第40話 現れた奴隷商人
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よたよたともつれそうになる足を必死に前へ押し出しながら森を抜ける。陽はすっかり落ちてしまって辺りが闇に覆われ始めていた。森の入り口辿り着き、平原に出ると道の先にアステリシアの街の外壁が見えた。
その壁の向こう側から街の灯りと思われる淡い光が暗い空へと溶け込んで空がほんのり明るくなっている。平原の街へ続く道には街灯なんてものはないからより一層光が温かく思えた。
二人は無事にギルドまで戻れたのだろうか。まぁスラさんがいるし大丈夫だとは思うが。
それにしても暗い。王都の光がなきゃ辺り一面真っ暗闇だな。夜は嫌いじゃないが流石に真っ暗になると困る。火か光属性の魔法があれば夜も安全に歩けるんだろうなぁ。
なんにも見えない中歩いて小石に躓いたりしたらどうしよう。まぁまず小石なんかで躓くなと言いたいところだが。
静かな夜の帳を肌で感じながら道沿いに歩いていると門の付近に人影が見えてきた。その人物は何かを探しているのか首をキョロキョロしている。様子からしてあれは……守衛さんじゃないよな……?
門の傍に立つ人物をなんとか見ようと目を細めているとその人の後ろで何かがひょこひょこ動いていた。……ってあれは尻尾じゃないのか?
どこか見覚えのあるような尻尾と合致する記憶を探ろうとしていると向こうも俺のことを発見したのか、布地の少ない身軽な装いにふさふさの猫耳をピコピコさせながらこっちに向かって走ってきた。なんだか見覚えのあるシルエットだな……ていうかあれ? なんか見たことあると思ったら、なんだただのニルハじゃないか。
おーっすと挨拶代わりに軽く手を上げる俺に対してニルハは何か焦っているような様相でバタバタ近づいてきた。
「コーキくんっ!!やっと戻ってきた!!!」
「お、おう。ニルハさんどもっす」
「挨拶なんていいからちょっと来て!!」
「お、おう……?? なに、どしたん。話聞こか?」
ヘラっと薄気味悪くうさんくさい薄笑いを浮かべてニルハが焦っている理由を目で問いただそうとする。我ながら人間不信になりそうな笑顔だ。
しかしニルハはそんなことに構っている暇はないと言わんばかりに俺の腕を引っ掴んできた。え、なになになになに。怖い怖い。
「いいから来てって!!!」
「ちょ……俺いま、結構疲れてるんですけど……」
「君が疲れてることよりもよっぽどまずいことになってるんだって!!」
俺との会話すらはばかられるのかニルハはぐいぐいと俺の腕を引っ張った。
ふえぇ……。この猫娘ってば人の話全く聞かないよぉ……。いや、俺だから聞いてくれないのか……? そう考えるとなんか自己嫌悪にまた苛まれそうだ。
だがまずいことになってるとはどういうことでしょうかね。ニルハの様子からしてそれが俺に関係あることは間違いないだろうが、そんなに慌てることなのだろうか? 俺なんかしたっけ……? 事件捜査の基本はまず自分を疑っていくことから始まる。固定観念に囚われちゃダメよ。
「せめてゆっくり歩きながら説明をば」
「ゆっくりしてたら日が暮れちゃうでしょ!!!」
「いやもう暮れてんですが」
「ああもうっ! ああいえばこう言ってこの子は!!」
「えぇ……今の俺が怒られる流れなの……」
「早く行くよ!!!」
「え、ちょ、待って。ほんとに疲れてるんだって。アッ、いやん。もっと優しくして……」
「変な声出すな!」
俺が心の底から嘆願してもニルハの愛らしい耳には届かなかったのか、彼女は完全に俺を無視して無理やりズルズルと引きずっていく。ニルハさんたら華奢なわりに結構力あるのね……。
そんなのんきなことを考えてる俺は、これから起きる大変なことなぞ想像だにしていなかったであった。
