第46話 心が想いに触れたとき、人は前に進むことを選ぶ
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まだ陽が上りきっていない朝は、妙な静けさと薄暗さがあって、この世が異界だと錯覚させる。しかし実際、俺が地に足をつけているこの世界は異世界そのものだ。
小鳥もさえずらず、人気のない往路は一瞬恐怖を感じさせるが、俺はこんな静けさが逆に心地よく感じられた。
静かなのは好きだ。一人の時間を謳歌できるし、なによりこうしてゆっくりできるからだ。
まだ醒めきっていない脳みそを抱えて、俺はむくりと身体を起こし、ぼやぼやと開かない瞼をなんとか開きながら窓の外に目を向ける。お外はまだ活動時間外のようだ。
いつもなら陽が完全に上りきって窓から差し込む朝日に無理やりたたき起こされるのだが、今日はそうはいかなかった。
何故なら、レイナさんを迎えに行かなければならないからだ。
昨日、悠久亭で奴隷契約書にサインをしてその場で契約の儀式的なのをすればいいものを、わざわざギルバザークが一晩預からせてくれと言いだしたから、今この場にはレイナさんはいない。しかも指定した時間が早朝って中々しんどくない? それに俺は今とてつもなく寂しいのだ。
のそのそとベッドから数秒間かけて足を下ろして立ち上がる。うちの美人さんがいないから調子が上がらないのも仕方あるまいて。
その代わり、うちのマスコットキャラクターである可愛いスライムこと、スラさんが絶賛おねむを披露中だ。これはレアショットでございますわよ。
「むぉ……もぅ朝ぁ……?」
「おう、朝だ。起きろ、スラさんや」
寝ぼけ眼を擦りながら、デスクの上で寝ぼけるスラさんに俺はポンポンと手で軽く叩いて起こす。その際、ぷるぷるするスラさんのスライム体がふよふよと揺れた。だがまだ起きてはいないらしく、スラさんは寝言を続けた。
「ボク、まだ食べれるよぉ……コーキぃ……」
「いや、そこは普通食べれないって言うとこだろそれ」
お約束の台詞かと思いきやちょっと違って思わずカクッとこけてしまう。まぁ寝ぼけてしまうのも無理はないだろう。俺だって今結構眠いしな。
だが悠長なことは言ってられない。今ごろレイナはギルバザークと二人きりで気が気でないはずだ。ただでさえ人嫌いの彼女なのに、憎むべき奴隷商人と一緒にいるなんて耐えられないだろう。
彼女のこともあり、俺は無理やりスラさんをたたき起こすことを選択した。
「おい、起きるんだよ。……………起きろ起きろ起きろ起きろ」
スラさんの身体を持ち上げて、上下に激しく振り回す。さながらそれはコーラの炭酸をすべて抜き切るほどの速度であった。
「ぷろっ!ぽやっ!ぺぐっ!」
流石に激しく揺さぶられるのはこたえたのか、スラさんは何事!?と言わんばかりに変な悲鳴を続けざまに上げていく。
「や、やややめめてててて!!」
そして震える音叉のように綺麗なビブラートを響かせてスラさんは俺に訴えかけた。あんちゃん、ええビブラート持ってるやんけ。世界狙えるで。
スラさんの訴えに俺は素直に応じ、空中でスラさんからパッと手を離した。するとベチャァと溶けた生クリームみたく、スラさんはデスクの上にへたりこんだ。
「ゴォギィ……起ごずなら優じぐ起ごじでよぉ……」
少し恨めしい声音でスラさんは俺を睨みつけてきた。しかしもとが可愛いのでまったく怖くはないし、なんなら拗ねた子供みたいで愛らしい。おーよちよち、まん丸膨れてめんこいのぉ。
まぁでもこちらもちょっとは申し訳なく思ってるので素直に謝るとしよう。
「早く起きない方が悪い」
「うえーひどー」
あれれ? 口をついて出た言葉が全くもって正反対なんだけど? うーん、俺ってば素直じゃないね。もしかしてツンデレかしら?
