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無難に生きるのが俺のモットーです。  作者: よにー
第一章 氷人族の少女
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第47話 決死の覚悟

遅れてしまい申し訳ありません。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

第47話になります。

よろしくお願いいたします。



森の木々が強風に煽られたかのように揺れ、何事かと木の葉がざわめく。別に風の強い日でもない。すぐそこを誰かが通っただけだ。


ただ走るだけじゃ木が揺れるほどの風が生まれない。それこそ人知を超えた速度で走り抜けない限りは。


しかし、そんな尋常でない速さで森を駆け抜ける一人の男がいた。


足に風を纏わせ、人ではありえない速度で森を駆け抜けるその姿はどこか焦りを見せていた。


通り過ぎる小枝に頬を引っ掻かれ、泥に塗れた靴など気にもとめずに無我夢中で走り抜ける。


何をそんなに急いでいるのか、それは当人にしか知りえない。


恐らく、彼は必死なのだろう。きっと誰かのために吹き荒れる嵐のように駆けているのだ。


それが例え、自分の身を滅ぼすことになりえたとしても。





――――――――――――――――――――――





青々と生い茂った草木が見守る中、まるで陸上のアスリートのように茂みを飛び越え、俺は森を縦横無尽に奔走する。


例え木が何本束になって邪魔をしてこようと、間をすり抜けるルートが感覚的に見えてくる。


森の地形なんてまったく把握してない。けれどギルバザークが指した方角を頼りに真っ直ぐ突き進む。


本当にこの先に奴とレイナがいるなんて分からない。だけどそれしか道標がない。ただ愚直になってこの道を行くしかない。


 数分走っていると道行く先から何か物音が聞こえてくる。


 遠くはあるが甲高い音が何度も鳴り響いて、獣のような叫び声が俺の耳に届いて来た。


 それと一緒に、何かが爆発したような重く身体の芯から響かせるような音もする。この音、つい昨日も聞いたことのある音だ。


 俺の足はさらに速度を増していき、木の間を高速で抜けていく。すると遠い森の奥で誰かが戦っているのが見え、徐々に近づくに連れて戦う人物が鮮明に見え始める。


 ……見つけた。今、行くからな。


 戦っている人物、その男に照準を定めて、真っすぐ突っ切る。そしてよく見れば奴の脇にはレイナが抱えられていた。どうやら気を失っているみたいだ。


あんなガサツな抱えられかたでは彼女の負担が大きすぎる。早く助けないと。


 すると男が急に吠えだした。


「クソ!! うっとおしいゴブリンだ!!」


 そう愚痴を垂れる男は一匹のゴブリンと対峙していた。なんてことのないただのゴブリン。本当ならばこれくらいの相手ならば苦戦なんてするはずもない。しかし、気を失っているレイナを抱えながら戦うのは骨が折れるのかドレイクは思うように戦えないでいた。


ならば彼女を置いて戦えばいいはずなのだが、執拗にゴブリンが彼女を狙うものだから手放すに手放せないのだろう。ゴブリンの機敏な動きに見事翻弄されてドレイクの剣先は迷っていた。


 それに対し、ギャギャギャと気味の悪い笑い声を上げながら斧を巧みに振り回してゴブリンはドレイクを追いつめる。その姿はまるで戦いを楽しんでいるようにも見える。


良いぞ、そのままそいつ抑えていてくれ。だがレイナさんには指一本触れるんじゃねぇぞ。


 何度か二人が打ち合い、ドレイクが攻撃をいなしていると埒が明かないと思ったのかゴブリンはスライドするように動いてドレイクの側面を取った。その角度は丁度ドレイクがレイナを抱えている脇の真横だ。


「ッ、クソッたれがぁ!」


一瞬の隙を突いてゴブリンは俊敏にレイナを狙ってきた。しかし、流石にそれを許すほど、ドレイクも甘くはなかった。


「ッオラァ!!! 調子こいてんじゃねぇよ!!!」


 すぐに身体を翻してとびかかってきたゴブリンを避けると、横腹を膝で勢いよく蹴り上げる。


「ゴギャッ!?」


 骨が折れたような鈍い音が響き、ゴブリンの口が反射的に大きく開いた。不意の一撃に苦悶の悲鳴を上げてゴブリンの身体は宙に浮かぶ。


「ザコが粋がんな!!!!」


 そう叫び、ドレイクは渾身の一振りをゴブリンの首に叩きつけた。


 バツンッ!!!


