第39話 奴隷商人の傭兵 ドレイク
久しぶりの投稿になってしまい大変申し訳ございません。
プライベートが忙しく、書く時間が取れなくなっていました。
今週からはちゃんと更新する予定です……。
第39話になります
よろしくお願いします
戦いとはなんなのか。
何かを奪うため。誰かを守るため。もしくは、ただ闘争を求めるため。
答えは分からない。
俺も戦いに関しては素人だ。藤一郎のじいちゃんと剣道という形で剣を交えたことはあっても命を懸けたものなんてしたことはない。
しかしこの世界では命のやり取りが身近に行われている。モンスターが存在し、冒険者という稼業が存在する。日本ではありえないようなことがこの世界では頻繁に起きていた。
そんな危険な生活に触れるはずもない俺が、面倒くさいことからはしっぽを巻いて逃げてきた俺が、今非常に面倒なことをしている。
我ながら自分らしくないと思った。かっこいい主人公に憧れたことはあれど、なりたいと願ったことはない。大抵主人公というのは厄介事に首を突っ込むか巻き込まれがちだからだ。物語としてはその方が面白みがあるから必要なことだが、現実で起きると迷惑極まりない。
そういうのは遠巻きで見る傍観者のモブ役が一番安全だ。かっこいい主人公の活躍をひっそりと傍らで拝ませてもらうのがいいだろう。
それなのに今の俺はたった一人のために全力で問題に立ち向かってる。
傭兵という戦闘のエキスパートと戦い、何とかして逃げる算段を用意しなければいけない。
日本にいた頃の俺だったらバカだろと罵って笑うだろう。実際今の自分でも馬鹿なことしてると思う。
でも、間違ったことをしているつもりはなかった。
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夕日が差し込む幻獣の森から出るはずのない幾つもの黒煙が巻き上がる。火事でも起こっているのかと錯覚するほどの煙が赤い空を覆う。
降り注いでいるはずの陽の光も黒煙に遮られ、快晴だというのに森は暗い影に覆われていた。
普段は静かな森なのにこの日だけは騒がしい。
その元凶はある二人の戦いであった。
「あぁもう、しつこいな!!」
次から次へと放たれる爆炎の火球を避けながら俺は一人愚痴る。
躱された火球はそのまま木にぶつかり、轟音を立てる。爆発とともに黒い煙が浮き上がると、木に着弾した箇所はまるで抉られたようにその部分が無くなっていた。
ミシミシと軋む音を立て自身の荷重に耐えられなくなった木は地面へと倒れる。
スラさんの硬化した腕を吹き飛ばすほどの高威力の魔法。そんなおぞましいものを最初に食らってよく生きてるな俺……。これ何回言ってんだろ。
俺の魔法がなぜドレイクの魔法を打ち消せるのかは分からないが自分の魔法に頼りすぎるのも危険だ。
慣れない魔法を馬鹿の一つ覚えのように使うのは愚策だろう。魔力に量という概念があるということは同時に魔力切れも存在するはず。もし魔力切れなんて起こしたら俺はこいつから逃げることも難しくなる。
それに上位属性持ちは魔力量が多いとレイナも言っていた。ということは基本属性の風属性しかない俺の魔力量は奴と比べて劣っている。
となると長期戦は俺の負けを意味する。
だがもとより長く戦うつもりも無い。スラさんとレイナが逃げ切ってくれるまでの少しの間、時間を稼ぐだけ。スラさんの脚力を考えるともう森を抜けているかもしれない。あとはどうやってこいつからうまく逃げれるかが問題だ。サクッと逃げれたらいいんだけどな。
そんな俺の願いとは裏腹に向こうは大人しく逃がしてくれるつもりはないらしい。
「ちょこまか逃げやがって!! 大人しく殺されろ!!」
ドレイクが手をかざすとたくさんの細かい火球が奴の周囲に現れ、隼のごとく俺を襲ってきた。
「殺されろって……殺すつもりなのかよ」
