第38話 激動
久しぶりの二週連続時間通りの投稿。
褒めてもええんやで……?
嘘です。
第38話になります。
よろしくお願いします
日も傾き始め、光が森に遮られて少し森の中が闇を生み始めている中、俺は一人転がっているゴブリンの死骸と格闘していた。
やつらの死体から手こずりながらもなんとか解体して魔核を取り出して瓶に詰め込む。
俺たちが狩ったゴブリンは七体だがここにいるだけでも十体くらいはいる。
全部集めたらまずまずの額になるがこの場合、俺たちが討伐していないけど魔核を提出したら報酬になるのかしら? 魔核泥棒とかならない? フィリアさんから鉄拳飛んでこないかしら?
でもこういうのってとったもん勝ちってなんかの漫画で読んだぞ。
冒険者って自分の手柄が欲しいから誰のものでない物なら自分の利益になるからと平気で権利を主張するのだ。なんて根性してやがる。おみそれしました。
一人頭の中で悶々と悩みながらも解体する手を止めずにいそいそと魔核を集める。
魔核を抜いた後は森の掃除屋スラさんに処理をお願いした。いやあ、森を綺麗にするって大切だと思います。
そして俺とスラさんがせこせこと死体処理をしている中、レイナは一人その様子を眺めていた。
「……ねぇ」
「ん?」
一言、レイナが俺たちに声をかけるがその先が続かない。なんだ?
「レイナさん?」
「……もういいから早くここを離れましょう」
「え、でもまだ「お願い」
「……わかった」
食い気味にレイナは渋い顔で被せてきた。そこまで言うのなら仕方ない。ここは素直に言うことに従うことにしよう。
「スラさん、引き上げよう」
「むん!」
スラさんは俺の肩に飛び乗り、俺は立ち上がった。まだ数体死骸が残っているがあとは野生のスライムさんに任せるとしよう。
しかし、ここまでレイナが何かに怯えているのは気になるな。今までレイナが怯えていたものと言えば大抵は人族絡みだが……。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「……なにかしら」
「これをやった人物に心当たりがあるのか?」
「…………」
俺の問いにレイナはただ沈黙を通した。だが彼女の不安げな表情は肯定の意を示しているようにも見える。沈黙は肯定なり。
詳しく聞きたいところだが、ここで聞くのはまずいだろう。変に時間をかけて件の危険人物に出くわしたりしたら大変だ。
ゴブリンの殺し方からしてこれをやった人物は恐らく残忍な人間だ。どうやって頭だけを綺麗に消滅させるかは理解が及ばないが殺意の高さだけは窺える。
いや、効率的なだけか? 惨い殺し方ではあるが一撃必殺という点では理にかなっている。首を落とすのと同じ要領なのだろうか。
「よし、撤収しよう」
そう俺が呼びかけて踵を返した瞬間―――――――――――
目の前が炎に包まれた。
いや、正しくは急に炎が現れた。
「ッッ!?」
突然の出来事に俺は咄嗟に肩からスラさんを掴んで後ろへ放り投げ、近くにいたレイナを横へ突き飛ばした。
「きゃあ!!」
「むっ!?!? なになになに!?!?」
突き飛ばされたレイナは受け身を取れず勢いよく地面に倒れ伏し、投げ飛ばされたスラさんは訳も分からないまま宙をさまよった。
「くっ!!」
そして俺は炎を吹き飛ばそうと瞬時に風を体へ纏わせるが、これはただの炎ではなかった。
ボゴォォォン!!!!!!
俺の風と炎が接触した瞬間、猛烈な爆発が起きた。その反動で俺の身体は弾き飛ばされたように後ろへ吹き飛ぶ。
空中で受け身など取れるはずもなく、俺は背中を木に強く叩きつけられた。
「ぐあっ!!!!!」
「コーキッ!!」
スラさんの悲鳴が響く中、俺は力なく地面に這いつくばる。体を強く打ったせいか軽く眩暈を起こしていた。
何が起こった……? 急に目の前に炎が……と思ったら爆発したぞ?
