第2話 これは、RPGで言うチュートリアル戦闘ですね!
第2話になります。
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さて、スラさんの爆発的な実力を知り俺は戦慄を覚えていた。到底スライムらしからぬ攻撃方法に目から鱗を出さざるを得ない。普通は体当たりとかじゃないの? スラさんの場合、体当たりじゃなくてチャージタックルか。
だが、スラさんの超肉体派の戦闘スタイルは驚愕した反面とても頼りになる。近接戦闘においてこれほどの実力があれば大抵のモンスターは倒せるだろう。
これからはあのマッチョ体型のことはマッスルフォームとでも呼ぶことにしよう。あとこのスラさん、変身するたびに「私が来た!」とでも言いそうだな。
「むー」
「次はお前の番だぞ」とスラさんは俺に触手を指して催促してくる。あの破壊の一撃を見た後にやるのか。スラさん、ガッカリしないでくれよ。
「あ、ああ。分かってるよ……。言い出しっぺだもんね。」
俺は溜め息をついて大人しく木の前に立つ。後方でスラさんがワクワクしながら俺をじっと見ているような気がする。目がないから視線がよく分からないな。
スラさんの期待になるべく答えるため努力はしてみよう。俺は半身になり、腰を下げて天照に手を添えた抜刀の構えをする。藤一郎に教えられた基本の型が身体に染み付いており、ごく自然な形になっていた。
精神を研ぎ澄まして集中する。こんなにも太い木だ。上手くいけば木の半分くらいまでは切り込んでいけるだろう。
スゥーっと息を吸い、目の前の木を一瞬で切り倒すイメージをする。俺から放たれる静かな殺気を感じたのか場に静寂が訪れ、何者も音を発することがなくなった。ふと、一枚の葉がひらひらと優雅に落ちてくる。
その葉を攫うかのようにそよ風が吹いた瞬間。俺は目にも止まらぬ速さで音もなく抜刀し、まるで急に刀身が伸びたかのような瞬速の太刀筋を木に放つ。
二刀一心流抜刀術「疾風」
スラさんの時とは違い風すら起きず、振った刀の風切り音も聞こえない。見ていたスラさんもその静謐な動作に魅入ってしまい、息をのんで見ていた。血振りのような動作をして刀に着いたゴミを取り払う。クルクルと刀を回して鞘に沿わせ、甲高い音を鳴らして納刀する。構えを解いて、溜めた殺気を分散させるように残心した。「ふぅ」と息を鳴らしたのを合図に静寂が消え去り、一気に森の喧騒がよみがえる。
一連の動作を終えて、俺は目的の木を見据える。だが、俺の予想とは違って木はピンピンしていた。自分の中でもかなりの出来だと思ったのだが。ここに藤一郎がいたら抜刀の出来を褒めてくれるくらいだ。
「あれ? 切れてない?」
改めて切りつけた木を見るが何も外傷がなく、切る前となんら変わらない姿を保っていた。天照から感じた手応えは確かだったのだが、これでは自分でも切れたかどうかの判別が少し難しい。とりあえず切ったのは確かだ。
「んんん? どうなってるんだ?」
木に近づいて、切り口などを探す。刀で切ったからある程度はなにかしらの傷があるはずだ。だがどこを見てもそんなものは無かった。ならさっきの手ごたえは何だったのか。もしかして当たってなかったのかしら?
うーんと悩んでいるとにスラさんも不思議がってぽよぽよ跳ねて近づいてくる。どうやらスラさんからでもあたっていることを確認していたのか伸ばした触手を木に這わせてみる。しかし何も感じないのか「むむむ?」と唸っていた。というかスラさんはどうやって視認しているんだ?