ボソッとぼやきながらボンボンと弾ける火球を何とか躱しながら火が木に燃え移らないように軽く風を使って火をかき消す。こいつ無闇矢鱈に火球を放ちやがって、森が火事になったらどうするつもりだ。
「チッ……簡単に躱しやがって……腹が立つな」
ドレイクは一発では仕留められないと踏み、自身の周囲に幾つもの小さい火球を出現させた。
「これならどうだ!! バレルブレイズ!!!」
そう叫ぶとドレイクの周囲に漂っていた火球が奴を中心に円を描くように旋回し始める。そして一玉ずつ俺へと放たれた。
マシンガンのように射出された火球は正確に俺を捉える。だが速度があまり無いのか目で追うことは容易かった。
俺は飛んでくる火球に合わせて刀を振り、相殺する。風の恩恵があるからか本当は重いはずの刀も軽い力で振れる。
しかし爆発の黒煙に紛れてドレイクは一瞬で俺へ詰め寄ると携えていた剣を振りかざしてきた。
「ッ!!」
咄嗟に俺は刀で応戦し、刀身をつば競り合う。キリキリと甲高い金切り音が響き、小さな火花が舞い上がる。そのままドレイクの剣を横へ滑らせるように受け流すとドレイクはすぐさま剣先を切り返してきた。それを俺は跳ねるように刀をくるっと回して最小の動きでドレイクの剣を弾いた。
なんて素早い剣捌きだ……。傭兵ってのは伊達じゃない。それにこれは人を殺すための剣だろう。剣の動きに一切の迷いがない。俺の首を取る気満々だ。
「へぇ! いい反応しやがるな。なら、これはどうだ!!」
ドレイクは声を荒げつつ剣を横に大きくなぎはらってきた。それに合わせるように俺も刀で防御をとろうとした瞬間、奴の剣が一瞬赤く光ったのが見えた。なんだ、今の光は……。しかし、そんなことを気にする暇もなく俺は刀でまた弾き返そうとした。
だが俺の懸念は良く当たるのだ。
刀と剣が触れた瞬間チリチリとまた火花が弾けた。しかしそれだけですまなかった。
「あづッ!!!」
ボンッ!!と火花が爆発し、爆風の熱が俺の目元を襲った。反射的に目をつぶってしまい、隙が生まれる。
「おいおい!! この程度で目ぇ閉じて大丈夫かよぉ!!」
俺の隙を逃さまいとドレイクは俺の腹目掛けて重い蹴りをかました。
「ぐっ!!!」
一瞬ぐらっと意識が薄れるがなんとか意識を保つ。蹴飛ばされて吹き飛びながら風をうまく使って体勢を整える。しかしそれも見越していたのかドレイクはまた火球を飛ばしながら追い打ちを仕掛けてきた。
無理やり目を開くと奴の剣先が目の前まで届きかけていた。
「うおっ!!」
すんでのところで躱すが少し遅れたからか刃先が俺の頬を掠め、ピリッとひりつく痛みが俺の意識を定着させる。
その刹那、俺は天照の鞘を左手で逆手に持って引き抜き、そして鞘をヤツの脇腹に叩きこんだ。
「ぐおっ!」
痛みに苦悶の表情を浮かべてドレイクは剣を引き、俺から距離をとった。今のは良いところにあたってくれた。おかげであいつを引き離すことができた。
しかし安心したのも束の間、ドレイクが用意していた火球が時間差で俺を襲いに来た。
すぐに刀と鞘に風を纏わせて飛んでくる複数の火球を蹴散らしていく。割れた風船のように火球が弾け、舞う火の粉が風の力で霧散する。
蹴りを食らった時はヒヤヒヤしたけど何とかなったか……。まだ相手が驕っていて俺のことを舐めてかかったからか……。悔しいが命拾いしたな。
しかしドレイクはこの流れで俺を簡単に殺せないことを理解したのか目つきが変わった。もうラッキーは通用しない……。時間をかけず、ドレイクからさっさと逃げる方法を考えないと……。
するとドレイクは頭をガリガリとかき鳴らして口をへの字に曲げた。
「っはぁぁぁ~~~~……。んだよ、サクッと殺れると思ってたのに結構しぶてぇなぁ……」
ふっ……この俺もずいぶん甘く見られたもんだぜ……………藤一郎のジジイにしごかれてて良かったぁ~~!!