ぐわんぐわんと視界が揺れ動く中、俺はなんとか二人のいる方向へ視線を向けた。眩暈のせいでまともに見れないがどうやら被害を免れたみたいだ。
炎も草木に燃え移ることはなく、そのまま空中で霧散する。
するとスラさんとレイナが起き上がってすぐさま俺のもとへ駆け寄ってきた。
「コーキ! 平気!?」
「大丈夫?!」
「お……なん、とか……」
霞む視界の中、レイナが心配そうな表情で俺の顔を覗いていた。レイナさんのその顔レアだなぁ……。
風を纏ったおかげか火傷はない。ただ吹き飛ばされただけで済んでいた。しかし背中を打ったせいか軋むように痛い。
うつ伏せに倒れる俺をレイナが支えてくれてなんとか起き上がる。すると爆発のあった方向から土を踏みしめる音が聞こえて来た。
その音に敏感に反応したスラさんはボフンと煙を放つ。そしてマッスルフォームへと変身して拳を構えた。するとスラさんが見据える方向の茂みの奥から声が聞こえてくる。
「あん? 今の直撃だったろ? なんで生きてんだ?」
その声の主は長剣を片手に振り回して茂みを切りながら現れた。男は無造作に伸びた髪を引っさげ、無精髭の生えた顎を手でさする。手入れのされていない前髪の隙間から覗く男の鋭い目は疑惑のこもった目つきをしていた。
「なんだお前! 急に魔法なんか撃ってきて!! 危ないだろ!!」
スラさんは男へ指を突き出し、言及する。その言葉に男は驚いた表情をした。
「んお? こりゃ驚いた。珍しくでけぇスライムだと思ったら言葉まで話すのか」
「ボクの質問に答えるんだ!!」
「んだぁ? ずいぶん口うるせぇな……」
男は中途半端に伸びた長い髪の上から頭を掻くと悪びれる様子もなく平然と首肯した。
「そうだ。うちの商品を盗んだやつをとっちめようと思ってな。つい魔法が出ちまったよ」
「商品……? 盗んだ?」
男の言葉にスラさんは訝しむ。だが俺はすぐに察した。
俺の肩を支えてくれているレイナの方をちらりと見やると、青ざめた表情で目を点にさせていた。肩を震わせ、唇が戦慄いている。
「レイナさん」
俺は小声で彼女を呼びかけるがレイナは一向に男から視線を逸らさない。まるで出会ってはいけないものと出くわしてしまったと顔が恐怖で染まっている。
「レイナさん!!」
声を張ってレイナを気つけすると顔をハッとさせてレイナはガクガクと震えながら眼だけ俺へ向けた。
「…………」
「あれが奴隷商人か?」
しかし俺の予想とは裏腹にレイナは小さく首を横に振った。
「??」
奴隷商人じゃない……? とりあえず先の一撃でこの男が乱暴な人間だということは分かった。だが怯えるにしても俺の知ってるレイナの怯え方じゃない。
ここ最近、彼女と過ごして大体の反応は分かったつもりだ。人族というだけならまだ嫌がって怖がる程度でここまで忌避するようなものじゃなかった。
レイナの反応からきっと心当たりのある人物はこいつなのだろう。そして人族を避けていた氷人族の彼女が知っていてこの反応ということは奴隷商人と関わりがあるのは間違いない。
「じゃああいつは……」
「……ドレイク」
「ドレイク?」
「奴隷商人の……雇った傭兵……」
「傭兵?」
雇われた傭兵というなら護衛みたいなものか? だがそれだけでこんなに怯える理由にはならないと思うが……。
ならもう一つ、聞いてみるか。
「レイナさん、あいつに何かされたのか」
「っ……」
ビクッとレイナは肩を跳ねさせて目を伏せる。日が傾き始めているからかもしれないがその表情には暗い陰が落ちていた。
なるほど。もうその反応で十分だ。
こいつは、俺の敵だ。
「スラさん!!」
「むっ!!」
俺の呼びかけにスラさんは応えてくれた。
スラさんは脱兎のごとく駆けだしてドレイクへ立ち向かった。大きな歩幅で闊歩しながら右へ左へと俊敏な動きでドレイクを翻弄する。
スライムとはいえ、今はマッスルフォームのスラさんだ。ゴリゴリの巨漢がこんな忍者みたいな動きをすれば圧倒されるだろう。
しかし、ドレイクは不敵な笑みを浮かべながら余裕そうに首をコキコキとならす。
そんな隙だらけのドレイクにスラさんはムッと顔をしかめた。
「ボクを」
一瞬でスラさんはドレイクの前に近づき、腕を硬質化させると容赦なく拳を振りかざす。
「ナメるなよっ!!!」
ゴウッ!!と強烈な風切り音と共に重い一撃がドレイクの顔面へ叩きこまれようとした。するとそれに合わせてドレイクが受け止めるつもりなのか手をかざす。その瞬間、レイナが悲鳴を上げるように叫んだ。
「ダメッ!!!!」
「ムッ!?」
レイナの叫びにスラさんは素直に反応し、あと拳一つのところで手を止めた。だが制止するのが遅かった。
ドレイクの手のひらから小さな火花が漏れたかと思いきや突然爆発を起こした。
ボゴォォン!!!!!