そんなスラさんを見下ろすと、ふと足元にさっきの葉が目に入る。瑞々しく反り返っていた葉は、急に事切れたように目の前でぱっくりと綺麗に割れた。
「えっ」
時間差で切れた葉を前に俺は目を丸くする。その切り口は刃物で切ったくらいのレベルではなく、紙をハサミで切った時よりも鋭く見えた。俺はハッと気づいてまさかと思い、木の方へ顔を向けた。そばに居たスラさんがもう一度状態を確認しようと、その木を押しかけた瞬間。
ズズズッと木が斜めに平行移動した。いや正しくは木が斜めにズレ始めていた。やがて木はその重さに耐えきれないのか、そのままストンと斜めに真っ直ぐとズレ落ちていく。
急に動いた木にびっくりした俺とスラさんは慌てて木から離れ様子を見守る。すると木は空気を揺らすほどの轟音を立てて倒れた。
「……ひゃあ」
「……むぉお」
俺とスラさんはなんとも言えない声を出してしまった。スラさんは倒れた木にもう一度近づいて状態を確認しに行く。俺は自分が木を切り倒したことがいまだ信じられずに、半ば放心状態になっていた。
「むーー」
ぼけーっとしている俺を呼び戻すようにスラさんは声をかけてきた。その声で俺は我を取り戻してスラさんのもとへ歩み寄る。倒れた木の切り口をスラさんは興味深そうに覗いていた。俺も確認するとなんとも滑らかな切り口をしていた。何度も鉋がけをしたあとに、目の細かい鑢でつるつるになるまでこすったかのような状態だった。
普通、どんな刀であってもこんな加工されたような綺麗な切り口ができるはずがない。ましてや俺は真剣なぞ扱ったことのない高校生だ。一介の達人でも何でもない。刀でトマトを切るより、包丁で切った方が得意な人間だ。俺はいつから人間をやめてしまったのだろうか。
ありえない状態の木を前に言葉も出ないでいると、スラさんが俺の肩に触手を伸ばしてトンと叩いてくる。まるで慰めてくれているみたいだ。そうだよな、スラさんでもこんな人間離れした芸当は見たことないよな。俺は自分の力が怖いよ。
しかしスラさんはそんなことを微塵も考えてないらしい。
「むーー!」
スラさんはつるつるな体を震わせてとても興奮していた。「お前すげぇな!」みたいな声を上げてまた肩をぽんぽん叩いてくる。あ、慰めてくれているわけじゃなさそうね。
だが、スラさんの賞賛を俺は素直に受け入れることが出来なかった。俺は普通の人間だ。こんな化け物じみたことなんて到底できるはずがない。
「スラさん、これは異常だ。本当だったら木は半分くらいまでしか切れないはずなんだ」
倒れた木の表面をなぞるように手を置いて俺はスラさんに説明する。刀で木を切り倒すなんてファンタジーレベルの話だ。現実で成し得た人はなんていないだろう。俺の情けない話を聞いたスラさんは頭に疑問符を浮かべていた。これが自分のしたことだと、俺自身まだ信じられないでいる。
「む? むー」
「でも切れてるじゃん」と言いたそうにスラさんは木を叩いていた。スラさんの圧倒的なパワーといい、俺の驚異的な能力といいどうなってるんだ……。だんだんと現実が見え始めてくる。
ここは俺の知ってる世界じゃないんだろうな。自分の異常さに段々と恐怖を覚えると同時に自分の立っている場所に違和感を感じ始めた。だとすると俺と一緒にいたやつらは今頃どうなって……。
うなだれて落ち込んでいる俺を見てスラさんは木から降りて、思いっきり速度を付けて向かってきた。
「むむーーーっ!!!!」
ドンッ!! と強い衝撃が俺の体を襲い、俺は踏ん張ることができずその場に倒れこんでしまった。突然のスラさんの行動に俺は理解できず、倒れたまま固まる。情けない俺を見かねたのかスラさんは少し怒っているみたいだった。スラさんは俺の上に乗り、触手を伸ばして俺の顔をぐにぐにといじり始めた。
「ひゅ、ふりゃふぁん? にゃにしゅるんどぁ」
「むーーーー」
俺はスラさんに抗議しようとするが、何故か抵抗出来ずにされるがままだった。顔をいじり続けて「お前の力なんだから誇れよ!」とスラさんは俺に説教しているように感じる。俺はだんだんスラさんの言ってることがわかり始めてきていた。