「これじゃあの女もいつ手に入るか分かったもんじゃねぇな……」
「……仕事熱心なんだな」
「あぁ? ……ハッ、お前が現れなきゃ余計な仕事しなくても済むんだがな」
ならそのままサボって俺のこと見逃してくんねぇかな。
「そんなに仕事したくないならレイナさんのことも諦めてくれると助かるんだけどな」
「そうはいかねぇ。あいつはここんとこ見つからなかった氷人族の女だ。価値が高いんだよ。目の前に金のなる木があるってのに逃すはずがねぇだろ」
なるほど。レイナさんを完全に物として見てる、と。
「……控えめに言って最低だな」
「こういう仕事なんでな。悪く思うなよ」
「ヒトの人生を滅茶苦茶にしておいてよく言えるな」
「ああ? 何言ってんだ? 氷人族なんて人じゃねぇだろ。あんなの冷たいアンドロイドみたいなもんだ。テメェこそなんであの女に入れ込むんだ? 金目当てでもなさそうだが」
「……」
別に大した理由はない。あるとするなら成り行きだ。たまたまこの森でボロボロの彼女を見つけて保護しただけだ。そう、決して邪な理由なんてない。
黙る俺を怪しんでドレイクは訝しむ。まるで何かを探って品定めをしてるような眼だ。そしてドレイクは顔をハッとさせてひとつの答えに辿り着く。
「……あ? おい、まさか小僧。あの女が気に入ったのか……?」
「………………」
図星とは言われたくないが実際のところその通りに近いので何も言い返せない。俺はいつでも正直なのだ。
「っハハハハ!!!! こりゃ傑作だ!!!! お前あんなのがタイプなのか?!」
「あんなのって言うけどな、レイナさん普通にいい人だろ」
「バカ言え! 氷人族なんて人族嫌いで有名だぞ!? 分かってて言ってるんだろうな?」
「んなこととっくに知ってる」
「へぇ〜……。世の中には物好きなバカもいたもんだな。俺だったら絶対にないがな!」
ドレイクの言い草からだと氷人族が人族を嫌うように、人族も氷人族を嫌っているということだろうか? 氷人族が人族を嫌う理由があるから分かるが……。
「まぁでも分からんでもないぞ小僧。あの女は美男美女揃いと言われる氷人族の中でもとびっきりの上物だ。男なら一度は抱いてあの華奢な身体を貪りたいと思うのは性だと思うぜ。」
「……」
「俺も逃げられる前に何度か味見してやろうとしたんだがいつもギルバザークの旦那に止められたからな……まぁお前に食われる前にさっさと取り返さねぇとな。味見すらできなくなっちまうし、何より俺が旦那に殺されちまうぜ」
想像以上にクズ野郎だなコイツ。
その会話の中に俺の知りたかった情報が含まれていた。こいつが旦那と呼ぶ人物。おそらくそいつが奴隷商人だろう。聞き出せるだけ出さなくては。
「ギルバザークってのがあんたの雇い主か」
「ああ、そうだ」
「ふーん……じゃ、その奴隷商人は今どこにいるんだ?」
「……あ? まさかとは思うがお前、マジであの奴隷を買う気か? あの国に住んでる癖に?」
「買うかどうかはその商人と話してからだな」
「なんだぁそりゃ。つーかまずお前金あんのかよ?」
その問いに俺は答えを出さなかった。変に足元を見られるのを恐れたからだ。それにこっちから金額を提示すれば嘘でも俺に買わせないように上を行く値段を突き付けられる。
何も言わない俺にドレイクはハンと鼻で笑う。
「まぁそらそうよな。基本奴隷なんて貴族レベルの人間しか買えないような代物だしな」
「へぇ貴族レベルねぇ」
「しかもあの女は奴隷の中でも貴重な氷人族。さらにその中でもとびっきりの上玉だ。白金貨五枚は下らねぇ」
「五枚……」
ドレイクから出た金額に俺は目を見張った。
白金貨五枚とな……。つまりレイナさんはデスバラッド一頭分のお値段か……。って冗談言ってる場合じゃない。
今俺の手持ちにあるのがレイナの解放用に置いておいた白金貨四枚と生活用の資金が幾許か。白金貨五枚が彼女の買い取る値段だとするとそれよりも高い権利を買うなんて無理な話にならないか……?