 宙から地面に叩きつけられた衝撃でゴブリンの頭が切断され、ボールのように跳ね飛んでいく。


「へっ!! ゴブリンごときに遅れなんかとるかってんだ」


 首の無いゴブリンの身体に唾を吐き、ドレイクは勝利を誇る。


 そして跳ねるゴブリンの頭が勢いよく俺の方まで飛んできてそのまますれ違っていった。


 ありがとう、ゴブリン君。奴の足止めをしてくれて感謝する。決して君の死は無駄にしない。


 そして俺はドレイクにたどり着く寸前、そのまま流れるように抜刀した。


「ッ!!! お前はッ!!」


 突然森の中から姿を現した俺に流石に気づいたのか、驚きつつも俺の方を向き直って剣を構えた。昨日やられた仕返しに不意打ちしようと思っていたんだけどな。仕方ない。


一度も速度を緩めることなく飛ぶように駆け抜けて一直線にドレイクへ突っ込んでいく。


「レイナさんは、置いていってもらうぞ!! ドレイク!!!!」

「チィ!!!」


 一瞬足に力と魔力を込めて力強く踏み込む。すると放たれた弾丸のようなスピードで軽く宙に浮きつつすれ違いざまにドレイクの肩を狙って切りつける。しかしそんな一瞬の斬撃にドレイクはしっかりと対応してきた。


「ナメんなッ!!!」


激しく刀と剣が鍔迫り合い、互いの刃先を滑りあう。


辻斬りの如く通り過ぎ、振り向きながら減速してドレイクの行く先に立ちはだかった。


「もう逃げれられないぞ!!」

「ケッ、何熱くなってんだか」


如何にも嫌そうにドレイクは口を尖らせて俺を睨んだ。それに怯まず、こちらも射殺すほどの眼光を突きつけた。


その目を見て昨日の俺と様子が違うのを感じたのかドレイクは顔つきが少し変わった。


「……まぁ追ってきたんなら丁度いい。昨日の仕返しがしたかったんだよな」


さっきまでの猛獣のような声からは想像できないような落ち着きを見せる。


「だがよ、流石にこいつを抱えたまんまじゃ戦えねぇ。邪魔だしな」


ドレイクは脇に抱えたレイナを鬱陶しそうに見下ろすと、彼女を手放して落とした。


 そう、落としたのだ。置くなんてもんじゃない。まるで壊れてもいいかのように一切の気遣いもせず、脇から落とした。


 ドサッと無骨な音を立てて地面に落ちた彼女は何も言葉発さない。当然だ。意識がないんだから。


 しかし俺は見逃さなかった。


 乱れた髪の隙間から見えた彼女の顔を。意識がないはずなのに苦痛に歪む彼女の表情を。


 それを見てしまったら、もう我慢できなかった。


「どいつもこいつも……」


 無意識に魔法が発動して俺の周囲を風が渦巻き始める。


「レイナさんはものじゃねぇって言ってんだろうがァ!!!!」


 最初はそよ風程度だったのに、俺の怒りの爆発が暴風へと変貌を遂げさせた。


「ッ…………!!」


 ビリビリとひりつくような空気にドレイクは目を見開き、硬直する。


 しかしこの暴風のままではまともに戦うこともできない。気持ちを落ち着かせなければ。


 すると、木々を揺らしていた暴風がシュルシュルと小さくなっていき、俺の身体に纏わりつく。風で服が靡き、髪が乱れ狂う中俺の目はドレイクだけを写しこんでいた。


 さっきと打って変わった風の勢いにドレイクは訝しむが、すぐに切り替えてきた。


「変な魔法を使うとは思っていたが、そんな燃費の悪そうなもんだったとはな」

 

