第35話 馬子にも衣装
先週は更新出来ず申し訳ありませんでした
実はコミケに出る準備をしてまして、まったく書く暇がなく、勝手ながら投稿を今日に延期させていただきました……。
第35話になります。
よろしくお願いします
時を同じくして、紅桔たちがマグナボアを討伐した日、アステリシア城に赴いていたミラたちは王へ勇者召喚の報告をするため、謁見の準備に勤しんでいた。
通常ならば到底急な来訪者が謁見など出来るはずもなく様々な手続きが待っているものだが、アステリシアが誇るギルド『アルバート』のマスターミラと過去にユフィーリア王女を誘拐から救った英雄カイトとということもあり、その処理はなんの障害もなく、ラーヴィンが滞りなく端的に済ませた。
ミラはギルドマスターでこの道何百年ものベテラン、かたやカイトはアルバートの中でも最強の冒険者。一般人からすればこの二人を目の前にすれば萎縮してしまうだろう。普通ならこの二人を前にして啖呵きれるやつなど居ないのだ。故にガルドは少しおかしい。
さらにミラに関して言えば長命ということもあり、アステリシア王がまだ小さい王子の頃からずっとギルドマスターを務め、国の発展に貢献してきた人物である。本来なら王も彼女には頭が上がらないのだ。
しかし玉座で横柄な態度など取れるはずもない。年功序列で言えば圧倒的にミラが上なのだが、立場上はアステリシア王が断然偉い。
ミラもカイトもギルドの重鎮とはいえアルバート自体が国に属する組織のため王ともなれば畏まる必要がある。
だがしかしそんなミラとカイトは自覚が足りていないのか、はたまた怠慢を喫したのか二人の服装は礼服などではなく、とても王へ謁見するには不敬にあたる服を着ていたのだ。それをラーヴィンから叱責され、装いを新たにするようメイドたちのおもちゃにされていた。
もとから服に頓着しない質であったミラは煌びやかな服装にうげえと顔を引き攣らせ、眉をこれでもかとひそめる。
「こんな堅苦しいみたいな格好は私に合わんのだがー?」
地面を擦っていた長く枝垂れたようなブロンドの長髪を何度も梳いて整えたあと、編み込んで一本の房にまとめあげ、結った髪先を深紅の細いリボンで引き締める。
肌触りの良い透き通るような生地に、仕立ての良い深緑を基調としたドレス風の礼服を纏って、右手首に貴金属のブレスレット、靴はドレスと同じカラーリングのハイヒールを履いていた。
「いや、堅苦しくないと意味ないでしょマスター」
「そうは言ってもなー」
「マスターらしく堂々としてたら服に着られることはないよ!」
「そういうお前も普段の民族臭い服から考えると随分と可愛らしいじゃないかー」
ミラの言う通り、カイトもまた着飾って普段とはまた一風変わった雰囲気を醸し出していた。
白を基調として、所々黒のバイカラーをアクセントで凛々しさを強調し、胸元から腹部にかけて片側に寄った黒いシングルブレストが印象的だ。黒い革ベルトに腰から足先にかけて細く伸びる白のスラックスがカイトの脚の長さをより際立たせ、黒い革靴が光を反射する。そしてバンダナで無理やりまとめていた乱雑な髪は片側へ流され、所々毛先を遊ばせていた。
そんな着慣れない服装に照れるカイトを見てミラはフッと鼻で笑った。
「まさに馬子にも衣装だな」
「お互い様だよマスター、普段から変な服ばっか着てるから余計新鮮に見えるんだよ」
「だなー。もしこんな格好で街中を歩いたとしたら寒気がするわー」
「確かにこの格好で歩いたら女の子にモテモテになっちゃうね」
「しばくぞー?」
「冗談だって!」
すると二人のやり取りをソファで座りながらずっと眺めていたユフィーリアがここぞとばかりに口を挟んで来た。