と、冗談はさておいて、俺は寝間着脱いでパパっといつもの服に着替える。
すると、ふと違和感を感じて腰に手を当ててパンパンと何かを探すかのように腰をまさぐる。
何か足りないと頭で思って部屋の中を見渡し、ハッと気がついた。
(そういや、爺ちゃんの刀、売ったんだっけ……)
レイナを解放するためとはいえ、家族の大切な宝を売ってしまって良かったのだろうかと一瞬逡巡する。しかし、彼女のことを思えば安い出費だったなとも思えてくる。
俺ってば案外貢ぎやすいタイプなのかもしれん。キャバクラとか行ったら一瞬でスッカラカンにされそうだわ。まぁそんな度量なんて持ち合わせていないんだけどね!
売った刀の他に腰につけるものとしたら、もう虚空巾着くらいしかない。でも中身の重さを全く感じないから、この違和感を解消するのにあんまり意味は無いかもしれない。
キュッと腰に巻かれた白い帯に虚空巾着の紐を絡ませて結びつける。落としたりしたら非常にまずいので結構固くグルグル巻きにするくらいに強く結んでおくとしましょう。
そしてさっき叩き起したはずの、まだ寝ぼけてまったく動かないスラさんに鼻でため息をついた。
「おい、スラさんってば」
「うへへへぇ〜……おっきいパンケーキぃ……」
「ったく、仕方ねぇな……」
文句をたれつつも半ば諦め、スラさんを肩に乗せて俺はギルドの宿舎を後にした。
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街の門を通って平原へ出ると、やはりまだ陽が上がりきっていないからか白い靄のようなフィルターでもかかっているみたいに平原の色合いが薄く感じられる。
生い茂っている雑草たちもいつもより少しくすんだ色合いをしていてなんだか不気味だ。
ギルバザークとの待ち合わせ場所を確認するべく、俺は虚空巾着から受け取った一枚の紙を取り出した。
「それにしてもこの地図……」
「え、なにこれ、子どもの落書き?」
そこにはアステリシアの街門らしき絵とそこから糸みたいに伸びる線が描かれており、幻獣の森の入口付近でバツ印が施されていた。
スラさんもこれには苦笑いで目を八の字にしていた。
なんだこの地図、簡素ってレベルじゃねぇぞ。まだ小学生の方がまともな地図書けそうだわ。
「ざっくばらんとしすぎてて探すのに骨が折れそうだ」
「約束の時間までにたどり着けるかな……」
一抹の不安を抱えながらも、平原の道に沿って地図通りに歩いてみる。するとひとつ分かったことがあった。
地図に描かれたひょろひょろの線はこの平原の道を示している。だが、それにしてもだ。情報が少なさすぎる。
野営地に着いたら一言文句でも言ってやろうと意気込んで幻獣の森付近まで足を運ぶ。辺りをキョロキョロと見渡してバツ印の方角に従って幻獣の森を外周沿いに歩くと、ふと森の中の方にテントの頭らしきものが見えてきた。
「お、あれか」
「案外見つかるの早かったね」
俺たちは見えたテントの頭を頼りに森の中へ入っていく。しかし人が通らないところなだけあって茂みの量が段違いだ。テントの高さがないと見つけられなかったかもしれない。
「ったく、なんでここまで来る必要が……」
「ひとこと言わないと気が済まないね!」
「全くもってそう思うわ」
色々と言いたいことを頭に思い浮かばせながら俺は最後の茂みを掻き分ける。
するとそこには目を疑うような光景が視界に飛び込んできた。
「……………なんだよこれ」
「……うわ」
思わず絶句した。
目の前ではチリチリと草木が燃えて、所々では焼き焦げていたり炭になっていた。野営地の中心には焚き火があり、パチパチと木が弾ける音を立てて燃え盛っている。
一瞬焚き火が原因かと思ったが、焚き火回りには燃え移りそうなものは無く、焚き火場から少し離れた所には腰掛けかなにかに使っていたであろう木箱が破裂したかのように割れて残骸が散乱していた。火が燃え移ったにしては明らかに異常だ。