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ニルハに半ば強引に連行されてどこへ向かうのかと思いきや、訪れたのは俺が部屋を間借りして生活しているギルド「アルバート」だった。
焦るニルハの様子からギルドが崩壊したとかそういうレベルなのかと思っていたが、外の様相からして何の変哲もないいつものアルバート。変わっているとしたらギルドの中にある宿の区画は満室のはずなのに一室だけ灯りが点いていないことくらいだろうか。あ、ちなみにその部屋は俺が借りている部屋ね。
それにしてもなんだこの違和感は。この時間、いつものギルドなら冒険者たちの宴のような喧騒が外まで聞こえてきて賑やかなはずなのに、灯りだけ点いているだけなのか妙に静かだった。
喧騒にまみれている場所が静まり返ってるだけで妙に恐怖を感じる。
そんな訝しむ俺に対して、ニルハは俺以上に険しい表情をしていた。
「なんでこんな静かなんだ……」
「中に入れば分かるよ」
俺の問いにただ一言ニルハはそう答えた。いや、説明責任を果たしてくれ。訳の分からんまま行かされるこっちの身にもなってくれ。
心の中で文句を言いつつもニルハに言われるがまま俺はギルドの扉を開き中へと足を踏み入れる。
ギルドに入るといつも通り中は人で溢れかえっていた。入口は人で壁ができており、カウンターへ行こうにも邪魔で仕方ないほどだ。しかしこんなに人がいるのに話し声さえ聞こえない。
異様な光景に俺は何とか人の合間をかいくぐって前へ進む。その際、「あ……あの子と一緒にいた男の子だ」など俺の方を見て呟く冒険者が多かった。
人の壁をすり抜けると、そこには一人の見慣れない男がいた。縦に長い黒のシルクハットを深くかぶり、帽子の唾を指で軽く押さえている。そしてこの場には似つかわない燕尾服がスラッとした細身の身体は男の身長の高さを伺わせると同時に胡散臭さを際立たせていた。
その男を取り囲むようにして周囲の冒険者たちが一斉に睨みをきかせていた。そんな彼らの中央には我が保護対象のレイナさんが守られるようにして佇んでいた。
そしてその場にいる冒険者たちが一斉に入口から入ってきた俺へ視線を注ぐ。
うーん、ひとえに言って怖い……。だって険悪な雰囲気の場所へ何も知らない場違いな人間がのほほんと入ってきて、そのヒリついた空気がナイフのごとく肌に突き刺さってくるんだぞ。普通に泣くわ。
とはいえ少し状況に戸惑ったがこの雰囲気から尋常ではないことが起きていることは確かだ。
キョロキョロと冒険者と燕尾服の男の間を目でうろうろしていると聞きなれた声が俺の名前を呼んだ。
「コーキ!」
その方を見やればレイナの肩に乗っていたスラさんが困ったような視線を俺に向けていた。
「コーキ……?」
スラさんの声に反応して燕尾服の男も同時に振り返る。男は俺の顔を見ると一瞬目を細める。俺を一瞥したあと、男はレイナの方へ目を向けた。
「ふむ……」
男に視線を向けられたレイナは男から視線を逸らして俺を見つめてくる。その潤む瞳はどこか思い縋るような眼をしていた。
「なるほど……」
その光景を目にした男は何か理解したのかスッと目を伏せると今度は鋭い目つきで俺を見据えてきた。
「少年、君が私の奴隷を保護してくれたのかね」
「え、あ。ひゃ、ひゃい」
低く、身体の芯を震わせるような声音に俺は一瞬怯んでしまい声が裏返ってしまう。めっちゃ渋い声してんなこの人。
しかし、今の台詞から合点がいった。この似非燕尾服を着たシャレオツダンディズムな紳士は俺が探していた奴隷商人だ。
身なりからしてたしかに商人らしくはあるがどこかの貴族みたいな貫録を感じさせる。
すると男はさっきまでの恐ろしい顔から、急にほっこりした表情をさせて目元をにっこりと和らげた。なんだこの豹変ぶりは。怖えよ。
「いやはや本当に助かりました。君がいなければ私はあの娘を永遠に失うところでした。これで心置きなく商売を続けられるというものです」
「…………」
「ゴブリンに襲われた際、彼女が逃げだした時はさすがの私も肝を冷やしました」