 へッと笑うとドレイクも剣に魔力を流し、その刃先を赤く発光させる。


「ま、どんな魔法であれ昨日みてえな油断はもうしねぇ。ここでぶち殺してやるよ、坊主」


 目の奥にとてつもない殺意を滲ませ、ドレイクは剣先を俺に向けた。


 その殺意、そっくりそのまま返してやる。


「覚悟しろよ、ドレイク」

「ハッ、どっちがこの女を手に入れるか、勝負といこうじゃねえか」


 お互いに武器を構え、静寂がこの場を包む。


 そしてその静寂はすぐに破られた。


「オラァ!!! 死に曝せやァ!!!」

「シッッ!!!」


 互いに相手の懐に飛び込んで武器を振りかざし合う。そして勢いよく振り下ろされる奴の剣をタイミングよく刀で弾き飛ばす。


 すると赤く発光していた剣が瞬時に爆発を引き起こした。


「バカが!!」


 視界が爆風で見えなくなり、ドレイクの嘲笑う顔が煙の中に消えていく。


 だが奴の余裕なぞ吹き飛ばしてやる。


 すると俺の意思に従うかのように身体を纏う風がひとりでに爆風を巻き上げて空中で霧散させる。


「何ィ?!」


 こいつの得意戦法はもう通用しない。他の魔法だけが懸念点ではあるが、剣術ではまだ俺の方が上みたいだ。


 攻めるなら、ドレイクの懐で常に刀を振り続けるしかない。


 視界が開けた瞬間、何度も何度もドレイクの急所目掛けて刀を振るう。


「グッ!! クソッ!!」


 ドレイクも何とか俺の猛攻をしのぎつつ、剣と刀がかち合った瞬間に爆発させるが、そのたびに風が邪魔をして爆発の威力を相殺する。


 一言も喋らず、殺意を打ち込む俺にドレイクは若干しり込みを見せ始めた。


「しつけェ!!」


 やられっぱなしは癪に障るのかドレイクも俺の攻撃の合間を狙って仕返してくる。


「ッ月鏡!!!」


 すぐさま反撃の構えをしてドレイクの攻撃をいなす。しかしドレイクは弾かれた剣を切り返してまた振り下ろし、そしてまた弾き返した。


 激しく入れ替わる攻防に爆発と暴風が混ぜ合わさって二人を中心に軽い台風が発生し始める。


「チッ、埒が明かねぇ!!」


 すると痺れを切らしたドレイクが俺から距離を取り、手から火球を放ち始めた。


「バーンブレイズ!!」


 ボンボンと複数の火球が独自の挙動で宙に舞い、一斉に襲い掛かってくる。だが焦ることはない。虫みたいに飛び回ってはいるが、捉えられないほどじゃない。


「シッ!!」


 多方面から攻めてくる火球を回転するように一太刀でまとめて切り捨てる。そして切ったと同時に割れた火球を風で覆い、爆発を抑制する。


「クソッなんて剣捌きだ!!」


 驚いている隙にドレイクを視界にとらえてすぐに風を利用して距離を詰める。


「は、はええ!! 昨日とまるで別人じゃねぇか!!!」


 一瞬で懐に飛び込まれたドレイクは焦って大振りをかましてしまう。その揺らぎを俺は見逃さなかった。


 また月鏡でいなせばいいのだが、いなすだけが月鏡の戦い方じゃなくその続きがある。


 攻撃をいなして隙を作り、確実に相手にダメージを負わせる。守りこそ最大の攻撃、それが本当の月鏡だ。


 また月鏡の構えをしてドレイクの攻撃を誘う。


「またそれか!!」


 文句を言いつつ振り下ろされたドレイクの剣を強く上に弾く、ここまではさっきと同じだ。このままだとまた俺の隙を突いてドレイクが攻勢に出る。


 だが月鏡の真骨頂はここからだ。


 腕を回して弧を描き、手首を捻ることですぐさま次につなげる。ただの切り返しとは違う。流れるように刀を運ぶことで止まることなく、相手に息をつく暇を与えない。


 弾き返したとほぼ同時に刀は下へ回り、勢いを殺さずにそのまま逆袈裟で切り上げる。


「月鏡……朧返しッ!!!」

「うおおお!!!」


 一瞬の出来事にドレイクも流石に剣を戻すのは間に合わず、上体を翻し無防備な胴を刃先が掠める。


 惜しい!! あと少し早く切り返していれば腹から胸にかけて刃が通ったのに!!!