それに近くで何か爆発でもあったか、草が地面から土ごと根っこから剥がれて土が黒く変色している。これだけ異様な光景が目の前で広がっているというのに違和感が拭えない。
なんだこの静けさは。不気味すぎる。
そして決定的なのがテントの傍にある馬の死骸だ。見たくはないが明らかに首を何かで切断されており、その時の血飛沫であろうものがテントにベッタリと赤黒く染み付いていた。
その時、不意にゾワッと背筋に悪寒が走る。辺りを見渡し、目を忙しなく動かす。
嫌な静けさに心がざわめき、心臓の打つ鼓動が徐々に早くなる。一気に体の芯から締め付けられるような緊張感が俺を襲った。
レイナさんは、どこだ。
そう考えた時にはすでに身体が動いていた。
「スラさんッ!!! 荷馬車とテントの中を見てくれッ!!!」
「むっ?! わ、わかったよ!!」
尋常じゃない慌てた俺の指示にスラさんは驚く。しかしすぐに状況を察知したのかテントやその近くにあった荷馬車の中に居ないか調べ始めた。
スラさんがその二つを調べている間、俺は野営地付近を歩き回る。焦りと動揺、そして不安が俺の心をすり減らしていく。
すると爆発の中心地と思われる箇所にたどり着くと、何か物体が見えた。
「あれは……」
一瞬見慣れないものだったから目を凝らして注視する。その物体からは深紅の液体が水たまりのように溢れて見えた。……え、ちょっとまて。
「……っぁ……」
しかし、その物体の正体が分かった途端、俺は思わず悲鳴を上げそうになる。
待て、待て待て待て待て待て待て。待ってくれ。あれは、人じゃないのか?
恐る恐る近づくと、俺の疑念は最悪の形で解消されてしまう。
そこには、無惨にも横腹に穴の空いたギルバザークが力無く横たわっていた。
「ギルバザークさんッ!!!!」
悲鳴のような叫びを上げて俺はギルバザークの傍に膝をつく。
「スラさんッッ!!!!!! こっちに来てくれぇ!!!!!!」
喉が切れそうなくらいに声を張って俺はスラさんを呼んだ。その間俺は腰に巻いていたスカーフを取ってギルバザークの身体を浮かせて腹部に撒いた。
こんなので血なんて止まるとは思えなかったが、何もしないよりはマシなはずだ。
しかし、ギルバザークの閉じた目を開かず、全く動かない。昨日まで話していた人間とは思えないほど静かだった。
その時、最悪の事態が頭の中をよぎる。
もし、ギルバザークが死んでいたら? もし、レイナさんの首輪が解除されていなかったら?
そう思った途端にギルバザークの言葉が無意識に蘇ってきた。
『私はお前たちに殺されるのも別に構わないが、その娘も道連れになるぞ』
昨日、ギルドでギルバザークが冒険者たちに放った言葉。その言葉の意味を分からないはずがない。
「あんたふざけんなよ!!!」
怒りと不安で心に余裕がなくなり、震える声で気持ちが勝手に吐き出される。
するとやっと来たのかスラさんがぴょんぴょん跳ねながらこちらへ駆け寄ってきた。
「コーキ! 何があったの!?」
「スラさんッ!! 遅いッ!!!」
俺が物凄い剣幕で怒るとスラさんは一瞬驚いて硬直する。しかし俺の逼迫した様子を見て何か思ったのか素直に謝った。
「ご、ごめんよぉ……って昨日の奴隷商人!?」
おっかなびっくりでスラさんはギルバザークに近づいて傷口を覗き見る。それを見てスラさんは少し渋い顔をしたが俺は気づかなかった。
「早く傷を治してくれ!!!」
「え、あ、でもこんな大怪我……」
「頼むからっ!!!!」
「う、うん。できる限りやってみるよ……」
言われた通りスラさんは身体を伸ばし始めてギルバザークの傷口を覆った。するとジワジワと広がっていたスカーフの赤い染みがゆっくりと止まる。