「ムワッ!?!?」
けたたましい光と共に高熱の靄が弾け、モクモクと焦げ臭いにおいが辺りに充満する。爆発で生まれた黒い煙が二人を一瞬で飲み込んで空へと立ち上った。
「なにッ!!」
何が起こった? あれも魔法なのか? となると属性は火あたりだろうか。マスターたちから教えてもらった属性の中に確か火の上位属性で爆魔法があった気が……。
ということはあいつ、上位属性魔法の使い手か?!
俺が思考していると黒煙を纏わせながらスラさんが中からバックステップで飛び出してきた。
「スラさんっ! 無事か?」
「ムゥ……!! 油断した!!」
見るとスラさんの右腕が何かにちぎられたかのようにゴッソリなくなっていた。
「だ、大丈夫なのか!?」
「むん……再生はできるけど思いのほかダメージが大きいみたい……」
スラさんはなくなった腕の部分からにゅるにゅると再生する。しかしスラさんの顔を見るとかなり疲弊していた。どうやら再生にはかなり体力を使うらしい。
あのデスバラッドとやり合うほどの硬さを持ったスラさんの腕がこんないとも簡単に……。あれ直撃してよく生きてたな俺……。
「ごめんコーキ……」
「いや、無事だったことを喜ぶんだ。まともにやり合ったら腕どころか体ごと吹き飛んでたぞ」
「むん……」
すると黒煙が急に渦巻き、遠心力で煙が吹き飛んでいった。
「チッ……惜しかったなぁ」
まるで小さな竜巻の中心にいるみたいにドレイクが煙の中から現れた。まさかこいつ……。
「今のは……」
「……風魔法ね」
隣のレイナが俺の疑問に答えるみたく小さく呟いた。
「マジか……二属性持ちかよ」
「違うわ……三属性よ」
「え"っ」
俺はゲェーッと心底嫌な顔をしてレイナを見た。
「上位属性はその属性と元となった基本属性を使えるから実質二属性なの……」
「ぐ……。でもまだ俺の魔法なら防げるし戦え――――
「ダメ。基本属性と上位属性だと魔力量で差がありすぎる……。勝ち目が無いわよ」
「……マジかよ、泣けるぜ」
いつも生物兵器と戦って不運な目に遭うエージェントみたいな台詞がつい出てしまったが冗談を言っている場合じゃない。
今、俺たちと敵対しているドレイクは目標の奴隷商人ではなくただの護衛で傭兵。しかも見敵必殺の初撃で俺を殺そうとしてきた危険人物だ。
ヤツは話の通じる相手じゃない気がする。こいつにレイナのことを交渉しても無駄だろう。
そしてレイナはドレイクを忌避していて、スラさんはこいつの魔法と相性が悪い。厄災の塊みたいなやつだな。
交渉もダメ。戦ってもダメ。んでもって捕まったら殺されて、さらにレイナさんも奪われてゲームオーバー。
となるとこの場で二人を守るために俺が取るべき行動は一つ。あの黄金の血族たちが最も得意とする戦法――――――。
『逃げる』だッッ!
