うけど」ラムも気に入ったご様子だ。
「イサとレンはどうだ?疲れたか?」二人にも聞いて見る。
「なんかここは暗い感じ。まだ疲れてないよ。」意外と二人は余り乗り気ではない。海と比べて面白さがないのだろう。
(さっきの長の口ぶりが気になるんだよな)すっきり決められなかった。
ただ、ミイが長を見て、ケンの後ろにいたままなのが気になる。
ミイは恥ずかしがり屋ではない。始めて会ったセンにだって、物おじもしないで話かけるような性格だ。それが長の前に行こうともしない。ミイの勘はよく当たる。
(ミイも俺と同じように感じている)今はその勘を信じることにする。
「やっぱり、ここは止めます」
「なんだ、この地が気に入らねぇのか?」不機嫌そうな色が見える。
「いや、もっと他の所も見てみようと思います。」
「ふん、他所に行っても、こことかわらねぇぜ。何も決められない奴だ」長は明らかに侮蔑を示した。
そんなのを無視して、ケンは出発した。
「なあ、どうして断ったんだ。あの長は人が好さそうだったぞ」ツムが歩きながら聞いてきた。
「はっきりしないが、どうも、あの長には裏があるように思えたんだ」
「そうかなぁ。俺はいい人のように思えたんだが。ラムだってそう思うだろ?」
「私には分からない。でも家長が決めたことよ。私はいいと思う」
ラムは何時でも息子を立ててくれた。
山一つ隔ててまた集落があった。そこはわずか3軒しかない小さなものだった。
そこに、中年の親父がいた。しかし、さっきの男より、顔つきも、言葉も荒い。
「どこから来た?」挨拶するなり、聞いてくる。
「あの山を越えてきました」
「山を越えて来たんかい?それじゃあ、あいつと会っているな」
あいつとは、前に見た集落の長の事だ。どうも仲が良くないようだ。
「ええ、村で暮らさないかと言われましたが、止めました」
「それがいい、あいつは、底意地が悪いからな」
底意地が悪いとは、気になるが、それには突っ込まないことにする。
「ここの森に獣はいますか?」
「いるにはいるが、腕次第だ。」
(お前の腕で、ここの獣が狩りとれるかどうか)と言われているようなものだ。
この親父の口ぶりは愛想の全くない。
歓迎する気振りなど全く見られなかった。
でも意地悪さは感じられない。
ミイもケンの股下から、親父を興味深そうに見上げている。油断していたら、親父に抱っこを要求しかねないだろう。
「ここの近くで暮らさせてもらって、いいですか?」
「ああ、かまわねえ。あっちの空き地を適当に使ってくれ」
その言い草は、「俺は手伝わねぇが、適当に小屋を作れ!」と言っているように思えた。
なんかぶっきらぼうで、人のことなんか気にもしない態度だ。ただ、裏に、何もないように思えた。
「では、ここで暮らさせてください。」きっぱりと言った。
*****縄文豆知識②*****
縄文時代は地球全体の気温が高く、氷河が溶け海面が上昇していたと言われている。日本列島の平野の多くも海に沈んでおり、丘陵高地だけが陸地となって海から顔を出し、そこには深い谷が走っていた。その後、縄文の中頃から気温が下がり始め、海が退潮して少しずつ陸地が広がり、そこに山岳からの土砂が流れ込み、各地の平野が形成されていた。とりわけ関東地方は富士山からの火山灰が降り積もり、関東ローム層と呼ばれる赤土層の独特な地層がつくられた。
ケンは丁度、関東平野が造られるころに歩き回ったことになる