「なんだやっぱり金ないんじゃねぇか。となれば結局お前は旦那からあの商品を奪ったことに違いねぇわけだ」
押し黙る俺にドレイクはケヒヒッと下品な笑いを浮かべると剣を前に構えて俺を見据える。その眼はどこか楽しんでいるようにも見えた。
権利を買えないとなるともう残された道は……。
「奴隷泥棒は、死んでもらうとするかぁ!!」
泥棒。それもいいかもしれない。どの道、犯罪者になるのなら。
その思考も束の間。一瞬でドレイクは俺の目の前まで距離を詰め、剣先を高く振り上げる。チリチリと奴の剣から赤く輝く飛沫が漏れ出し、火花が荒く弾け飛ぶ。
今は集中しなければ。迷いを持ちながらの戦いは危険だ。
ドレイクの剣を刀で受け止めるわけにはいかない。先みたく爆発と煙で視界が遮られて耳が聞こえなくなる。
すぐに後ろへ飛んで回避し、ドレイクから距離を取る。空を切った剣は鈍い音を立てた。
「チッ!! 逃がすかぁ!!」
ドレイクはそのまま追いかけて二撃目を浴びせようと逆袈裟切りを仕掛ける。後ろに下がりつつ無理やり背を逸らして回避を試みた。
「うっ!」
しかし思ったよりもリーチが長く長剣が胸元まで届きそうだった。あまりの勢いに体勢を崩してしまい、背中から倒れそうになる。
むやみに「月鏡」で受け流すこともできず、距離を置くと無数の火球が襲ってくる。完全に相性が悪かった。
その隙を逃さまいとドレイクはさらに追撃を仕掛けてきた。
「もらったァ!!」
「なんのッ!!!」
ドレイクの気迫に負けずに、刀を地面に突き立て倒れる体を支えた。体に風を纏わせて無理やり軽くし、振り下ろされる三撃目に合わせて刀に重心を置いてドレイクの手元に目掛けて素早く蹴りを入れた。
「なにッ!!」
まさか手元を狙われるとは思っていなかったのかドレイクから長剣が飛ばされる。そしてそのまま蹴りを入れた回転の勢いを利用して持っていた天照の鞘を思いっきりドレイクの顎に叩きつけた。
「んごッ?!」
顎に鞘がクリーンヒットしてドレイクの首がフクロウのように回り、ぐりんと白目を剝く。すると電池が切れた機械のように静かに地面へ倒れこんだ。
「はぁ……はぁ……」
緊張と焦りで息が上がりつつも、地面に刺さった刀に寄りかかりながら身体を支えて体勢を立て直す。
額から零れる汗を拭いながら、眠るように気絶しているドレイクを見下ろした。
正直こいつが俺を甘く見ていてくれて本当に良かった。本気で殺しに来ていたら俺に勝ち目はなかったかもしれない。
最後の一瞬、奴が勝てると思い込んで油断した瞬間しか反撃できなかった。それに風の力がなきゃさっきの蹴りも入れられなかっただろうし、今までの火球も退くことはできなかっただろう。
しかし妙に疲れた。奴の攻撃を相殺するために魔法を使いすぎたか……? すごく体がだるい。目の前でノびている傭兵はあんだけポンポン魔法を使ってたくせに全然疲れた様子を見せなかった。
やっぱりレイナの言う通り上位属性を持っているやつは魔力量の絶対値が違うのだろうか。もしくは俺の魔法の使い方が下手で無駄に魔力を消費しているのかもしれない。
にしてもさっきの俺の一撃、もろに顎に入ったが生きてるか……? 見た感じは気絶しているようには見えるが……。
ドレイクの顔を見れば完全に白目を剝いて口からよだれが垂れ、間抜けな顔を晒していた。……大丈夫そうだな。
流石に殺したとなると後味が最悪だからな。さすがに殺人者にはなりたくない。
「……ギルドに戻らないとな……」
地面から刀を抜いて鞘に納めて踵を返す。気絶するドレイクを尻目に、俺はよろけながらこの場を後にした。
次回投稿は10月8日予定になります。