するとスラさんの回復が功を奏したのか、一瞬ギルバザークが小さく呻いた。
「ギルバザークさん!!」
俺は必死に何度も呼びかけてギルバザークの意識を確認する。
「ぅぅ…………コー…………キ………の」
重傷を負いながらも辛うじて意識はあるのかギルバザークは小さく口を開いて応えた。内心ホッとしたがまだ虫の息だ。このままではやがて死んでしまう。
この男が生きている限りまだレイナさんも生きているはず。どこに行ったかは分からないがあの惨状を見ると何かに襲われたのは確かだ。
しかし、今この場でギルバザークを放置するわけにもいかない。
「スラさん、急いでギルバザークさんをギルドへ運ぼう」
「むっ分かった」
内心直ぐにレイナの足取りを追いたいが仕方ない。魔法が使えずともレイナさんは多分俺より強いし、危険だと感じたら逃げてくれてるはずだ。
スラさんは傷口の部分だけ身体を引き離して、ポンとマッスルフォームに変身する。俺とスラさんは慎重にギルバザークの身体を持ち上げようとすると、ギルバザークが浅い息をしながら小さく呟く。
「……………………」
しかし俺の耳にはちゃんと届かず、何を言っているのか分からない。しかもこんな状態で喋ろうとしているから余計に体力を使ってしまって命に関わる。
「喋っちゃダメだ、ギルバザークさん」
だが俺が止めたにも関わらずギルバザークはまるで残りの力を振り絞るかのように少し声を張って告げた。
「ドレイ……クを…………追うん……だ……」
「……なんだと」
ギルバザークと身体を支えようとした俺の腕が瞬間ピタッと止まる。そして虚ろな目をして焦点のあっていないギルバザークの眼から俺は目が離せなかった。
そういうことなら、事情が変わってくる。
「ドレイクはどこへ行ったんだ」
なんとか平静を装って尋ねる。そして俺の問いかけにギルバザークは弱々しくもしっかりと腕を上げ、俺の視線を誘導した。その先は当然森の内部へと方向を示していた。
よく見れば草を踏んだあとや、湿っていたからか土には足跡がくっきり残っていた。
「スラさん、悪い。後頼んでもいいか?」
そう言って俺はスラさんにギルバザークを託し、一人立ち上がった。
「……行くんだね?」
「ああ」
「でもコーキ、武器がないね」
「……」
そう言われてハッとした。そういえばそうだ。俺には今、ドレイクと戦うための武器がない。
俺が歯噛みをして眉をひそめていると、スラさんは荷馬車の方に指をさす。
「武器ならあそこになにかあるかも」
「本当か?」
「うん。きっとあるよ」
スラさんに言われて俺は荷馬車へ向かい、そのまま中へ入る。中は誰かに荒らされたのか荷物が散乱していてパッと見た感じではスラさんの言う武器が見当たらない。
奥の方にはひしゃげた檻のようなものまで見える。堅牢そうなのにあんなストローの蛇腹みたいにベコべコになっていた。
檻は一人入るのもやっとなくらいの大きさだ。あんなもんの中にずっと閉じ込められていたら本当に閉所恐怖症にでもなってしまいそうだ。
……きっとあの中にレイナが入れられてたんだろうなと想像がつく。彼女の尊厳なんて軽く踏みにじられていたに違いない。見ていると沸々と怒りが湧き上がってくる。
それにしても荷馬車の広さもそれほどないからか本当に足の踏み場もない。複数の木箱や食料、布類などが入り乱れて荷馬車の床を覆い隠していた。まるで空き巣にでも入られた跡みたいにひどい有様だった。
「……本当にあるのか?」
猜疑心を抱きつつも沢山散らばった荷物の山を退けていくと、大量の契約書のようなものが紙の海を作っていた。
これだけの枚数を持っているところを鑑みるに、一体どれだけの奴隷を売るつもりだったんだろうか。
きっと過去にもレイナの他に沢山の亜人種の人達が売られていたんだろう。もしかしたらレイナさんは氷山の一角に過ぎないのかもしれない。