「怖い怖い!!」


 空振った刀が虚しく空を切る。その隙をドレイクは見逃さず空いていた片手で魔法を打ち込んできた。


「食らえ!! バーンストライク!!!」


 手から溢れんばかりの燃え盛る炎が俺の横腹を狙う。この魔法、直撃すればこのキャサリンの服でも無事では済まない!! だが回避も間に合わない!!


「くっ!!」


 纏う風の層を何重にも重ねて集中させてドレイクの魔法を受ける。しかし轟音と共に強烈な振動が俺を襲い、重心がぐらついてしまう。 


 体勢が崩れて傾く俺にドレイクはチャンスとばかりに剣で追撃を仕掛けて来た。


「しまっ……!!」


 なんとか立て直そうとするがせいぜい身体を捻ることしかできず、急所は避けたもののドレイクの剣が俺の横腹を切りつけた。


「ぐぅ!!」

「ハッ! 剣だけが殺し合いの道具じゃねえんだぞ!!」


 痛みで一瞬反応が遅れてしまい、意気揚々とドレイクが追撃を仕掛けてくるが、その直線的な攻撃が逆にチャンスを与えてくれた。


「舐めんな!!!」


 風で軽くなった身体をうまく翻すと突きを回避してくるくると宙を舞いながらドレイクから一旦距離を取り、またすぐに距離を詰めて刀を振るう。


 ドレイクの腕のレベルだと剣術だけで捻じ伏せることができるのに、如何せん魔法が俺とドレイクの戦いを互角の物にせしめていた。


 終わらない攻防と平行線の戦いの先に待っているのは、スタミナ切れだ。


 そしてその均衡を先に崩したのは俺の方だった。


「ハァ……ハァ……」


 実際のスタミナ切れではなく、俺が引き起こしていたのはこの世界特有の症状。魔力切れだ。実際に身体は風を纏っていたからか疲弊というほど疲れているわけじゃない。ただ、気怠さと脱力感が波になってきているだけだ。


 疲れた様子の俺を見てドレイクもやっとかと汗が奴の吊り上がった口角を伝う。


「クソが……俺の方が魔法の質も種類も多いってのになんで魔力量だけはいっちょ前にあるんだよ……気持ち悪いぞお前……。まぁこのまま続けてりゃ、お前の方が先に潰れるのも当然だがな」


 それは褒めていると受け取ってもいいのだろうが、こんな男に褒められたところでなんにも嬉しくはない。


 しかし、あまり時間をかけられないのも事実だ。これ以上は魔力切れを起こしてまともに戦えなくなってしまう。


 ……なら、魔法を使わなければいいんじゃないか?


 風のおかげでまだ身体自体は動く。それに対して、ドレイクは自身の動きを補助するような魔法を使わず、全部攻撃に特化した戦い方をしている。


 そのおかげか体力的には俺よりもドレイクの方が疲弊している。魔力切れが近いと眩暈とかが起きやすくなるが息が上がっているわけじゃない。


 その証拠にドレイクはさっきから肩で息をしていた。


 それに戦っている最中、深くはないが何度かドレイクの隙を突いて奴の身体を追い込んでいる。


 平然としているが動きも段々と重くなって鈍さを隠せていない。


 俺が魔法の使い方をしっかりとマスターしていればおそらく、長期的に戦えて奴をもっと簡単に追いつめることができたはずだ。


 だが今はそれを実践できるほど魔法を巧みに使った戦い方を俺にはできない。


 ならば今できる最善の戦い方は、風を纏わせずドレイクと戦うこと。


 魔法攻撃は基本的にどうしようもないが戦っていて気付いたことがある。奴は基本的に風魔法を使わない。もし使うことがあっても自身が起こした爆発の煙を吹き払うくらいしか使わない。