「ダメです! カイト様は誰にも渡しません!!」
ガルルッ!と唸る闘犬のようにカイトに飛びつこうとするがすんでのところでメイドが泳ぐ魚を仕留める銛のように素早くユフィーリアの服を引っ掴んだ。
「いけませんユフィーリア様。せっかく整えたお二方のお召し物が乱れてしまいます」
「ぐううう……しかし今のカイト様を野に放つわけには参りません! 今すぐ城門の鍵を閉めて!」
「僕は犬か猫なのかな?」
「フラッと居なくなることあるし、案外当たってるかもなー」
「なら今実践してみる?」
「今から謁見だぞー? 不敬罪に問われたいのかー?」
「それは怖いなー」
ヘラっと笑うとカイトはユフィーリアのそばへ寄るとまるで騎士のように片膝を着き、頭を垂れた。
「ユフィーリア王女、ご心配なさらずともこのカイトはこの場を離れません。どうかその可愛らしいお顔を狂犬のように歪ませるのをおやめ下さい」
するとカイトはわざと低く耳通りの良い声を作ってキリッとした表情でユフィーリアの手を取った。
「ふぁ……」
もし、これがそこら辺にいる普通の女性ならまだギリギリ胸キュンで済むだろう。文面だけではただのおちゃらけた人間のように聞こえるが、実際カイトは顔が整いすぎている。甘いマスクでは済まない程の美青年だ。そんな彼が普段の服装とは真逆のカッチリとした厳格溢れる衣装に身を包み、レディの前で膝を着いてそっと手を取っているのだ。
つまるところ、カイトを想う十四歳の思春期真っ只中な女の子には、あまりにも刺激が強すぎる。
「きゅう」
やはり耐えられなかったのかユフィーリアは鳴くように声を漏らしてソファに倒れ込む。彼女の顔を見るとオーバーヒートを起こしているのか顔が真っ赤になって眼をグルグル回していた。
その様を見て荒れ狂う猛獣を仕留めたとでも言いたげにカイトは満足げに鼻を鳴らして頷いた。
「ヨシ!」
「ヨシ!、じゃねーだろー!」
突然真横にいたミラから飛んできた不意の鋭いローキックに、カイトの膝はゴキャッ!と聞きなれない音を鳴らす。
「いでっ!」
「自分への好意を逆手にとるようなことはするなー! 本気でもないくせに! お前というやつはロクでもない人間だなー!」
「酷い言われ様だ……」
「見ろー! このユフィーリアの緩みきった顔をー!」
ミラが指差したソファの上ではまるでこの世の未練が無くなった死者のような穏やかな顔つきでユフィーリアが手を組んで仰向けに横たわっていた。
「えっ? 幸せそうじゃん」
カイトはキョトンとあっけらかんな顔をして眉を上げる。
「一国のお姫様がこんな姿を晒してることが問題なんだよー」
「んんん? もう元から姫としての尊厳や威厳なんて無いに等しかったような……」
「お前の思わせぶりな態度がこの子を変人へと変貌させたことに気が付かんかー?」
「それは仕方ないよ。僕はみんなのカイトだからね! いち個人で収まる器じゃないの!」
その言葉にカチンときたミラは高速で何度も蹴りをお見舞いした。
「はぁーー???? うるせぇーぞー?」
「いだっ! いだだだ! マスターってば結構本気で蹴ってるよね?!」
「もういっそのことこの娘のもとへ婿入りしてしまえー! そうすればそのうっとおしい顔とおさらばできるー!」
「えーー! やだよ!! 僕はまだ色んな娘と遊びたいの! それに今度、クラブのサユリちゃんとデートの約束があるんだから!」
「なにー! やはりユフィーリアの言う通りこいつは野放しにできんー! 今回の謁見でお前とユフィーリアの婚約を陛下に報告してやるー!」
「わぁぁぁ! ダメダメダメダメ!! そんなことしたら僕、王宮暮らしになっちゃうよ!!! ギルドの狭い一室でひとり寂しくひっそり暮らすマスターのことを思うと忍びなくなっちゃうよ!」