恨めしい契約書をぐしゃぐしゃに踏み荒らしていくと不意に硬いものを踏んでしまったのかカチンと甲高い音が聞こえた。音の高さからするにおそらく金属の音だ。
どうやらこの契約書の海の下に武器が眠っているらしい。
俺は急いで乱雑に重なり合う契約書たちを吹き飛ばすようにして漁り、何枚も何枚も取り除いていく。
すると下敷きになっていた黒い布に目が止まった。
細長い物体にくるくると巻かれた一枚の布は俺が踏み荒らしたからか、少し皺になっていたが明らかに丁寧に巻かれており、他の荷物と比べて上質な素材で出来ていて、汚れも少なかった。
そこで俺はふと、違和感を覚えた。
この黒い布、どこかで見たことがあるような気がする。
ギルバザークが持っていても別におかしくはないが、この荷物の中では他と比べると異様に綺麗だった。明らかにギルバザークでない別の誰かのものであることは推測できる。
俺は恐る恐る、布が巻かれた物を手に取ると、その重さに覚えがあった。
直感で俺は何かを察して。忙しなく巻かれていた布を取り外していく。
するとその中からは、俺の爺ちゃんの刀である天照と月詠が顔を見せた。
「…………っ」
なんら変わりないいつもの刀。だけどそれが俺の涙腺を刺激する。
もうきっと帰ってこないと思っていた。たった一晩の間だったが、それでも手放すのはすごく辛かった。俺の制服と同じく、元の世界との繋がりをもつ大切なもの。
そしてそれをくるんでいた黒い布。きめの細かい生地で、武器を巻くには上品すぎる一枚。それは俺に売られてギルバザークの持ち物になったはずの刀なのに、二本ともを優しく丁寧に包んでいた。まるでお互いの刀が離れ離れにならないように、と。
その布の持ち主が今、わかった。
「レイナさん…………」
途端に目頭が熱くなり、無意識に眉間が力む。
いつも素っ気なくて、俺には毒舌を吐く彼女。なのに他の人、特に俺の知り合いには普通に接していて明らかに俺を毛嫌いしていた氷人族の女性。
だが、スラさんは言っていた。彼女は俺に感謝していると。ただ俺が彼女の嫌う人族というだけで接し方が分からず、つい強く当たってしまっていると。
そんな彼女の何気ない本当の優しさに、今触れた。感じた。理解した。
何気ないことかもしれない。もしくは何も意味はないのかもしれない。
だけどそれだけで、俺は胸がいっぱいになった。
自分でも単純だと思うし、なんならチョロくも感じる。
でも、男ってそういうもんじゃないのか?
気になる相手が、それも嫌われていると思っていた相手が普段は見せない優しさのひと欠片をみせてきたんだ。
それが、たったそれだけが俺を突き動かす理由となる。
「絶対に、助けるから」
俺は刀たちを黒布で腰に強く巻き付ける。刀の重みがいつもより少し重く感じる。
それはきっと彼女運命を背負っているからだろう。
荷馬車から降りて、俺はスラさんのもとへ戻る。すると俺の顔つきを見たスラさんは察したのかじっと見つめたあとゆっくりと頷いた。
「今のコーキ、いつもよりすっごくかっこいいよ」
その言葉に俺は返事せず、眼だけで応じて踵を返す。
「ギルバザークさんのこと、頼んだぞ」
「任せて。ギルドに連れていったあと、ボクも後から直ぐに行くから」
「ああ」
「……コーキ!」
俺が向かおうとした瞬間、不意にスラさんが俺を呼び止めた。立ち止まって首だけを回し、俺は肩越しにスラさんを見やる。
「レイナを、守ってあげてね」
「……もちろんだ」
一言告げて、俺は足に風を纏わせて森の中へと駆け出した。一瞬でスラさんのもとを去り、険しい森の獣道を立ち止まることなく走り抜けていく。
言われなくても、絶対に守ってみせる。
この先、何が起ころうとも。誰が何をしようとしても。
そして、たとえ、この身に何が起きたとしても、守り抜いてみせる。
次回投稿は1月28日予定です