「スラさん! レイナさんを頼む!!」
「ムッ?!」
俺は軋む体に鞭を打って立ち上がるとレイナをスラさんに預けて天照を抜刀する。レイナを押し付けられたスラさんは戸惑いながらも流れるように自然と彼女をお姫様抱っこした。なんだこのイケメンスライムは。
「な、なにする気!? 死にたいの!?」
レイナはものすごい剣幕で心配そうに声を張り上げた。
「まともに戦うつもりはさらさらない。二人が逃げれるだけの時間を稼ぐだけだ」
「でも……」
「俺も頃合いをみて速攻でパパっと逃げますから……こう見えて戦うより逃げる方が得意なんですよ実は」
「……」
ウソではない。だっていつも烏丸さんに絡まれないように逃げていたからな。あれ、でも烏丸さん何かと引っ付いてきて逃げ切れた覚えがないな……。やっぱヘタかもしれん。
内心やっぱダメかもしれないとヒヤヒヤしているのがバレたのかレイナは眉をひそめる。しかしスラさんは何一つ疑っていないのかゆっくり頷いた。
「分かったよコーキ。無茶しないでね」
「スラさんは無理してでも全力で森を走り抜けろよ」
「ええ!? 鬼畜!!」
「ばか、追い付かれたら意味ないからな」
「……ムッそれもそうか」
「きゃっ……」
するとスラさんはお姫様抱っこから片腕で抱きかかえるようにしてレイナを持ち換えた。まるで子供を抱いているお父さんだな。
「じゃあコーキ、ギルドでね」
「おん」
スラさんと話す俺をレイナは心配そうに見つめていた。
「本当に大丈夫なの……?」
「心配性だなぁ」
彼女を不安にさせまいと、俺はお得意の営業スマイルを見せつけてやった。
「曲がりなりにも異世界人だぞ? 勇者(笑)もどきだしなんとかなるって」
「今、勇者の後ろに変な表現がつかなかったかしら……」
……そんなはずはない。
だがこの会話が功を奏したのかレイナの表情は少し柔らかくなった。
レイナはさっきとは違い、落ち着いた声音で目を細めた。
「……お願いだから、死なないでね」
「任せろ」
彼女の優しく気遣ってくれたその言葉の意味は俺には計り知れない。俺の身を案じてくれているものだとは思うがおそらく違う。俺がいなくなると奴隷から解放されないからだ。そうだと思いたい。
じゃないともしレイナを解放できた後、俺が彼女から離れられなくなってしまいそうだ。
顔の表面が熱くなっていく感じがする。……昔、椎名さんと話した時以来…………嫌なことを思い出しそう。
「スラさん行ってくれ」
「ムン」
スラさんは頷くと俺たちが来た方向へ駆け出した。すると俺と相対していたドレイクが舌打ちをして逃げるスラさんに手をかざす。
「逃がすと思ってんのかよ」
ドレイクは手のひらに魔力を集中させるとチリチリと火花が飛び始め、渦巻くように炎が回転し始める。そして徐々に大きくなってバスケットボールより少し大きい火球になると銃弾のように撃ち出した。
すぐさま俺は火球の射線上に割り込んで、身体と同時に天照へ大量に風を纏わせる。そして巨大な火球に一太刀浴びせた。
すると火球が真っ二つになった瞬間、火球は弾けるように爆発した。その光景にうっすらとドレイクは笑う。
「バカが」
爆風が黒煙と共に俺を襲い、身を焦がそうとなだれ込む。しかし俺の纏う風は威力を増して爆風を吹き消した。
「何ィ……?」
目の前の光景が信じられないのかドレイクは目を丸くして眉間にしわを寄せた。煙を払うように俺は刀に空を切らせる。
「悪いけど」
俺は半身の姿勢をとると天照をドレイクに向けて刀を構えた。
「レイナさんはあんたみたいな野蛮なヤツ、お断りだってさ」
「……チッ、めんどくせぇ小僧に拾われやがって……」
静かに息を吸ってドレイクと向き合い、ひりついた空気を肌に感じながら俺はドレイクを見据えた。
そんな俺の背中を遠ざかって見えなくなるまでレイナはずっと目を離さなかった。
次回投稿は9月3日予定です。