ニコニコと手をゴマすり合わせて男は俺の方へと近寄ってきた。うっすらと気味の悪い笑みで裂けそうなくらいに男は口角を釣り上げる。
その際、男の肩越しにカウンターのフィリアと目が合った。フィリアは心配そうな目で俺の方を見つめていた。どうなるかハラハラしながら様子を窺っているようだ。
彼女の様子からまだミラは帰ってきていないみたいだ。なら今はこのチャンスを活かすしかない。ミラからは奴隷商人が現れたら大人しく引き渡すようには言われていたが、その本人はリードとやらへ向かってここにはいない。何とかして交渉まで持ち込まなければ。それにレイナの期待を裏切るわけにはいかないからな。
「コーキ様にはお世話になりました。彼女を保護していただいただけではなくあんな立派な服まで用意して着せていただけるとは。これで彼女の価値もグッと伸びることでしょう」
「……」
価値、ねぇ……。
俺が静かに睨んでいると男は居住まいを正し、手を前にして華麗なお辞儀を披露した。
「おっとこれは失礼いたしました。私、奴隷商人を営んでいるギルバザークと申します。そこのコーキ様が『レイナ』と呼ばれる氷人族の娘を取り扱わせていただいておりますオーナーにございます」
ギルバザークと名乗った男の言葉に周囲の冒険者がざわつき始めた。ところどころから「この娘が氷人族?!」「道理で綺麗なわけだ……」「ふぇ~聞いた話とそのまんまだね~」「美人なのも納得がいった」「初めて見たぁ」などのレイナの正体に驚いていた。あれ、みんな知っているものだと思っていたがそうでもなかったのか……。氷人族はメジャーじゃないのか……?
しかし今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「つきましては服のお代を……」
すると男は懐から何やら小さい袋を取り出すと中から白金貨一枚を引き出してきた。
わざとらしい笑顔を俺に向けて男は俺の手を取ると手のひらに白金貨を置いて握らせようとしてくる。
ひんやりとした白金貨が俺の体温を吸い上げる。……嫌な冷たさだ。レイナさんの冷たい肌の方がずっと良い。
この白金貨を受け取るわけにはいかない。受け取ってしまったら最後、彼女はまた奴隷生活に逆戻りだ。
手元に握られそうになったすんでの所で男の手を振りほどくと、零れた白金貨は床に落ちて無機質な音を響かせる。
男は予想していなかったのか目を丸くさせて鳩が豆鉄砲を食らったかのような間抜けな顔を晒した。
もともと嘗められないようには考えていたが、ここまでレイナを物扱いするやつに遠慮をする必要はない。
「この金は受け取れない。受け取るわけにはいかない」
「……ほう?」
俺の放った一言に男はうっすらとニコニコしていたが細める目の奥が笑っていなかった。
「ただ……俺はあんたと話がしたい、ギルバザークさん」
「おや、私に話が……?」
「ああ」
ゆっくりと深呼吸をしてギルバザークを見据え、口を開いた。
「レイナさんを奴隷から解放してほしい」
その言葉にドレイクはぴくっと耳を反応させて固まる。するとまたさっきまでの柔和な雰囲気からすぐに刃を剝きだしたような鋭利なオーラを醸し出した。
「……解放、ですか」
「あ、ああ」
ピリッと殺意のこもった空気に俺はつい委縮して尻込みしてしまう。この人、コロコロ態度を変え過ぎじゃないのか。本当に商人かよ。
「意味を分かって言っているのですか」
「分かってはいるつもりだ」
「……」
「それに早く解放してさっさとあんたにはお付きの傭兵と一緒にここから出て行ってもらいたいからな」
俺の言葉にギルバザークは途端に顔をしかめ始めた。しまった、つい強く言い過ぎたか……?
「……今、なんと言いましたか?」
ファッ!? 待って。二回も言わせるとかこの人怖すぎだろ。それでその後俺の胸倉掴んで「次にナメた態度取るとその首をギルドの門に吊るすからな」とか言われない……?