 これの意味するところは、奴は俺と同じような魔法の使い方をしないということ。つまり、自身の動きを補助する戦い方をしないということになる。


 それに、奴が爆魔法を使う際は必ず一瞬予備動作が必要になっているみたいだ。その一瞬が攻撃のチャンスとなる。


 まぁこの点はもうドレイクも気づいているのかさっきから剣に魔法を集中させて戦うようになっている。


 幸い、爆発は風でかき消せているが、これも魔力を使っているから正直ジリ貧に近い。使うとするならば刀に風を纏わせるだけに留めて、自分には風を纏わせないようにするしかない。


 だから求められるのは、奴の魔法を受けずに倒すこと。


 言うのは簡単だが、かなり難しい条件だ。


 風魔法を発動させずに戦うってことは、俺は魔法に対しての防御が無くなり無防備になる。きっとあの「バーンストライク」とかいうのをもろに食らえば俺の身体ははじけ飛んでしまうかもしれない。


 なれば、この戦いに求められるのは一切の被弾を許さず、己の身体のみで刀を振るうこと。


 自分でもかなり無謀なことをしようとしていると思う……が、やってみるしかない。そうでもしないと、あいつを倒して彼女を助けることなんて到底できない。


「……それにしてもよ、お前がここまで強いなんて想像もしてなかったぜ。一体何モンなんだよ坊主」


 ドレイクは息の上がった身体を休ませたいからか俺に話しかけてきた。


 ここで体力を回復されるのはマズい。すぐさま俺は続けさせまいとドレイクに切りかかる。


「おいおい、ちょっとは話をしようじゃねぇか」

「……おっさんと話すことなんて一ミリたりともありゃしないな」

「冷てぇな」

 

 また激しく打ち合い、凄まじい剣戟が森の中で響き渡る。ドレイクも疲れているはずなのにまだついてこれるなんてかなりのスタミナモンスターだ。


 とはいえ、疲れていることには変わらない。打ち合う最中、ドレイクの剣にキレが失われつつあった。


 何度かドレイクの剣を弾き返した際、奴の足元がもつれて姿勢が崩れ始め、その隙を俺は待っていたと言わんばかりに攻め立てる。


「グ、うう……おおおお!!」


 これでもかと強烈な猛攻を浴びせるとドレイクは対応しきれずにドレイクの腕や肩、腰を刃が切りつけた。


「なろッ……調子乗んなッ!!」


 するともう構ってられなくなったのかドレイクが斬撃を気にせずに剣を突っ込ませてきた。しかし、そんな愚直な突きは容易く弾き返せる。


 そう俺は思って刀をまたまわして剣をいなすとドレイクの手から剣がはじき出されて宙へと飛んで行った。その瞬間、感触に違和感を覚える。


(剣を手放した……!?)


 こんなあっさりと手放すなんてありえない。それもわざとしているとしか思えないほどに。


 一瞬の逡巡が俺の身体を止めてしまい、その時不意に俺の両手首をドレイクが鷲掴んできた。


「なっ?!」

「ようやく掴んだぜ……坊主!!」


 マズい!!! 今爆破されたら……!!!


 すぐに風を纏いなおして手首に集中させる。しかし……。


「おせェ!!!!」


 ドバンッ!!! と俺の手元が赤く輝いて強烈な爆発が手首を襲った。


「ぐっ……ああああああああ!!!!」


 まるで手首を引きちぎられたような痛みと灼けていく肌の感覚が俺の意識を一瞬奪いかける。その際、手から刀が抜け落ちていき、虚しい音を立てて地面に横たわった。


「まだまだァ!!!」


 そう言って次にドレイクは俺の首元を乱暴に掴んできた。首まで爆発されたらもう戦えなくなる!!