「むーむ?(そんなに心配するようなことか?)」
むにゅっとスラさんは俺の頬を触手で挟んで顔を逸らせないようにした。スラさんのスライム体が俺の瞳に映る。
「スラさん、急に自分でも訳が分からないような力を持ったら怖くないか?」
俺の問いにスラさんは考えているのか少し黙ったが、すぐにスラさんはかわいらしい声を出した。
「むむん、むむ(この世界じゃあ、強い奴が生き残るんだよ)」
そしてスラさんは声を高らかにして、何も問題はないと自慢気に続ける。
「むむーーむ(その力があれば、君ならどこへだって生きていけるさ)」
触手を上に掲げ、天を仰ぐスラさん。その姿はまるで何十年も生きてきた誇りを表しているようだった。スラさんにとって強さは生きていく力そのものに等しい。モンスターの世界にとって、弱肉強食は自然の摂理。俺の知っている世界でも当たり前のことだ。
「むむ(だから怖いことなんて何一つないよ)」
「……スラさん」
その言葉を聞いて心の重みが和らいでいく感じがする。俺のいた世界じゃこんな力はほとんど必要ない。むしろ危険視されてしまう。だけど、ここはもう俺の知っている世界じゃない。前の世界の生き方を倣っていたら、俺はすぐに死んでしまうだろう。
「そうだな。うじうじしてても仕方ないか。」
俺はスラさんを抱えて脇に置き、体を起こす。
「む!(その通りさ!)」
触手の先でデフォルメされた手でビッとスラさんは親指を立てる。それに応えて俺もスラさんに親指を立て返した。
「ありがとな、スラさん」
「むっ(どうってことないさ)」
この力は俺にとって良いものか悪いものかはまだ考えないことにしよう。使い方に気を付けていけば、きっと俺にとって心強いものになるはずだ。
立ち上がり、服に着いた土を取り払って乱れた個所を直す。スラさんも丸い体をぷるんと揺らしてそばに立った。俺とスラさんは互いに顔を向けて頷きあう。
「じゃ、行こうか」
「む!(おう!)」
道の先はいまだに森が続いており、道を囲う木々は風に揺れ、俺たちの行き先を示しているのか同じ方向へ波を打つ。この先がどうなっているかは見当がつかないが、隣にスラさんがいてくれるから何も迷うことはない。
俺とスラさんは強い一歩を踏み出していった。
――――――――――――――――――――
森の道を進んでいくと道が徐々に広くなっており、自動車が三台ほど並べるくらいの道幅になっていた。スラさんによればこのまま行けば森の出口に続いているという。だが森を出たことがないから出口の先がどうなっているかはわからないらしい。
「道がこんなに広くなってる。出口が近いんだな。」
道に並ぶ木も気が付けば、元居た場所と比べてだいぶ密度が低い。木と木の間が目に見えて開いており、出口が近づいていることを俺は感じていた。
「むー、むーむー(そうだよ、この出口は人もよく通ってるしもしかしたら誰かと会えるかも)」
「お、そうなのか。それを聞くと安心するな」
スラさんの言葉に俺は期待が膨らんでいく。ここに転移してからの初めての人間だ、なるべく友好的に接しなければ。
ぽよんぽよんと隣で跳ねるスラさんを見て、ふと俺は気になっていたことを口に出す。
「そういえば、俺が勝手に呼んでしまってるけど。スラさんは名前なんて言うんだ?」
「む? むむ?(ん? 名前?)」
そう。スラさんのお名前問題だ。俺としてもスライムだからスラさんなんて安直だなと思っていた。スラさんはこの森に住んで長くなる。きっとスライムの中でも有名なヒトに違いない。そんな方をあだ名で呼ぶのは失礼だ。
俺の質問にスラさんは至極当たり前のように答える。
「むーむ(そんなのないよ)」
俺とスラさんの間に数秒の沈黙が流れる。
「……え?」
そんな馬鹿な。俺はスラさんを見て口をあんぐりと開けていた。スラさんともあろう方が名無しだって? 嘘だろ?