しかし、ここで怖気るわけにはいかない。強い心を持って交渉に臨むのだ。……あとでレイナさんに慰めてもらおうかしら……。
「え……ここから出ていって」
「違う、その前です」
「……お付きの傭兵?」
「ドレイクに会ったのですか」
「え、あ。はい」
ギルバザークは顎に手を添えて何か思料するとまた口を開いた。
「こうしてはいられない。一刻も早くここを離れなければ」
するとギルバザークは何を焦っているのか踵を返して足早にレイナの方へと詰め寄る。しかし傍にいた冒険者たちがギルバザークの前に立ちはだかった。
「待てよおっさん」
「またこの娘を奴隷として売り捌くつもりかよ」
「……部外者は引っ込んでいただきたいものだな」
互いに睨みを利かせ合い、一気に険悪なムードへと空気が変わった。なんか雲行きが段々怪しくなってきたぞ……?
「そうはいかねぇよ。レイナちゃんは今まで碌な生活を送れなかったんだろう? やっと自由を手に入れた子をみすみす奴隷に戻させるなんてお天道様は見逃してもこの俺様が見逃しやしねぇ」
おい待て、お前は一体どういうキャラなんだよ。雲行きが怪しいとかのベクトルじゃなかった。
「アルバートの紅一点であるレイナ様を持って行かせるわけにはいかねぇな!」
「ここで平和に暮らすことが彼女にとっても最善の道! これを逃すわけにはいかない!」
「みんな……」
「…………」
レイナを庇う冒険者たちにスラさんはうるうると目を輝かせてひどく感動していた。確かに涙ぐましい光景だが如何せん感動しきれないのは俺だけだろうか。そして肝心のレイナは顔を青ざめさせてドン引きしていた。そらそうだよな。せっかく格好いいのに台詞ですべて台無しだ。
あと他の女性の冒険者を見てみな、紅一点とかいうからすごい形相でお前たちを睨んでるぞ。今の重いようで重くなさそうな空気が無かったらお前たち消し炭にされてるぞ。
それに最近やたら視線を感じると思っていたがそれは俺じゃなくレイナさんに対するものだったのか。納得がいったわ。しかしたまに殺意のこもった視線を向けられることもあったけど、あれってもしかして俺に向けられたものだったりするのかしら……。なんかこの話どっかで聞いたことがあったような?
しかしこれは都合がいい。この国の冒険者たちは奴隷に対する認識が俺の持っているものと似通っているらしい。さすがはアステリシアの冒険者たちだ。奴隷がいいものでないとしっかり分かっている。
だが次に放たれたギルバザークの一言に冒険者たちは一瞬で黙ることになった。
「では貴様たちがその娘を買い取ってくれるのか?」
「ぐっ……」
……よわっ!!!!!! さっきまでの意気揚々な口上を述べていたお前たちは一体どこへ行ったのでしょうか。そこは嘘でも見栄を張ってレイナさんにカッコいいところ見せるべきなのではないのでしょうか。でも所詮は虚勢だから尚更カッコ悪いか。
まぁ黙ってしまうのも無理はない。レイナさんを買うということは奴隷を買うということになりアステリシアの法律に抵触する。この国で奴隷を買うことは重罪だ。最も重い罪で極刑にもなりえる。
それに純粋な資金面でも苦しいだろう。俺よりもこの世界の情勢に詳しい冒険者たちだ。レイナの容姿から彼女が奴隷としての価値がどれほど高いのかを重々承知しているのだろう。一攫千金はあれど安定性のない職業である冒険者には厳しいものがある。
だが大人しく引き下がるやつらでもないことは確かだ。でなきゃ冒険者なんてやれないだろ。
と、俺の思った通り一人の冒険者が何か妙案を思いついたのか一人前に出てギルバザークに指をさした。
「……お前を始末すれば名実ともに俺たちはレイナちゃんを救ったカッコいい冒険者ってことになるな」
ニヤリと冒険者たちは悪人顔で呟いた。
……いや、物騒だな!! 確かに冒険者の言う通り、ギルバザークを殺せば彼女を縛る者はいなくなり本当の意味で自由になる。だがね、手法が大義を得た殺し屋の考え方なのよ。この世界ってそんな簡単に殺人を犯してもいい世界なのかよ。
しかしギルバザークは冒険者たちに臆することなく淡々と告げた。
「私はお前たちに殺されるのも別に構わないが、その娘も道連れになるぞ」
「!?」
!? なに、どういうことだ!?