「うるせー! 寂しないわー!!! 孫もたまぁに遊びに来てくれるから全くもって寂しないわー!!」
と、二人がじゃれていると応接間の扉がおもむろに開かれ、ヴィンセントが顔を覗かせた。
「皆様、そろそろ謁見の時間……なんですかこの状況は」
鬼の形相でミラがカイトへ猛烈な百裂脚を浴びせ、さらにその横でユフィーリアがソファの上で穏やかな顔つきをしながら侍女に介抱されている光景を見てヴィンセントが口をひきつらせていた。
「あ、やぁ! ヴィンセント! いでっ! もうそんないでで!! 時間なのかい! あいだ!!!」
「……ミラ様、流石に話してる最中はよして頂けると……」
「すまんー、あと一回だけ蹴らせてくれー」
「分かりました」
「えっ?! なんで了承すんんげっ!!!」
バゴン!!と華奢な身体から繰り出される蹴りとは到底思えないほどの重く力強い音を響かせてミラは脚先をカイトの腹にめり込ませる。
そのままカイトは腹を抱えて床に蹲り、ぐおおと唸っていた。その姿を見てスッキリしたのかミラは満足気に乱れた髪を振り払って整えるとヴィンセントへ向かい合った。
「すまんのーヴィンセント。こいつが節操のない女の敵のようなことをベラベラ口にするから世の女性の代弁者として制裁を加えたんだー」
「いえ、それは見てれば分かりますのでお気になさらず」
「ぐぉぉ……気にしてくれ……よ……グフッ」
「相変わらず、美しい容姿に似つかないフィジカルの強さ。このヴィンセント、感服いたします」
「おー、ありがとー」
「マスターの猛攻を耐えきった僕も褒めておくれよ……」
その言葉にヴィンセントは蹲るカイトを見てフッと笑った。
「そのしぶとさは目に余りますね」
「あれぇ?! 貶してる!?」
「……冗談です」
「今のトーンは冗談に聞こえないんだけど……」
「安心してください。私の妻に手を出さなければ生かしておいてあげますから」
「こっっっわ……」
するとパンパンとミラが手を叩いて皆を静かにさせる。
「はいはい、茶番はそこまでにしておくぞー。そろそろ向かわんと小僧がブチギレるぞー」
「ミラ様……小さい頃から知っているとはいえ王を小僧呼ばわりは不味いかと……」
「大丈夫だー、公然ではちゃんとするー」
「ならいいのですが」
「ユフィ―リアもいつまで寝てるつもりだー。お前こんなところにいてていいのか―?」
ミラが眉をひそめていると突然電源が入ったのかガバッと身体を起こし、ユフィ―リアは顔を青ざめた。
「アッ! そうでした! こうしてはいられません! メイ! 行きますわよ!」
ピュピュピュー!っと駆け抜けるようにしてユフィ―リアが応接室を後にする。部屋の中は嵐が去った後の静けさのようになっていた。
「ではミラ様、カイト様。後ほど」
メイと呼ばれた侍女は二人に深く会釈をした後、ユフィ―リアの後を追っていった。
「さ、私たちも行くか―」
「一応聞いておくけどマスター、さっきの話は冗談だよね?」
「あー、婚約のことか?」
「いいんじゃないでしょうか? この際身を固めても」
「え、待って、本当に話するの? 冗談だよね?」
カイトが不安そうにミラとヴィンセントの顔を覗くが二人とも表情を一切崩さなかった。
「……やっぱ今からふらっとどこかへ行こうかな……」
「もう諦めろー」
「これでカイトも所帯持ちですね」
「所帯の規模が大きすぎるんだって!!」
カイトの悲鳴を無視して二人は部屋を後にし、彼の嘆きが部屋にこだましつつも、ちゃんと謁見には向かうカイトであった。
次回投稿は8月6日予定になります。