「むーむー(だからそんなのないってば)」
納得していない俺にスラさんはさらに追い打ちをかけてくる。淡々としたスラさんの物言いに俺はどこか寂しさを感じていた。
「……ごめん、スラさん」
申し訳なさそうに眉をひそめて謝る俺に、スラさんは不思議そうに首ならぬ体を傾げる。
「むむ? むむむー?(なんで謝るの? モンスターに名前がないのは当たり前だよ?)」
スラさんは変なこと聞くなぁとぷるぷる笑っていた。
モンスターにとって名前はそこまで重要なものじゃないらしい。スラさんみたくモンスター全員が思考を持って話したりはしないのだ。ほぼ本能で生きているようなもので、名前は生きていく上で必要じゃない。
人間の中ではモンスターを飼って戦わせるといった者もいるらしく、そのモンスターに名前を付ける人がいる。だが基本は使い捨てで、死んだら代わりのモンスターを調達するという扱いらしい。
「むむーむむ、むむー(でも君がボクをスラさんと呼んでくれた時、実はうれしかったんだ)」
跳ねる体をぷるっと揺らして、スラさんは俺の手に触手を添える。
「むーむ、むむー(ボク以外のモンスターはみんな喋れなくて、食べることか寝ることばかり考えているからさみしかったんだ。)」
「スラさん……」
「むむ(だから、ありがとう)」
気のせいかスラさんの青い体が少し赤みを帯びている。よく見れば触手の先が赤くなっていてほんのりと温かさを感じた。
「むむー、む(これからもボクのことは、スラさんって呼んでほしいな)」
「ああ。わかったよ」
二人の間にしんみりとした空気が訪れる。その空気に耐えかねて恥ずかしくなった俺は、間を持たせるように話を続けた。
「あ、スラさんに名前聞いておいて俺の名前を言ってなかったな」
「む!むむ(あ! そういえばそうだね)」
突然、今思い出したように手をポンと重ねてわざとらしく俺は言う。その動きにつられてスラさんも触手をぽんと叩いた。実際忘れていたんだから何も問題はないはずだ。
「俺の名前は鬼束紅桔っていうんだ」
「むむ(オニツカコーキ)」
「そ。鬼束は苗字で名前が紅桔」
「むー!、むむ!(へー!、じゃあコーキって呼ぶね!)」
名前を聞けたことにスラさんは喜びを身体全体で跳ねて表現する。ずっと名乗ってなかったからね、失礼いたしました。
そんな二人の仲睦まじい会話に水を差すかのように、突如何かの咆哮が響き、森をざわつかせた。
ガアアアアアアァァァァァァ!!!!
その轟音に驚いて俺とスラさんの身体がビクッと跳ねあがる。
「な、なんだ!? 今のは!?」
急な咆哮が空気を揺らし、俺の体を震わせる。急いで周囲を見渡すが咆哮の主と思われる者は見当たらない。こんなのライオンでも出さないぞ?!
「む! むむむ!(まずい! この音は!)」
スラさんが出口とは反対方向、つまり俺たちがたどってきた曲がり道を振り返り見る。すると遠くからどんどんと木をなぎ倒していく音が聞こえ、その音はまっすぐにこちらへ近づいてきていた。
危機的状況だと判断したスラさんは、突然膨らみ、ボンッ! と煙を出してマッスルフォームへと変身する。
「す、スラさん!?」
「ムムッ! ムーッ!(来るよコーキっ! 構えて!)」
戸惑う俺に説明している暇はないのかスラさんは両腕を前に構えて臨戦態勢になる。木をなぎ倒していく音はもう目の前まで迫ってきていた。
「スラさん! 逃げないのか!?」
「ムムムーーッ!!(逃げれるような相手じゃない!!)」
俺が叫んで訴えかけるが、スラさんはすぐにその案を却下する。スラさんは俺を一瞥もせず、迫りくる音の方へ集中していた。スラさんがここまで焦るなんて、どうやら本当にそんな余裕はないみたいだ。
俺は腰に携えている天照に手を添え、いつでも抜刀できる態勢をとる。それと同時に森の中から音の主が木を折り倒して黒い塊が姿を表す。
「……うっ?!」
「……」
俺は顔をしかめ、スラさんは拳を強く握りなおした。
その姿はまさにバケモノだった。三メートルほどのとてつもない巨躯に、肩と胴からそれぞれ二本の剛腕を生やした獣が仁王立ちしていた。いや、こいつは獣なのか?!