「このッ!!!」


 手首の痛みをこらえながら足の渾身の力を込めてドレイクの腹目掛けて思いっきり蹴飛ばす。

 

「ゴフッ!?」

 

 蹴飛ばされた衝撃でドレイクは転げまわりながらも体勢を立て直した。しかしまだ衝撃でドレイクはよろめいていた。


 やるなら今しかない。


 もう片方の刀、月詠の柄を握り、速攻を仕掛ける。


「終わりだッ!! ドレイクッ!!」

「チッ!!!」


 ドレイクの真下まで瞬間的に移動して月詠を腰に構え、抜刀のように振り上げる。


 二刀一心流抜刀術。


疾風はやて!!!」

「うおっ!!」


 高速の刃は妖しい軌跡を描いてドレイクの胸をすり抜ける。


「ぐ、おおおおおお!!!」


 断末魔と共に、瞬く間にドレイクの胸から真っ赤な血が溢れ出してきた。その血飛沫が顔に飛びつき、生暖かい感触がピチャピチャと俺の顔を覆う。


 後ろによろめきながらドレイクは後ずさりをして俺から距離を取ろうとするが、そんなこと、許すはずないだろう!!!!


「逃げんなァ!!!!」


 劈く手首の痛みに耐えながら、刀の刃先をドレイクの腹に突き刺した。


「グ……がぁ……」


 グルンとドレイクは白目を剝くと、俺の身体に覆いかぶさってくる。流石に男一人の体重を支え切れるほどの余力は残っておらず、俺は仰向けに倒れてしまった。


 やっと、終わった……。これでレイナさんを解放することができる……。


 高い空を見上げて閉じかけている瞼を無理やり開こうとする。いつの間にか景色は色鮮やかになっており、澄み切った青い空は俺の戦いを称賛していると勘違いするほど綺麗だった。


 はぁ……疲れた……。戻ったらレイナさんの首輪、解放しないとな……。


 しかし、終わりじゃなかった。


 戦いの余韻に浸っていると不意に俺の首を誰かがまた掴んできた。


「なっ……」


 見れば、俺の身体を覆いかぶさるドレイクが意識を取り戻していた。


「へ……へへッ……逃げるなんて、んなこと……するかよ……」


 薄気味悪い笑みを浮かべながらドレイクは虚ろな目で俺を写して、ググっと両手に力を入れ始める。


「く……そ……」


 マウントを取られていて抜け出すことができない。それに……まだこんな力あったのかよ……。


 締め付けられる力が強く、手で解こうにも灼けた手首では力が入らない。


「う……ぁ……」

「へへへ……これ以上魔力を使っちまったらこっちの方がぶっ倒れてそうだから、このまま絞め殺してやるよ……」


 そう言って血に染まったドレイクの手はどんどん力がこもっていく。


 それに比例して俺は呼吸が浅くなってまともに呼吸ができなくなる。


「か……かひゅ」

「残念だったな、あと一歩ってところでよ」


 く……そ……。これじゃ……レイナさんを……助けられな……。


 薄れていく意識をなんとか手放さないようにしてはいるが、身体がもうぐったりと動こうとはしてくれない。


「じゃあな、坊主」


 近いはずなの遠ざかっていくドレイクの声が俺の死を自覚させる。


 ここ……まで…………か。


 と諦めかけたその時。


「うああああああああ!!!!」

「!? なんだ!?」


 叫び声のする方をドレイクが見やると同時に、ドレイクは誰かに体当たりで突き飛ばされる。


「ぐぅ!?」


 勢いよく突き飛ばされたドレイクから刺さっていた月詠が抜け落ちて俺の傍に滑ってきた。


「ぐ……こんのアマ……」

「あ……ま……?」


 そのセリフに俺は閉じかけていた目を開いてその人物を瞳に写す。


 そこには後ろ手に縛られたレイナが俺の顔を覗いていて、必死に呼びかけるその表情は今まで見たことないほど、とても心配そうに見つめていた。


「大丈夫!? 平気!?」

「レイ……ナ……さ、ゲホッゴホッ」

「無理……しないで」

 