冒険者だけでなく俺もギルバザークの言葉に驚きを隠せなかった。
「その娘の首につけられた隷従の首輪には特殊な魔法を施してあって私が殺されたりするとその首輪が反応し、娘の首を捻じ切るようになっているのでね」
誰もがレイナの首につけられたチョーカー紛いの首輪を注視する。レイナ自身も知らされていなかったのか、彼女は恐怖にまみれた表情で首輪にそっと触れた。
その手は目に見えて震えていた。
「なんでそんなことしたんだ!!!」
冒険者たちがすごい剣幕でギルバザークを睨み、叫んだ。
「私自身を守るためであり、商品を奪われないようにするためだ」
淡々と何もおかしいことはないかのようにギルバザークは告げる。
「その娘のような商品を取り扱えば当然君たちのような考えを持った輩が現れる。奴隷という概念を認められない奴や、奴隷が欲しいがあまり強行手段に踏む者を退けるために必要なのだ」
「……」
なるほど、一理ある。自分の商品を守るために身体を張るなんて殊勝なことだ。しかしそれは「人」を商品にしている人間が堂々と口にしていい台詞じゃない。
「それにその娘を求めているのは君たちだけではないのでな」
ギルバザークは眉をひそめると難しい顔をした。
「……それってドレイクのことも含まれてるのか?」
「……」
俺の言葉にギルバザークは視線を向けるだけで何も言わなかった。だが沈黙は肯定だというのは世の常。さっきの焦り具合からギルバザークはドレイクのことをなぜか忌避している。
「ギルバザークさん、なんでドレイクを恐れてるんだ。それにドレイクはあんたんとこの傭兵だろうに」
「……恐れているわけではないのです」
「じゃあなんで」
「商品を守るためです」
……どうにも腑に落ちないが今はそういうことにしておこう。
「その商品を買ってくれる相手がいればドレイクに目を付けられることがないんじゃないのか?」
「……良い買い手がいないだけです」
「良い買い手……具体的にどういう買い手がいいんだ?」
ギルバザークはほんの一瞬、レイナの方を目で見やったがすぐ目を閉じてしまった。
「奴隷を有効に活用してくれる方です」
奴隷を有効に……。なら何も問題はないな。
「だったらここにいるな」
「……はい?」
彼女を買って奴隷から解放すれば奴隷を所持していることにはならない。それに買ったことも隠し通せば罪に問われることもない。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。
「ギルバザークさん、レイナさんを買うことはできるか」
「……なんと?」
「レイナさんの権利を俺に買わせてほしい」
その場にいる誰もが目を見張り、俺の言葉に耳を疑った。
「権利……?」
「え? 奴隷を買うの……?」
「待って、そうしたらあの子……」
冒険者たちはひそひそと話し始める。こんなところで公言したら自ら罪を犯しますと言っているようなもんだ。もう遅いかもしれないがあまり噂される前にここを離れてじっくり交渉といこうじゃないか。
「とりあえずギルバザークさん。ここじゃなんだし落ち着いて話のできるところに行かないか?」
俺はレイナの方へ近寄って、冒険者たちの間から彼女の手を引くとレイナの肩に乗っていたスラさんはぴょんと跳ねると俺の肩に乗り移った。
「……どちらへ?」
大衆の眼に晒されながらも俺は恥ずかしさを乗り越えてレイナの手を引きながらギルバザークと向かい合う。
「ただのお店だよ」
そう言って俺はギルバザークの背中を押しながらギルドを後にするのだった。
次回投稿は10月15日予定になります。