全身がドス黒い体毛に覆われていて、体の凹凸が判別できない。辛くも頭部と思われる部位にはギョロリと眼球と思しき三つの赤い珠玉の中の黒点がせわしなく動き回る。体毛から漏れ出た舌は先に行くほど赤みを増しており、深紅の雫が滴っていた。
「ッ!?!?」
ヤツの得も言われぬ威圧感に体が押しつぶされ、全身の毛が逆立ち、脳が聞いたことのない警鐘を鳴らす。喉は急速に水分を失い、枯れたせせらぎのような声を漏らしていると錯覚する。生存本能が直接理性に伝播し、事の重大さを啓発した。
俺は今、死の概念に直面している。
黒獣のマズルからは蒸れきった鼻息が外気に触れて白煙を散らす。頭頂にある小さな双子山はピクピクと蠢き、息を殺す俺とスラさんを確実に捉えていた。
粘ついた唾液を垂らして黒獣は口角をニタァと吊り上げ、三つの眼球を一斉に俺たちへと焦点を合わせる。蛇に睨まれた蛙なんてものじゃない。強敵に立ち向かうという蛮勇をも食い潰すプレッシャーだ。
その熊とも思えない相手を前にスラさんは小さい息を吐くようにぽつりと零す。
「……ムム(……デスバラッド)」
「デスバラッド……?」
死滅の詠。スラさんはそう呟いた。
隣にいる俺でも聞き取るのがやっとな声量だったのに、デスバラッドの耳はスラさんの声に反応して動く。
「ムー、ムムー(コーキ、ボクたち運が悪いね)」
スラさんは小さくか細い声を絞り出し、開いて構えていた両腕を少し狭める。普段ぷるぷるしていたスラさんの体は小刻みに震えていた。
「スラさん……」
あれだけ大きく、強く見えたスラさんの体がとても小さく見えてしまう。
スラさんが怯えるのも無理はなかった。デスバラッドを前にしてしまうと俺もこの場から逃げたいという気持ちすら霧散して、生命活動を放棄したくなる。今この場における状況について俺は恐怖を通り越し、極めて冷静に諦観していた。
俺とスラさん、二人でかかってもこのバケモノは倒せないだろう。全力で戦っても傷を与えれるかどうかも分からない。相手の戦闘力が完全に未知数だ。かといってスラさんが言うように逃げきれる相手じゃないのも確かだ。
最初の咆哮を聞いたときはかなり距離があると思っていたが、たった数秒でここにたどり着く速さを持っている。それも並み居る木をなぎ倒しながらだ。人間とスライムの足じゃ咆哮の瞬間から逃げることはかなわなかっただろう。逃げるのがダメなら足掻くまでだ。俺とスラさんにはまだ戦える力がある。スラさんだって応戦する気だ。
俺のあの異常な戦闘能力に賭けたほうがまだ生存確率があるはず、藤一郎から教わった二刀一心流を生かすときだ。幸い、守りの型である一刀流はお墨付きを貰っている。実践向けだといううちの流派の力を信じよう。
刀の鞘に触れると、脳裏に爺ちゃんの顔が浮かび上がる。かつてない死線に直面している俺を鼓舞するかのように空想の爺ちゃんが快活に笑う。
『そんなクマっころ、軽く捻ってやれ! 紅桔!』
本人はそこに居ないはずなのに、俺の肩に手が置かれる感触がした。その手から俺の冷え切った身体に熱が伝わり、心の炉に火が灯る。
震える足に喝を入れ、俺は静かに口を開いた。
「……そう。」
「ム?(え?)」
スラさんはデスバラッドに集中していたため俺の声を拾うことができず、聞き返してくる。
「こいつを倒そう」
「ムッ!? ムムム!?(なっ!? 本気なのかい!?)」
「それしか俺たちが生き残る手段がない!」
俺はスラさんの前に立ち、デスバラッドの眼を射抜くような視線を向ける。俺の闘志に呼応してデスバラッドは再び咆哮を轟かせた。
次回更新は1月13日を予定しています。