 するとどこか安心したようにレイナの顔が和らいでいき、その瞳は潤んでいるようにも見えた。


 ……ああ、そんな顔されちゃあ、ますます……。


 しかし、そんな時間も束の間でドレイクが立ち上がってこちらへにじり寄ってくる。


「こんの……クソアマがァ!!!」

「っあ!!!」


 恨みを込めた言葉を吐き捨てながら、ドレイクはレイナを思いきり蹴り飛ばした。


「レイナさんっ!!」


 レイナはゴロゴロと転がっていき、そのまま木に背中を強く打ち付けてしまう。


「く……ぁ……」


 痛みに蹲り、レイナは苦しそうに悶える。


「ドレイク……お前ッ!!!!」


 俺は傍にあった月詠を手に取って即座に立ち上がると、下からドレイクを切り上げた。


「ぐおおおあああああああああ!!」


 断末魔と共に、ドレイクの片腕が宙を舞う。そして打ち上げられた腕は物のように地に落ちていった。


 もう満身創痍となったドレイクは立つのもやっとなのかよろよろとよろめき、後ずさる。


「はぁ……はぁ……」


 片腕も落とした。如何に奴が丈夫でもここまでされれば再起不能になるはず……。


 しかし、ドレイクはまだ戦う意思が残っているのかその目は死んではいなかった。


「ああ……クソ……もうどうだっていい」

「……」


 不満げに漏らすドレイクはどこか遠い目をして空を見上げた。


「ここまでされちゃあもう、お前もその奴隷も心底どうでも良くなってきたわ」

「ならそのままくたばってくれるとありがたいんだがな」


 するとドレイクはニヤリとほくそ笑むと血だらけの手で俺を指してきた。


「いいや。死ぬのはお前も一緒だ、坊主」

「何……?」


 この状況でまだ俺を殺そうってのか? イカれてるにもほどがあるだろう。だがどう考えてもドレイクは俺をもう殺せない。


「お前が俺に勝てない理由を三つ、教えてやるよ」

「……今更何を」


 急に何を言い出すのかと思えば、なんだ。俺を貶したいだけか……?


 しかし俺の言葉を無視してドレイクはそのまま続けた。


「一つ、お前の戦い方だと持久戦は不向きという点。そんな燃費の悪い戦い方じゃ、この先、生きていけないぜ? もうちょっとマシな魔法の使い方を覚えるこったな」


 ドレイクの言葉をただ静かに俺は耳に入れる。どうせこのまま放置していてもドレイクは勝手にくたばるはず。最後くらいベラベラと喋らせてやるか。


「二つ、遠距離戦になると打つ手がない点。ウィンドエッジもエアブレイドも何も使えない。遠距離になれば一方的に蹂躙されるだけになるぞ」


 ……なんだ?急に……俺の弱点を喋り始めて……。


「そして、三つ目……。まぁこの際俺にとっちゃあもうどうでもいいんだけどな」

「……?」


 訝しむ俺にドレイクは目を細めてニタァと笑う。


「お前には守らないといけないものがあるってことだ」


 な……に……? それは、どういう……。


「面白い事を教えてやるよ、坊主」


 すると、ドレイクは残った片手に炎を宿すとその炎を徐々に大きくしていった。


 おい、まさか……よせ………………やめろ。


「氷人族にさ、炎をぶつけると、どうなるか知ってるか?」


 やめろ、ドレイク。それは、反則だろ。


「その目で、確かめてみると良いさ!!!!」


 そう言ってドレイクは轟轟と鳴り響く大きな火の玉を力いっぱい、レイナの方へと投げつけた。


「やめろおおおおおおおおおおおおおォォォォォッッ!!!!!!!!!!!」

「ハハハハハハハハ!!!!!! 守ってみせなぁ!!!! ボウズゥ!!!!」


 身体の芯から震えるような叫びと共に、俺は残り少ない魔力を振り絞って風を纏わせるとレイナのもとへ駆け出して行った。




 

次回投稿は2月4日予定です。

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